旅をする木 (文春文庫 ほ 8-1)

著者 :
  • 文藝春秋
4.37
  • (955)
  • (408)
  • (266)
  • (23)
  • (9)
本棚登録 : 7631
感想 : 636
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167515027

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 最近、北海道では毎日のようにヒグマの目撃情報が報道されている。
    著者はアラスカ在住の写真家だったが、クマに襲われて亡くなった。
    なぜ日本から飛びだしてアラスカで暮らすことになったのか、それを知りたいと思った。
    けれど、この本に書いてあったのは、「生きること」についてだった。

    ”とりわけ仔連れのムースはとても危険で絶対に近づいてはなりません。しかし、日々の暮らしのすぐとなりで動物たちが必死に生きている姿に出合うと、やはりじっと見入ってしまいます。少し身が引き締まるというのでしょうか。”

    ムース(ヘラジカ)は鹿の中で一番体が大きくて、襲われれば大変危険。
    けれども同じ地球に生きる仲間としての敬意をもってその姿に接する著者には、クマの生態も知らず恐れたり、逆にテリトリーに入り込んでしまう私たちが見習わなけれならないものがあると思う。

    ”そうそう、赤道の落日にはびっくりしました。アラスカでは、太陽は限りなく水平にゆっくりと沈んでゆくのに、ここは水平線にまっすぐに落ち、一瞬のうちに世界は夜になってしまうのです。”

    エクアドルの写真集を作るプロジェクトのためにガラパゴス島に行ったときの感想。
    実際に体験することは、自分の内部にしっかりと刻み付けられるんだよなあ。

    ”知識としてではなく、歴史というものが目の前に厳然と存在する風景の中で生活しているというのはすごいことですね。それは人間の考え方にどこかで影響を与えているような気がします。”

    写真のイベントでザルツブルクに行ったときの文章。
    北海道出身の私には本州でも十分に歴史が厳然と存在している場所はたくさんあると思えますが。
    浅草寺の創建が推古天皇の頃と聞いたときにはのけぞりましたもの。

    ”氷河の上で過ごす夜の静けさ、風の冷たさ、星の輝き……情報が少ないということはある力を秘めている。それは人間に何かを想像する機会を与えてくれるからだ。”

    小学生から高校生まで11人の子どもたちが、日本から1週間アラスカで過ごしたとき、彼らの姿を身近で見ていて。
    与えられる情報ではなく、自分で見つけに行く情報というのは、ある程度想像力がないと見つけられないのではないか。
    そして本当に必要な情報というのは、それほど数多くはないのかもしれない。

    ”ぼくたちが毎日を生きている同じ時間、もうひとつの時間が、確実に、ゆったりと流れている。日々の暮らしの中で、心の片隅にそのことを意識できるかどうか、それは、天と地の差ほど大きい。”

    東京の編集者が著者のクジラ撮影に同行して。
    毎日何かに追い立てられるように生きていると、人生には一本の道しかないように思えるけれども、本当はそのすぐ横に、ゆったりと流れる時間を生きている人・モノがあるということを意識する大切さ。
    自分を見失わないためにも。

    ”結果が、最初の思惑通りにならなくても、そこで過ごした時間は確実に存在する。そして最後に意味をもつのは、結果ではなく、過ごしてしまった、かけがえのないその時間である。”

    43歳の若さで亡くなるのは無念だったのではないか、と思うのは傲慢なのだ、きっと。
    だけど、本来なら周囲にエサが豊富にあって、クマに襲われるわけのない場所で、なぜ襲われてしまったのかというと、クマが餌付けされていて、テントに入って人間の食料を食べることに慣れていたから、というのはやりきれない。

  • わたしのいちばん好きな本
    仕事かばんの中に入れていて、毎日のお守りになっている。ぱらっと開いたそのページを読む日々。

  • 星野道夫さんに、その後起こったことを知っているからか、言葉のひとつひとつが心にしみわたる。
    仕事で疲れた心を癒すために、通勤の行き帰りでこの本を開いている。
    星野さんのような生活はできなくても、自然を感じ取れる心は失わないようにしたい。

  • アラスカの美しさ、筆者の自然に対する畏敬の念が素朴な文章で伝わってくる。手記のような文体は最初とっつきにくいが、読んでるうちに心落ち着くようになる。

  • 高校生の頃から北の自然に憧れてアラスカで17年を過ごした著者のエッセイ。
    みたことがない景色をたくさん想像させてくれた。人と人との繋がり、自然というものの冷たさと暖かさ、生命の輝き。少しずつ変わる自然をみる幸せ。今を大切に生きよう、世の中が落ち着いたら旅に出よう。繰り返し読んで噛み締めたい一冊。

  • 「旅をする木」by 星野 道夫

    なかなか良かった。

    アラスカを拠点に活動する写真家である筆者が日々の体験を綴るもの。

    筆者が獄寒、広大なアラスカに暮らす人々や生き物に目を向けながら、命の強さ、何よりその脆さに目を向けているから故か、とても文章が優しくて心に入ってくる。

    エスキモー、インディアン..
    カリブー、ブラックベア、ワタリガラス、ザトウクジラ、オオカミ...

    私達は今日も忙しく活動し、ネットで情報を検索し、テレビ、メディアにさらされているけど、

    今この瞬間にも、人間を拒絶するような壮大な自然、凍りつく自然、音のない世界で

    黙々とカリブーが歩き、ザトウクジラが悠々と泳ぎ、それをオオカミやエスキモー達が追う

    カレンダーや時計の針とは無縁の世界

    社会の尺度からはかけ離れたところにある人生の成否

    それを知っただけでも良かったなと思えた。

    (筆者は5年前、44歳の若さで亡くなられた)

  • アラスカの大自然を想像しながら読めてよかった。
    また、便利すぎる生活を改めようと思った。
    R3.8.6

  • なんでこの本を、星野道夫という人をもっと知ることができなかったのか
    そう思えるくらいに暖かく、素晴らしい本だ。

    アラスカの暮らしを中心に、彼が見た世界や自然が息を呑むように言葉が綴られている。
    私たちが生きてる中で欲や富などにどうしても目が行きがちだが
    生きる本質がどこにあるのかを忘れてはならないな。

  • このひとの文章すきだなぁ。
    自分のペースで読んでいるはずで、だからわたし次第なはずなのに、このひとの、間、がある気がする。
    ゆっくりじっくり読みたくなる。

  • 地球にハグされてるみたい、と友達に勧められたから読んだらほんとにそうだった。描写が詩的で景色を実感してる気分になった。地球のどこかではこのような時間が確かに過ごされてると思うと、自分の人生が一気に意味を持つ気がする

全636件中 71 - 80件を表示

著者プロフィール

写真家・探検家

「2021年 『星野道夫 約束の川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

星野道夫の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×