- Amazon.co.jp ・本 (542ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167682033
感想・レビュー・書評
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テーマは、デビュー作である「慟哭」と同じく、『宗教』。
夜想はさらに『新興宗教』に焦点を絞っています。
「慟哭」から14年 再び『宗教』をテーマにする
…と帯には謳われていたが、今作のテーマは「宗教」ではないように思う。
あくまで1人の人間が悲しみや苦しみにどう向き合い、どのように生きていくのか、それらを主人公を始めとした登場人物を通じて投げ掛けているんじゃないだろうか。
デビュー作の「慟哭」以来、ほぼ全作品(文庫本に限るけど…)を読んできた貫井作品ではあるがその中でも重い作品だった。
雪籐の被った悲劇。「新興宗教」とはなっているが、要は組織作りの過程における葛藤や雪籐により新たな道を選択する遙。
ひとつひとつが丁寧に、そして表現豊かに描かれてているので物語の進行的には歯痒い部分もあるものの、それらの過程をじっくりと読ませることで結果としては最後に雪籐が導き出す答えにも得心のいく展開となっていた。
…まぁ、よくありがちで先き読みできてしまうトラブルが多いのはこの際置いとくとしよう。。
とにかく、目新しいプロットやギミックは一切ないので派手さはなく、『悪党たちは千里を走る』のような軽さも全く影を潜めている。
ただ淡々と流れる時間の中で「人の苦悩」にフォーカスしたヒューマンドラマとして心に残る作品だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
[簡単なあらすじ]
主人公:雪藤は事故で家族を失い絶望の中で日々を暮らしていた。そんな中である少女とである。その少女は特別な能力を持っており、その能力で雪藤の悲しみに共感し涙をながす。雪藤はその少女によって立ち直ることができた。そして少女のすばらしさを他の人に伝えることこそ自分の使命として行動を始める。
貫井徳郎の新刊(文庫だけど)です。この人の初期作品である慟哭と同じ宗教を扱った物語ということが帯に謳われており、どらっとばかりに手にとって見ました。慟哭については、宗教は絡んではいましたが、どちらかというとミステリーらしいトリック(叙述的)が中心であり、宗教は闇の部分を強調する形で使われていました。しかし、本書では正面から宗教を扱っています。一般的に新興宗教が話題になるときはいろいろと騒動が起きたときであり、何であんな怪しい宗教にはまり込んでしまうんだろうと思うものですが、本書を読んでみると、なるほど、(すべての宗教がそうではないでしょうが)そんな感じで出来上がっていくのなら、熱心に活動してしまうのもわかるかなあなんて思ってしまいました。宗教といっても小規模であれば、お金やら権力やらは何もなく、ただ、救いを求めることが目的なんでしょうが、それが組織となったときにいろいろと壊れていくのだなあと。普通の会社にしても、ベンチャー企業が大きくなっていくことでおかしくなっていくことがよくありますが、おんなじ感じなのかなと。人が増え、組織ができることにより誰も求めていないにもかかわらず変わってしまうことがあるのかと。特に本書は登場人物に明確な悪意(犯人)というものが存在しない。にもかかわらず誰も望まない結果になってしまう。まあ、所詮フィクションですから、すべてがおんなじなわけではないですが、なんとなく組織論について考えてしまいました。爽快感というものはないですが、いろいろ考えさせられるよい本かと思います。ただ、ミステリーというくくりじゃないよなあ。 -
人って弱いもんだと思った。
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物語は、事故で妻子を亡くし抜け殻のように生きている主人公「雪藤」がある日街で「遥」という[ある特殊能力]を持った女子大生と出会う所から始まります。
「遥」は特殊能力のせいで、子供の頃から辛い思いをしていたが、父親の影響もあり「人を救う仕事をしたい」と願う純粋な女性でした。
※[ある特殊能力]がある意味この本のキーポイントになるので、ここでは秘密にしておきます。
そんな「遥」との出逢いで妻子を亡くした辛さから癒されていった「雪藤」は「遥」の夢を叶えることが自分に与えられた使命だと感じ、「遥」を中心とした「人生相談を行う」ボランティア団体を作ります。
最初は顔見知りで初めた小さなボランティア団体でしたが、宣伝活動のおかげで有名になり人も多く集まるようになっていきます、そしてある男の加入によって「コフリット」という名前の宗教団体に発展していきます・・・
サブストーリーでは、娘に見捨てられてしまう母親が登場し、娘を捜しに東京に出てくる流れで「コフリット」と出逢うと・・・。
本当は宗教団体という言葉、体裁に違和感を持ちつつも大きな流れに逆らえず飲み込まれてしまった「遥」と「雪藤」はそこに生まれる歪みに思い悩みつつ動かされていき、その最後の爆発がサブストーリーに登場する母親の乱入となります。
特殊能力ゆえ諦念の感がある「遥」と必要以上の責任感で突き進む「雪藤」、そして無責任に「癒し」を求めている人、お金の匂いをかぎつけてハイエナのように群がってくる人などそこに絡んでくる数々の人間模様が物語を奥深い物にしています。
救おうとする側の迷いや戸惑い、逡巡などといったことがしっかりと描かれているので、「救い」「癒し」といった最近軽く使われる言葉をより深く意識することになる作品です。
ただ、さすがに500ページを超える長編なので中盤のたるみ~とくに「コフリット」立ち上げ当たり~がしんどいです。でもそこを超えて後半になると、展開が一気に変わってくるし終盤の「その後」でのちょっとしたトリックはさすがだと言えます。
※トリックは気がつく人はきっと気がつくと思いますが・・・・
宗教についての展開が誤解を生む部分もありそうですが、人が「救い」や「癒し」を求める一番のよりどころが宗教になっているのは疑いのない事実なので、ここはストーリーを支える土台になっているため避けては通れない題材だと思います。 -
新興宗教系の内容でした。慟哭でも読んでたので違和感なく。最後は一気にまとめられた感が若干ありかな~
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本屋で表紙が気に入り、テーマも面白そうだったので買った本。
読んでみるとグッと惹きこまれはしないけど、すいすい読める。
素人でも想像の及びそうな範囲内で物語を進めているのかな。
それでも飽きがこないのがすごいけれど。
描写が巧いというより丁寧という印象を受けました。 -
突然の事故で妻子を失った男性・雪藤が、特殊な力を持った美しい女性・遥と出会い、その他愛の精神とそれを広める活動に救いを求めるが…という話。
正直、展開はありがちというか、まぁこうなるだろうなーと思うとおりに進んでいきますし、中盤から後半にかけての終わり方もやはり予想通り。
とはいえ、雪藤が遥に傾倒していく様や、活動に熱心になるあまりにどんどん視野が狭くなっていくところや、既存の宗教団体とは違う、と言いながらも、雪藤自身の言動がどう見ても宗教関係者のそれになっていくところなどは、さすがの一言。
それぞれの心理描写も丁寧に書かれているけど長すぎず、理想と現実のズレや、ちょっとしたすれ違いなんかがどんどんどんどん大きくなって、終盤に向けて加速していく様はある種の爽快感すら感じさせます。
特に娘を探す母親の常軌を逸した行動は、まさに狂気が垣間見えて怖い。
この人の作品の、この「読ませる」力、本当に凄いなぁと思いながら、一気に読みました。面白かった。 -
/?day=20100118
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デビュー作『慟哭』で大好きになった貫井徳郎サン。
ここへくるまで何冊も読んだけど、『慟哭』以降で一番好きかな。
やっぱり、
人の内側の狂気を書かせたら天下一品ですね。
"普通"ってなんだ?
"救い"ってなんだ?って考えさせてくれる、そんな面白さ。
不慮の交通事故で妻と子を亡くし天涯孤独となってしまった主人公雪藤は、
自暴自棄の生活を過ごすうち、
モノに宿った記憶を読み取る不思議な能力を持つ
とても美しい少女、遥と出会う。
その出会いをきっかけに、
新しい道に踏み出すのだけど・・・・という話。
不思議な力を持つ見目も心も美しい少女、っていうのは
ちょっと使い古された感じだけど
この小説に限っては悪くない。
ってかやっぱり何が、誰が、マトモなのかなんて
わかんないもんだよね。
みんな弱い心を抱えて生きてるんだよね
って改めて気付かされる作品。
"救済"の意味をつくづく考えさせられた。
個人的には雪藤が遥を「先生」って呼び始めちゃうところがすんごい切なかったな。
後半にでてくるオバチャンの投入は貫井さんっぽくてさすが!
本当につらくなったらもう一回読み直したい作品。 -
新興宗教の話。同作者の慟哭みたいなかんじ。でも最後は慟哭とは違って希望がある。