鼻/外套/査察官 (光文社古典新訳文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334751166

作品紹介・あらすじ

「正気の沙汰とは思えない奇妙きてれつな出来事、グロテスクな人物、爆発する哄笑、瑣末な細部への執拗なこだわりと幻想的ヴィジョンのごったまぜ」(解説より)。増殖する妄想と虚言の世界を新しい感覚で訳出した、ゴーゴリの代表作「鼻」、「外套」、「査察官」の3篇。

感想・レビュー・書評

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  •  光文社古典新訳文庫のこちらには、浦雅春さんによって落語調で翻訳されたゴーゴリの三作品が収録されている。ゴーゴリはおろかロシア文学のロの字も知らない私だが、落語調、というのが気になって手に取った。
     『鼻』がいきなりすごく面白い。ある朝床屋が焼きたてのパンを食べようと半分に切ったら、そこになんとお得意さんのお役人の鼻が入っている(のっけから、不気味とか不穏とかを通り越し、あらゆるルールを無視した世界であることが提示され、むしろ安心して読んでいける)。おかみさんに捨ててこいとどなられて捨てに行く。当のお役人の方も、起きたら鼻がないことに気づいてたまげている。町に出ると、馬車から自分より身分の高い役人の制服を着た紳士が降りてくるのだが、それがなんと自分の鼻。勇気を出してへりくだってお声掛けするも「私はあなたのことなんて知りませんが」などと鼻であしらわれる始末(鼻だけに)。どうしよう…というような素っ頓狂な話が、江戸落語調で、語られる(「ってやんでい!」という台詞もあったから江戸で合ってると思う)。私自身は落語に明るいわけではないが、夫が落語好きで、家や車でよく落語の音源をかけている。いろいろ聞くが、圧倒的に古今亭志ん朝が多く、私もかなり耳馴染みになっている。だからこういった江戸落語調の文章を読むと完全に志ん朝さんの声で再生される。好きな落語家さんのおられる方はぜひこの作品を読んでいただきたい。一席聞けた気分になれてお得ですよ。この話の終わり方も、そこは落語とは違ってちょっと考えさせるような、いや考えても結局なんにもならないような、絶妙な語りで締められており、この文庫六十頁の短編一作を読んだだけで、爆風に晒されたような心地。
     『外套』は鼻に比べたらずっとずっとセンチメンタルで、相変わらず落語調ではあるが、ゲラゲラ笑うような噺ではなく、人情噺や怪談噺のような風情。哀切に満ちたバイオリンの伴奏をバックに白黒無声映画を見ているような感覚もあった。ゴーゴリの力なのか浦雅春さんの力なのかわからないが、なにかこちらの演出ごころを刺激してくるところがある。
     『査察官』、これは五幕の喜劇の戯曲。三作の中では最も分量も多いのだが、筋はシンプルな勘違いモノ。各人物の本音と建前のギャップや、長台詞で滔々と語られどんどん壮大になっていく虚言、そして最後の場面の演出効果(冒頭で作者から俳優諸氏への注意としてコメントが添えられている)が見どころ。機会があれば一度舞台で見てみたい!
     おかしな感想かもしれないが、三作全体を通してのむちゃくちゃさ、揺さぶられ感、饒舌ぶりといった感覚が、最近読んだものだと井上ひさしの『吉里吉里人』を読んだときと似ていた。
     浦雅春さんによる解説、あとがきも興味深く、といっても解説の内容をきちんと理解するには色々と基礎知識が足りていないとは感じたが、ウクライナ。ロシアだロシア文学だと思っていたが、ゴーゴリはウクライナ生まれの作家だった。

  • 昔、岩波文庫で読んだのですが、あの時は「ダメだ、こりゃ」と思ったのです。だが、今回、新訳で読むと「まったく違う」。不思議だなぁと思った。生き生きしている。テンポがいい。査察官は、とくに笑えた。古典文学で、ここまで笑えたのは初めてだと思う。というのも落語風に翻訳していて、リズムがよく少し軽い感じで話しが展開していくので、古典という違和感を感じることなく読めたのが良かったのかもしれない。おもしろいですよ。コメディであり風刺なのかな。でも、当時のロシアがよくわかんないから、何となく風刺しているという風?。

  • 江戸落語の会話体で訳されているので「ゴーゴリ feat. 浦雅春, 落語 MIX」といった趣。たしかに落語文体は似合っているのだけれど、笑うことをあらかじめ前提に置かれたようでちょっと不自由を感じた。岩波とか講談社の文庫から先に読めばよかったかな。

    人が役割としてのみ機能しているところ、笑えるんだけどいい気持ちにはなれないところがソローキンのご先祖っぽい。解説によると『ディカーニカ近郷夜話』に登場する人物はぴょんぴょん飛び跳ねるらしいし、ロシア文学の伝統の一派を開いた人なんだろうか。

    ゴーゴリ自身がかなり奇妙な人なのがよくわかる解説は読んでよかった。ほかの本も相当変なんだろうなと期待が高まった。

  • この新訳は落語調になっているときいたのでどうなんだろうと多少心配しながら読んだが、話となかなかあっていて読みやすく面白かった。
    別の訳で読んだことがある人はどうおもうかはわからないけど…私はこれがはじめてだったので違和感は感じなかった。

    『鼻』は、ある日鼻が顔からなくなっていてその鼻が服を着てそのへんを歩き回っており…という話でシュール。
    これは落語調じゃなければ余計意味わからん…って思いそうな話ではあった。

    『外套』は、貧しい役人が頑張って新しい外套を手に入れるものの…という話。
    これは語り口のおかげで笑える場面も多かったが、基本的にはロシアの下層民の憐れさ、それでも生きているし尊重すべきであるというのがえがかれているのかなとおもった。
    そういうところがドストエフスキーにも影響を与えたのかな、と。
    一番面白かった。

    『査察官』は、ドタバタ勘違いコメディな戯曲。
    査察官でもなんでもない男を査察官だと勘違いした村の人々は…という話。
    想像してたのはもっと暗い話だったのでこんなギャグみたいな話だったのかとびっくり。
    いままでは検察官と訳されてたらしいけど査察官のほうがあってるらしい?
    たしかに読んでみるとこれは検察官ではないよな、とおもった。

  • 以前別の訳で読んで理解できなかったゴーゴリですが、こちらの訳では思い切って落語風になっているために、無闇に深い意味を求めずただの滑稽話として読めて良かったと思います。正直、私には登場人物たちがかわいそうでたまらず全く笑えませんでしたが、馬鹿馬鹿しいシュールなギャグだと言われれば、まあそうかもしれないと腑には落ちました。そういう物語に面白みがあるとして支持されているのは、理解できます。ただ個人的には作者の真剣な心の中身が開示される物語の方が好きなのと、ギャグならギャグで、人が不幸になるのを見て笑うタイプのギャグはどうも趣味じゃないので、評価は前回と同じ星2つとさせていただきました。

  • 「鼻」「外套」と戯曲「査察官」の三編入り。
    ゴーゴリ初めて読んだんだけど、声に出して笑ってしまう。ザ・ロシアのユーモアという感じ。
    「鼻」は飛びきり明るいダリといった感じの映像が思い浮かぶ。ロシアの文学って極端だよなぁ。

  • おもろい!
    落語調の文体で翻訳した訳者に座布団10枚!!

  • 恥ずかしながら名前は知っているがいつの時代の人も分かっていない。ただポップで、ドフトエフスキーが「我々は皆ゴーゴリの『外套』から生まれ出でたのだ」が気になったのと、『鼻』がどんな話なのか異常に気になったので、がちがちの訳の岩波文庫でなく、なんとなくライトな訳本のイメージのある光文社版を購入して読んでみた。
    一言で言えばなんとも不思議な世界。決してすごくこった話でもないし、派手でもない。それなのになんだろうこの読後感。『鼻』にいたっては何ともいえず笑えてくる。しかも結末としてなんともすっきりしない。パンの中から出てきた鼻が服着て歩いて違和感がない。くすくす笑えるのになんだかぞっとするそんな作品だった。
    『外套』に関しても、主人公の何とも言えない感情の浮き沈み、最後は幽霊と化すあたりまで含めてなんだかすごい。深くは理解できないが、圧倒的な存在感を感じる。
    『査察官』はどたばた勘違い劇で、特別上手なトリックがある訳でもないのにおもしろい。単純で面白いのか。きっと本人たちの真剣さが笑えるのだ。そしてこれは最後の場面がといかく秀逸。なんとも言えない間と静かさに笑いがこみあげてくる。言い方が的確かどうか分からないが、ちびまる子ちゃんの「がーん」という場面を想像してします。
    肩をはらず楽しい読書ができた。次はプーチキンを読んで、いよいよドフトエフスキーかトルストイだな。

  • 『鼻』がエキセントリックでおもしろかった。
    ナンセンスでわけがわからないんだけど、そこが好き。
    普段は強引なストーリー展開の小説はあまり好きではないけど、これは「なんでそうなるの?」とか、「これはどういう意味?」とか、細かいことは考えずに読んだせいか素直に楽しめた。

    『査察官』は本当は博打好きで怠け者の下級役人が、都会から来た査察官になりすまして田舎の権力者たちをだます話。
    嘘がだんだんとエスカレートし、しまいには大風呂敷を広げてしまうという展開、また単純な人々が疑いもなくそれを信じ込んでしまうところは、落語にそっくり。
    日本人にも親しみやすい話だな、と思った。

    話の長さ的にもとっつきやすく感じられたので、「ロシア文学」と聞くと、「長い・暗い・難しい」というイメージのある人にもだまされたと思って読んでみてもらいたい作品。

  • ロシアが産んだ新感覚な笑いのエンターテイナー作家、ニコライ・ワシーリエヴィッチ・ゴーゴリの代表作3本を落語調で翻訳。

    やっぱり「鼻」は何度読んでも訳が分からない。でも、クセになるおもしろさ。巻末解説の「4次元的創造力」という言葉に納得。「鼻」のあまりのシュールさに慣れてしまうと、続く「外套」、「査察官」の世界観が当たり前すぎて、物足りなくなる。

    よって、ゴーゴリ初体験の方は「鼻」を後回しにして読むべし。

  • 岩波文庫『外套・鼻』を積読状態にしていた折に、
    古典新訳文庫で新訳が出てたので買ってみたら、
    ゴーゴリが落語調に面白く訳されていたので、
    すぐに読み終わってしまった。
    落語の語り口がゴーゴリと相性がよく、
    無理のない自然な訳文になっていて、非常に読みやすかった。
    こういう面白い翻訳の試みは積極的にやってほしいと思うけど、
    同じく古典新訳文庫の『歎異抄』の関西弁の方は失敗だと思います。

  • 訳者の訳がおもしろい。
    ロシアの文化、地理、歴史について浅学のため
    理解に苦しむ箇所も多々あったけど、
    こう、風刺的でかつユーモアがあり短編なので結構好きなタイプでした。

  • 課題で読みました。まずは落語調の訳にびっくりしたけど、いやな感じではなかった。どれも素直なコメディではなく、見栄や惨めさが巧妙に組み合わさった滑稽なお話。

  • ジュンパ・ラヒリの『その名にちなんで』を読んで
    ゴーゴリが気になったので読んでみる。
    新訳だということで入り込めるかどうか心配ではあったが、おもしろい。

    鼻は子どもに読み聞かせて一緒に笑いたいし、
    外套は日本人に馴染み深い恨みつらみで化けて出る。
    査察官のどたばたはなんとも滑稽。

    どれもどこかで出会ったことがあるようで
    それでいて奇抜な話。
    訳者の遊び心に引きずられながら、
    ずんずん読める。
    ロシア文学を敬遠している人はゴーゴリから入ってみるのもいいかもしれない。
    ロシア文学をますます好きになるか、
    あるいはその反対か。
    道は2つに1つ。

  • シュールですよ。パンを割ったらだれかの鼻が中に入ってて、「お客さんのだ!」と真っ青になる床屋。気づくと自分の顔の中心に何もないことに気づく公務員。外套をきこんでイベントに出席する鼻(え?)。こういう話をまさかロシア人が書くとは…

  • http://blog.livedoor.jp/axis_anri/archives/1460388.html
    このお話が漫画だったら、それも好美のぼる先生の作品だったらなぁ。ああ!

    頭の中で漫画版『外套』を絵柄から主人公(むろん少女という設定で)の髪型から外套のデザインまで事細かに想像して、心底読みたくて、非常に貧乏な同人誌作成が趣味のひとにギャラを払ってでも描いてほしいくらいだ。

  • 自分の鼻がある日紳士になって街を歩くなんて奇想天外。落語調でドタバタ劇の印象。どういう風に味わったらいいのかよく分からなかった。
    査察官もすごく面白いと聞いていたので期待して読んだのだけど…深い面白さはなくて、舞台でキャラクターや風刺を笑って楽しむ話なんだろうなと感じた。外套は未読。

  • 鼻→ある朝、起きたら鼻がなかった…から始まる奇妙なお話。何かの皮肉なのかもしれないが、それが何かわからないので、ただ単に奇妙なお話。

  • ところどころでちょっとクスリとくる感じ。鼻ッなどとあるので何だかラノベみたいだなぁと思った。あえて落語調にしているらしい。鼻ははとにかく不条理でカフカの変身を何となく思い出した。外套は主人公が愛おしくなる。下級官吏は今で言う何に相当するのかいまいちつかめず。ロシア文学はあまり経験がないが、名前が長いところにはロシアっぽさを感じた。

    一般にあまり馴染みがないのもあってか解説が充実。『死せる魂』もいつか読んでみたい。

    査察官だけ未読

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