- Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334751272
感想・レビュー・書評
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イタリアが生んだ奇才の作家ブッツァーティが書く不可思議なお話を集めた短編集。
テーマは多岐に渡るが、全てにキリスト教的世界観が通底にある感じがして日本のホラーや怪異とは全く違うのが面白い。
特に聖人が出てくる話が多く、さすがカトリックの中心であるお国柄だと思った。
どの話も面白いが
・アインシュタインとの約束
・七階
・神を見た犬
・呪われた背広
・秘密兵器
・天国からの転落
・驕らぬ心
はとても面白く、教訓めいたものがあった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ブラックユーモアが好きなのでこれらの作品は
本当に面白かったです。
実際にはありえないお話なはず、なのです。
だけれどもきちんと人間の心理を捉えているせいで
現実にありそうな気がして、恐ろしいもので。
表題作はまさに人というものの弱さを
露呈させている作品です。
人は「枷」がなくなるように望みますが
その「枷」がいざ取れてしまうと
どのように行動してよいかが分からないのです。
結局人にはそれ相応の
「秩序」が必要なんだと痛感させられます。
それと不条理な作品も多いです。
「風船」なんかはそれの典例。
幸せが望むように続かないのと同じ。 -
新聞記事のような癖のない文章でつづられた幻想的な短編小説集。傑作選ということで、どれもこれも印象深い作品ばかり。スイスイ読めて鮮明なイメージが残る不思議な作風だ。表題作の「神を見た犬」では、椅子の下に置いたパンの描写だけで色々思わせて涙が出た。これ含めて、昔ながらのキリスト教徒の精神世界を感じさせる作品が多くて興味深かった。
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上手くいかないから不幸なのではない、貧しいから不幸なのではない、それだから不幸なのだと思ってしまう考え方が不幸なのだ。ブッツァーティの小説は読者に主人公の人生の最後に立ち会わせそれを問いかける物語だ。一元的な物の見方を否定し物事に違う観点を与える。10代の頃彼の長編「タタール人の砂漠」で頭をガツンとやられた。それと同じ感覚がこの短編集にも詰まっている。謎の怪物コロンブレに殺されまいと逃げ続けた男の話、護送大隊をたった一人で襲撃しようとする年老いた山賊の話。ラストですべての不幸が幸福に代わり、幸福が不幸に入れ替わる。この世界のことはすべて脳内で起きている。他人の視点は何の意味もない。自分の人生が幸福か不幸かは誰が決めるのか。自分の脳が決めるのだ。ザックスナイダー監督が私のお気に入り映画「エンジェルウォーズ」で伝えたかったのもそれだと思うがリアルな映像ゆえに成功したとは言い難い。でもテーマは同じ。自由への鍵はそこにある。
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イタリアでは有名な童話作家らしいが日本に来ているものが少ないのが残念。モヤリと残る終わり方、それぞれの短編が実に皮肉っぽく面白かった。
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どちらかと言うと避けてきた「幻想文学」と言うジャンル。歯医者の待ち時間の寄った本屋で手に取って、「古典」の響きに惹かれて手に取ったんだけど、ジャンルとしてはほぼ初体験に近かったが、食わず嫌いはあかんで、と思い知った一作。特に「七階」の空恐ろしさは秀逸。一度でも内科に入院した事のある人間には…。表題の「神を見た犬」では、やはりキリスト教と言う宗教を理解した頭で読みたかった、と思う。しかし、ブッツアーティって覚えにくいし読みにくい(笑)
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手軽に読めるブッツァーティ。お薦めの一冊ですね。
「キリスト教と言う宗教を」
逆に、この話を足掛かりにキリスト教を考えてみるとか、、、手軽に読めるブッツァーティ。お薦めの一冊ですね。
「キリスト教と言う宗教を」
逆に、この話を足掛かりにキリスト教を考えてみるとか、、、2013/01/28
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2009/10/10 購入
2009/10/16 読了 ★★★★
2022/12/31 読了 ★★★★★ -
「『バカなことを!』アインシュタインは苛立った。『私の発見ほど、罪のないものはない。ちょっとした法則を見つけただけじゃないか。それも抽象的で、人畜無害で、私利私欲とは無関係なものだろう』 『あきれた男だ』イブリースは声を張りあげ、またもアインシュタインのみぞおちを指で突いた。・・・『いいか、お前が知らないだけなんだ!』『私が、何を知らないと?』だが、すでにイブリースの姿はなかった。」
まるで星新一のショートショートを読み進めるようなそんな思いが一篇毎に深まってくる。身構えることもできぬまま放り出される感覚に痺れながら、一つ、また一つとむさぼるように読み切っていく。
長編「石の幻影」では、余りにも白黒のはっきりした結末が鼻につくような気になったが、この「神を見た犬」を含む短篇集ではがらりと異なる印象を得る。個々の物語に明確な終わりは描き切られていない。それでも読む者はそれが何処に行き着くのか、行き着いてしまうのかを悟らずにはいられない。
実在する人物、場所などの符牒によってその指し示されるものが明確に読み取れるものもある。また別の物語では人間の根本的に持つ醜悪な性質を少々シニカルに指し示されて終わるものもある。幻想的、という表現は決して正しくブッツァーティを示しているとは思えないのであるけれど、その謎めいた舞台の設定は巧みである。その罠の魅力につられてつい物語の内側に絡め取られてしまう。するといつの間にか保持していた慣性の行き先が見当たらなくなるような断絶。現実と自分を繋いでいたはずロープが、プツッと切れる。
そしてしばし呆気に取られる。急いで自分が何処へ流されようとしているのか見極めようと、手掛かりを探ってもがく。その半ば溺れたような感覚を味わうことができること、それがブッツァーティを読む楽しみと言えるかも知れない。
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『七階』が強く印象に残った。
抗いがたくじわじわと絶望の淵に追い込まれていく、その焦燥感に息の詰まる思いがした。
いや〜な後味が残る読後感であまり居心地がよくはない短編集だが決してそれが嫌ではない。むしろ癖になりそう。