新装版 富士山頂 (文春文庫) (文春文庫 に 1-41)

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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167112417

感想・レビュー・書評

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  • 富士山頂に気象レーダーを設置しよう!

    予算取りに機械の入札競争、中央省庁の攻防、馬方と剛力、移送ヘリ、山頂という過酷な工事現場、気象庁の調査員、レーダー製作の技師、設置後の台風の襲来、などと予算奪取から完成までを長すぎずさらりと描いた作品。
    実際に資材の荷揚げが始まる二章からが面白かった。

  • この作品は、富士山頂に気象レーダーを設置することをモチーフとした破壊的イノベーションの物語と捉える事が出来る。

    主人公の葛木章一は、大蔵省主計局から富士山頂への気象レーダーの予算を獲得し、それを実現するまでに従来のプロセスを次々に変革して行く。富士山頂への気象レーダーそのものが破壊的イノベーションになる為には、サプライチェーンを始めとする周辺の変革を伴う必要がある。

    従来のプロセスを打ち破ったものとして、役所内の指揮命令系統、指名入札、ブルドーザーの導入、強力方と馬方との融合、ヘリコプターによるドームの設置など様々のものが語られている。
    従来に無い大きな目標に向かって突き進む姿に学ぶ事は多い。

    また、自分にとって富士山とは何かを考える作品であると捉える事もできる。日本一の山であることは疑いも無いが、色々なものの象徴でもあり、憧れでもある。
    今年は富士山が世界文化遺産に登録されたことにより、多くの登山客が訪れ、各人が自分にとって何かを問い直しているのであろう。残念ながら剣ケ峰にもう気象レーダーはないが、無いからこそそこに気象レーダーを設置する凄さを想像出来るのかもしれない。

  • 富士山ブームに乗って読了。山頂での激しい気象の表現は職人技。臨場感にあふれ情景が目に浮かびます。これを安易に映画にするのは難しいだろうと思います。やっぱり小説で読むべき一冊です。

  • 先週行っていました、富士山!
    レーダー館へも寄りましたので、楽しみ倍増です。

    昔読んだ山岳ものと、同じような違うような・・
    予算取りから入札、ブルトーザーによる資材運び・・
    ホテルがジャマ?、一つ進めるにも、気象データが活用されて、
    新田氏の実体験が記録されていました。
    完成されたレーダー館は、本当に活躍しましたね!

    最後の解説で、新田氏の作品紹介があります。

  • 昭和39年(1964年)、富士山頂に世界一の気象観測用レーダーを建設・設置するまでの過程を活写した傑作。気象庁に勤めた新田次郎自身の実体験をもとにした、自伝的記録文学です。

    「日本の象徴・富士山へのレーダー設置」という一大事業に対する予算獲得の話から始まり、メーカーの入札を巡る動き、建設途上での幾多の困難、そしてレーダー設置後の問題などを、当該事業に取り組んださまざまな立場の人物をとおして描いています。

    遠くから見れば端麗な富士の容貌も、いざ近づいてみたならば「大自然の猛威」という言葉がぴたりと当てはまる、恐ろしい姿へと豹変します。山もしくは自然対人間の闘いという普遍的なテーマを取り扱う一方、役所と現場、メーカー、マスコミなど、人間同士の濁った・気味の良くない闘いもまた、この小説は取り上げています。

    この山対人間、人間対人間の並列的な描写から、いざ、富士山へレーダーを建設する段になったときの、富士山に対する人々の真摯な向き合い方、まさに気持ちがひとつになるというか。そこに美しさを感じるのは、やはり、闘うべき相手が未だ誰もなしえなかった事業、それも富士山に対するものであったからこそ生まれた、人々の一致結束の姿に心を打たれるからでしょう。

    山岳小説として読むことも、企業小説として読むこともできますが、やはりここは、厳しい自然に立ち向かった人たち(今から50年も前に生きた日本人)のひたむきな姿に、素直に感動したいところです。

  • 日本一の富士山に世界一の気象レーダーを建てた男たちの話。著者新田次郎の自叙伝らしい。気象庁の仕事を続けるのか、小説家になるのかと揺れる男心は、正直なところ興味が湧かなかったが、男たちが見せる仕事への執念は見応えあり。馬とブルドーザの話は面白かった。

  • 山岳物といえば新田次郎。ちょっと違った切り口だが…やっぱりおもしろい。

  • 見ては無いんですが実際にNHKのプロジェクトXにも取り上げられたらしい、富士山に気象レーダーを設置するという一大プロジェクトの話です。ただ、、謙虚すぎるのかな、もうちょっといろんなピンチについてぐいぐい引っ張るような大げさな書き方でも良かったと思います。

  • 本屋で購入。暫く積んであったのですが旅行に行くので電車のお供に、と持って行きました。ちょうど富士山が見える所に行ったのであの山頂に富士山レーダーを作ったのかあ…と感慨深いものがありました。そして富士山は6合目だか7合目まで車で行けると聞きなんでだろう?と思っていたのですがレーダー建設資材を上げるためにブルドーザーで道を作り、資材を置いたからなんですねえ。なるほど、と納得しました。

    お役所は本当にお役所特有の仕事のやり方があるんだなあ…と面白くもあり、大変そうだなあというのも然り。それにしても主人公の某メーカー営業嫌いは異常ですねえ。反対に主人公がずっと役職についていたらそのメーカーはいつまでも入札参加出来ない訳ですし。そう思うとある意味人の好き嫌いって恐ろしい。最後、何かに憑かれたようだったとありましたがなるほど富士山に取りつかれたんだなあ、と思いました。そして今は衛星があるので富士山レーダーも以前ほど活用されていないのだろうかと思うと時代の移り変わりを否応に感じさせれれました。面白かったです。

  • 新田次郎コーナーが出来ていたので何故だろうと思ったら、生誕100年ということだった。
    ということで、その中から1冊読んでみることに。

    富士山の頂上にレーダーを建設した男たちの物語。
    新田次郎といえば、山岳小説。当然この話も「富士山に挑む男たち」の話だと思って読み始めた。

    もちろん富士山という極限の自然条件の中でレーダーを作り上げるという部分も大いに盛り上がる。
    でもそれ以上に、レーダーを建設するに至る、関連官庁の役人同士のせめぎあいが面白い。気象庁、大蔵省(当時)、電波庁(当時)それぞれの縄張り争い、面子、どこからともなくやってくる圧力、などなど山登りより大変なんじゃないかというあれやこれやをとにかく切り抜けて認可を取り付けていく、その人間ドラマが滑稽で、切実だった。

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著者プロフィール

新田次郎
一九一二年、長野県上諏訪生まれ。無線電信講習所(現在の電気通信大学)を卒業後、中央気象台に就職し、富士山測候所勤務等を経験する。五六年『強力伝』で直木賞を受賞。『縦走路』『孤高の人』『八甲田山死の彷徨』など山岳小説の分野を拓く。次いで歴史小説にも力を注ぎ、七四年『武田信玄』等で吉川英治文学賞を受ける。八〇年、死去。その遺志により新田次郎文学賞が設けられた。

「2022年 『まぼろしの軍師 新田次郎歴史短篇選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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