第三次世界大戦はもう始まっている (文春新書 1367)

  • 文藝春秋
3.87
  • (62)
  • (93)
  • (61)
  • (9)
  • (4)
本棚登録 : 872
感想 : 89
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166613670

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • フランス人(人類学者)からみたウクライナ問題

  • ウクライナへのロシア侵攻の真相を深掘りした本書。一般的なニュースだけで判断してはいけないなと実感した。

  • 国内のアメリカ寄りのメディアでは本当のことがわからないことが良くわかる。

  • 2022年に勃発したロシアによるウクライナ侵略戦争について、ロシア側の論理を説明した本。
    著者はフランス人だが、反米・反EU。同意できない点もあるが、多面的な視点を提供してくれるという点で、読む価値はある。

    著者が「第三次世界大戦」という言葉を使うのは、この戦争は、実際には米国とロシアの戦争―米国によるウクライナでの「代理戦争」―だからだ。
    ウクライナの裏で米国(とNATO)が糸を引いている、ということはみんな知っている。著者曰く、米国や西欧の主張はまったくグローバルではなく(この点は完全に同意する)、むしろ世界の嫌われ者である。よって、今回の戦争でロシアを支持する国は多いだろう、という。

    著者曰く、ウクライナは破綻国家であり、3つの地域に分断されている。
    西部は「ほぼポーランド」であり、ロシアはこの地域に興味はない(ポーランドが併合するかもしれない)。キエフを含む中部はロシアが「小ロシア」とよぶ地域で、ここが狭義の「ウクライナ」である。そして南部・東部は、ロシアが「ノヴォロシア(新ロシア)」と呼ぶ、ロシア語話者の住むエリアだ。ウクライナは貧しい国だが、最も発展しているのは実は南部・東部地域である。
    2014年、親露派のヤヌコビッチ政権が(プーチンのいうところの「ネオナチ」による)クーデターによって倒され、親EU派の政権ができた。その後、米国や英国はウクライナ軍に高性能の兵器を大量に送り、軍事支援を行った。そのためロシアは、米国によるウクライナの武装化がこれ以上進む前に、「手遅れにならないうちに」ウクライナ軍を叩き潰すことを決意した――。だから、今回の戦争の責任は米国と西欧(NATO)にある、という。
    しかし、このロジックで行くと、あらゆる侵略戦争は正当化されることになってしまう。

    2014年の段階で、ロシアはクリミアを併合し、ドンバス地方は親露派によって実効支配されていた。とすれば、ロシアの目的はすでに達成されていたようにも思える。
    なぜロシアが侵攻に踏み切ったのか、やはり理解できない。

  • とても冷静に現状を分析してくれ、NATOでもEUでもないウクライナに西側諸国がに武器を供与しているのはどう理解すれば良いのか そもそもロシアは何故ウクライナに侵攻する必要があったのか自分のなかでモヤモヤしていた部分を明確に説明してくれた。

  • トッドさんは、国家や社会を構成する最小単位の「家族論」を根拠の土台にして展開し、EU圏内で多数派の考えに「逆張り」する傾向がある。例えば、冷戦構造只中でのソ連崩壊(実際の崩壊より15年前)を予想し、トランプ現象とブレグジット前の頃に保護貿易を支持するなど。

    そしてそれらは「近未来を言い当てる」という結果に今のところなっている。

    そんなトッドさんによると、このウクライナ戦争は長期化するし、ロシアはしぶとく生き残るし、ウクライナはロシア側に分割されると予想する。(キッシンジャーさんも似た結末をダボス会議で語っている)

    本書を読んで、いかに自分が米国(NATO)寄りに国際政治を見ているかがわかったが、一度読んだ程度ではどうにも頭に入って来ない。
    中世の人たちが地動説をすぐに受け入れられなかった気持ちがわかった気がする。

    1と4章は「ロシアのウクライナ侵攻」直後1~2ヶ月で収録され、3、4章はその前に収録されている。このページに詳しくある。
    https://onl.sc/ByBZHeB

  • 見る角度、見る人によって同じ行動も意味が変わる、という典型例ご戦争なんだと思う。ロシアの侵攻もロシアから見れば止むに止まれず、なのかもしれない。

  • 【第三次世界大戦はもう始まっている/エマニュエル・トッド】
    お恥ずかしながら、今ウクライナで起こっている出来事について、しっかり本を読んで調べるのはまだ本書を含め数冊。
    異なる意見や見識が有れば、是非教えていただきたいと思います。

    著者は、現在の状況を、「第一次世界大戦」に似ていると言います。
    ロシアが一歩的にウクライナを攻めているというのではなく、
    軍事的緊張を高めてきたのはロシアではなく、NATOの方であった、といいます。
    裏ではアメリカが、ウクライナに武器を支援しており、その目的はウクライナをNATOの事実上の加盟国とし、ロシアをアメリカには対抗できない従属的な地位に追いやることです。
    対してロシアは、アメリカの目論見に対抗して、大国としての地位を維持することです。
    「強いロシアが弱いウクライナを攻撃している」と見ることができるようで、実際は地政学的に大きく捉えれば、「弱いロシアが強いアメリカを攻撃している」と見ることもできます。
    米英はウクライナ人を「人間の盾」としてロシアと戦っているのです。
    戦争が終わった時、おそらくウクライナ人に生まれるのは反米感情であろうと著者は言います。

    また、トッド氏の視点として斬新なのは、
    民主主義や独裁主義と言ったイデオロギーの前に、「家族構造」がくるという研究をしていることです。
    ロシアは「共同家族体」、ウクライナは「核家族」。
    プーチンが生まれたのは、ロシア社会自身が彼のような権威主義的な指導者を求めているからであり、それは中国や北朝鮮やイスラム過激派にも通じると言います。

    トッド氏は、民主主義が成立するためには、「国家」が成立しなくてはならず、民主主義は「強い国家」なしに機能しないといいます。
    問題はウクライナに国家が存在しないことです。
    ソ連成立までウクライナには「国家」が成立しなかったといいます。
    「無政府状態の国家」では、軍隊が国の主導権を握っています。
    ゼレンスキー大統領が繰り返し求めていることは、ヨーロッパを戦線に引き込むことです。
    「次に狙われるのはあなた方の国だ」というわけですが、実際は正反対の事態であり、ロシアはヨーロッパにとって軍事的脅威ではなく、西欧の再軍備かも必要なく、そもそもロシアがウクライナ以外の領土への侵攻を考えているとは著者には思えないそうです。
    広すぎるので。
    西側メディアはプーチンは狂っているというような報道がされますが、ロシアは一定の戦略的合理性に基づいて攻撃しています。
    一方、予測不能な国は、ウクライナとポーランドであるといいます。
    「核発言」もポーランド向けに「動くなよ」ということではなかったかということです。
    そして、最も予測不可能なのが米国で、「戦争」は米国のビジネスの一部になっています。アメリカは「世界を戦争へと誘う教育」を世界各地で進めているかのようです。
    これに対して、トッド氏は日本は「核を持つべきだ」と主張します。
    日本の安全保障に日米同盟は不可欠にしても、アメリカに頼り切ってはいけないといいます。
    「核の保有は、攻撃的なナショナリズムの表明でも、パワーゲームの中の力の誇示でもありません。むしろパワーゲームの埒外に自らを置くことを可能にするものです。同盟から抜け出し、真の自立を得るための手段なのです。」
    「核を持たないことは、他国の思惑やその時々の状況という、偶然に身を任せることです。
    アメリカの行動が危うさを抱えている以上、日本が核を持つことで、アメリカに対して自律することは世界に対して望ましいはずです。」

    また、彼は、台頭する中国と均衡を取るためには、日本はロシアを必要とし、良好な関係を維持することは、あらゆる面で日本の国益にかないます、としています。
    ロシアはソ連崩壊後弱体化したものの、最も自由な国としてふっかつしつつあり、アメリカよりも死亡率が下がり、平均寿命も伸びているというのです。

    というように、本書は、わたしたちがメディアなどを通して思わされがちであったものの見方とかなり異なる「ロシア寄り」の見方を提示しています。
    これからも複数の本から俯瞰的に状況を見て、判断して行きたいと思います。

  • 歴史的経緯や国際情勢の冷静な分析に基づいて語られている。

    ドイツ統一が決まった1990年に、NATOは当方に拡大しない約束がなされたが、1999年にポーランド、ハンガリー、チェコ、2004年にルーマニア、ブルガリア、スロバキア、スロベニア、バルト三国がNATOに加盟した。2008年のNATO首脳会議では、ジョージアとウクライナを組み込むことが宣言され、それに対してプーチンは「強力な国際機構が国境を接することは安全保障への脅威」であると主張していた。

    ロシアは共同体家族(結婚後も親と同居し、親子関係は権威主義的、兄弟関係は平等)だが、ウクライナは核家族。外婚制共同体家族は、ゲルマン人の直系家族とモンゴル人の父権制組織の衝突から生まれたもので、ペラルーシも外婚制共同体家族。

    ウクライナは、ほぼポーランドとみなされるカトリック系ユニアト信徒が多い西部、小ロシアと呼ばれギリシア正教徒が多い中部、プーチンがノヴォロシアと呼び、ロシア系住民が多い黒海沿岸地域とドンバス地方の3つの地域から成り立っている。

    ウクライナ人は教育水準が高いため、ドイツなどの西側諸国が安価で良質な労働力として吸い寄せてきた。その結果、ウクライナは独立以来、人口の15%を失っていた。

    2014年、ウクライナで親EU派によるクーデターによってヤヌコヴィッチ政権が倒される「ユーロマイダン革命」が発生すると、ロシアはクリミアを編入し、親露派が東部ドンバス地方を実効支配した。ロシアの侵攻前から、アメリカとイギリスはウクライナに高性能の兵器を大量に送り、軍事顧問団も派遣していた。

    ロシアによるウクライナ侵攻は、アメリカ主導の国際秩序に挑むもので、アメリカの威信にも傷がつく。アメリカは、軍事と金融の面で世界的な覇権を握る中で、実物経済の面では世界各地からの供給に全面的に依存しているため、アメリカにとっても死活問題になっている。

    1960年代のアメリカは、福祉国家化による企業の利益率の低下、黒人の解放、教育による階層化、軍事上の敗北によって危機に陥ったため、レーガンの新自由主義(新保守主義)という反動を生み出した。

    ユーラシア大陸の中心部を占める儒教圏とイスラム圏の父権的家族システムは、近代化によって崩壊し、代わりに共同体主義的な傾向や権威主義的な国家を生み出した。

    ドイツと日本は西洋よりも父権的な社会だが、第二次世界大戦で敗北してアメリカに征服されたために西洋世界に属している。

    結局のところ、NATOの拡大が今回の事態を招き、アメリカの覇権維持の思惑が戦争を長期化させることになりそう。ロシアがウクライナの一部を支配した状態が続く限り戦争は終わりそうもないが、その犠牲になるのはウクライナ人であるのがやるせない。

  • 著者の名前は聞いたことがある、という程度の知識しかない。
    ロシアのウクライナ侵攻について、日本のマスコミでは「ロシアが一方的に悪い、プーチンは気が狂った、ウクライナに支援を」という論調でしか語られないが、著者はよっぽどアメリカが嫌いなのか、「米英がウクライナに武器だけ供給し、ウクライナ人に無理矢理戦わせているようにしか見えない」という論調でこの戦争を見ているようだ。
    勉強不足のため、真偽のほどは不明だが、確かに一方的にロシア悪という目線だけでこの戦争を見るのはあまりにも近視眼的だし、これによって誰が得するのか、今後どうなっていくのか、いろいろな角度からものごとをとらえる必要性を思い起こさせてくれる一冊。

全89件中 41 - 50件を表示

著者プロフィール

1951年フランス生まれ。歴史人口学者。パリ政治学院修了、ケンブリッジ大学歴史学博士。現在はフランス国立人口統計学研究所(INED)所属。家族制度や識字率、出生率などにもとづき、現代政治や国際社会を独自の視点から分析する。おもな著書に、『帝国以後』『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』などがある。

「2020年 『エマニュエル・トッドの思考地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

エマニュエル・トッドの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×