溺レる (文春文庫)

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著者 : 川上弘美
  • 文藝春秋 (2002年9月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167631024

溺レる (文春文庫)の感想・レビュー・書評

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  • ちょうどいい、は難しい。ちょうどいい具合に、ちょうどいい加減で、ちょうどいい頃合に。でも、いつも、少し多かったり、少し少なかったり、気を抜いていると、多過ぎたり少な過ぎたりして、行き着くところまで行ってしまう。あるいは、いつまでもたどり着けなくなってしまう。
    愛しているからおよんでみたけれど、およべばもっと繋がれるはずだったけれど、むしろもっと寂しくなる。およべばおよぶほど、一人になる気がする。それなのに、ちょうどいい、は難しい。
    そんな物語が螺旋のように繰り返されていた。

  • 暗くてさびしい。でも後味悪くないのが不思議。
    どうしようもない人たちが登場する。男も女も。
    此処はいったい何処なのだろう?
    同じような場所に、同じような男女が生息しているような。
    百年とか、五百年後とか、お伽話みたいでおもしろい。

    「亀が鳴く」が印象的だった。

  • これは官能小説。
    性描写もいやらしくなくて、どこか芸術的なモノに感じる。

    川上氏は、擬態語大好きだね。
    擬態語を芸術的に表現していると思う。

    でもこの官能小説・・・
    卑猥ととるか、芸術的とるかは、
    読者次第かな。
    私は「作品」として、とっても完成度高いと思いますが。

  • 「この小説の空気に、たゆたう」という経験は、唯一無二のもの。
    主人公たちは、いわゆる、「社会のなかで生きてく!」って感じじゃなくて、
    よくわかんないとこに、あっけらかんと、住んでいる。暗いとこに住む湿った動物みたいに。
    そこは、ユーモラスで、エロティックで、童話みたいに怖くて、キラキラしてて、ダサくて、哀しくて、いろんなものが未分化で、生とか死とかも、境界もなくて、暗くて明るくて、ドライでウェットで、ぐちゃぐちゃで、混沌としてて、真実なんだとおもう。
    そして、静かなので、すき。からだの深いところが、ぞっとしたり、よろこんだりするのを体験できる、いい小説だと思います。

  • 読んでみよう読んでみようと思いながらなかなか機会が無かった川上作品。まずはこの短編集から。
    この本に関しては、詩集のようなイメージを持った。恋する女と男の痛みがひりひりするようなストーリーなのに、文体が幻想的でどっちかというとほのほへの寄りに思えて、ギャップが何とも不思議な感じ……というか。

    ・さやさや
    ダメな叔父と、今横にいる男性とを、代わる代わる思い浮かべている女性。
    叔父はいなくなった。隣にいる男性のことを考えているのに、寂しくなる。

    ・溺レる
    逐電する男女。
    リフジンなものから逃げながら、時々アイヨクにオボレる。未来は見えない。寄り添う。

    ・亀が鳴く
    多分、楽な方へと流されやすい主人公。
    同棲相手に別れを告げられる。
    だけど飼っていたカメは手放したくなかった。

    ・可哀相
    乱暴な行為をする恋人。更に恋人は主人公を「可哀相」だという。
    それでも離れられない。

    ・七面鳥が
    七面鳥に乗っかられた経験があると話すハシバさんに想いを寄せる主人公。しかし強姦されてしまう。
    ハシバさんは主人公を見守ってくれているようだが、これから二人はどうなるのか不明。

    ・百年
    主人公とその恋人の男性は不倫関係。恋人は主人公を『坊ちゃん』に出てきた女中の『清』のようだという。
    心中しようとしたが、主人公だけが死に、恋人の男は生き残った。恋人は奥さんの元へ帰っていく。
    そのまま往生した恋人と、主人公はあの世でも会えなかった。100年、魂は漂っている。

    ・神虫
    主人公の恋人ウチダさんが、この本の中で一番、女性に対して熱い男だなと思った。結構嫉妬心まる出しな感じで。
    この一遍はカッと熱い。

    ・無明
    不死身で、500年一緒に生きている男女。
    500年一緒にいて、はじめてのことを試す。
    一緒に沿って、はじめてのことを体験して。そういう生き方を今後も繰り返すのだろうなぁ。

  • 「センセイの鞄」は好きだったのですが、こちらは苦手でした。登場人物がみんなダメな女性で、共感ができず…。この独特な雰囲気自体は好きです。

  • 川上弘美の怖さを見た。

    言葉の重ね方、
    会話の重ね方、
    酒と食事の重ね方が、
    川上弘美の魅力と思っていたのは、
    まだまだ少ない経験で得た、
    彼女のいち断面であったか。

    男と女の情念の、
    強く、淡く、もろく、
    果てしない粘りつき方が、
    とても恐ろしい。
    川上弘美が粘りつくと言うと、
    ひどく粘りついて見える。

    そこにある情念が、
    とてもとても粘っこい。
    あわあわとしているのに、
    さらさらとしているのに、
    やたらと絡みついて、怖い。

  • ちょっと翳りのある、どこかいびつさのある男女関係を描いた短編集。どの話もどろりとした関係性のはずなのに、湿っぽさは感じられない。どの“わたし”もどこか醒めた目で自分と男のやりとりを見ているように思えた。
    「この人の書く文章が好きなので、読んでみて欲しい」と友人から贈られた一冊。確かに自分では選ばないタイプの本なので、新鮮だった。

  • 今まで読んだ川上さんの作品の中で一番好きかも。
    恐ろしい恋愛が描かれた短編集。
    「百年」とか死ぬ気も失せる怖さ。
    基本川上さんの描く恋愛って怖いけど「百年」は突出した怖さでした。
    心中に失敗して自分だけ死んでしまった女の側から描かれてた作品。

  • いつも、このひとの書くものは夢の中のような印象で、なぜかと思うに、語り手の女性にも相手の男性にも、名前はついているのだけど、たとえば髪型とか年齢とか職業はなんだとか、そういう普通の小説になら必ず書いてあるはずのごく基本的な情報が、文章の中にほとんどないからだと思うのです。こちら側からは、声だけは聞こえるのに顔は真っ暗で見えないような、たとえば夢に見ている時はそれが誰だか知っていたはずなのに、目が覚めたらそれが誰だったかどうしても思い出せないような、ひどくもどかしい、あの感じ。

    「さやさや」「溺レる」「亀が鳴く」「可哀想」「七面鳥が」「百年」「神虫」「無明」解説:種村季弘

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