第三次世界大戦はもう始まっている (文春新書 1367)

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166613670

感想・レビュー・書評

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  • ウクライナ問題については、ロシア擁護の言動が許され難い中、エマニュエル・トッド程の影響力ある権威が米国史観に偏らず、プーチンの論理を解説した著書。ドイツ統一時点のNATO東方拡大せずの約束に対するロシアの言い分は有名だが、それに対して、米国の代理戦争として非難する口振りは過激だ。

    本文を引こう「アメリカは武器だけ提供しウクライナ人を人間の盾にしてロシアと戦っている。ロシアによる侵攻前に、大量の人口流出によって既に破綻国家に近かったウクライナがアメリカの支援によりさらに破壊されていく。少なくとも私がもしウクライナ人なら、アメリカに対して激しい憎悪を抱くはず。アメリカが血まみれの玩具のようにウクライナを利用したと」

    アメリカの地政学的思考を代表するポーランド出身のズビグネフブレジンスキーは、ウクライナなしではロシアは帝国にはなれないと述べている。アメリカに対抗し得る帝国となるのを防ぐためには、ウクライナをロシアから引き離せば良いと。アメリカはこうした思考に基づいてウクライナを武装化してNATOの事実上の加盟国とした。

    本著が触れるウクライナの分割統治によるシナリオが現実味を帯びるとして、その派生影響として煽る中国の台湾侵攻や日本への諸島侵略が過激化は有り得るか。日本は自律を選んで核兵器を保有するか、あるいは偶然に身を任せるのか、著者は問う。核シェアリングも核の傘も発想がナンセンス、他国のために用いるにはリスクが高すぎるのだと。

  • ロシア・ウクライナ戦争について、日本では親ロシア派の記述をあまり見ることができなかったので、この本は貴重な意見を受け取ることができた。

    強大なロシアが弱小のウクライナを攻撃しているという見方ではなく、強大なアメリカ率いるNATO諸国が、弱小のロシアを攻撃しており、それに反発したロシアがウクライナを攻撃。ウクライナを「人間の壁」として軍事的に利用し、代理戦争をしている、という見方はしっくりきて、これまでモヤモヤしていた部分を言語化してもらえたと思った。
    また、データとしてロシアへ反発を示している国が西洋諸国とアメリカ、日本、韓国に留まっており、決して多数派ではないというのも、日本にいてはあまり知ることのできない事実だった。片方の勢力下で受け取れるメディアからの情報は確実に偏ったものであるので、このように多角的に情報を得ることが大切。その点でもこの本からは受け取れるものが多かった。また、著者のエマニュエル・トッドの言う通り、戦争そのものはとても複雑化されたものなので、今すぐ善悪を判断するには、情報が足りなすぎる。白黒をはっきり判断することよりも、何故このような状況に至ってしまったか、事実をもとに状況を確認していくことがまず大切だと思った。

  • 書店で平積みになっていたこと、タイトルがスルーできなかったことから、いつも読むジャンル枠を超えて一読してみた。

    外国人、フランス人著者の視点から、日本向けに書かれたものでもある。人道的視点だけでなく、地政学的な背景を正しく知ることから始めなければと。

    メディアばかりを鵜呑みにせず、きちんと勉強することの必要性を痛感する。
    とはいえ、なかなかに難しい。

  • この本を読まずしてウクライナ情勢を語ることなかれ。欧米-善、ロシア-悪というステレオタイプに一石を投じる。もちろん、ロシアの侵攻は断じて許容できないが、そうさせたアメリカの責任は?
    問題は、このような冷静かつ客観的な分析を述べるのが憚られるような空気ではなかろうか。

  • 日本にいるとどうしても西側メディアの情報量が多くなってしまうので、
    ロシア側の目線でウクライナ問題を見るという目的で読むには
    とても良い本だった。
    作者のエマニュエル・トッド氏は西側の考え方にも精通した上で
    どちらかというとロシア寄りの立場で本書を書いている。


    ★ロシア目線でのウクライナ侵攻

    前提:
    ロシアにとって、ウクライナのNATO加盟は、アメリカにとってのキューバ危機のようなもの。
    自国のすぐそばに西側軍が常駐するのでこれを安全保障上の危機と捉えている。

    これまでの流れ:
    NATOはドイツ統一以降「東方に拡大しない」ことをゴルバチョフに約束したが、1999年と2004年に二度東方拡大を実施。ロシアは不快感を示しながらも受け入れた。

    しかし、2004年のNATO首脳会談で「将来的にジョージアとウクライナをNATOに組み込む」ことを宣言すると、
    プーチンが緊急記者会見で「我が国の安全保障への直接的な脅威とみなされる」と主張。
    →ロシアにとって超えてはならないレッドラインがジョージアとウクライナのNATO加盟。

    侵攻に至るまで:
    2021年初頭からウクライナとNATOの合同軍事演習が行われるなどNATOとウクライナが接近、12月にはNATOに対してウクライナを加盟しないことを再要求。
    2022年2月、ロシアはウクライナに対して軍事行動開始。


    ウクライナ戦争の構造は、
    ロシアvsウクライナ(米英)
    実質的にはアメリカとロシアの戦争。ウクライナ軍は自国の兵士を失いたくないアメリカによって盾として使われている。

  • ほとんど西側からの情報にしか接していない我々には、何とも親ロシア的な内容(アメリカが仕掛けた戦争であり、ロシアはそう簡単に負けはしない)であったが、一々肯ける箇所は多くあった。
    とはいえ、心情的には否定したい。

  • ウクライナの戦争は、ウクライナによるアメリカの代理戦争で、アメリカがロシアが戦争をせざるおえないところに追い込んだから始まったものである。よって、今回の戦争において悪いのは、ロシアではなく、アメリカである、というディスコースをSNS上でみることがある。

    もちろん、ロシアやプーチンが一方的に悪いというわけではないにしろ、これはロシアのプロパガンダのようで、さまざまな情報にアクセスできる日本にいて、どうしてそういう意見になるのか、不思議に思っていたのだが、その「理論的根拠」は、エマニュエル・トッドだったのかな?(チョムスキーの影響もあるのかもしれない)

    本の見出しだけ読んで、なんとなくわかった気になるが、読んでみると、なるほどの視点がたくさんあって、勉強になった。とくに人類学者である著者ならではの分析は冴えていると思う。

    一方、ウクライナのNATO化、ハイテク軍備強化がロシアの脅威となったので、ロシアがウクライナに侵攻せざるをえなくなった。というのはたしかにそうなんだけど、その背景には、ロシアのクリミア侵攻があったわけで、ウクライナ軍強化はロシアが自分でまいた種。ウクライナのNATO化はゆるさない、そうなったら軍事的な行動をとるぞ、とサインをだしたにもかかわらず、ウクライナの軍事強化が止まらないので、侵攻したから、アメリカやウクライナが悪いということにはならないだろうと素朴に思う。(いつの時点から問題を把握するかということによって正義は変わってくるわけだが)

    あと、仮にロシアの侵攻が「やむを得ない」ものだとしても、その暴力性、残虐性は、ナティスドイツ、スターリンなどを思い起こさずにはいられないもので、歴史の時計が100年巻き戻ってしまった絶望感がある。

    ウクライナの戦争については、どうしても第二次世界大戦の記憶が蘇ってきて、そのアナロジーを踏まえながら、ことのないゆきを解釈する傾向があるのだが、著者は比較は第一次世界大戦とすべきとのこと。

    戦争がだれにとっても予想外の展開になっている現在、どういう結果になっても関係国がすべて妥協できるところに落ちない以上、長期戦にならざるをえず、第一次世界大戦同様の持久性、経済力、どこまでこの戦争に資源を投入しつづけることができるのかというものになっているという。

    たしかに、経済的な持久力の問題になってきているのはその通り。そして、その耐性が強いのは、ロシアであって、経済的な相互依存性がつよい西側諸国のほうがこの事態に耐え続けることができないのではないかというのは、多分、ただしい。

  • 小国のウクライナがロシア相手に長期戦を展開できているのは、アメリカとイギリスが軍事支援を続けてきたからである。両国は開戦前からウクライナに軍事的なテコ入れをしてきた。アングロサクソンこそ、世界を不安定にする最大の要因だろう。
    https://sessendo.hatenablog.jp/entry/2024/02/24/140549

  • 巻末のウクライナ人の、アメリカに対する主観が的をいてる。

    西側からの考察として、面白い。

  • 第二次世界大戦の結果、生まれたウクライナは独自の言語と文化とを持つ独立国ではあるが、フルシチョフ時代にプレゼントされたクリミア半島にはロシア語しか話せない住民が多かった。マイダン革命と称する選挙によらない権力移動で来たEU寄りの政権がウクライナ語を話せない者を公務員失格とし上司に昨日までの民族主義テロリストを充てたことからおとなしいロシア系住民も怒った!クリミア半島制圧が容易だったのはそのせいだろう。

    超大国とは好き勝手できるらしくアメリカは21世紀になってからもアフガニスタン、イラク、ソマリア、などで軍事行動してきた/ロシアはなぜ嫌われて

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著者プロフィール

1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。現在はフランス国立人口統計学研究所(INED)所属。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析する。おもな著書に、『帝国以後』『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』などがある。

「2020年 『エマニュエル・トッドの思考地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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