ドリフトグラス (未来の文学)

  • 国書刊行会
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (584ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336053244

作品紹介・あらすじ

アメリカの神話的SF作家サミュエル・R・ディレイニーの
全中短篇を網羅する決定版コレクションがついに登場!
名作「時は準宝石の螺旋のように」「スター・ピット」の他、
代表作にして最高傑作「エンパイア・スター」を新訳で収録。
華麗なる文体で彫刻された詩と思索と愛と暴力の結晶体、
全17篇(新訳4篇・本邦初訳2篇)。

コメット・ジョーはメッセージを届けるためオカリナと仔悪魔猫と共にエンパイア・スターへと旅立つ……痛快なスペース・オペラにして実験的ビルドゥングスロマン、物語の面白さを凝縮した超絶技巧が炸裂するディレイニーの最高傑作「エンパイア・スター」が鮮烈な新訳版でついに登場! さらに、海に八つ裂きにされた男たちを哀切に描く表題作の他、ヒューゴー賞ネビュラ賞に輝くサイバー・ハードボイルド「時は準宝石の螺旋のように」、よきライバルであるロジャー・ゼラズニイのスタイルを真似た異色作「われら異形の軍団は、地を這う線にまたがって進む」、洗練を極めたテクニカラー・ファンタジー「プリズマティカ」等、華麗なる文体と変幻自在のイメージ、哲学的思索と愛と暴力とエモーションに満ちた天才ディレイニーの決定版短篇コレクション、全17篇収録。

感想・レビュー・書評

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  • 初ディレーニー。うーん、むずかしい。描写されているシーンはわかるのだけれど、それが何を意味しているのか読み取るのかむずかしい。
    マイノリティーと犯罪者、半端者、不愚者などごちゃ混ぜに描かれていて荒んだ底辺の世界が描かれていることが多く共感なんてものは軽く吹き飛ばされます。バラードのような抽象絵画的なものでもなくゼラズニイのようにスタイルでキメるでもなく謎で若干不快。著者自身が黒人であり同性愛者。作品の発表時代は60年代から70年代でまだまだ露骨な差別もあったことと思いますが、それを汲み取ったとしてもディレニーのハードルは高いぞ。一度読んだだけではよくわからないけど、もう一度読みたくなるか?というとそうでもない作品が多いのがこのハードルの実態か。しかし、著者によるあとがきが素晴らしい。このような創作過程を経て作品は出来上がってくるのだなと、また自分が文章と向き合う時に必要な姿勢なのだなと痛感。だからといって面白いものが出来上がるかは別の話というのが世の中の恐ろしいところ。

  • 4/100
    『アメリカの神話的SF作家サミュエル・R・ディレイニーの
    全中短篇を網羅する決定版コレクションがついに登場!
    名作「時は準宝石の螺旋のように」「スター・ピット」の他、
    代表作にして最高傑作「エンパイア・スター」を新訳で収録。
    華麗なる文体で彫刻された詩と思索と愛と暴力の結晶体、
    全17篇(新訳5篇・本邦初訳2篇)。

    コメット・ジョーはメッセージを届けるためオカリナと仔悪魔猫と共にエンパイア・スターへと旅立つ……痛快なスペース・オペラにして実験的ビルドゥングスロマン、物語の面白さを凝縮した超絶技巧が炸裂するディレイニーの最高傑作「エンパイア・スター」が鮮烈な新訳版でついに登場! さらに、海に八つ裂きにされた男たちを哀切に描く表題作の他、ヒューゴー賞ネビュラ賞に輝くサイバー・ハードボイルド「時は準宝石の螺旋のように」、よきライバルであるロジャー・ゼラズニイのスタイルを真似た異色作「われら異形の軍団は、地を這う線にまたがって進む」、洗練を極めたテクニカラー・ファンタジー「プリズマティカ」等、華麗なる文体と変幻自在のイメージ、哲学的思索と愛と暴力とエモーションに満ちた天才ディレイニーの決定版短篇コレクション、全17篇収録。』(「国書刊行会」サイトより)


    目次
    スター・ピット  浅倉久志訳 
    コロナ  酒井昭伸訳
    然り、そしてゴモラ……  小野田和子訳(新訳)
    ドリフトグラス  小野田和子訳(新訳)
    われら異形の軍団は、地を這う線にまたがって進む  深町眞理子訳  
    真鍮の檻  伊藤典夫訳
    ホログラム  浅倉久志訳
    時は準宝石の螺旋のように  伊藤典夫訳  
    オメガヘルム  浅倉久志訳
    ブロブ  小野田和子訳(本邦初訳)
    タペストリー  小野田和子訳(本邦初訳)
    プリズマティカ  浅倉久志訳
    廃墟  浅倉久志訳
    漁師の網にかかった犬  小野田和子訳(新訳)
    夜とジョー・ディコスタンツォの愛することども  小野田和子訳(新訳)  
    あとがき――疑いと夢について  浅倉久志訳
    エンパイア・スター  酒井昭伸訳(新訳)


    著者:サミュエル・R・ディレイニー (Samuel R. Delany)
    訳者:浅倉久志, 伊藤典夫、小野田和子, 酒井昭伸, 深町眞理子
    出版社 ‏: ‎国書刊行会
    単行本 ‏: ‎584ページ

  • 2021/11/7購入

  • 正直なところ、どの作品も頭の中にすっと入ってこない。難解なわけではないのだが、何か奥底にしまわれた何かを隠されたまま物語が進行しているような感じがする。何回か読めば理解できるようになるのかなあ。ちょっと無理かもしれない。じぶん好みの作品を挙げたいところだが、どの作品も自分の理解の範囲を越えているため、何も挙げられない。

  • これはですね、ぼく高校生の頃一番好きだったSF作家です。なかなかスゴイんですよ。アメリカのSFの世界では最強なのが、やっぱり白人の男性なんですね。ところがディレイニーっていう人は黒人でしかもゲイなんです。なのでいくつかの点ですごく差別を受けていたんですけど、天才的な筆力があるんですね。

    これは、彼の中短篇を網羅した本なんですが、ともかくかっこいいんですよね。しびれました。「こういうSF書きたいな」と高校生の頃夢中になって読んだものが、今こうして、こんなに分厚い本としてまとまっています。

    (石田衣良公式メルマガ「ブックトーク『小説家と過ごす日曜日』」21号より抜粋)

  • 難解は難解なりに、自分の想像力の乏しさを痛感しながら、引きずられて読んでしまった。時間はかかったが。「時は準宝石の螺旋のように」「プリズマティカ」「漁師の網にかかった犬」「エンパイア・スター」が良かった。スタージョンやトマス・ディッシュの影響を受けた作家であることは頷けた。

  •  ディレーニーの短編のほとんどを含む決定盤短編集『然り、そしてゴモラ』(2003)に短めの長編『エンパイア・スター』を抱き合わせた日本独自編集版。『エンパイア・スター』の日本語訳はかつてサンリオSF文庫から1冊本で出されていたし、原書もエース・ダブルという2つの長編を抱き合わせた体裁の叢書で刊行されたということもあって長編扱いだが、本書冒頭の「スター・ピット」と同じくらいの長さなので、ノヴェラ=中編というべきだろう。ハヤカワ文庫の短編集『プリズマティカ』には別訳で収録されていた。ということでサンリオSF文庫の『時は準宝石の螺旋のように』とハヤカワの『プリズマティカ』を合本としたものがこの『ドリフトグラス』とおおむね等しい。おおむねというのは2編本邦初訳が含まれているからであり、この初訳を担当した小野田和子がさらに4編を新訳し、『エンパイア・スター』は酒井昭伸による新訳(つまり3つめの翻訳)が収録されている。
     そしてオマケがある。ディレーニー自身による短編集あとがき、高橋良平による「ディレーニー小伝」、伊藤典夫による「時は準宝石の螺旋のように」に関する短いエッセイ、そして酒井昭伸による『エンパイア・スター』の補注。
     これらをタイトルをエンボスした白いジャケット(ビートルズの『ホワイト・アルバム』みたいだ)に包むと、黒い『ダールグレン』の姉妹編のような体裁になり、しかも辞書のような厚さ。これは電子書籍では味わえない悦楽である。

     「スター・ピット」はじめ、宇宙時代に遠宇宙に行くためには(あるいは深海に潜るには)特殊な能力(あるいはある種の障害や身体改造)がないとだめという設定のもと、その力のない主人公は宇宙の場末でしがない商売をしているという閉塞感の強い短編が多い。という印象が前半を覆っている。22歳の時、自殺衝動にとりつかれ、精神病院に入院したことのあるディレーニーにはこういう側面が確かにあるのだ。だが、われわれのよく知る「華麗な」ディレーニーとしては中盤に収録された「時は準宝石の螺旋のように」がやはり白眉である。
     ホログラムはいまはお札にまで印刷されているようなものになったが、これが書かれた1960年代にはまだまだ未来的な技術だった。ディレーニーは立体視するというよりもホログラムに蓄えられた情報においては部分に全体が含まれているという点に注目している。むしろフラクタルな認識といういうべきだろうか。「時は準宝石〜」はホログラム的認識を得てのし上がっていく暗黒街の男の肖像を切り取ったスタイリッシュな作品。
     それからSFではなくておとぎ話の「プリズマティカ」、このあたりがやはり鮮やかだ。

     「エンパイア・スター」もまた見事だ。田舎の星に住むコメット・ジョーが宇宙帝国の中枢エンパイア・スターへのメッセージを託される。この作品で重要なのはホログラムに似て、シンプレックス、コンプレックス、マルチプレックスという概念だ。酒井昭伸は単観、複観、多観という漢字をあてる。田舎の惑星の単純な認識しか持たないシンプレックスなジョーはメッセージを託されるもののメッセージが何かはわからない。ジョーの認識力がコンプレックス、マルチプレックスとなるにつれて作品世界の複雑なありさまがホログラムのように立ち上がってくるのだ。
     この壮大な話を現在の出版界だったら10倍の長さの長編にするように編集者が求めてくるに違いない。それはそれで面白いかも知れないが、ある種の凡庸さに陥るに違いないという気がする。マルチプレックスな読者なわかるだろうとばかりに断片を示すやりかたは、原板を細かく分割してもそのひとつひとつに全体像が記録されているというホログラムのように部分で全体を示す魔術であり、多彩な光を放つプリズムのように作品を結晶化させているのだ。

  • 神話的SF作家ディレイニーの全中短篇を網羅する決定版コレクションがついに登場!「時は準宝石の螺旋のように」等珠玉の名作群に、最高傑作「エンパイア・スター」を新訳で収録。詩と思索と愛と暴力の結晶体、全17篇。

  • 四六版二段組で約六百ページの短篇集。本邦初訳や新訳を含むSF、ファンタジーのジャンルに属す短篇小説が十五篇、それに「あとがき」のあとに、唯一の中篇「エンパイア・スター」(新訳)が収められている。ディレイニーに馴染みのある読者なら収録順に読むのが順当だが、巻頭の「スター・ピット」に抵抗を感じる向きには、後ろから読むことをお勧めしたい。猫好きだったらディ=クという名の仔悪魔猫が重要な役割を受けもつ巻末の「エンパイア・スター」がお勧め。未熟な若者が成長してゆく姿を描く人格形成小説(ビルドゥングス・ロマン)と、二大勢力の長きにわたる宇宙戦争の経緯を描くスペース・オペラが一つになった構成で、ディレイニー初心者にもとっつきやすい。

    神のごとき全知視点を持つ結晶体ジュエルが語るコメット・ジョーの物語は、宇宙の裂け目を何度も往き来することで、時空を異にする多観的(マルチプレックス)な世界が生まれるという論理構造を応用した並行宇宙ならぬ多元宇宙を描く、いかにもSFらしい稀有壮大なロマン。売り出し前のボブ・ディランに前座をつとめさせたこともある元フォーク・シンガーのディレイニーらしく、オカリナとギターのセッションが繰り返し重要な場面に登場するのも愉しい。エリオットの詩句や、オスカー・ワイルドとダグラスの引喩、多様な語りの文体の採用といった文学的技巧も駆使され、SFファンでなくてもその面白さを堪能できる仕上がりとなっている。

    逆にニュー・ウェイブの旗手と呼ばれたディレイニーらしさを味わうなら巻頭の「スター・ピット」だろう。今は、スター・ピットで宇宙船の修理格納庫を自営するヴァイムには捨ててきた過去があった。過度の飲酒癖が災いし、幼い息子を置いてコロニーを出たのだ。その原因が生態観察館(エコロガリウム)。生態サイクル学習用の「水槽」だ。その時代ゴールデンと呼ばれる一部の人間を除き、スター・ピットを越えて宇宙へ出ることは不可能だった。外に出れば狂死する運命にある自分と閉鎖空間に生きるエコロガリウム内の生物のアナロジーがヴァイムを苦しめる。閉鎖的サイクルからの脱出願望とその不可能性を主題とする「スター・ピット」の漂わせる遣り場のない閉塞感は黒人の同性愛者である作家自身のものであろう。

    ライヴァル関係にあるロジャー・ゼラズニイのスタイルを模した「われら異形の軍団は、地を這う線にまたがって進む」は、ヘルス・エンジェルスまがいの集団がコンミューンを営むカナダ国境地帯が舞台。全世界動力機構に属し、電力網整備に携わる主人公の、反動的なマイノリティに寄せる共感と任務との間で生じる葛藤を主題とする異色作。分かるものには分かるゼラズニイ的要素をふんだんに盛り込んだ文体模倣が痛快。蝙蝠状の翼を持つ翼輪車(プテラサイクル)「箒の柄」で月に向かって上昇し、エンジンを切った後の滑空にどこまで耐えることができるかを競うチキン・レースなど、他の作品とは明らかに異なる視覚イメージに多才さを再認識させられる。

    ヨーロッパ放浪中、原稿料を使い切ると海老漁船に乗って稼いだ経験がそうさせるのか、主人公には漁師はもちろん、手を使う仕事に従事する人物が多い。肉体と技術を駆使して危険な作業に携わる「男」(トランス・ジェンダー的世界を描くことも少なくないので括弧つきだが)の仕事上の葛藤や、そこから解放され、他者と交わるときに感じる開放感や軋轢、といった心理は、SFに限らず、どんな小説にあっても物語を先に進めてゆくための推進力となるものだが、ディレイニーが描くとそこには詩的な美しさが現出する。命を賭けて海底の谷間に電力ケーブルを設置する両凄人の傷だらけの栄光と挫折を描く表題作「ドリフトグラス」、旧世界の神とキリスト教の神の暗闘に、狭い島に生きる青年の懊悩を絡ませた「漁師の網にかかった犬」に見られる海に生きる男の背中に漂う悲哀は、まるでギリシア由来の神話や悲劇を思わせる。

    SFは高校時代に友人の勧めで一通り読んだが、あまり好い読者ではなかったと記憶している。だから、ディレイニーについても全く知らなかった。新聞の広告を読んで久しぶりに興味が湧いたというのが正直なところだ。読んでみて驚いた。とてつもなく面白い。しかも発表された年代は60年から70年代というのに、少しも古臭くなっていない。軋みを上げる体制になすすべもなく翻弄されている現代に比べ、抑圧に対し真摯に悩み、果敢に行動する人間を描いている点、むしろすぐれて今日的といってもいい。長篇『ダールグレン』も是非読んでみたいものだ。

  •  いろいろ読んではきたものの正直ディレイニーは難しい。
    「スター・ピット」宇宙の彼方にたどりつけない人類というテーマと思ったが、コミュニティやニューヨークを描写したところなど別な面もありそう。
    「コロナ」 音楽も重要なテーマであり、社会を大きく動かす力となった60年代らしさも感じられる。ディレイニーでは分かりやすい方かも。
    「然り、そしてゴモラ……」 性的なテーマを直接的に扱っているSFで先駆的だと思うが、他作品でもSFでは珍しく肉体性や官能性があるのがディレイニーの魅力だろう。
    「ドリフトグラス」 海辺に暮らす人々がリアルにしかし神話的に表現され美しい。これも分かりやすい方なのでは。
    「われら異形の軍団は、地を這う線にまたがって進む」 ゼラスニイに捧げられている。ゼラスニイはちょっとしか読んでいないのだが『地獄のハイウェイ』あたりのイメージかなあ。ゼラスニイも急に読みたくなってきた(笑)「ドリフトグラス」もそうだが、ケーブルもよく登場するね。
    「真鍮の檻」罪を犯し真鍮の檻に入れられた三人の囚人。三つの部屋が扇型に隣り合っているというところに何かありそうだが良く分からない(悲)
    「ホログラム」 これは比較的なSFらしいアイディア・ストーリーかなあ。ホログラムには相当思い入れがあるようで、次の「時は準宝石の螺旋のように」にも登場する。
    「時は準宝石の螺旋のように」 コンピュータ用語、暗号、ハードボイルド調などなど特に序盤はウィリアム・ギブスンを思わせ、サイバーパンクの先駆けといわれるも頷ける。が、例えばニューヨークらしい風景や人々の交流の描写やらがあったり、また別な面がありそうでなかなか一筋縄ではいかない。社会で大きな役割を持っている歌手<シンガー>という存在(非常に数が少ない)があって、「コロナ」もそうだが音楽が世界を動かすという60年代らしさも感じられる。(あとエフィンガム侯爵夫人って誰だ?「大柄な」女というからやはり・・・)
    「オメガヘルム」 未来の家族関係について書かれているのかな?新しい家族形態、コミューンといったものもディレイニーの作品でよく書かれるテーマだと思う。
    「ブロブ」 宇宙SFとゲイセックスが結びついたブッ飛んだ作品でどことなくバロウズを連想させる。
    「タペストリー」 一角獣のタペストリーがモチーフになっていて、あの「貴婦人と一角獣」のタペストリーのことだろうね(感想をつけ忘れたんだけど2013年に六本木で見た。6点からなって、大きいのにとにかくびっくりしたっけ)。で短篇のことだけど、これまた実に生々しい作品なんだよな。
    「プリズマティカ」 ディレイニーには色彩豊かな作品も目立ち、(スタージョンの影響もあり)宝石へのこだわりや輝きを持ったものへに対する嗜好が感じられる。
    「廃墟」廃墟のお宝を狙う泥棒の話。クラーク・アシュトン・スミスの怪奇幻想譚を思い浮かべた。
    「漁師の網にかかった犬」 若い時の漁師生活が反映されているらしい普通小説。再読だけど重い話なんだけど前から好きなんだよな。網の修理にお金がかかるというのは「ドリフトグラス」にも出てたっけ。
    「夜とジョー・ディスコスタンツォの子どもたち」 これまたなかなか難しい。登場人物のマキシミリアンとジョーイがお互いを自分の想像で作られたと言い争うところがあって、メタフィクショナルな仕掛けがあるのかな?マキシミリアンの方が作家らしいのだが・・・。
    「あとがきー疑いと夢について」 ディレイニーの創作論。一見平易だがところどころ理解しにくいところもある(赤ん坊が耳にする最初の言葉のくだりの辺りとか)。スタージョンやディッシュの言葉の引用があるなどSFファンとして楽しいが、印象的なのはディレイニー自身の言葉として「月並みにおちいるな」というアドバイス。本書はディレイニーの全中短篇を網羅する決定版ということだが、キャリアを考えるとかなり少ない。しかしどれ一つとして先行する作家たちの借り物と感じさせる作品は無く、個々の作品同士も全く似ていない。まさしく「月並みにおちいるな」を真に実践している。本質的に芸術家であるということがよく分かる。
    「エンパイア・スター」 退屈でやるせない日々を暮らす少年がある日宇宙をかけめぐる冒険へと旅立つ。少年の夢を具現化するSFのコアにある意味大変ナイーブな部分を実に巧みな修辞と構成で普遍的な物語に組み直したところにディレイニーの凄さがある。懐かしい甘さにあふれているのだが色鮮やかで隠し味がほどよく効いて大人でも何度も食べたくなるデザートのようだ。

     ディレイニーはミーハー的に好きな作家の一人で、初めて買ったSFマガジン(1980年5月号)でその存在を知った時からとにかくカッコいいと思った。数学の天才でミュージシャンや漁師を経て彗星のようにデビューした黒人でゲイの作家。固定概念を覆すSFというジャンルにふさわしい、それこそSF的な存在に思えたのだ。一方、本書中での伊藤氏酒井氏の解説にもうかがえるように文学的に高度でもあることもあって、出会ってから三十数年経っても全然追いつけていないなーと自分の読解力の乏しさに残念な気もしたりもするのだが、それでもミーハーファンだからとにかく好きなのだ(笑)

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著者プロフィール

1942年ニューヨーク生まれ。ニューヨーク市立大学を中退後、漁船乗りやフォークシンガーとして世界を放浪、62年『アプターの宝石』でデビュー。該博な知識と詩的文体、多層的語りを駆使してメタファーに満ちた神話的作品を多数発表、アメリカン・ニューウェーブの旗手として活躍。長編に『バベル-17』(66年、ネヴュラ賞受賞)『ノヴァ』など。75年に超大作『ダールグレン』を刊行、賛否両論を巻き起こしながらSFとしては異例の大ベストセラーとなる。

「2014年 『ドリフトグラス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

サミュエル・R・ディレイニーの作品

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