サマーサイダー (文春文庫 か 66-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 34
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  • Amazon.co.jp ・本 (341ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167900946

感想・レビュー・書評

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  • 夏を繰り返しながら沢山のものを置いてきても、友情や恋心までもが泡のように消えて無くなるわけではありませんでした。ずっと続いていくことは羨ましくもあり、終わりを感じさせる秋の風のように寂しくもあり。必死なあまり我を忘れ、時にグロテスクになりふり構わず鳴き叫ぶ蝉は、僅か一週間の生命と決めて。その一生はあまりに哀しく、死して尚、私達の心に残り抉り続けてくるようだ。夢だったのかもしれない。それでも三人だけが共有出来たもの、それが彼等のこの夏の全て。君の耳たぶの柔らかさ、葡萄の香り、見えないものを必死に手探りで求め続けていた。守られてるのはお互いなのだと、もっと強くなりたいと思いました。

  • そう言えば去年の夏? 結構前に読んだのを今頃思い出した。市川春子の挿絵が見たいだけで図書館借り。期待してなかったせいか、久々に
    読むジュブナイル小説だったせいか、まぁまぁ面白かった。お転婆なヒロインと幼馴染みの男子2人が、思春期ごろから意識し合って…みたいな甘酸っぱいティーンもの。作者が女性だからであろう、美少年(だよな?)の描写が生々しくてエロいかんじだが健全すぎる内容なのでご心配には及びませんよ。ハンディキャップを持った聡明で強く美しい少年と、以前のガキ大将が成長してイケメンになってる子と、彼らが反発し合ったり信頼し合ったり、その辺の揺れも宜しい。女の子視点で読みやすい。

  • とにかくジャケ買い。青春ものかなと予想しながら読み進め、確かに3人の青春の痛みがあった。夏に読みたくなる小説があるけれど、本作もある意味思い出すことになった。どう着地するのか期待しながら読み思いもよらぬ展開で少し唖然とした。
    虫が苦手な方は読み進めることができないんじゃないかな、、。

  • 夏の終わりにぴったりのタイトルかなと手にする。
    何回かの夏に絡み合うトラブルと幼馴染み達。季節感を感じる文章でした。
    壁井さんの描く少年達はどの作品でも愛情を感じます。

  • 表紙と挿絵を市川春子が描いている、というだけで興味を持って読んだ本です。

    表紙やタイトルからは全く読み取れませんが、虫がキーになる話ですので、虫が苦手な方は慎重に読んだ方がいいと思います。
    主人公が悪夢にうなされるところや3人で車に乗って山に向かったところなどはけっこう気持ち悪く感じました。

    創作物を別の創作物に例えるのは良くないと思いつつも言ってしまうと、読み進めるにつれ乙一の「夏と花火とわたしの死体」のようだと感じました。
    こちらはそこに仄かな恋愛要素とSF(?)の要素が混じっているのですが。
    日常(田舎の子どもの暮らし)のリアルな描写と一連の蝉に関する非現実的な描写が調和しているとは思えませんでした。
    主人公である倉田の様々なことに対する感度が非常に鈍感で、読んでてイライラしました。
    佐野に対しても"普通は"おかしな言動をする人間には近づかないように思いますが、倉田は何度も二人きりで接触し、そのたびに危険な目に合っています。
    もちろん、特に未成年に対し、成人が性的な目的で近づくのはあってはならないことだし、加害者が悪いのですが、そうなることが倉田には予見できたのでは?と思ってしまいます。
    予想できることに対し、何の対策もせず自ら火に飛び込みに行く倉田の気持ちがさっぱりわかりません。
    心身に危険が及ぶ可能性のあるものに、それらを犠牲にしてまで近づく行為を子ども特有の好奇心です、で理解するのは難しく、また、そうであったとしてもなぜ倉田が佐野に強く興味を持ったのか、の理由がほしいと思いました。

    倉田は佐野の言動に動揺する態度を見せるものの、それを強く否定することはせず、あまりにも普通に接するため、異常である佐野の存在が正常であるように思えてしまいます。
    倉田の態度によって現実と非現実の対比がうまくいっていなくて、蝉に関する一連のことがとってつけたような異物感を生んでいるように思いました。

    登場人物3名の中で、わたしがいちばん苦手なのが倉田のようなタイプです。時点で恵。
    恵は三浦もたびたび触れている通り、無神経で自己中心的な思考であるからなのですが、その分ストレートで裏表がないとも思います。
    倉田の気に入らないところは、たとえば三浦に対して心配する素振りを見せ、恵や教師に隠していることを教えてほしいと言いますが、実際のところ心配しているわけではなく、単に好奇心や幼馴染の中で自分だけが仲間外れにされている疎外感を解消したいだけなんだろうな、というところです。
    それを三浦が心配だから、と言い訳する、かつそれに自分さえ気づいていないところがいやらしいな~と思います。
    人が言いたくないこと、隠しておきたいことを強引に知ろうとする気持ちもわかりません。
    知られたくないと思っていることを知ろうとするなんて、他人の領域に土足で上がり込んで物を強奪していくようなものなのに、そこに気付けないのも鈍感で、恵とはまた別の意味で自己中心的だと思います。

    三浦は好きな相手に病状を知られ、嫌われたり同情されたりしたくなかったのだと思いますが、倉田はそういうタイプではなく、むしろ相手が自分を頼ってくることを喜ぶタイプのように思います。
    蝉の抜け殻を一緒に集めてくれた一件から何となく気にするようになっていて、そのころからなんとなく好きだったのだと思いますが、(三浦の病気のことを知りたがっていたのも、好きな人のことは何でも知りたいという気持ちもあったのかも)三浦が病気だとわかり、より一層わたしが支えてあげなくちゃ!と気持ちが盛り上がったんじゃないかと思います。
    本人はそれを好意だと思っていますが、実際は支配欲とか庇護欲のようなたちの悪い気持ちのように感じて、倉田に対し嫌悪感を抱きました。
    三浦はそのような目を向けられることが嫌なんだと思いますが、好きな相手からの一見好意に見えるものであれば嬉しく受け入れてしまい、気付いた時には色々な意味で倉田がいないと生きていけない状況になっているような気がします。
    でもまだ高校生だし、大学生になったり社会人になったりする頃には佐野のことも千比呂のことも記憶から薄れ、まったく関係のない人と付き合っていたり、結婚したりしているかもしれないけど。
    子どもの(未成年の)頃の体験や経験は尊いものだし、その人の人格や一生のベースになるようなこともあるでしょうが、大人になってから直面することはスケールも質も比べ物にならないので、お金も駆け引きも絡まなかった昔の思い出は途端に陳腐に思えてしまうでしょうから。

    表題はサマーサイダーなのに、炭酸と思わしきものが出てきたのは冒頭の体育館のシーンだけであとは出てこず。
    蝉の短い一生、人生の中であっという間に過ぎる学生時代、だんだんと失われていく三浦の視力、それぞれの一瞬を次々に泡が生まれてははじけて消えるサイダーに例えているのでしょうか。

  • 浜松町、談にて一押しの本だったので購入。
    前半と後半で雰囲気が大きく変わっていく。
    だんだん暗くなる視野狭窄とは逆に徐々に明るさを増す真夏のコントラストが際立つ。

  • 市川春子のイラストはずるい。
    不可思議でホラーでそれでいてひりひりするほど甘苦い青春の夏模様。

    佐野の生態とか、市川春子のイラストがなければちょっとぐろくて御免である。
    だけど儚くて美しさまで感じてしまった不覚。

    三浦と倉田の関係は、とても好きだけどあまりにも恵が残念キャラになりすぎてせつない。どうか救いを。

  • 夏の暑さがみせた、白く弾けて何も見えない夢。

    とんだホラーだよ! 三浦のキャラクターが好み、とか思っていたら、超グロテスクでした。夏に読まなくてよかった。

    なんてことない日常に潜むサスペンスかと思いきや、ファンタジー要素が入ってきて、そしてホラーです。でも着地点は日常の世界。本当は、世界のどこかにいるかもしれない、「人と違う」存在。三浦も恵も、挫折を抱えているところが魅力的で、どっちが本命なんだろうと、どきどきしながら読むこともできます。佐野先生の正体(まあ、確定はしていないけど)もどきどきします。読み出したら一気に読むしかない。この著者の作品は初めてだけど、すごくひっぱられました。

    母の本能とか、生存本能とか、そういう理性を上回る利己的なところが本当は一番怖いのかも。

  • ドロドロとした後味が残った一冊。
    壁井さんの作品だからと読んでみたら、なんとも不気味な物語。
    ただ、気持ち悪いという気持ちと同時に、学生3人による三角関係にハラハラしたり。
    壁井さんの書く、男女の空気感が好きです。。

  • 予想外の展開。まさかそんな秘密があったなんて…あとがきにもあったけど、前半と後半で話が全くちがう。誰も悪くないのに後味悪い感じだった。

著者プロフィール

第9回電撃小説大賞〈大賞〉を受賞し、2003年『キーリ 死者たちは荒野に眠る』でデビュー。その他の著書に、『鳥籠荘の今日も眠たい住人たち』(電撃文庫)、『エンドロールまであと、』(小学館)など多数。

「2009年 『NO CALL NO LIFE』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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