「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい―――正義という共同幻想がもたらす本当の危機

著者 :
  • ダイヤモンド社
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感想 : 71
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784478006832

感想・レビュー・書評

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  • 人は、不安や恐怖に襲われたとき“共同幻想”を抱いて集団化する。メディアや扇動家に簡単に振り回される。そして、暴走する。
    そんな中で生きる我々には、自分の頭で考え、想像力を養うことが大切なのだろう。

  • とても勉強になった。共感する点も多かった。保健所で殺される犬や猫は安楽死していると誰もが信じていること。犯罪容疑者の顔ではなく手錠にモザイクをかけるテレビ。病院で履き替えたスリッパを重ねて下駄箱に突っ込むことの不自然さ。挙げ始めたらきりがない。読みながら、何度も自分の無知と想像力のなさを恥じたい気持ちになった。

    ついでにいえば、私は森氏が過去にものしたいくつかの著作(とくに『放送禁止歌』や『職業欄はエスパー』)に深く感銘を受けた。これらに匹敵するノンフィクション作品には滅多に出会うことができない。そのうえで、しかしこの本には★2つの評価をつけたいと思う。なぜなら、本書で目的とされているはずのこと、すなわち「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人びとをなだめ、その視野を拡大することに、森氏が成功しているとは思えないからである。

    森氏の主張は基本的に筋が通っている。現場を見てきたからこその説得力もある。もともと雑誌の連載だから文章の質はまちまちだが、読みやすさにかけてはまず一級品だ。しかし、彼が問題視する危険な共同幻想に無自覚な人々が、この本を手に取ることはまずないだろう。理由は簡単、古いことわざで言えば「良薬口に苦し」というやつだ。自分の間違いを指摘されて、「私が間違っていました。あなたのほうが物事をよく考えているし、実践もなされている。倫理的にも私は浅はかだった。申し訳ありませんでした」と素直に言える人はそう多くない。

    どんなに正しい主張でも、相手に届かなければやはり虚しい。そればかりではない。明らかに理不尽な主張をする相手と対峙した時、「なぜこの人はこんなおかしなことを言うのだろう」という方向ではなく、「この人は間違っている、なぜなら……」という方向にばかり思考が進む時、それはむしろ対立の溝を深める結果しか生まないだろう。現に本書には、「著者の主張に共感した」というレビューが多数寄せられている。だが重要なのは、主張に共感してもらうことでは実はない。自分はなぜそれに共感を抱き、一方でそうでない人がいるのはなぜなのか、そこに思いを馳せることである。自分と異なる考えをもった相手への蔑視と挑発のニュアンスが色濃いこのようなタイトルの本が、その手助けになる可能性は低い。

    そんなことは森氏も重々承知なのかもしれない。そのうえで、「共同幻想」(もう少し一般的な言葉で言えば「同調圧力」または「空気」?)というキーワードによって、「彼ら」の(あるいは我々の)思考原理を炙り出すことを試みているのかもしれないが、残念ながら、このキーワードにそこまでの深みはない。

    何はともあれ自分が正しいと信じることを述べ、援軍を増やしていくという観点からは、この本にも一定の価値はあるだろう。ただひとつ言えること、それは、森達也はノンフィクション作品の作り手として一流であるということである。

  • この国や世界に起こっていることや起きたことに関して深く考える題材を与えてくれる。私が知らなかった事実や実態にも触れることができた。考え方には共鳴できる部分も多い。自分なりの考えを整理しながら読み進めたので読み終えるまでに時間がかかった。

  • 森さんの著書を読むと「正義」「公正」について考えさせられます。

  • 読んでいて、得心する部分は多々あったが、とにかく日本の今後を考えると気が滅入る。筆者はそろそろ方向を変えると言っているし、僕も現状を打開したい。今後の日本の行く末に明るい未来を描きたい。

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著者プロフィール

森 達也(もり・たつや)
1956年、広島県呉市生まれ。映画監督、作家。テレビ番組制作会社を経て独立。98年、オウム真理教を描いたドキュメンタリー映画『A』を公開。2001年、続編『A2』が山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。佐村河内守のゴーストライター問題を追った16年の映画『FAKE』、東京新聞の記者・望月衣塑子を密着取材した19年の映画『i-新聞記者ドキュメント-』が話題に。10年に刊行した『A3』で講談社ノンフィクション賞。著書に、『放送禁止歌』(光文社知恵の森文庫)、『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』『職業欄はエスパー』(角川文庫)、『A2』(現代書館)、『ご臨終メディア』(集英社)、『死刑』(朝日出版社)、『東京スタンピード』(毎日新聞社)、『マジョガリガリ』(エフエム東京)、『神さまってなに?』(河出書房新社)、『虐殺のスイッチ』(出版芸術社)、『フェイクニュースがあふれる世界に生きる君たちへ』(ミツイパブリッシング)、『U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面』(講談社現代新書)、『千代田区一番一号のラビリンス』(現代書館)、『増補版 悪役レスラーは笑う』(岩波現代文庫)など多数。

「2023年 『あの公園のベンチには、なぜ仕切りがあるのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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