プークが丘の妖精パック (光文社古典新訳文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (390ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334751210

感想・レビュー・書評

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  • イギリス海岸沿いに住む幼いダンとユーナの兄妹が近くの牧草地の丘で『真夏の夜の夢』のお芝居をしていると、妖精パックが現れる。
    パックは、プークが丘の近くにある海岸都市ペベンシーに関わりのある歴史の人物を呼び出して、彼らの物語を語らせる。ペベンシーは小さい都市ながらもイギリスの歴史的に重要な役割を果たしてきた土地だった。ダンとユーナは、彼らの話を聞きながらイギリスの歴史をしるだった。
    キプリングが、イギリス歴史を児童文学として書いた本。二冊セットらしいが、こっちしか買わなかった…。
    イギリスの歴史語りではあるが、若者たちの友情や冒険、歴史にこっそり顔を出す妖精たちの存在など、物語としてとても楽しめる。


    かつてイングランドに来た民族たちは、それぞれ自分の神を連れてきた。だが土地が合わずに去っていった神々もいる。そんななかでちゃんと働いた神様もいる。鍛冶屋の神ウィーランドだ。人々に混じりすっかり普通の鍛冶屋になったが、仕事を感謝されることにより神々の国に戻ることができる。最後に設えた一本の剣は、見習い僧でサクソン人のヒューの手に渡った。
    やがてノルマン人がイングランド征服にやってきて、サクソン人との戦いとなる。そんななかでノルマン人リチャード卿と、サクソン人のヒューの間には友情が結ばれる。ヒューの家の所領はリチャード卿のものとなった。だがヒューはリチャード卿とともに土地を管理した。二人の働きを認めたペペンシー城主アクイラは、正式に二人に土地の所有を認める。
    やがて年月が経ち、引退を考えるリチャード卿とヒューは、北海への旅に出る。海賊ウィッタの人質になったり、木の上に住み唸り声を上げる悪魔(ゴリラのことだろう)と戦ったりしながら、海賊ウィッタとも友情を育み、大量の金を手に入れて戻る。
    金はペベンシー城のアクイラのもとに預けられ、二人も城に残る。そしてアクイラに仕掛けられた反逆者という罠を既に年寄りとなった彼らは跳ね除けるのだった。
     /『ウィーランドの剣』『荘園の二人の若者』『騎士たちの愉快な冒険』『ペベンシーの年寄りたち』

    ローマ皇帝がイングランドから撤退すると、残されたブリトン人たちは自分たちだけで、ピクト人たちから土地を守らなければいけなくなった。
    グラティアヌス帝の時代に、イングランド生まれのローマ人パルネシウスは(ローマ生まれでイングランドに派遣された兵と、イングランド生まれのローマ人の間には階級の差があった)、軍隊に入り、百人隊長に任ぜられる。
    将軍マクシムスの意に逆らったことで出世の道は閉ざされたが、変わり者のパルティナックスと気が合い、ピクト人アロを仲介としてピクト人対策を練る。
     /『第三十軍団の百人隊長』『大いなる防壁にて』『翼のかぶと』

    聖バルナバ教会再建には多くの人の力が関わった。騎士たち、海賊たち、そして絵や図面ばかり書いていたので図面ひきのハルと呼ばれた若者の物語。
     /『図面ひきのハル』

    非道な宗教改革の時代、フェアリーたちはイングランドから脱出を試みた。人間の力を借りる代わりに、人間にある約束をしたのだ。
     /『ディムチャーチの大脱出』

    ユダヤ人カドミエルの物語。ペベンシー城に紛れ込んだ彼は、かつてリチャード卿とヒューが隠した金を見つける。だがこれをイングランド王が見つければより戦争が深まってしまう。
     /『宝と法』

  •  イギリス文学の研究者にとっては何度も言及される作品であるけれども、そうではないので、やっぱり分からなかった。この作品をおもしれー!と読み上げられる教養が欲しい。イギリスの歴史の「場」で過去の英雄たちと子供たちがパックと通して対話する、エリート親子で読む教養小説といったところだろうか。
     白人優先、帝国主義、植民地主義的な感じでキプリングは批判されているが、それについても解説で述べられていて、インドを身体で感じていた、というフォローがインド人の学者の言葉を引用してなされている。

  • すごくワクワクさせられる、
    童心に帰ることができる本でした。
    もちろん読めたことに感謝であります。

    内容としては、
    古い歴史の物語を
    プークや歴史に出てきた人物その人が
    話してくれるものなのです。

    私は世界史こそ苦手ですが、
    そんな歴史があったことや
    いかにして駆け引きをしていったのか
    垣間見れて面白かったです。

    それと、ダンとユーナの兄弟が
    とてもかわいいのです。
    純粋な子供の心をもっていて
    でも、賢くて。
    (ダンはラテン語で大目玉を食らいますが)

    きっとワクワクさせられると思いますよ。

  • 「真夏の夜の夢」の妖精パックが主役。いいなぁ、私も召喚したい。

    イギリス史の勉強にもなります。

  • 「ウィーランドが剣を与え、その剣が宝をもたらし、宝が法律を生んだ。オークが伸びるように自然なことだ」
    日本と同じ島国であるが、何度も異民族の侵略と土着化が繰り返されたイギリスの歴史を、<古き者>パックが幼い兄妹ダンとユーナに語るという枠立てで、その枠の中にそれぞれの時代に生きた人々が生き生きと語るエピソードが納められている。
    イギリスの歴史と伝承を知っていた方がずっと楽しめるのは確かだけれど、たとえトールキンやエリナー・ファージョン、スーザン・クーパー、ローズマリー・サトクリフ、フィリパ・ピアス、ジョーン・エイケンなどの作品に当たり前のように出てくる丘の住人やウェイランド・スミス、黒の乗り手などが作者個人の創作ではなく周知の存在だと知らなかったとしても、ノルマン人とサクソン人の騎士の友情や、裏切り者の神父と領主の顛末、密輸をするサセックスの村人達のしたたかさを味わうことはできる。

    それにしても家庭教師からラテン語を学び、詩を暗誦し、夏至の前の晩に「お茶をすませてから、ゆで卵とバスオリヴァーのビスケットと封筒に入れた塩を持って」妖精の輪でシェイクスピア劇を演じる子ども達には羨望を抱くよ。

    ※バスオリヴァーのビスケット;バースの医師、オリヴァー氏が(バース名物のバースバンは甘くて脂肪分が多く、リウマチ患者の健康によくないからと)考案した脂肪分の少ないビスケット、らしい。
    http://www.cornwall-calling.co.uk/famous-cornish-people/oliver.htm

  • 1906年に出版され、100年後に初めて邦訳が出た。たしかにイギリスの古い歴史は日本人にはとっつきにくく、子ども向けの本だし、おとな向けに翻訳するという考えはなかっただろうと納得する。
    舞台となっているペベンシーは歴史的に重要な拠点として英国の歴史に登場するという。タイムトラベルものといえるだろうか?子どもたちが時代を超えるのではなく、語り手たち歴史上の人物たちが時空を超えてやってくるのが、ちょっと変わってるかもしれない。

  • イギリス史や出てくる歴史上の人物に、自分なりのイメージを持っている人が読めば、かなり楽しめると思う。
    子供が読む場合、史実や背景を説明できるレベルの大人がいるのでは?

  • 41歳の史上最年少でイギリス初のノーベル賞を受賞した作家。妖精パックがダンとユーナの兄妹の前に連れてくるのはイギリスの歴史上の人物たち。その歴史上の人物たちが直接兄妹にイギリスの歴史を語り聞かせる。これを読んだらイギリスの歴史が少し理解できるようになるかな。本国では児童書として愛されている模様。2012/362

  • イギリスの児童文学。ふたりの兄妹が、妖精パックが呼び出したイングランドの歴史上の人物に物語を語ってもらうという体裁。
    イギリス史お勉強強化中&妖精が気になる近頃なので、読んでみました。
    キプリングはじめて読みましたがけっこうすてき。読みやすいしワクワクします。代表作もそのうち読んでみたいなと思う次第。

  • 同じ光文社古典新訳文庫の「猫とともに去りぬ」が面白かったので、英国ファンタジーのこちらも入手☆
    本邦初訳!らしいです。
    夏至の前夜、ダンとユーナ兄妹は〈野外劇場〉で『夏の夜の夢』を演じた後、妖精の輪の近くで休憩していた―すると何処からか口笛が聞こえ…。
    現れたのは、とんがり耳に青い目、茶色い毛の陽気な生き物…妖精パック!
    仲良くなり、会う度にパックとその時代に生きた人々が語るイングランドの歴史のお話を聞くが…そのお話が10編入ってます
    最初の“ウィーランドの剣”と“図面ひきのハル”のお話が私のお気に、です5・6・7話はちょっと中だるみ、って感じで私には読み辛かったデス★
    風景描写と各話に書かれている『歌』は凄く英国らしいな~、と
    この著者、キプリングって『ジャングル・ブック』を書いた人だったというのも驚きでした有名じゃないの!
    あと、『このプークが丘の妖精パック』には続編『ごほうびと妖精』があるそうですが…出るのかな?のんびりしたい時に読んでみたいな

    20070408

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著者プロフィール

J.R.Kipling

「2018年 『女声合唱とピアノのための ドゥーニィのヴァイオリン弾き』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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