服従

制作 : 佐藤優 
  • 河出書房新社
3.55
  • (36)
  • (109)
  • (75)
  • (21)
  • (11)
本棚登録 : 1073
感想 : 113
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309206783

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • シャルリー・エブドとパリのテロがあった年に日本で発刊され、「フランスでイスラム政党が政権を取る」という話なので、必然的にセンセーショナルな関心をひく(ガイブン界の関心には限界はあるが本屋で平積みになる程度には)期せずして、パリのテロの日に読み始めた。
    過激派によるテロなど現実とシンクロする部分が予言的であるものの、イスラムがどうというタブーに挑む的な内容ではない。むしろ、西欧の、キリスト教やフェミニズや自由と平等の建前に基づいた価値観の弱体化が強調されているようだ。主人公は大学教授、知識人はだらしなく長いものに巻かれ、できてしまった社会に服従し、そこに知的な抵抗はない。過去にはナチスも受け入れた社会の「服従」を批判し(しかしイスラム政権下では犯罪が減るなど善政でもある)、イスラモファビアが蔓延する移民文化の中で西欧VSイスラムという図式の限界を指摘する。ウェルベックにしか書けない本だったろう。
    しかし一番の興味は一夫多妻制が羨ましいからって…作家は確信犯だろうが、マッチョな露悪趣味には呆れるけれど。この本の中で、女性は後半台詞も与えられていない。男性の皆さん、一夫多妻ってそんなにいいもんですかねえ?

  • 2022年フランスにイスラーム政権が誕生。政治と距離を置いているインテリ大学教授の生活も変化し、ある決断を迫られる。宗教感が薄く移民も亡命も少ない日本では想像できないが、他民族国家では想像の域を超えた予言のようだ。刺激的な作家は健在。

  • レビューはブログにて
    http://ameblo.jp/w92-3/entry-12095941577.html

  • 2022年、フランスにイスラム政権が誕生。ファシストかイスラム主義か。キリスト教国には苦渋の決断だが、人々は適応していく。否、イスラム主義の寛容さに翻弄されているのかもしれない。ユイスマンス研究者である大学教授フランソワの視点で、逃げ出すユダヤ人、動き出すアラブ国家が淡々と描かれる。特に政治に興味を持たない彼が、いつの間にかイスラム主義の柔軟性に絡めとられる様に妙なリアリティがある。『0嬢の物語』を例に「服従」が肯定されるくだりには、つい納得してしまいそうだ。さて、本名を伏せられた翻訳者はあの人だろうか。

  • いろいろ考えさせられる。

  • もっと政治政治した話かと思っていたけれど、かなり主人公個人の考えの変化が描かれていた。

    社会がどうなるかの「シミュレーション」がなされているわけではないから、主人公の体験は主人公自身のものである。いくつかの評では、イスラム政権が成立したことを過大に扱っていたが、それは主人公にとって「きっかけ」もしくは「体の良い言い訳」だったのではないか。
    もともと、家庭を求めていたのは主人公の方だったのではないか (彼の両親も、母は孤独に死んだのに対して父は愛する女性の下で死んだ)。

    主人公は、そのような「俗世的」なものから逃れようと修道院に行くけれども、タバコ1本吸えない生活が耐えられず、結局パリに戻ってくる。イスラムとはいえどお酒も飲むし、逆にこちらが「世俗的」なのではないか。

    最後に老いた教授が結婚しているのを、彼の教授就任パーティでしったことは、「自分にもできる」と主人公に最後の一押しをした。

    環境でかくも簡単に思考の基盤が崩れてしまうのか?それともそんなものは元からなかったのか?

  • 2022年のフランスではイスラム教の国になってしまう。
    そんなとき生きる目的に意味をあんまり見いだせていない冴えない大学教授の男はどうするのかを描いた本。
    結局この男はイスラム教に何かを見たらしく、ちょうどイスラム教に改宗すれば大学教授に復職することができるので改宗するが。
    イスラム教の国に仮になった場合、かなり世界が変わってしまうし、価値観すら変わってしまう。
    服従することが幸福には必要だと説くルディジェ教授の言うことはごもっともな気がする。
    私たちも知らず知らず無意識のうちに服従しているからだ。

  • この本を読んでいるときにパリで多発テロが起きた。

  • 初ウェルベック。
    フランスの多文化生活の描写とユイスマンスなどフランス文学への内省、それに孤独な男の性の問題が加わって面白かった。ネチネチした描写力は楽しい。
    ただ、どちらかというと序盤の徐々に移り変わっていく事態の方が繊細で面白かった。後半からどうにもイスラーム政権が万能すぎて、そんな都合の良い展開になるのかなあと思う。ややご都合主義的。
    大学に金が行ったり治安が良くなったりするかは分からないし、何より女性の主体性は完全に小説の枠外に置かれてしまっている(途中で出てきた女性教授はどうなったか)。
    おそらく郊外のアフリカ系・中東系移民の具体的な憤り(「憎しみ」で描かれたような)は全然踏まえられていないのだろうし、EU拡大やイスラーム政権の飛び火についても全然具体的な過程が描かれていない。
    それらを、単なる作家の力不足や作品の欠陥と見るか、ある種の内面的で保守的な男性の思考にとって、イスラームは簡単に理想郷に映りうるのだという事態を批評したものだとみるか。

  • (2025/11/2読了)

全113件中 81 - 90件を表示

著者プロフィール

1958年フランス生まれ。ヨーロッパを代表する作家。98年『素粒子』がベストセラー。2010年『地図と領土』でゴンクール賞。15年には『服従』が世界中で大きな話題を呼んだ。他に『ある島の可能性』など。

「2023年 『滅ぼす 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ミシェル・ウエルベックの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×