ミッドナイト・バス (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 99
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167906719

感想・レビュー・書評

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  • 家族の話は、本当に……やられます。

    読み終わって真っ先に思うこと、これは、主人公利一の息子、怜司の物語だと。

    怜司の、相手の先を読むような目つきと短い話し方、掻き毟った背中の痕、掃除したあとの窓ガラスの尋常ではない光り方。
    何を隠してるのかわからないなか、怜司のことが心配で、心配で……途中で何か不幸があったらもうこの先読めないとまで感じていた。

    ストレス性〇〇と診断されたときに、決して言われないけど感じる「自業自得」という文字。
    「環境変えて」と言われて“やれればとっくにやってる”とくさり、その後は“そういわれるにきまってる”と感じて、「医者に行け」と言われても素直に従えない自分の心のもどかしさ……そんな時は、たぶん誰かにギュッと、抱きしめてほしい。

    あと、最初の母子のエピソード!
    乗車済みの人をかき分け、窓の外でいつまでも手を振る一人息子を見つめる母……心の揺れと夜行バス独特の寂莫の感が、短いフレーズの中で凝縮され映像化される。
    読みだして100ページにも満たないのに涙が出るのは初めて(帰宅途中のバスの中で……あせった)。

    彩菜のエピソードにはもうひとつついていけないし、利一と美雪・志穂の関係もありきたりの感があるけど、異なる街を夜の間に結んでいる「夜行バス」が、みんなひっくるめて、「明日」を感じさせる。

    良かった。

  • 深夜高速バスの運転手と家族恋人たちの物語
    各々の仕事や介護、人間関係、これからやこれまでを織り交ぜながら綴られていく
    主人公の物語以外に深夜バスを利用した乗客の
    物語もあり、私は往年のロック歌手の話しが素敵だと思えた

    池袋→新潟の路線、私も利用した事もあり
    見送った事も、迎えに行った事もある
    新幹線とは少し違う独特な雰囲気が伝わる

    主人公の利一の煮え切らなさにも共感できたり
    朝に向かう深夜バス、登場人物達が朝に向かうであろう期待感が良い

  • 夜遅く横浜駅近くの国道1号線を歩くと、横浜発名古屋・京都・大阪行きの高速バスが次々と通り過ぎてゆく。その姿にロマンを感じたのでこの作品を選びました

    16年前の離婚は家族それぞれに心の傷を残していた。こうした家族がその傷を癒していく物語

    新潟行きの高速バスに乗ってみたいな

  • 利一と美雪の、愛惜、という表現がとてもしっくりくるなぁ、と思った。

    家族っていったって一つの人間関係なんだけど、切り離すのが難しいだけに、遠くても離れていても収束する時は収束する。

    そんな物語な気がしました。

    2021.5.22
    67

  • 穏やかに進行する、失われた家族の修復の物語。読み手が考える収まりどころにゆっくりと向かっていく感じ。
    登場人物それぞれの職業やその抱えている問題などが説明しきれていない印象。特に娘の彩菜を取り巻く状況が分からない。往年のシンガーとの相談する場面に違和感。息子の怜司の方は登場場面数は多いが抱えている謎は勿体ぶった割に終盤に要約して説明があり消化不良。150万円の借金は結局なんの為だったのかわからずじまい。彩菜の友達で東京の彼氏に遊びに行ったら彼女といたエピソードは続きがないのか。市町村合併と会社の吸収合併の筋は必要あったのか。
    主人公である利一は、取り巻く二人の女性を思わせぶりに接触した後塩対応したり、恋しくなったと一方的にまた会いに行ったりと一貫性がない。
    全体的に不要なエピソードが多く無駄に長い印象。また、人物が取った行動がそれまでのエピソードと結びつかない。
    全体の雰囲気はよいがまいた伏線の回収が甘く消化不良。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    故郷に戻り、深夜バスの運転手として働く利一。子供たちも独立し、恋人との将来を考え始めた矢先、バスに乗車してきたのは、16年前に別れた妻だった。会社を辞めた長男、結婚と仕事で揺れる長女。人生の岐路で、忘れていた傷と向き合う家族たち。バスの乗客の人間模様を絡めながら、家族の再出発を描いた感動長篇。

    親子の関係再生のドラマは万人に受けますね。皆だれかから生まれて来ている訳なので、上手くいっている家庭で育っていても共感する事はたやすい事です。この本も非常に話に入りやすく、現在の恋人と元妻の間を揺れ動きながら誠実でいたいと思っている主人公利一の行動も非常にドラマ的で分かりやすいです。もう大人になっている子供たちも、足りなかった愛情の穴を怒りと悲しみで埋めようとする姿もぴったりはまっている。なんだかマイナスな話をしそうなレビュですがそんなことは無いです。しっかりと書かれた人間ドラマで情景も浮かびやすく、深夜バスの運転手というシチュエーションも必須のものとして機能しているので、舞台設定やそれに対するドラマのからみ方も非常に秀逸。とても面白かった。

    何が気に入らないって、話の出来栄えではなくて主人公利一が現在のいじらしい可愛らしい恋人「志穂」への対応が超ムカつく!きー!っというものです。元妻「美雪」との間をゆれている時には「そこは志穂だろバカ野郎!」と心の中でがんがん突っ込みを入れていました。もう志穂が幸せになればあとはどうでもいいという位に感情移入しました。
    もう映画になるみたいで配役決まっているようですが、僕の中では
    利一⇒西島(大根役者だけど合うと思う)
    恋人 志穂⇒櫻井幸子(これは絶対合うと思う。完全脳内再現)
    元妻 美雪⇒小泉今日子(タバコすいながらだるくしているのが似合うから)

    こんな感じです。
    これだけ書いているので分かっていただけると思いますが、早い話面白かったという事です。

  • 「終わり良ければ」という言葉があるが、
    そのような印象がややある作品。

    終始起伏は少なく、それぞれが抱える問題(家族、仕事、恋愛、結婚、離婚)に対して向き合い、最後にはそれに対する答えを見つけ新たに歩みを始めるというストーリー。

    この作品は、読者側の今の状況や精神状態によってハマる/ハマらないが大きく左右されると思うが、何かモヤモヤしている時に読んでみる一冊としては良いと思う。

  • 良い意味で予測が付かない本でした。
    “次はきっとこういう展開になるだろう”と言う予想がことごとくハズレ、この物語は一体どこへ向かっているのかと、続きが気になってしまいました。

    成人し、それぞれの道へと進んでいった息子と娘。
    子供を置いて家を飛び出して行った妻。
    派手さはないのだけれど、物凄く心に染みる大人な一冊だと思います。

    子供とは、きっと幾つになっても子供なのだろうな。
    成人しようが社会に出ようが、やはり子供には親の温かさが必要なのだ。

    貴方には、いつだって私が居るのだから大丈夫なのだよ。帰ってくる所があるのだから、どこへでも行っておいで。
    と、そんな事をいつか言えるような強い母親になりたい。
    娘の寝顔を見ながらそんな事を考えていました。

  • 新刊にあまり興味を惹かれるものがなかったので、文春から来たメルマガに映画化なると紹介されていた、この本にしてみた。
    東京での仕事を諦め、故郷に帰ってきて遠距離バスの運転手をしている男・利一が主人公。
    東京にいる恋人・志穂、これも東京での仕事を辞め転がり込んできた息子・怜司、仕事と結婚の間で揺れる娘・彩菜、別れた妻・美雪。
    私とは構成も境遇も全く違う家族の話だけど、利一と息子・娘の関係やら、利一と女たちの間に流れる情感やら、老いた義父の頑固さやら、娘の彼氏の家族とのぎくしゃくした様や、バスの乗客たちの切り取られた人生の一幕やら、そこかしこに何かしら似たような境遇や近しい経験や同じような感情を催される。
    ずるずると時が経っていき、結構長くてしんどい話なのだけど、しんどくても引き込まれる。
    しかし、男も女もやせ我慢して生きるのは大変だ。利一も随分だと思うが、志穂も美雪も…。別れのシーンの重さに切なくなってくる。
    『お父さんの幸せは、僕らの幸せだ』と息子に諭され、張った片意地にようやく気付くラストは甘いと思うが、それで良い。

    妻は横におり、多少問題抱えていても息子たちもそれなりに暮らしている、自らの幸せを改めて思う。

  • 見捨てられない。例え手を差し伸べることで、他の誰かが傷つくとしても。優柔不断、八方美人だと言われても、不器用で不誠実だと蔑まれても、それが人間らしさだと思う。時は戻らない。だけど家族がいる。再出発に遅いということはない。
    あらすじ(背表紙より)
    故郷に戻り、深夜バスの運転手として働く利一。子供たちも独立し、恋人との将来を考え始めた矢先、バスに乗車してきたのは、16年前に別れた妻だった。会社を辞めた長男、結婚と仕事で揺れる長女。人生の岐路で、忘れていた傷と向き合う家族たち。バスの乗客の人間模様を絡めながら、家族の再出発を描いた感動長篇。

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著者プロフィール

1969年三重県生まれ。中央大学法学部卒。出版社勤務を経て、2008年「風待ちのひと」(「夏の終わりのトラヴィアータ」改題)でポプラ社小説大賞・特別賞を受賞してデビュー。第二作『四十九日のレシピ』が大きな話題となり、テレビドラマ・映画化。『ミッドナイト・バス』が第27回山本周五郎賞、第151回直木三十五賞候補になる。このほかの作品に『なでし子物語』『Bar追分』『今はちょっと、ついてないだけ』『カンパニー』など。あたたかな眼差しと、映像がありありと浮かぶような描写力で多くのファンを持つ。

「2020年 『文庫 彼方の友へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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