- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784166613670
感想・レビュー・書評
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■読む目的
・ウクライナ侵攻関するエマニュエル・トッドの見方に、佐藤優が非常に評価していたためどのような主張なのかを確認する
・家族構造をメインの研究テーマとしている歴史人類学者がどのように地政学や国際情勢を見るのか気になる
■感想
世界の各国・各地域の家族構成という視点からここまで世界情勢を俯瞰できることにとても驚かされた。
日本もヨーロッパも、ロシアよりもアメリカとの繋がりの方が濃厚であり、NATOを通じて同サイドに居ることから、いかんせんNATO側の情報圏に包まれ、NATO側の視点が基本フィルターとなってしまう。
そんな中、著者のエマニュエル・トッド氏は、沸き立つ怒りや悲しみのような感情は一旦脇に置いておき、中立的・俯瞰的にロシアのウクライナ侵攻を分析する。
ロシアやロシア寄りの国々は「共同体家族」の構成を取り、ヨーロッパやアメリカ、そしてウクライナは「核家族」の構成をとる。
ロシアがこの度ウクライナに想定外に苦戦しているのは、ウクライナはロシアと同じ共同体家族的な考え方をするものだと誤算していたから、という見方、というかその発見、がまさにトッド氏ならではの研究、慧眼からくるものだろう。
翻って、日本はおそらくかつては共同体家族的なベースを持ち、近代以降は核家族化が進み、核家族、個人主義的な考え方が浸透してきていると僕は考えている。
日本人の根っこには、「天皇や政府といった「お上」には従う、だから下々は勝手にやってますね」、という風潮があるように感じるが、このバランスこそが日本人らしい思考法ではなかろうか。
そうであれば、共同体家族的国家と核家族的国家の間でバランスを取ってやっていくのがベストなのではと思う。
ただ、抽象度を上げると、日本国家という要素の外側に、もう一段階「お上」がいて、それに従う、という構造が、政府単位としては、居心地が良いのかもしれない。
しかし地政学的にも歴史的にも大国に挟まれた位置にいる以上、いずれかの軍門に下るという判断は常に敵を生む形となり、味方側のお上の情報に包まれるのは避けられない。
情報や思想の自由、主体性をより保持できるのはどの派閥か、ということを考えれば、結果的にはアメリカ側に着くという今の状況は落ち着くべきところに落ち着いていると言える。
フィンランドは「フィンランド化」という物言いを嬉しく思っていないとのことだが、僕はそのフィンランド化的な舵取りはとても合理的で良いものとポジティブに受け取っている。
その考え方の上で、日本は戦略的にフィンランド化を進めても良いと思う。
トッド氏にように「感情を脇に置いて、中立的に現況を見定める」というのはとても難しいものではあるが、そのスキルは常に持っておきたい。
ベースとなる価値観や譲れない主張は各国にあるが、その構成分子たる国民一人一人は多様で、かつ彼ら一人一人と自分は直接的なネガティブな因果はなく、情を育める隣人・友人となり得るのだから。
ウクライナ情勢が落ち着けば、今度は台湾有事や、イランや北朝鮮の情勢が表に浮上してくる。
日本が主体的に戦争に雪崩れ込まないようにするためにも、イデオロギーを理解した上で、感情に翻弄されないようになろう。
そう考えさせてくれる良書だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ロシアを止むに止まれぬ戦争に引きずり込んだのはアメリカ(とイギリス)だという論法は太平洋戦争を引き起こした大日本帝国を擁護するのにも援用ができるな、と一瞬感心した。また、米国が好戦的だという指摘はその通りだろうが、ロシア(ソ連)が対外的な紛争をしたことがないと言わんばかりにスルーする鉄面皮ぶりはさすが。人類学に根差した著者のユニークな視点は示唆に富む所が多いのは確かだが、一方的に肩入れした言論が今回は際立っているようである。
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第一次世界大戦の時のように起きてしまった事態に皆が驚いている
アメリカとイギリスはウクライナ人を人間の盾にしてロシアと戦っている
戦争がアメリカ文化の一部になっている
アメリカは他国を侵略することも普通のことだと考える基盤がある
ロシアにとっても予想外
共同体家族。結婚後も親と同居、親子関係は権威主義的兄弟関係は平等の社会
核家族。結婚後親から独立の社会
ヨーロッパとロシアの接近、日本とロシアの接近、ユーラシアの再統一はアメリカの戦略的利益に反するのです。そこで平和的関係が築かれてしまえばアメリカ自身が用済みになってしまうからです。
世界の不安定がアメリカには必要
NATO と日米安保の目的は日本とドイツの封じ込め。ドイツと日本をロシアから遠ざけるため。
ゼレンスキー大統領の演説はヨーロッパを戦争に引きずり込むこと
ポーランドの動きに注意せよ。ポーランドはロシアに対する攻撃的な態度に慣れすぎていてそこから脱することができない
本書では書かれていませんがポーランドは歴史的にロシアもドイツも恨んでいると聞いたことがあります。
西洋は世界の一部でしかない。世界の大半の国は西洋の傲慢さにうんざりしているのです。
感情的にならざるを得ない状況の中でも決して見失ってはならないのは、長期的に見て国益はどこにあるかです。
南欧の市民は人間以下の存在になり下がり。
ロシアは出生率死亡率平均寿命など人口動態から見て復活しつつある。
ウクライナのことは第二次世界大戦よりも第一次世界大戦と似ている
今起きてる戦争の原因はアメリカとNATOにある
アメリカはヨーロッパ経済、特にドイツ経済が疲弊していくことに満足感を味わっている
裁判が多いアメリカは法律系の人材が多い、しかし法律系はエンジニアとは違いある種虚業。
中国はさらにロシアを支援することになるでしょう。ロシアが倒れたら次は自らが単独でアメリカに対峙しなければならないことを承知しているからです。戦略上の選択肢は他にないわけです
もしロシアがこの戦争に耐えて生き延びるとすれば、それ自体が世界の経済的支配力をアメリカを失うことを意味するからです
西側諸国のロシアに関する言説は現実離れしたもので合理性を欠いています
ウクライナで起きていることをアメリカもイギリスも把握していて、ウクライナ軍をコントロールしていたが、ドイツとフランスは把握していなかった
軍事的な意味での真の NATO とは、アメリカイギリスポーランドウクライナそしておそらくスウェーデンそこにドイツとフランスは入っていないのです
アメリカイギリスオーストラリアはいずれもアングロサクソンなので同盟関係を築くのは自然な流れ
戦争が長引けば高度な軍事技術よりも兵器の生産力
マリウポリから脱出したフランス人の証言によれば、ウクライナ軍が民間人を人間の盾として利用している
「ウクライナに兵器を送るべきだ」の冷酷さ
「もうこの戦争は終えるべきだ」「交渉するべきだ」と誰も言わない
アメリカが参戦国として全面に
背後でこの戦争を主導しているのはアメリカとイギリス
アメリカはウクライナ人を人間の盾にしてロシアと戦争をしている
アメリカは支援することで実はウクライナを破壊している
戦争が終わった時、生き残ったウクライナ人たちはアメリカに対して激しい憎悪を抱くはずです。アメリカは血まみれの玩具のようにウクライナを利用したということが明らかな歴史的真実だからです
トッドさんが指摘しているウクライナのことは第一次世界大戦の時と似ている、という指摘はとても考えなくてはいけないことだと思います。
日本はその後第二次世界大戦まで多大な被害損失を出していき、現在まで続いているわけなのですから。 -
人類学者の著者による、ウクライナ問題について。
全然世界情勢など知らないマンなので「ロシアによる一方的な侵略戦争」と思っていた節がありますが、その背景に「ウクライナのNATO加盟」、「NATOのロシアの意に反する東方勢力拡大」、「旧ソ連崩壊後の国境問題」などいろいろ複雑な問題があることを認識しました。
面白いと思った点は、人類学的視点からの見解でした。ロシアは「共同体家族」、ウクライナは「核家族」。この違いにより「共産主義的思想」、「民主主義的思想」の違いに繋がるのは興味深かったです。
日本のメディアを通して得られる情報とは別の視点でいろいろ語られていたので、新鮮でした。
こんな情報化社会でもわからないことだらけなんだなと改めて実感しました。
事実を見極めるために情報収集しつつ常に考えていこうと思いました。できることは少ないだろうけども。
早く戦争が終わりますように。
もう2カ国間で遊戯王とかで決着つけよ。-
2023/02/25
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2023/02/25
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見方によっては、そうだよね、と思うことに、ああ、私は一面側にしか興味がなく、想像力にかけていたなぁと思いました.
隣国を思う気持ち。
この戦争になぞらえたら、
私達はどうするんだ?
と、思っています. -
これは面白かった。こういう見方もできるのか。アメリカと同盟国だから逆らえないから、いたずらにアメリカ指示。当面は仕方ないにしても未来永劫続けるつもりなのか。そんな姿勢でいいわけがない。抑止力としての核を持つべきという氏の議論は深く頷ける。
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戦争を仕掛けた方が悪いのは確かだが、今の日本には欧米とウクライナからの情報がほとんどであり、何となくロシアは悪、アメリカは善と言うような色分けがされているが、本当にそうなのだろうか、と考えさせられる内容であった。確かに第二次世界大戦後に常に戦争をしてきたのは米国だった。
ソ連崩壊時にNATOは東に拡大させないと約束したと言うが、これは合意されたものだったのだろうか?これが真実であるならば、確かにNATOの責任を問われる事になるだろう。
思うに、ソ連崩壊のドサクサにウクライナとの国境が決められた話は、日本の敗戦のドサクサに「李承晩ライン」が引かれてしまった話を想起させる。それを考えると、クリミア併合も少し理解出来るような気もする。
【追記】クリミアは元々ロシア領だと主張するならば、北方領土は返還するべきだ。
いずれにしても、早期の停戦を願ってやまない。 -
我々には西側のウクライナ情報しか入ってこないが、この著者の冷静な視点は新鮮である。ロシアを追い詰めて戦争を始めさせたのは、真珠湾攻撃を思い起こさせる。必読の書である。
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ウクライナ戦争を知るのに読んでいて損はない。
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この緊急事態だからこそ、一歩引いて考える視野の広さが必要だと感じた一冊。
相変わらず鋭いトッド氏の考察。
色々な意見があってしかるべきだし、そういう議論が許される世界であってほしいなと強く思った。