非対称情報の経済学: スティグリッツと新しい経済学 (光文社新書 49)

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  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334031497

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  • スティグリッツの提唱する、非対称情報下の経済学では、情報が非対称=完全でないことから、新古典派経済学が説明できない経済現象を説明できる。

    新古典派経済学では、様々な要因を省いて考えている(たとえば、情報の取得費用は0=完全情報)が、現実世界ではそうではないですよ、ということ。

    たとえば、中古車市場では、売り手は中古車が優良なのか故障車なのか知っているが、買い手は個々の車がどちらなのか一見ではわからない。

    わかりやすく書いてあるが、経済学やってない身としては、むずかしいところもあった。。

  • 伝統的経済学について述べた後、完全競争市場の前提条件に疑問を問いかける。

    1.商品の同質性・・・メーカーによって味の違うビール(つまり質が違う財)でも、「すべて同じビール」とみなしていいのか?

    2.情報の完全性・・・飲んだことのない地ビールの味を、消費者は購入前から知っているだろうか?また、販売しているもの(財)の定価が製造原価に対して適切なものかどうか、消費者は知ることができるのだろうか?

    3.所有権・・・売買の取引成立には、取引対象商品の所有権(所有者)が明確に定義され、その所有権が保護されなければならない。環境問題は、空気が誰のものか明確でなく、保護されないために生じているとも考えられる。(ex.空気は、生産活動を行う工場のものか?それとも近隣住民のものなのか?)


    新しい市場では、情報は不完全・非対称であるとし、市場がどのように機能するかを考える。

    *中古車市場のケース(中古車の購入者:質の良い中古自動車かどうかをプロ並みに見抜くことは困難。中古車の販売者:中古自動車の質、市場での適正価格etc...購入者が知らないたくさんの情報を保有している。⇒情報非対称)
    *保険市場のケース(保険料をやみくもに上げると、病気になりにくい(もしくは自動車事故を起こさない)ユーザーがいなくなり、病気がちな(もしくは事故をよく起こす)加入者の割合が増え、保険会社の保険料負担が逆に増えてしまう。)


    他に、「組織と制度」についてや「マクロ経済学」についても、情報非対称性を用いた議論が展開されている。

  • [ 内容 ]
    二〇〇一年「非対称情報下の市場経済」という経済分析の発展に対する貢献で、三人のアメリカの経済学者にノーベル経済学賞が与えられた。
    その一人のジョセフ・スティグリッツ・コロンビア大学教授(クリントン政権下の経済諮問委員会委員長、世界銀行の上級副総裁・チーフエコノミストを歴任)の直弟子・藪下史郎早稲田大学教授がこの「新しい経済学」をやさしく解説し、また日本経済失速の原因を明らかにする。

    [ 目次 ]
    第1章 伝統的経済学の限界
    第2章 新しい経済学の誕生
    第3章 非対称情報下の市場
    第4章 モラルハザードと経済活動
    第5章 組織と制度
    第6章 マクロ経済学と非対称情報
    第7章 九〇年代の日本経済と金融不安

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    [ 参考となる書評 ]

  • スティグリッツの、というより経済学説史のような文章構成でそれぞれの長所と短所に言及してあり、後半は各論。

    経済学はいつの時代も完全じゃなかったですね。

  • 情報共有という言葉がトレンドのようにあっちこっちで出てきたときに読んで、とてもためになった。

  • 簡単で物凄くわかりやすく書かれているのはいいんだけど、タイトルに「入門」とか一言入ってたらもっと良かったし星5だったと思う。
    伝統的な新古典派ミクロ経済学の限界を提示して、スティグリッツと非対称情報の経済学の略歴、そして非対称情報の経済学の解説って感じ。
    確かに今習ってるミクロ経済学の理論では現実を描き出すのに限界があるんだろなってのわかる。まぁ今は教科書で非対称情報下での動きもモデル化して載せてるけど。
    非対称情報の経済学ではモラルハザードと逆選択がメインなものなのかな、この二つをさまざまな例を挙げて説明。保険や中古車市場ってのは有名な例さね。
    また安定性や公平性と効率性を同時に達成するのは非常に困難で、どちらかを優先するならどちらかを犠牲にしなければならないって当たり前の話も深みを持って納得できた。
    日本の雇用制度にもそれなりのメリットがあること、そして制度が「ナッシュ均衡」であるとゆうのも新しい視点。
    そして非対称情報の経済学をマクロにも応用して、効率賃金理論や屈折需要曲線、金利と非対称情報についてなども勉強になったし。
    またこの本を通して初めてバランスシート不況とゆうものをおおまかに理解できた。
    日本に必要な改革は単なる規制の撤廃だけではなく、情報の非対称性をなんとかすることとインセンティブを高める租税制度などもっと考えなきゃならないことがあるんだとも実感。

  • 現在我々が直面する保険や中古車市場の問題に関しても売り手と買い手の持つ情報のズレが存在する。これらの問題は情報化社会・成熟社会で必然的に起こる。情報の非対称性により変化する需要供給曲線の説明も簡単にされている。

  • モラルハザードや逆選択について簡潔にまとめられている。
    これからの時代、人の行動を経済学的に分析することはより重要になってくるはず。
    半歩進んだ視点を大切にしなければ~

  •  市場では例えば売り手と買い手で持っている情報量に偏りが生じる為にモラルハザードや逆淘汰、プリンシパル・エージェント問題など様々な問題が出てくる。例えば、出資者(プリンシパル)は企業を経営者(エージェント)に任せる事によって企業を効率的に運営してもらう事を求めるが、出資者は経営者が何をしているのかを全て監視出来る訳ではない上に企業運営に関しては当然の事ながら経営者が圧倒的な情報量を持っている為、経営者は企業の利益の為でなく、自分の私服を肥やしてしまう事も出来てしまう。この様な取引の双方での情報量が偏った状態での経済学を「非対称情報の経済学」と呼び、ジョセフ・スティグリッツやジョージ・アカロフらが2001年にノーベル賞を受賞した論文テーマでもある。

     この本では従来の経済学(つまり、取引の双方が完全な情報を持っている状態)の説明をした上で、医療、保険、雇用などの例を用いながら「非対称情報の経済学」に関して説明をしている。更にひとつひとつの例に関してきちんと需給曲線を描きながら説明をしてくれる為、非常に分かりやすい内容になっている。

     ただ、同じ著者が関わっている「スティグリッツ早稲田大学講義録」の時も感じたのだがこの著者は「割と自己主張が強い」割に「スティグリッツ教授に心酔している」為に1冊の本として通すと構成が分かりづらくなる気がする。

     例えば、スティグリッツがどういう教育を受けてきたかに触れつつ大学のあり方について著者の見解を語ることはこの本の趣旨とは大幅に異なると思われるのに、割とページを割いて語ったりしている。

     なんとなくこの手の新書を読んでいて、こういうのが新書の限界なのかなと思ったりする。つまり、何かしらの考えを持っている人があるテーマに沿って持論を展開する際に便利な発表の場に新書がなってしまっている気がする。これが編集や出版社の意思なのか著者の意思なのか、両方なのか分からないけど、本筋の需給曲線を用いた事例の説明は凄く分かり易いので非常に残念。

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  • 情報の非対称性という概念を知りたい、と開発経済の先生に聞いたらお勧めしてくれた本。
    薄いし、読みやすい。

    「新しい経済学」とよばれるこの分野が、スティグリッツやアカロフといった開拓者の途上国での経験をもとに生まれた、という原点を知って、
    いままでの経済学で説明できない不可解なことがらは新しい経済理論をつくって説明しようとするのが経済学者なんだなぁ、とわかった。
    そして自分のとりたいアプローチは経済学ではないなということも直感できた。

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