乳と卵 (文春文庫 か 51-1)

著者 :
  • 文藝春秋
3.22
  • (236)
  • (567)
  • (825)
  • (367)
  • (106)
本棚登録 : 8473
感想 : 871
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (133ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167791018

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 130807読了。
    表題作「乳と卵」主人公のもとに、姉・巻子と姪・緑子が遊びにくる話。短い2泊3日だが、母子の関係の変化が劇的に描かれる。
    姉・巻子は豊胸手術にとり憑かれ状態、姪の緑子は思春期の「女になりたくない病」真っ只中。冒頭から読点が多く、独特な文体で、体言止め、「いろいろの」、などが乱発する。軽快な関西弁がうまくモノローグにも対応して、生身の人間が体感通りの時間を追っているように見える。
    初日の夕方に姉妹が銭湯に行ったさいの、女性の体を観察していくシーンがとても印象的だった。なるほど確かに女性の体の真ん中には乳があります。
    最後、緑子が自分の思いを癇癪のように爆発させたとき、少し共感があったとともに脱力感もあった。こうして少女たちは母をぼろぼろに消費しながら大人になるわけだけれども、主人公の「叔母」の目から見るだけで大変な体力が必要だ。
    私はもう大人の、どちらかというと叔母とか母とかの目線で読んでいた。

    「あなたたちの恋愛は瀕死」は、美意識は強いものの男と関係を持てない女が、ティッシュ配りの男に殴られる話。「――合格してるのかしら?人間として?」なんてことに媚を売りながら、全部が全部くだらない。最後は悲惨に殴られ道端に横たわる。まさに瀕死の話。

    川上未映子は「ヘヴン」を読んでから次は何読もう何読もうと思っていて、でも全然文庫本出てないし仕方なくまあ芥川賞でも、と思ったら、今回は全然作風が違っていてとても面白かった。彼女の作品はいくつか追いかけて読んでいきたい。

  • オーディオブックで聴いた。
    これは文字媒体で読みたかった本かもしれない。
    関西弁のナレーションも結構好きだったけど。


    男性では味わうことのできない世界を知った感じ。
    緑子の女性として生きることへの違和感と、女性が持つ生殖機能とそれを持っている自分への違和感、母親の考えの違和感など、シンプルに何も考えず生きていくことができないところが、感覚で生きてる親の巻子と違う感じがして面白かった。卵の投げ合いで感情を爆発させるシーンがもうめちゃくちゃで好きだった。
    『お母さん、本当のことを言ってよ』
    『本当のことなんかないこともあるんよ』ていうセリフはわかりそうで分からずムズムズした。
    最後の別カットは緑子?

  • この文量で、この質感は圧巻だった。
    母と娘の関係、女性のリアルな実態を、何とも言えない臨場感ですらすらと言葉にする技術には驚いた。
    文章というよりは、日常において、人間が思考をめぐらしたときに頭に浮かんだことをすらすらと言葉に落とし込んでいたのは、少々読みづらくはあったが、そういう表現もあるのかと自分にとって新たな発見だった。
    その表現は、何とも言えないほどリアルで、思わず「うわっ」となるような描写もあったので入り込んでしまった。
    正直に言うと今の自分には刺激というか、劇的というかそういうのが強すぎたのだろう。

    全体の評価として、面白いとは言えたが、自分の境遇にはそぐわず、読んでいて気持ちの良いものとは感じなかったのでこの評価となった。
    しかし、途中の主人公の周りで巻き起こる女性二人の口論の回想シーンはとても面白かったし、説得力、状況のどうしようもなさなどかなり評価が高かった。
    二作品目の話も、面白かったが、星四つになるかといわれると何とも言えない。

  • 賛否両論のようですが私には無理でした。凄く苦手。
    まるで大阪弁の滝沢カレンさんがしゃべるのを文字にした感じ(滝沢カレンさんは好きです)。
    大阪弁の文学が苦手なのか、なんかそうかと思うと標準語というか「~なのです」みたいなのが混ざってきて気持ち悪く、それが不快だったのか。

    内容はおもしろく、それで読み切れた。この文体じゃなかったら、割と好きかもしれない。・・・いや、わからないな。卵のシーンとか狂気の沙汰で読みながらちょっとひいた。
    生理のころの変化、妊娠出産による変化。着眼点とかはすごく面白かったけど。
    生理はあまり何も思わなくて、でも胸とか体の変化はとてつもなく嫌だった記憶がある。緑子の気持ちの描写はリアル。というか、みんなリアル。きっと文体の力かな?読む本じゃなくて、オーディブルとかならまた全然違うのかもしれない。

    超短編の『あなたたちの恋愛は瀕死』も割とぞっとする。

    他の本は読むかわからない。

  • 豊胸手術をしにきた姉、思春期の姪、そして私。女3人で過ごした夏の数日。

    なんとも言えず抜群に面白かった。不思議なくらい、なんの抵抗もなく、スルスルと読めてしまう不思議な文体だ。女性として生きていれば覚えのあるアレやコレやが、心地よく柔らかい大阪弁の一人称で語られている。ストーリーもちゃんとエンタメで、クライマックスに至るまでハラハラした。バランス感覚が素晴らしい作品だ。

    例えば風呂屋。他人の乳房を当たり前のように寸評しているのは実際にはあり得ない。巻子のキャラクター造形も、どこか昭和の匂いただよう典型的「可哀想な女」だ。これらは言うなれば、男たちが嬉しがる女像ではなかろうか。

    一方で、思春期の緑子が語る性への純粋な疑問や忌避感や、生理のうんざりな日常生活など、赤裸々とも言える、土臭いかっこ悪い女のリアルもある。

    男達が嬉しがる女性像と、女性にとってリアルな女性像がシームレスに融合されているのが上手い。これなら確かに男女区別なく大ウケするだろうと思った。あっぱれ!

  • 川上未映子さんの本を読むのは二冊目。

    気軽に読み始めてしまったものの、収録されている両話とも、真夏日にかいた汗の様にじっとりと身体に纒わり付くような、終始重苦しく問い掛けてくる作品でした。

    目を背けたくなるような世界観で途中で読むのを挫折してしまいそうにもなりましたが、この世に女性として生まれた身として、彼女らが今後どう生きていくのかしかと見届けなくてはと感じさせられた。続編もあるようなのでそちらも読む予定。

  • 読み進めることが難しい文体。一文がとても長く、関西弁の会話が理解し難く、ニュアンスで理解していく感じ。
    出産して、年を重ねることで、自分の胸が崩れていくことが受け入れられず、豊胸手術を考えている巻子とその思春期の娘、緑子の気持ちの揺れが長々と続く。
    どちらも自分の気持ちとは裏腹に身体が変化していくことに葛藤していて、拗らせていくところは、女性のなせるわざだと思う。

  • 句点を極端に削ぎ落とし、多くの文章を無理矢理詰め込んだ、だけども妙にリズミカルで、よう分からん勢いのある大阪弁で一気読みしてしまった怒涛の二泊三日の物語。
    そんなハイテンションの文章の中、緩急ではないのだが、緑子のノートの文章が良いアクセントと種明かしのヒントとなって、読書スピードがさらに加速されます。
    そもそも何をしに東京に来たのか、何のために父親に会いにいったのか会えたのか、ほんまのことは何もわからないまま、でも確実に何かを得て母子は大阪に帰って行く。
    最高に濃密な三日間でした。

  • 思春期の子どもと親との思いのすれ違い。血が繋がっていても本音でぶつからないと理解し合えないよね…と改めて感じた。

  • 成長とともに訪れる女性としての身体的な変化に戸惑う緑子。母親である巻子の、女性性が露骨に垣間見える度に、得体の知れぬ恐怖や羞恥、嫌悪感に苛まされていたのだと思います。生卵のように自身の殻を破り、言葉にできぬ感情の吐露をする緑子と、必死に向き合いその感情を掬い上げようとする巻子のシーンが印象的でした。 言語化できなければその概念は無いものと同じ、なんて意見を聞いたことがありますが、言葉を介さず共鳴し、互いに触れ合うことでしか、わからないものもあるのだろうと思いました(話からは脱線しているかもしれませんが)。

全871件中 51 - 60件を表示

著者プロフィール

大阪府生まれ。2007年、デビュー小説『わたくし率イン 歯ー、または世界』で第1回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。2008年、『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞受賞。2010年、『ヘヴン』で平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞受賞。短編集『愛の夢とか』で第49回谷崎潤一郎賞受賞。2016年、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞受賞。「マリーの愛の証明」にてGranta Best of Young Japanese Novelists 2016に選出。2019年、長編『夏物語』で第73回毎日出版文化賞受賞。他に『すべて真夜中の恋人たち』や村上春樹との共著『みみずくは黄昏に飛びたつ』など著書多数。その作品は世界40カ国以上で刊行されている。

「2021年 『水瓶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

川上未映子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
村上 春樹
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×