眠れない夜は体を脱いで (文芸書)

著者 :
  • 徳間書店
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感想 : 81
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198643454

感想・レビュー・書評

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  • 自分という生き物とうまく付き合えなくて、自分でいることに窮屈さを覚える。
    どうして自分はこんな風にしか生きられないのだろう。という自己嫌悪に陥った経験を持つ人は、持たない人よりも多く存在すると思う。
    別の誰かになることは叶わない。それならばこの自分という厄介な生き物と、どう付き合っていけばいいのか。
    そういった想いを抱えた登場人物たちが織り成す、5つの短編集。

    美しい容姿に生まれたことを窮屈に感じている男子高校生や、女性という性に少なからず違和感を抱えながら生きてきた中年女性など、自分のコンプレックスが何であるかをはっきり認識している主人公もいれば、真面目すぎて物事をまっすぐに決め付けてしまうことを周りに疎まれながらも、自覚は出来ていない老年の男性が主人公の物語もある。
    いずれにしてもどこか“上手く生きられない”人たちが主役であるところが、身近に感じてとても愛おしくなる。
    5つの物語の共通点はインターネット上にある1つの掲示板のスレッドで、若い女性が立てたらしい「手が好きなので、いま起きている人の手の画像をください!」という内容のもの。
    5人のうち4人の主人公はそのスレッドを偶然見つけ、ほんの一時軽く関わる。そして残りの1人は…という少しの謎も楽しめるつくり。
    みんなスレッドとの関わり方はほんの浅いものなのに、不思議とその存在が心に残る。偶然見つけてふと立ち寄って書き込みをするのだけど、その内容が主人公たちの悩みやコンプレックスにとても沿っているところが興味深い。
    普段悩んでいることや考えていることが無意識に現れる瞬間の小さな恐ろしさのようなものを感じた。

    私はとくに「小鳥の爪先」と「マリアを愛する」が好きだった。主人公たちのコンプレックスを理解出来るせいかもしれない。

    ネット上に居場所を求める人間が数多いる今の世の中。不健全だと責める人もいるかも知れないけれど、それによってどうにかバランスを保てている人も確かに存在する。
    そこに血の通ったような温かさを感じることも、きっと不可能ではないのだと思う。

  • ネットのとある掲示板を、たまたま見ていた人たちのオムニバス

    夜、ネット、顔の見えない交流…
    こういうテーマのお話は好き。

    本当に、ありふれたごくごく普通の人たちのお話。

    読み終わっても特になにも残らないのが正直なところ。

    白文鳥が出てきたのは嬉しかった。

  • 短編集だけど、実はある部分で話が繋がってる感じ。
    彩瀬まるさんは、なんとなく心に残る、忘れさせないものを感じさせるなあ。

  • やっぱり彩瀬さん、連作短編が巧いなぁと改めて思った。
    様々な世代の男女がそれぞれにコンプレックスを抱え、周囲に受け入れられない息苦しさを感じながら日々をやり過ごしている。
    彩瀬さん独特の湿度を持った文章が、柔らかく時に鋭く心の裏側を抉る。まさに「眠れない夜」は本当の自分が現れるとき。はみ出してしまった醜い感情を浄化させ、一歩を踏み出させる彩瀬さんのさり気ない優しさが今作でも心にしみる。この、そっと寄り添ってくれる距離感がいつも丁度よいのだ。その程よさに救われる。
    5つの短編に共通して登場する、ネットの掲示板。「手が大好きなので、いま起きている人の手の画像を下さい!」というスレッドが、それぞれの登場人物達の心をざわつかせる。肯定されたり、否定されたりのスレ主の少女は一体何者?とこちらまでざわざわする。
    最終話での見事な伏線の回収には驚いた。全体的に漂うしっとりした空気感は好みが分かれるかもしれないけど、私はいつも、彩瀬さんの作品を読むと少し呼吸するのが楽になる。読む前はタイトルにピンとこなかったのだが、読了後、「体を脱いで」の意味するところがよくわかる。深いです。

  • 手にまつわる短編
    真夜中のストーリーが読んでいていいな、と思いました。こんな風に誰かと出会いたい

  • ヤバい!めちゃめちゃよかった!!

    手が好きなので、あなたの手を見せてください!
    ――不思議なノリで盛り上がる、深夜の掲示板。
    そこに集うのは、日々積み重なっていく小さな違和感に、
    窮屈さを覚える人々。

    深夜の掲示板上で交差する、連作短篇集。

  • 眠れない夜もきっと誰かと繋がってるという安心感。
    一種の諦めが幸せをもたらしてくれる。
    自分自身と上手く付き合える自分になりたい。
    本当の自分を曝け出して受け入れられることは救いになる

  • 20170910読了

  • イケメン高校生、結婚しなかった中年女性、元カノの幻影に悩む女性、家族にイライラしているおじさん、ゲームの中で恋愛している独身男性。性別も年齢もバラバラの主人公たちが、「何か」でふんわりつながっているオムニバス。生きづらさを感じている主人公の内面に、スッとやさしく切り込んでいき、内面でなにかが変わるところが書かれる。ふだん、自分の内面などかえりみないが、彩瀬さんの本を読むと他人に隠している「本当の自分」というものについて思い出す。それが苦くもあり、気持ちよくもあるので、新作が出るとつい読んでしまいます。

  • 再読

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。16年『やがて海へと届く』で野間文芸新人賞候補、17年『くちなし』で直木賞候補、19年『森があふれる』で織田作之助賞候補に。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『川のほとりで羽化するぼくら』『新しい星』『かんむり』など。

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