家康、江戸を建てる

著者 :
  • 祥伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396634865

感想・レビュー・書評

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  • 天正18年(1590年)夏、小田原攻めの最中に、豊臣秀吉は徳川家康に関八州を「進呈」すると言い出した。それまでの東海5カ国と引き換えに。

    家臣たちの猛反対の中、家康はこの国替えを受け入れる。「関東には、手つかずの未来がある」との直感の故に。

    江戸の泥地を、利根川の流れそのものを変えることで肥沃な関東平野に変える一大工事。三代に渡る執念ーー「流れを変える」

    現代に続く計量貨幣の世の基礎となる小判を発行し、全国貨幣の支配者にーー「金貨を延べる」

    江戸の街に上質な水道を。井の頭のルーツーー「飲み水を引く」

    城が焼け落ちても残る、強くて美しい石垣を作り上げた男達の物語ーー「石垣を積む」

    常識を覆した白い壁に込められた二つの意義ーー「天守を起こす」

    戦争から平和の世へ。軍人・家康の治世家としての側面をクローズアップした快作。

    世界に冠たる江戸の町を、現代の大都市東京の基礎を作った男達の物語。

    普段歩く町の風景も変わって見えてくるような気がする。

  • 秀吉から、関東移封を命じられた家康が、
    ほとんど不毛と言えた当時の江戸の地に、
    江戸城および城下町を整備していく様を、
    治水、上水、石垣、天守、貨幣、といぅ、
    5つのテーマ、視点で描いた短編集です。

    例えば…、NHKの「ブラタモリ」では、
    訪れた土地々々の城づくり、街づくりを、
    遺構と併せ、様々な視点で考察しており、
    元土木技術者としては、
    毎回、興味深く視聴しておりまして…、

    本作品の主題である、
    江戸の城づくり、街づくりは、文字通り、
    現代に至る日本の首都の礎づくりであり、
    ゆえに、
    本作品も、とても興味深く読みました…。

    まず…、
    当時の難工事の様子と、完成した施設が、
    適宜、様相を変えた現在の様子も交えて、
    主に、現場の視点から描かれており、
    全体的には、とても面白かったです。

    一方で、
    何となくですが、史跡の説明板の内容を、
    肉付けした程度の内容でもあったので…、
    小説としては、もぅ少し練り込んだ上で、
    ドラマチックな内容でもよかったかな~?

  • 家康の先見の明は何処から生まれたのか、未開拓の地を大都市への変貌を夢見た家康。5つの大きな先手工事をできる人材に即座に抜擢、「天下普請」(幕府の負担を軽減、地方の勢力を減退)の役割を同時期に指導したのはやはり凄い。 江戸幕府崩壊の要因は少なくともこの「天下普請」「参勤交代」が無くなったことで起きたのは間違いない。

  • 「家康、江戸を建てる」門井慶喜。2016年、祥伝社。

    門井さんという方の本は、初めて読みました。
    これ、面白かったです。

    ●利根川などの、大規模で数十年に渡る、治水工事の話
    ●金貨を鋳造する話
    ●飲用の水を地方から江戸まで引っ張ってくる工事の話
    ●江戸城の石垣用の石を掘り出してくる話
    ●天守閣を建てるか建てないかという将軍の悩み

    という、5編の短編からなる1冊。

    「家康の時代、つまり江戸時代の初期に、江戸という土地を繁華な人口集積地にするために、具体的な町作りやインフラ整備などを手がけた裏方的なひとびとの、プロジェクトX風味の物語」
    ということです。
    そういうコンセプトだけ共通していて、5編はそれぞれ登場人物もまったくちがいます。微妙に年代も違うし。

    1編1編は、それなりに短編だから読みやすい。なにしろ冷静に、文芸的に?言うと、それほど長い頁が維持できるような構造には作られていないです。
    そういう、力は、そんなに感じないんですね。

    ただ、先に触れた、都市インフラ整備事業を担った人間物語、というコンセプトが面白いのと、かなりの話が、江戸=関東平野という地理的な個性に影響を受ける事業の話。つまりは「ブラタモリ」的な「へ~そうなんだ~度数」とでもいうべきふむふむ感があります。
    だから、いわゆる文芸ファンという垣根を全く越えて、ビジネス書が好きな読者層まで掴んで話題を呼んだ一冊になったのでしょう。



    無論、ビジネスとしての本作りで言うと、そういう読者層とか東京オリンピックに向けての話題性とかを、キチンと狙った一冊だと思います。それをあざといと興ざめに思うのか、素敵だなと思うのか、その辺の好みで印象も変わってくるとは思います。



    小説としての深みだとか、コクだとか、人間像の浮かび上がり方の感動みたいなものは、そんなにではないですが、こういうコンセプトと切り口の見事な小説、というのは、なんだかんだ言って、ありそうで実はレア。
    好みの持ちよう次第ですが、僕は楽しめましたし、こういうのも大いにアリというのが、本を愉しむことの間口の広さとして素敵だなあ、と思いました。
    個人的にはやっぱり冒頭の1編が、この本の特徴が一番でていて面白かったですね。なにせ気が遠くなるほどの年月の土木事業なんで。
    それを短く語って言っちゃうと起きる、恐ろしい簡潔な人の人生の描き方みたいなものが、凄みを感じさせました。

  • 家康を軸に、歴史上有名無名の脇役の人たちによる江戸発展の物語。5つの物語が独立していて、家康でつながっている。江戸が少しずつ形作られる様子がわかる。この作家にかかれば、堅苦しい人物も愛嬌が備わる。キャラもたっている。直木賞候補作となって受賞しなかった作品だが、受賞する資格充分と感じた。
    家康が関東に入るまで、この地は人が住めるような場所でなかった。家康が入ったからこそ、今の東京の殷賑がある。

  • 「関八州を差し上げよう」
    秀吉は“ありがたい良い話”のように言うが、父祖の代からの三河をはじめとする現在の領地と引き換えである。
    猿におにぎり取り上げられて柿の種をもらった蟹みたいである。
    家臣たちは猛反対するが、家康は関東の「伸びしろ」に賭けたようだ。
    そう、柿の種はやがて育ち、多くの実をつけるようになる。

    しかし、さすがに水浸しの大平原とボロ城を前に、家康絶句。“ぽーん”という擬音が聞こえてきそう。
    しかし、切り替えは早い。
    江戸そのものの地ならしに取り掛かる。

    時系列どおりの小説ではなく、各プロジェクトごとに現場が描かれる。
    まだ戦乱は続いていたが、収束に向かいつつあった。
    ここではすでに戦国武将は主役ではない。
    そこここに、時代の変わり目に置いていかれそうな人物も描かれている。
    文官と技術者の時代がやってくるのだ。
    亡くなる前年まで、家康は武将として豊臣を押さえてきた。
    軍事と民政の二足のわらじを履き、もちろん忙しい。
    人材を集め、各プロジェクトごとに専門家に任せる、そういう人使いの巧みさも、家康の江戸作り成功の秘訣だろう。

    第一話 流れを変える
    関東平野を水害から救い、米の収穫量を上げるために、利根川の川筋を変えるという大事業。
    時代の流れを変える、という意味も含むだろう。
    伊奈三代の仕事。

    第二話 金貨(きん)を延べる
    貨幣を流通させて、経済の天下統一を目指す。
    伝統ある彫金氏の家、後藤家につかえる庄三郎の野心が家康とシンクロ!

    第三話 飲み水を引く
    治水事業により水害は減り、交通網としての河川は整えられつつあるが、良質な飲み水を手に入れなくては生活の質は上がらない。
    質プラス量。
    驚くべき技術開発で、水道を引く。

    第四話 石垣を積む
    城の土台となる石垣。
    石の摂理を読み、良質な石を切り出す吾平と、石の重さの偏りをはかり安全かつ堅牢に積み上げる方向を決める喜三太、二人の「見えすき」と、神になった石。

    第五話 天守を起こす
    最後の戦国武将として、家康がどうしても打ち立てておきたかったのが天守ではなかったか。
    時代はすでに次世代のものであるが、本当に天守が必要なくなるのはもう少し後である。

    江戸は一日にして成らず。
    そして永遠に普請中であり発展中。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    ヴィジュアルと、江戸・東京のお散歩のガイドをお求めの方にはこちらもお勧め!

    詳伝社新書「江戸城を歩く」黒田涼/著
    ISBN978-4-396-11161-8

  • 豊臣秀吉が徳川家康に要求した国替えの真意は、低湿地の土地と豊饒な所領の交換であった。家臣団が激怒する中、なぜか家康は要求を受け入れ…。ピンチをチャンスに変えた天下人の挑戦を描く

    2016年上期直木賞候補作。タイトルと違って主人公は家康ではない。江戸の町の建設のために川を曲げたり、貨幣を鋳造したり、上水を引いたり、城の石垣や天守を造ったりした男たちの物語だった。作者が建築に詳しいことは知っていたが、こういう視点で描かれた歴史モノも斬新で面白かった。
    (B)

  • 秀吉の命により、当時、何もなかった江戸に入った家康。そこから、江戸の町を作り上げるまでの家康の奮闘ぶりが描かれているのかと思ったが、実際には江戸の町を作った職人さんたちの話。ところどころで、「現在の〇〇」と言った注釈が入るので、歴史小説よりも分かりやすく、なかなか興味深い作品だった。

  • 今もなお発展を続ける2千万都市の大東京。発展の基礎は当然に徳川家康が作った訳で、その初期の頃、江戸がどのように造られていったのかを、河川、通貨、水道、石垣、天守閣をそれぞれ造った有能な役人を中心に描いていく歴史小説。

    いやあ、これはなかなかの新機軸。おもしろかった。江戸は「ここを徳川の一大拠点にしてみせる!」といいう家康の信念と「元和偃武、平和の時代こそ自分の出番!」という有能な役人との情熱が掛け合わさったことでできたことがこの本を通じてよくわかる。

    家康モノと言えば、本多忠勝、井伊直政、酒井忠次、あるいは本多正信などが主要登場人物な訳だが、この本にはそれら一線級のスターは出てこず、伊奈忠次(利根川を東遷させ関東に莫大な農耕地を作り上げた男)、後藤庄三郎(日本橋付近に金座、銀座を造り、日本を秤量貨幣から計数貨幣制度に変えた男)、大久藤五郎と春日与右ヱ門と百姓の六次郎(現在の井の頭公園の水源を開発し、水道橋を通して山の手に飲み水を供給した男たち)など歴史に埋もれた実に渋い配役で物語が展開していく、まさに一隅を照らす者たちの大江戸プロジェクトXな訳である。

    巨大権力者と能吏達との壮大な都市建設物語、現代の官僚や巨大組織に勤める人たちにもぜひとも読んでもらいたい本である。

  • 「家康、江戸を建てる」門井慶喜著、祥伝社、2016.02.20
    402p ¥1,944 C0093 (2023.12.28読了)(2023.12.15借入)(2016.07.10/12刷)
    NHK大河ドラマ「どうする家康」関連で読む最後の本として、この本を選びました。
    江戸の町、江戸幕府の制度を作った人々の話です。
    「流れを変える」は、利根川の河口を東京湾から鹿島灘の方へ変えてゆく話。
    「金貨を延べる」は、小判および一分金を全国で流通できるものにする話。
    「飲み水を引く」は、江戸の飲み水を井の頭公園から都心まで引いてくる話。
    「石垣を積む」は、江戸城の石垣を伊豆から運び積み上げる話。
    「天守を起こす」は、江戸城に天守閣を造ることに秀忠は反対したが、家康は天守閣を造らせた。明暦の大火で江戸城も全焼し、秀忠の息子である保科正之の主張により天守閣は再建されなかった話。

    【目次】
    第一話 流れを変える
    第二話 金貨を延べる
    第三話 飲み水を引く
    第四話 石垣を積む
    第五話 天守を起こす

    ☆関連図書(既読)
    「どうする家康(一)」古沢良太作・木俣冬著、NHK出版、2022.12.10
    「どうする家康(二)」古沢良太作・木俣冬著、NHK出版、2023.03.20
    「どうする家康(三)」古沢良太作・木俣冬著、NHK出版、2023.07.25
    「どうする家康(四)」古沢良太作・木俣冬著、NHK出版、2023.11.20
    「徳川家康の決断」本多隆成著、中公新書、2022.10.25
    「家康(一)自立篇」安部龍太郎著、幻冬舎、2016.12.20
    「家康(二)不惑篇」安部龍太郎著、幻冬舎、2018.10.25
    「天下 家康伝(上)」火坂雅志著、日本経済新聞出版社、2015.04.24
    「天下 家康伝(下)」火坂雅志著、日本経済新聞出版社、2015.04.24
    「梟の城」司馬遼太郎著、新潮文庫、1965.03.30
    「覇王の家 前編」司馬遼太郎著、新潮社、1973.10.25
    「覇王の家 後編」司馬遼太郎著、新潮社、1973.10.25
    「司馬遼太郎『覇王の家』」安部龍太郎著、NHK出版、2023.08.01
    「徳川家康」松本清張著、角川文庫、1964.01.20
    「浅井長政の決断」笹沢左保著、角川文庫、1990.10.10
    「鞆ノ津茶会記」井伏鱒二著、福武文庫、1989.01.19
    「銀河鉄道の父」門井慶喜著、講談社、2017.09.12
    (「BOOK」データベースより)amazon
    「北条家の旧領関東二百四十万石を差し上げよう」天正十八年、落ちゆく小田原城を眺めながら、関白・豊臣秀吉は徳川家康に囁いた。その真意は、水びたしの低湿地ばかりが広がる土地と、豊饒な現在の所領、駿河、遠江、三河、甲斐、信濃との交換であった。愚弄するかのような要求に家臣団が激怒する中、なぜか家康はその国替え要求を受け入れた…。ピンチをチャンスに変えた究極の天下人の、面目躍如の挑戦を描く快作誕生!

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著者プロフィール

1971年群馬県生まれ。同志社大学文学部卒業。2003年、第42回オール讀物推理小説新人賞を「キッドナッパーズ」で受賞しデビュー。15年に『東京帝大叡古教授』が第153回直木賞候補、16年に『家康、江戸を建てる』が第155回直木賞候補となる。16年に『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』で第69回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)、同年に咲くやこの花賞(文芸その他部門)を受賞。18年に『銀河鉄道の父』で第158回直木賞を受賞。近著に『ロミオとジュリエットと三人の魔女』『信長、鉄砲で君臨する』『江戸一新』などがある。

「2023年 『どうした、家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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