民俗のふるさと (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
3.89
  • (9)
  • (9)
  • (6)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 186
感想 : 18
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309411385

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • この本はこれまで私が読んできた他の宮本常一の本たちと、ちょっと様子が違う。
    民俗学は民俗学なのだが、俯瞰的・通史的な観点が入って、歴史学的な著述となっているのだ。町や村の「なりたち」を問うということは、継起した事象の因果関係を追うことであり、それを体系化していくと民俗学とも人類学ともちょっと違う場所に行ってしまうようだ。
    私の好みとしては、今回の宮本常一はいまひとつだった。
    ちょっと面白かったのは、著者によると「村八分」というのは明治以降、つまりムラが解体しはじめたとき、共同体の維持のためにとられた方策だという指摘だ。
    つまり、それ以前はムラの掟にわざわざさからう輩はいなかったのに、明治維新という「近代化」によって個人が自立化し、共同体から離れ始めた。村八分はそれを罰し、共同体を守ろうとしたわけだ。
    宮本さんの言うとおり、江戸時代に村八分がなかったかどうかさだかではないが、そうだとすると、近代化=個人主義化=自由化の波にあらがい、共同体はかつての「自然なむすびつき」を失って、懲罰を処する「権力構造」を武装したということになる。それ以前には、共同体は構造的な権力を必要としなかった。
    ちょっとおおざっぱな見方になってしまったが、ついでに連想を広げていくと、子供たちの世界に「権力構造」がなく、素朴な結びつきしかないのであれば、「いじめ」もまた存在せずに済むのかもしれないと思った。

  • 日本の町、ムラの様々な成り立ちの歴史を追う。
    相変わらずおもしろい。
    もっと文庫化してくれないかな。

    以下引用メモ
    「貧乏人が20軒あれば店屋が成り立つが、金持ちが20軒あったのでは店屋がつぶれる」
    「江戸時代に入って船着き場として発達した港町の多くは風待ち潮待ちのためのもの」
    「西日本にはこの蛸足状の枝町があるものが少ない」
    「門付けしてあるくということによってすべて賤民とみられた」
    「ムラに住んで死者の弔いをしたり、死穢をはらうための祈祷をしつつ、農業や雑業にしたがっていた仲間」
    「僻地や離島に住む者を、より便利なとことに住んでいる者が蔑視する風習」
    「ムラが共同体として強く結ばれているときには仲間の一人をも没落させまいとする配慮が強く動いていた」
    「一軒の家が特別に大きく財産をのばしていく裏にはこうして多くの没落者のあるのが普通であったから、村人はそうした特別の家が産をなすことを喜ばず、阻止しようとした」

  • 2012/8/17購入
    2016/7/19読了

  • おじいさんから昔話を聞いているような感じ。善し悪しは棚上げしておいて、素直に聞いておこうと思うような文章。それぞれは興味深いし、やたらと現在と結びつけようとしていないところがよい。

  • 河出文庫から、宮本常一の著作が復刻されている。全集などでしか読めなかった作品が手軽に読めることはラッキーで、出版社に敬意を表したい。
    中身は、日本の町、村の成立を概要的に解説しており、非常に読みやすい。一通り読めば、流れをつかめるようになっている。
    書かれたのは今から数十年前になるが、読み終えたあと、そこから現代に至る道筋がぼんやり浮かび上がる。
    (2012.5)

  •  昭和39年の東京を出発点に、日本の都市とムラの成り立ち、失われていく伝統や地縁を記録した一冊。とくに明治期の都市の形成過程において〈村は古さを保つために、増えていく人を都会に送り出し、都会は村の若者たちと新しい知識を吸収して新しくなっていった〉という一節は印象的だった。日本の都市が伝統や固有の色を持ちづらいことが納得できる。
     もう一つ気になった箇所は、中世の河原者の記述について。〈落伍者だけで町はできるものではなく、それらの人を支配し統制し、ばらばらの民衆をまとめて大きな生産力にしていくことによって、はじめて町としての機能が発揮せられる〉という部分。人生から落伍すると一発KOの現代社会にも活かせる考え方かなと思った。

  • 日本の村、町の地理的、歴史的な成り立ちを著者の体験を踏まえて描いている。町の中の村、村と町の関係など、思わぬ視点から書かれている。1960年代の日本の村や町が描かれており、この50年での変化の大きさに驚かされなちる。著者の日本各地でのフィールドワークの経験に基づく発見、指摘が随所に有り、読み物としても楽しい。日本の伝統的な村が消えるぎりぎりの時点でこの本が書かれたのは本当に幸いだった。

全18件中 11 - 18件を表示

著者プロフィール

1907年(明治40)~1981年(昭和56)。山口県周防大島に生まれる。柳田國男の「旅と伝説」を手にしたことがきっかけとなり、柳田國男、澁澤敬三という生涯の師に出会い、民俗学者への道を歩み始める。1939年(昭和14)、澁澤の主宰するアチック・ミューゼアムの所員となり、五七歳で武蔵野美術大学に奉職するまで、在野の民俗学者として日本の津々浦々を歩き、離島や地方の農山漁村の生活を記録に残すと共に村々の生活向上に尽力した。1953年(昭和28)、全国離島振興協議会結成とともに無給事務局長に就任して以降、1981年1月に73歳で没するまで、全国の離島振興運動の指導者として運動の先頭に立ちつづけた。また、1966年(昭和41)に日本観光文化研究所を設立、後進の育成にも努めた。「忘れられた日本人」(岩波文庫)、「宮本常一著作集」(未來社)、「宮本常一離島論集」(みずのわ出版)他、多数の著作を遺した。宮本の遺品、著作・蔵書、写真類は遺族から山口県東和町(現周防大島町)に寄贈され、宮本常一記念館(周防大島文化交流センター)が所蔵している。

「2022年 『ふるさとを憶う 宮本常一ふるさと選書』 で使われていた紹介文から引用しています。」

宮本常一の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×