- Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344027541
作品紹介・あらすじ
自分以外の人間は誰も信じるな-子供の頃からそう言われ続けて育てられた。しかし、その言葉には、まだ逃げ道がある。たった一人、自分だけは信じていいのだ。ささやかでも確かな"希望"を明日へと繋ぐ傑作長篇!
感想・レビュー・書評
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鷹野シリーズの残りの一冊。
「太陽は動かない」の序説で、シリーズで男性の魅力を最大限に醸し出している主人公・鷹野一彦の少年時代の物語である。ちょっと可愛い少年が、AN通信での経験と共に男性に変わっていく。その変貌が、過酷な人生を経験した結果かと思うと、なんとも言えない複雑な気持ちになる。
「ウォーターゲーム」で 石垣島の南西にある孤島「南蘭島」が、AN通信社に入る子供たちが、育つ島であることが説明されていた。
本作は、まさに鷹野がその南蘭島で過ごした日々を中心に島を去るまでのストーリーである。
「ウォーターゲーム」で顔の傷跡がパッチワーク状態のリー・ヨンソンが、実は親友の柳勇次であったのだが、「ウォーターゲーム」では、正直なところ『ふぅーん、そうなんだ』という感情だけで、特段感動もなかったのだが、本作で鷹野にとって、どれほだ大切な友であったのかということを知る。読む順番がよくなかったことを改めて認めてしまった。
「南蘭島」で青春を謳歌するふたりは18歳になると、高校卒業を待たずして、AN(アジアネット)通信社の産業スパイとして、島をでていく。彼らは、胸に小型爆弾を埋め込まれ、毎日正午の連絡を怠れば自動的に抹殺される。諜報員として全うしなければ、死ぬ以外に選択がない。
柳は障がい者の弟・寛太のことを考え、AN通信から情報を持って逃げる。本作には柳のその後のことは書いておらず、また、「太陽は沈まない」にも柳は登場しなかったが、「ウォーターゲーム」で登場した柳が負った顔の傷を思うと、逃亡は壮絶であったことが理解できる。
本作で鷹野が孤児になった経緯が記されている。母親は4歳の鷹野と2歳の弟を大阪市内のマンションの一室に閉じ込めて男と失踪する。明らかに残された子供たちを殺そうとし、ドアやサッシ戸はガムテープで密閉された、猛暑の中エアコンもなく、水のボトル2本と菓子パン3つのみ。自分たちは汗を舐めて、尿を飲み、便を食べていたと精神科医は推察している。そして、見つけられた時、4歳の子供は、餓死した弟を抱き抱えていた。鷹野は施設に保護されたが、11歳の時に亡くなったとして戸籍を抹消されて、新しい戸籍を得てAN通信に引き取られている。
18歳を目の前に、修学旅行中にAN通信の風間の指示のもと初任務でV.O.エキュ関連の情報を盗むために和倉地所に侵入する。その時、この先ずっと関わっていく、同胞でありライバルのデイビッド・キムと遭遇する。笑えたのは、スパイとしての教養をつけるためにフランスに行った時、部屋に彫られていたメッセージの主がキムであったことだ。結局、鷹野とキムは、この時からずっと繋がっていくことになる運命だったのだと思う。
そして、もう一つ、上司となる風間の鷹野に対する思い、そして風間が車椅子生活を送ることになった理由が、鷹野少年を守ろうとしてであったことを知る。鷹野を守るといった風間の言葉は、この後「太陽は沈まない」、「ウォーターゲーム」にも繋がっている。
最後に、南蘭島にやってきた同級生の菊池詩織への想いは、鷹野の初恋だったのかなぁと思うと、今後、鷹野の前に登場するAyakoとの発展はないなぁと、確信した。笑
シリーズでは、私見であるが、「ウォーターゲーム」が一番おもしろかったし、鷹野が中年の渋さでかっこよく描かれているので、少年の鷹野が少し頼りなく感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
吉田修一、がこんな作品をだす。?アクション過激、そして悲しい。
「森は知っている、」「ウォターゲーム」「太陽は動かない」
三部作!前に読んで、レビューは。
順番通りに読む?順番忘れたけど。
映画化、ドラマ化されて公開されるみたい -
吉田修一の新作を逃すわけにはいかないと勢いつけて読んだはいいが、またしても肩透かし。
吉田修一が荒唐無稽(とは言い難いが)なストーリーを書くとは思ってもみなかった。スパイものなんて意外。
しかもこれって前作があったのね。全然知らずに読んでしまった。
そう言えば友人に「太陽は動かない」どうだったか聞いたときに、好みじゃないと思うよって言われて読むのやめたんだった。
うん、正解(笑)
私の好きな路線じゃなかった。
とは言えやっぱり面白い。
いつの間にかじっくり行間を読ませる作家じゃなくて先を急がせる作品を書く作家になったんだなぁ、吉田修一も。
いろんな人物が出てきても一人一人の個性が際立ち物語に深みを増す。
やっぱりね、描写が丁寧で繊細なところがいいのよね。
全体的には楽しめたけれど、主人公の生い立ちが明らかに実在の事件がモデルになってるのがどうも受け付けず。強烈な事件だっただけにこの使い方に嫌悪感が…
吉田修一の作品、実在の事件をモデルにしすぎ。
これって作家としてどうなんでしょう。
ネタ切れなんでしょうか。 -
本の内容は、引き取り手のない子を産業スパイ?みたいな感じに育て上げ、チームを裏切ったらすぐにとどめがさせるように、心臓に起爆装置を入れられるとか、物騒な感じです。
でも、テーマが多分、一日一日を生きること。だと思います。
作中の、とりあえず今日一日だけを生きること。一日生きたら、また次の一日を生きる。その一日一日を積み重ねていけば、毎日を生きたことになるんじゃないのか?という言葉が残りました。 -
前情報なしで読み始めたので、出だしはスタンドバイミー のような少年たちのキラキラした夏休みの話かと思いました。
読み進めるうちに、なんやらスパイ的な不穏な匂いが…。事情はわからないが、カズオイシグロのわたしを離さないでを連想するような感じもするし、映画レオンのような殺し屋のように育てられてる少年たちのような感じもするし、もうすっかり信用しきってる吉田さんの作品なのでワクワクが止まらなかったです。
一気に読みたいような大事に読みたいような…。
途中でネットで調べたら3部作で映像化もされているのですね。
どうか鷹野が幸せでいられますように、と願わずにはいられない。 -
「太陽は動かない」の続編、AN通信スパイ鷹野の誕生ストーリー。日本のスパイと言うことでもあるのか物語が泥臭く、007のような華やかさはない。既にこの続編もあるらしく、著者はこのシリーズのロングランを狙っているようである。前作にしても仕事がスマートでないのがちょっと難点であり、あまり爽快さを感じさせない。アニメでスパイを描いた「グリザイヤの果実」と言うのがあったが、やはりエンタメ系は日本ではアニメの方が優っているようである。
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孤児の生き甲斐
産業スパイに孤児が教育され利用されていくミステリー小説だ。身寄りもなく、たとえ亡くなったとしても誰も知られず葬ることができるを利用した組織があった。鷹野は母親に兄弟を放置され生き残った孤児で、出自、名前も改竄され南の遠島で教育を受け組織に貢献する。何の為に、誰のために生きているのか疑問を抱き何度も自殺を試みたが、生きがいを得た言葉は「1日だけでいい。ただ1日だけ生きてみろ!そしてその日を生きられたなら、また1日だけ試してみるんだ。」世の中に不満を持った人間が多いがそれを上手く闇の組織が利用する、現実でもあるのだろうか。 -
「太陽は動かない」の続編。鷹野や風間の過去も明らかになる。一日だけなら生きられるだろう、の言葉が意味深。心臓に埋められる装置の事が頭に浮かぶから。映画化されると聞いて読んだ。
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これも面白かったよ。