花のあと (文春文庫 ふ 1-23)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167192235

感想・レビュー・書評

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  • 今朝紫露草の小さな青い花がぱらぱらと草むら一面に咲いていた。草の間からすっくと背伸びをして、小さいのにとてもけなげで凛々しい。そんな紫露草みたいな、江戸が舞台の8つの短編。時代物なのにとてもじんわりと、近しい気持ちにさせられた。

    ”きっぱりと物事のけじめをつけることには馴れている。だが、心までは縛れないし、その必要もなかろうと以登は思った。きっぱりと思い切ったがゆえに、孫四郎に対する気持ちは、ほどのよい距離をおく秘めた物思いと変わり、むしろはばかりなく深まって行くようにさえ思われた。(花のあと・P246)”

    秘めることでそのことが、日常をつつがなくすごすための支えとなることがある。それ以上決して汚れることも育まれることもなく、ただいつも必ずそこに秘めてあるということで。
    ましてやしきたりや身分やらのしがらみで今よりもはるかに思いも行いも、生きること自体が不自由だった時代のことだ。たかが淡い恋慕の思いであろうと、誰にも触れさせない、秘めたそれはかけがえのないものであっただろう。

    「花のあと」と「雪間草」がよかった。どちらも芯の強い(腕っ節も強い!)、凛とした女性が主人公。
    師走のある日に、幼なじみだった二人がおそるおそるにこころを寄せていく「冬の日」にもじぃんとしたなぁ。

  • 結構面白い短編が入ってた。

  • 表題作は映画化されているのですね・・・
    見ないと思うけど。
    時代ものに限らず、好きな小説が映画化されるのは好きではない。

  • 2回目の読了。
    風景描写の美しさ、物語の多様性、そして何よりこの短編集では女性の強さ・弱さと艶めかしさを感じられる。
    巻末の解説「藤沢氏はここで、広重に感情を移入して、控えめに自分の文学感を語っているようにもみえる」はなるほどと思った。

  • 藤沢周平を、というか時代小説的なものを初めて読んだ。『のぼうの城』は違うよね?あれはね、そうだよね?

    表題作の「花のあと」は映画化されてますね。北川景子ですね。いいですね(^^)てっきり長編だと思ってたので、短編集だったのが意外だったけど、さほど時間かからず読めました。

    「花のあと」。これはいいですね。でも、「雪間草」がいちばんだったり。

  • 「4作連続で剣が出た」

    <マイ五ツ星>
    矜持:★★★★★

    <あらすじ>-ウラ表紙より
    娘ざかりを剣の道に生きたある武家の娘。色白で細面、けして醜女ではないのだが父に似て口がいささか大きすぎる。そんな以登女にもほのかに想いをよせる男がいた。部屋住みながら道場随一の遣い手江口孫四郎である。老女の昔語りとして端正にえがかれる異色の表題武家物語のほか、この作家円熟期の秀作七篇!

    <お気に入り>
    「一年ほど前に、今夜のように一緒のところを●●に見つかりました。それ以来、お上に訴えると恫され続けて、ずいぶんお金も絞られました。お金はいいんです。でも訴えられたら、あたしらは死罪でしょ? お上の定めはそうなっているのじゃございませんか」……(『疑惑』より)

     はげしい気合とともに、以登は踏みこんで電光の打ち込みを孫四郎の肱に放った。だが、竹刀は空を衝き、逆に以登の右腕がぴしりと鳴った。腕がしびれた。同時に以登は甘い眼くらみに襲われて倒れかかり、孫四郎の手で身体を支えられるのを感じた。以登はそのまま崩折れて、右膝を地面に突いた。……(『花のあと』より)

    <寸評>
    藤沢周平さんの江戸物短編集珠玉の八篇。

    元盗っ人稼業の初老の男、尼僧、嫁入り先を飛び出した女、売れ始めた絵師(モデルは歌川広重)から、若い頃は凄腕の女剣士だった老女まで、江戸時代に生きる身分も生業も様々な主人公が登場し、それだけで「次は何がくるのか」とワクワクさせられる。
    さらに全編通して、それぞれの立場で持つ矜持(=プライド)と、過去から変わるものと変わらないものという、2つのテーマが根底に流れている。

    時代は違えど、現代の我々となんら変わることのない、人、が生き生きと、また温かく描かれた小説である。

    以下、特に気に入った短編を紹介する。

    ・『雪間草』
     藩への不義の罪に問われる吉兵衛を、元婚約者で、今は尼僧の身である松仙が、助命を請いに藩主信濃守のもとへ。松仙は、尼になる前は信濃守の寵愛を受ける側妾だった。様々な因縁がありながら、去り際に信濃守に向けて松仙が言う台詞は、毅然としながらも彼女の心の内を思うと、やる瀬ない気持ちがする。

    ・『疑惑』
     親殺しの罪で捕らえられた鉄之助。同心(刑事みたいなもの)の孫十郎は、調べるうちにある疑惑を抱く。<お気に入り>で挙げた、おるい(笑)の台詞は、お上だろうが何だろうが、己の恋路は邪魔させないという意地が感じられる。

    ・『花のあと』
     重い家柄に育ち、剣術の腕前にも達者な娘・以登が、淡い恋心を抱いたのは、ただの平藩士ではあるが羽賀道場の筆頭で逸材の誉れ高い江口孫四郎。互いの家柄の違いや、両人とも婚約者がいることもあって、それは元々かなわぬ恋だった。以登は、ただ一度の剣の勝負をもって、想いを断ち切る。だが、そんな封印した想いを呼び覚ましのは、思いもよらない出来事だった…。


    さて、これで『三国志』『QED 河童伝説』『武士道シックスティーン』そして本作と、剣の出てくるお話が4度続いてしまい、今の俺は、触れなば斬らん、と心に剣を佩く、キケンな漢である。

  • そろそろ藤沢周平でも読んでみましょう、と手に取った一冊。映画化している、という単純な理由で。おもしろかった。けど、2ヶ月経った今、1つのお話くらいしか覚えていない。

  • 祖母に薦められて読んだ本の一つ。

    私は表題作の「花のあと」がお気に入り!後味が、サッパリとしていて、、清々しかった。

  • 映画化された表題作「花のあと」と「雪間草」の女の強さ、「鬼ごっこ」「疑惑」はミステリー仕立て、「旅の誘い」は広重もの、藤沢さんの特技を存分に味わえる短編集。中でも「冬の日」こういう短編に出会うといい一日だったと思える。

  • 江戸の町人や武家が主人公の短編集。表題作の「花のあと」が一番面白かった。昔、剣で鳴らした婆が娘時代の淡い恋を孫に語る話。20120130

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著者プロフィール

1927-1997。山形県生まれ。山形師範学校卒業後、教員となる。結核を発病、闘病生活の後、業界紙記者を経て、71年『溟い海』で「オール讀物新人賞」を受賞し、73年『暗殺の年輪』で「直木賞」を受賞する。時代小説作家として幅広く活躍し、今なお多くの読者を集める。主な著書に、『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』『白き瓶』『市塵』等がある。

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