NOVA 1---書き下ろし日本SFコレクション (河出文庫 お 20-1 書き下ろし日本SFコレクション)
- 河出書房新社 (2009年12月4日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (446ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309409948
感想・レビュー・書評
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気が向いたときだけ買っている『NOVA』である。
1970年代、「SF」といったら「SM」に間違えられて、という自虐ネタがよくあった。
では、SFとは何か、というのも昔から問われてきた難問である。村上春樹からしてSF的設定で小説を書き、それがベストセラーとなっている昨今、かつての筒井康隆会長の日本SF大会のテーマ「SFの浸透と拡散」はすでに現実のものとなった。ところが逆にコアなSF短編の発表舞台が乏しくなったと考えた大森望が、アメリカでは昔からあるが、日本にはさっぱりないオリジナルSFアンソロジーを編んだのが本書『NOVA1』。10まで続くらしい。
北野勇作「社員たち」、田中哲弥「隣人」は不条理ものと括れそうだが、これがコアなSFといっていいのか? 藤田雅矢「エンゼルフレンチ」は宇宙を舞台にしたラヴ・ストーリー、田中啓文「ガラスの地球を救え!」は馬鹿馬鹿しいパロディ、斎藤直子「ゴルコンダ」はほのぼのとしたアイディア・ストーリー、面白いけれどSFとしては傍流だなあ。
月は遠くて近いSFの古典的舞台。しかし、月面で起きた初の殺人事件を扱う本格推理小説というのはありそうでなかったかも。山本弘「七歩跳んだ男」。しっかり、「と学会」ネタが使われている。
SFはセンス・オヴ・ワンダーだといったのは誰だっけ? その意味では小林泰三には唸らされた。「忘却の侵略」は遭遇しても記憶に決して残らない宇宙生物(か何か)と戦う、量子論的SF。
すでに発表された傑作を集めたアンソロジーではなく、編集者の求めで書いてもらったアンソロジーだから、まあ、レベルはこんなものかと思っていたら、後半ぐっと密度が高まり、一般誌には載せがたいだろうという、しかも今日的なSFが並ぶ。小説をメタ・レベルにもっていくというアイディアは昔からあるけれど、次の3作はいずれも記述すること、語ることが世界を作るという、いわば言語中心主義的SFであり、しかも三様に違っている。
既知外生命体にテキスト改編という攻撃方法で挑む戦隊ものというとんでもないのが、牧野修「黎明コンビニ血祭り実話SP」。しかもテクストで相手を攻撃するというのはすなわちスプラッター描写。円城塔「Beaver Weaver」は数学的フレーヴァーを振りかけた、スペース・オペラの語り/騙り。飛浩隆「自生の夢」はGoogle時代のサイバーパンクの如きもの。語ることと読むことが問題となる。
最後に伊藤計劃の未完の長編『屍者の帝国』の残された冒頭部分で、このアンソロジーはいまだ語られていない世界に開かれる。もっともその後、円城塔によって語られてしまったが。
とりわけ語り口の個性と洗練、そしてある種の強さを感じさせたのは円城塔と伊藤計劃であった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
どれも特色のあるSFで期待してた数倍、楽しめた。
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オリジナル日本SFアンソロジー・シリーズ開幕。完全新作十篇(円城塔、北野勇作、小林泰三、斉藤直子、田中哲弥、田中啓文、飛浩隆、藤田雅矢、牧野修、山本弘)+伊藤計劃の『屍者の帝国』を特別収録。
(2009年)
— 目次 —
北野勇作『社員たち』
小林泰三『忘却の侵略』
藤田雅矢『エンゼルフレンチ』
山本弘『七歩挑んだ男』
田中啓文『ガラスの地球を救え!』
田中哲弥『隣人』
斉藤直子『ゴルコンダ』
牧野修『黎明コンビニ血祭り実話SP』
円城塔『Beaver Weaver』
飛浩隆『自生の夢』
伊藤計劃『屠者の帝国』 -
1~4巻まで借りてぱらぱら読んでみたけどひとつも頭に入ってこなかった。
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子供の頃から、いろんな本を読んできた。多くの日本人は、桃太郎や舌切り雀を読み、ロビンソンクルーソー、走れメロスを読み、それぞれ好きなジャンルに枝分かれして読書歴を築いていく。しかし、一体、どんな読書歴を重ねれば、こんな汚ならしい本が好きになれるのか? いや、高校時代にこんな本が好きだったことが一瞬でもあったことが許せない。
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飛さんがお目当て。アンソロはおもしろくても読むのに時間がかかってしまうね。
さて。良くも悪くも引っ掛かりがあったものの感想。
<忘却の侵略(小林泰三)>これはイライラ。嫌味か皮肉にしちゃ甘いし苛!!好きじゃない。
<エンゼルフレンチ(藤田雅矢)>ロマンチックか!!甘いよー。好きじゃない。お口直しに「みずは無間」を読みたくなった。
<七歩跳んだ男(山本弘)>密室殺人in月面!!密室って聞くとファンタジーきましたぞ!ってわくわくする。にやにやした。
<隣人(田中哲弥)>これはホラーでしょ!ぞわ。でもこういうの嫌いじゃないからつらい。
↓ここから後のメタ系三作のためにこの1冊を読んだといって過言じゃない。
<黎明コンビニ血祭り実話SP(牧野修)>これはすごい。読み終わって題名を見たら“実話”が入っているのがとっても気が利いてて良いわー!と盛り上がった。でも基本的にものすごく血祭りなのであまり読みたくない…。
<Beaver Weaver(円城塔)>大好き。「ここはそういう宇宙です」論理階層を齧るビーバー。「その前は、その任意のω秒前から来たよ」わかったと思ったらすり抜けていく、わからないと思ったら突然わかったりする、円城さんの文章に翻弄されてるのが好きなの。
<自生の夢(飛浩隆)>本当に好き!正直ラストの場面はまだ理解できてないけれど、理解できなくても美しくて読みたくなる文章と登場人物たち。良かった!
↑メタ系三作は、この順番でセットで並んでいたから相乗効果で楽しめたなー!!と思う。 -
読んでて先が読めない話が多く、楽しめた。
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SFにちょっと興味をもって読んでみたものの読みやすいものと読むのが苦痛なものとが半々でやっぱりSFは合わないかなーと思ってしまった。やっぱり自分にはSFというかすこしふしぎぐらいがあってるのかもしれない。
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結構面白かった。メタフィクションが多いのは時代の流れか。以下作品毎に記す。
『社員たち』
世紀末ものと寓話を掛け合わせて現代への風刺…てな感じでなんとでも言える。感激はしない。
『忘却の侵略』
全く新しいタイプの侵略者に対して主人公の武器は…というのは非常に楽しく、それが現実的であるか否かという発想はエンタメに対して失礼というものだろう。
『エンゼルフレンチ』
一歩間違えばサブカルに振り切りそうな物語を、ただミスドという一点で支えきったかのような作品。
『七歩跳んだ男』
まあ、西澤保彦の『七回死んだ男』のもじりだろうか。トリックに関してはなんかごちゃごちゃ言ってるぞという感じで、間に挟まるいつもの山本弘の小話もなんかごちゃごちゃ言ってるぞてな感じで。
『ガラスの地球を救え!』
アベベ・セイメイ、手塚治虫の亡霊など最初から最後まで脱力系SFだった。
『隣人』
もはやこれもメタフィクションと言っていいだろう。文章的モンタージュによって現実と狂気を切り刻み、混ぜ合わせる。
『ゴルコンダ』
どこか七〇年代SF少女マンガの遺伝子と香りを感じる一作。この短編集では珍しく平和な小説であった。
『黎明コンビニ血祭り実話SP』
この短編集の中で、一番期待していた作品であり、一番期待を裏切られた作品であり、一番好きな作品。これもメタフィクションであり、文章改変により現実へ作用して攻撃してくる敵を、同じく文章改変によって駆逐する。その戦闘描写は圧巻であり、スピード感、緊迫感が地の文章の改変により読者に直接的に伝わる。まるでこの戦闘を目の前で見ているような…いやまさにこの戦いは僕らの目の前で起きてるのだ。この本の中で。
『Beaver Weaver』
途中で読むのを断念。円城搭は僕には早すぎる。
『自生の夢』
僕がアホなせいかもしらんが、オチがよくわからんかった。
『屍者の帝国』
やはり面白く、序章だけで冒険の匂いが香りたち、この天才の死を惜しむことしかできない。 -
SFにそれほど強くはないのですが。
やっぱり、伊藤計劃さんの物語力は凄いと思った。本当にその死が惜しまれる。
『かめくん』が大好きなので、北野さんの作品が読めたことも嬉しかった。