地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか? (ちくま新書 853)
- 筑摩書房 (2010年7月7日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480065629
感想・レビュー・書評
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「地域再生」という言葉が一人歩きしている昨今ですが、この言葉にとって重要なのは 主語が誰か ということです。行政や土建業コンサルタントによる箱モノありきでの地域再生プランが上手くいかない理由について、アンチテーゼとともに痛快に明かされています。
この本で紹介されているのは、コンパクトシティやB級グルメ、駅前ショッピングモールの再開発といった、巷では成功事例としてもてはやされている地域再生ばかりです。しかし、その真の姿を深堀りしていくと、住民不在の建設・誘致や西欧の安易な模倣といった動きが目立ちます。
それは、一部の事業者だけが潤う私益のために他の住民が疎外されたり、住民のライフスタイルをまったく考慮せずに机上だけで議論されたプランが実行されるという、もっとも重要な地域住民の意向がまったく反映されないために失敗しているのです。
たとえばコンパクトシティは、お年寄りにやさしい街中ですべての用事が済むという街づくりがコンセプトですが、実際の中高年層は郊外に住みたいという欲求が強く、敢えて街中の喧噪に身を置きたい高齢者は少ないでしょう。
さらにコンパクトシティを志向しているにも係わらず、赤字の路面電車を廃止したり、寺社の門前に大型高層ビルのショッピングモールを建設したりといった住民ニーズをまったく無視した結果、失敗した事例が多数紹介されています。
同様にB級グルメについても、肝心の地元の若者のまったりと気心の知れた仲間と過ごしたいというニーズを無視して価格不明瞭、デートに使えない雰囲気の地場産業応援の店を展開しても、オヤジ目線の押しつけでしかありません。
そのような前提に立った著者の3つの提言に関しては、地域再生を担う者にとって傾聴に値します。縦割りの個別最適ではなく、地域社会全体での全体最適で見た場合のそれぞれのセクターの役割について、いろいろと考えるきっかけを与えてくれる良書です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
地域再生の「本当の成功事例」と「専門家のプロパガンダとしての成功事例」を具体的な事例を取り上げながら解説しています。とても読みやすく、「スローフード」や「コンパクトシティ」など、地域再生を語る上で基本的な知識が理解できます。
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地域再生の裏話をわかりやすく解説してくれていた。建築系のやつらは、ハードをつくれば成功と思っているというのは、言い過ぎな面もあるが、概ねその通りのようにも感じた。今後は建築系の専門家とまちづくり系の専門家の距離が近くなって欲しいと思う。
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地域再生プランナーの久繁さんの本。
中期的に同じよーなことに携わりたいと思っているので、拝読した。
個人的に「地域再生〜」とかに疑問を持っていた
「上っ面なアンケートをまとめて政策をすすめても」
「箱物つくればいいってもんじゃない」
「地域ブランド品は製造元しか儲かっていない」
等々の問題点を、直球で指摘しており胸が透く思いがした。
そして、
地元に根ざしたモノを生かして、住民の生活に利する形にし、全体を盛り上げていく事を掲げるスローシティ構想は、
説得力があった。
久繁さんと同じロジックではあるが、
どことはあまり言えませんけど、B級グルメで盛り上がっても、
地元の人は盛り上がっていない矛盾をずっと感じている。
対案なき批判はただの文句だから、もっといろいろ吸収しないとね。 -
少々語り口は行政マンにはきつく感じられる。しかし、「おっしゃるとおりだな」と思わなければ、公務員と言う世界に馴染んでしまったことになるような気がする。特に、ジブンは外部から入った「中途採用者」なので、いつまでも行政を俯瞰して見られる視点を持ち合わせていないといけないように思う。その気持ちを忘れないようにしないといけないと思いながら、気になるフレーズを数多く引用してみた。
課題の提起まではしっかりとしているし、課題解決の方向性(ビジョン)も明確に示しているが、そこから先(政策形成というべきか)はいまひとつぼんやりしている。ビジョンをどのように政策形成に反映させていくか、そのための具体的なアイディアは記されていない。そこは考えろ!!と言うところなのかもしれないが、特に、住民ニーズを把握するための手法(具体的にはアンケート調査)は消費者の深層心理を読み解く「インサイト」のような考え方を盛り込むことが必要なのかもしれない。どうしたら多くの方の生の声を集めることができるのか、非常に大きな命題だ。 -
衰退する地方商店街についての評価、提言。ハコモノ建設まずありきな再生計画を糾弾する。人々の交流をキーワードに、消費者の目線に立った計画を提言。B級グルメ、スポーツクラブ、車より人が優先される、など。
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★ナイーブな大学生のリポート?★ハード偏重、行政主導のまちづくりに対する異議申し立て。供給者(老人)ではなく消費者(若者)の視線で、徳島県上勝町の「葉っぱビジネス」のような成功事例の模倣は容易ではない(住民が持続的に収穫し、市場に持続的に買ってもらうソフトがカギ)、といった指摘は的を射ているが、全体としてあまりに粗い。
ハードを先導する「土建工学者」(あまりに耳慣れない言葉)に対する憤りは分かる。なんとかホールといった、あまりにひどい中心市街地の再開発も多い。だが、そんなのはもう分かっていることではないのか。世の中はもう次のステップに(随分前から)移っているだろう。それともこの段階の話をまだしなければならないのなら悲しすぎる。
まず、仮想敵に仕立て上げた専門家が2流すぎる。盛んにあげつらう「都市工学の専門家が推奨する『住みよい街ベスト50』」なんて本はそもそも聞いたことがない。著者の勤務先の財団法人のトップのような一線級を批判すれば良いのになぜしないのか。彼らはそこまでバカではないから勝負できないのか。合理的なIBMのマーケッターだった著者が、駅前のいこいの店を経営していた義母の「地域愛」にほだされて転職したようだが、振れ幅が大きすぎて数字を知らない大学生のような論調になってしまった。いまさら「公益」や「愛」を前面に押し出されても‥。
以下に気付いた点
・コンパクトシティは駅前を集中して開発するように書くが、見当違いだろう。山間部まで社会インフラを整備するコストが維持できないので、中心部に住んでくれというだけ。これを箱モノ建設につなげる曲解はあるが、それはまた別の話。
・「市民の地域愛」の例として新潟のサッカー・アルビレックスを取り上げる。オーナー企業は、チームの人気が高まり地域愛が高まったところで、日本一高い専門学校進学率を踏まえて専門学校をつくり街中に若者を呼んだ、と説明する。これは全く逆。社長(オーナー企業はない)はもともと専門学校の経営者で、サッカー熱の前から学校をたくさんつくっている。学校の建設とサッカーチームの歴史を比べれば一目瞭然。それも地域の外から若者を呼ぶのが目的。あまりにひどい後付けの説明だ。
・文化を知らない「土建工学者」を批判する例として、磯崎新を持ち出し「マスタープラン」の不毛さを語らせる。これは一見その通りだが、磯崎は「地域愛」のような甘い言葉は絶対に持ち出さない。シニカルな立場を貫きつつ供給者でい続ける高度な戦略家に、まんまと騙されているよう。
・久留米市の焼鳥屋がどれだけ成果を挙げているかはしらないが、昼に子供の交流の場にするのは興味深い。著者が勧める、商店街の空き店舗での「日替わり」チャレンジショップも、考えとしては面白い。
・カーブスのような女性専用フィットネスクラブに感激し、人を集める戦略的赤字施設を作るべきだと主張する。あれはむしろ商圏の小さいエリアにゲリラ的に存在するもので、中心市街地には不向きでは。
・商店街の所有と経営の分離は確かに必要。商店街を「物語消費の場」(「消費」でいいのかという議論はまた別に)として再興し、オーナーが風俗店に貸すのをためらわせるのは、ややナイーブでは。良いソフト対策は思いつかないが、相続税の基準を変えて空き店舗や風俗店は高税率をかけるようにすべきだろう。
・ないものねだりではなく、あるものを生かす。それもグローバルな視点で。 -
地域再生のために
地方行政や土建業者が行う
大型商業施設設置などの取り組みが
地域再生に繋がらないということを切り口に、
地域再生・活性に本当に必要なもの・取り組みを
わかりやすく述べている。
そのうえで、地域が取り組むべき姿を
「7つのビジョン」としてまとめている。
「私益より公益」
「経済利益より人との交流」
「立身出世より対等で心地よい交流」
「器より市民が先に尊重される地域づくり」
「市民の地域愛」
「交流を促すスローフード」
「心の拠り所となるスポーツクラブ、居場所」
この「7つのビジョン」からも、
地域活性の成否を分ける分岐点において
"人"がとても大きな要因なることが感じられた。
地方再生・活性化に興味がある人を始め、
地方の中小企業や行政で働いている人にも
非常に参考になるののでお薦めの一冊。