尾崎翠集成 (下) (ちくま文庫 お 37-2)

著者 :
制作 : 中野 翠 
  • 筑摩書房
3.63
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本棚登録 : 250
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480037923

感想・レビュー・書評

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  • 津原版の『瑠璃玉の耳輪』を読んで、翠の原案と比べてみたくなったので、収録されているこれを。思っていたよりずっと、津原版が原案に忠実だったことにむしろビックリ。マリーの阿片窟の描写、「変態性欲」の男・山崎の変態っぷりや幻覚のくだり、あと八重子と瑤子の同性愛あたりは津原氏の脚色かと(ぽいし・笑)予想していたのですが、これ翠の原案のままだったんですね。ちょっと尾崎翠に対する印象が変わりました(笑)。「変態性欲」に関しては、現代でいうなら「サディスト」くらいの意味合いかな。

    一番大幅な改編は、耳輪が揃うと暗号が解けるという部分(こういうのはいかにも男性好みっぽい)と、それに伴い黒幕が設定されたことでしょうか。翠の原案では男装するだけの明子が多重人格者のようになっていたのは津原氏のアレンジ。探偵社の社長と見世物一座の木助がオリキャラであることは自己申告されていましたが、なるほど、これは必要なところに適材を補われたなと感心。オリジナルを読んで改めて、津原氏が足したり引いたり盛ったりした部分の適切さがよくわかりました。

    他の収録作品については、ちくまの別の文庫で読んだのと被ってるのもいくつかあったんですが、既読なのでオチを知っているにも関わらず「無風帯から」の退屈さには辟易。これは何度読んでも苦手。初読のものでは、少女小説のシリーズ(「空気草履」「露の珠」「頚飾をたずねて」)はどれも可愛らしくて幻想的で好きでした。


    ※収録作品
    青いくし/あさ/悲しみの頃/悲しみを求める心/無風帯から/花束/詩「嵐の夜空」/空気草履/露の珠/頚飾をたずねて/少女(おとめ)ララよ―伝奇物語/琉璃玉の耳輪/アップルパイの午後/映画漫想/「蒼馬を見たり」評/杖と帽子の偏執者/新秋名果/春の短文集/大田洋子と私

  • まず下巻から読む。
    私の生涯のバイブル決定。


    詩のような、短い二作から始まる。
    胡瓜←青いくし、面白い!
    朝の海の美しい情景が思われて、涙しそうになる。

    『悲しみの頃』からの『悲しみを求める心』の流れがいい。
    “私は死の姿を正視したい。そして真にかなしみたい”
    心に残るフレーズ。

    『無風帯から』
    話を読むのは二度目。やはり好き。
    全編手紙文なので、それが面白い。
    名前が出てくる人物が、実際のところ、何を考えているかがわからないまま、延々話が続く。
    タイトルがいよいよハマる最後のあたりの文章は最高。


    『花束』
    女性らしい、というよりは、女の子らしい、けど幼過ぎない、丁度その間のあたりの、瑞々しくもあり、甘酸っぱくもある、淡い恋の話。
    素敵!
    『初恋』を読んだ後もこんな気分になった。


    『詩「嵐の夜空」』も少女小説三編も、『少女ララよ』も、言及しないが、文句なし。

    『琉璃玉の耳輪』
    一番読んでみたかった作品。
    基本的に、尾崎翠の魅力は、文章力と、その表現力だと思ってるけど、こんなお話もあるのかと驚いた。物語としてだけみても十二分に楽しめた。


    『アップルパイの午後』
    キュンとする。とどまることを知らない程にキュンとする終わり方。


    『映画漫想』
    観たことない映画ばかりで、俳優の名前も知らない人が殆どだけど、笑った。
    「快走王」の感想は、読んで吹いた。


    文句なしの星5つ。
    最高が星10だとしても、10をつけるだろう。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「私の生涯のバイブル決定。」
      川崎賢子の「尾崎翠砂丘の彼方へ」(岩波書店)は読まれましたか、面白いですヨ。。。
      「私の生涯のバイブル決定。」
      川崎賢子の「尾崎翠砂丘の彼方へ」(岩波書店)は読まれましたか、面白いですヨ。。。
      2014/04/25
  • 上巻からこちら、食べる描写、食べるための準備をする描写に何か隠微な美しさがある気がする。買い物だったり、台所の景色だったり。「第七官界彷徨」の印象を引きずってそう見えるのか(三五郎とお隣さんのは、町子にとって二重の失恋だったと思ってる)、あるいは本当にそうなのか。霞を吸っていのちをつなげたら、と思うのも本当でありつつ、そうはいかない実生活の生きる行為を尊んでいた人なのかもしれない。そんなわけで「新秋名果」の爽やかさ、瑞々しさがとても好き。
    ほの甘い哀しみの香る「悲しみの頃」、より澄明で純度の高い「悲しみを求める心」も良かった。そして追憶の初恋の物語「花束」。乙女心のときめきに、追憶の切ない甘さと結びの美しさがぴたりとはまってたまらない。少女小説「空気草履」「露の珠」「頸飾をたずねて」のひたむきで幻想性豊かな味わいも素敵。
    一番の目玉と目していた「琉璃玉の耳輪」はバリバリのエンターテインメント性が光る。女性陣のエネルギッシュなことおびただしく、上流は伯爵家から下流はアヘンの燻る貧民窟まで、女性探偵を主軸に自由な跳梁で魅せてくれる。家族もと通りひとつになって幸せに暮らしました、なんてなるわけないのも道理だった。姉二人がたくましい女傑ぶりで自ら幸せになることを願ってやまない。津原泰水版も読まねば。

  • 喧しいことは言うまい。「露の珠」「少女(おとめ)ララよ」がとくに好き。尾崎翠の、頭痛と、強い絡みつくような文学への恋慕と、飲みくだしたあとのうすい、青にも緑にも感ぜられるひかり。

  • 2002-12-00

  • 私は「悲しみの頃」が一番好き。

  • 2013/08/21に紹介された本

  • 「青いくし」「あさ」「春の短文集」等、一ページにも満たないお話だけれども、ひどく印象に残る短編。「悲しみの頃」「悲しみを求める心」は、書き出しが素敵。「空気草履」「露の珠」等の少女小説は、今読んでも勿論凄く面白いし胸がときめくけれども、これと小学生の頃に出会っていたら……とも思った。「アップルパイの午後」は、言葉一つ一つが詩的。「無風帯から」は大好きで何度も読み返しているのだけれども、未だに理解が追いつかない……映画評論が沢山あったけれども、どれもこれも観たことの無い作品ばかり、知らない俳優ばかりで、調べ調べ読んだ。映画も是非観たい。
    「花束」の雰囲気が、甘すぎないんだけれども胸にぐっとくる。こういうのだったら、恋愛小説も読める。

    悲しみ。苔。溜息。沈黙。

  • 250 みちくさ

  • 小説が中心だった上巻に対し、映画批評やエッセイも含めた下巻。
    尾崎翠はやはり女性目線の主人公がしっくりくるな…と「無風帯から」を読んで思った。
    なんといっても「アップルパイの午後」が一番。やかましい兄妹喧嘩のはしばしに、たまらない表現が噴出している。そして…ラスト!アップルパイが食べたくなる。
    恋を崇め、頭が雲を突き抜けちゃっているような女の子の世界は、読めば読むほど他に似たものがなくて、面白いなぁ~
    しかし、少し毛色の違う「あさ」と「悲しみを求める心」も好き。清涼感が満ちていて、晩秋の早朝を思わせる。少し寂しいのだが、知らず知らず口元が微笑してしまう感じ。
    「瑠璃色の耳輪」もわくわくして面白かった!

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著者プロフィール

1896年鳥取生。女学校時代投稿を始め、故郷で代用教員の後上京。日本女子大在学中「無風帯から」、中退後「第七官界彷徨」等を発表。32年、病のため帰郷し音信を絶つ。のちに再発見されたが執筆を固辞。71年死去

「2013年 『琉璃玉の耳輪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

尾崎翠の作品

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