第一次世界大戦 (ちくま新書 1082)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480067869

感想・レビュー・書評

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  • 第2次と比較すると日本ではあまり注目されることのない第1次世界大戦。しかし、歴史の中の位置付けとしては、近代から現代への転換点として認められているとか。

    本書では以下の変化がこの大戦によってもたらされたとしている。

    (1) ヨーロッパ中心主義的世界から多元世界へ
    国際連盟の成立。
    (2) 帝国から国民国家へ
    ア オーストリア、ロシア、オスマンなどの帝国が解体と、新興国民国家の成立。
    民族運動の指導者たちは大戦中兵士として動員されたことで、ヨーロッパで見聞を深めることができた。
    イ 戦死者墓地、慰霊祭、大戦記念日を通した被害意識の共有。
    (3) 公的領域・政治への国民参加。

  • 200数ページと分量は少ないがWW1の経緯と歴史の中での位置づけなど最新の学説を紹介しつつ、丁寧に抑えられていて、分かりやすかったです。

    せっかくなので新書ではなく、分量の多いハードカバーで読んでみたかったかなと思いました。

  • よく知らなかった第一次世界大戦について、背景、人物、意義など様々な観点から知ることができた。戦闘そのものだけでなく、政治的側面や銃後の面にも言及、多面的に理解できた。関連書も読んでみたい。

  • 第一次世界大戦の概要とそれが世界に与えた影響。
    日本ではあまりよく知られていない第一次世界大戦について百年後に書かれた本。
    緒戦に今までにない量の砲撃と大殺戮が行われていたことや物量戦に移行してどう戦時経済体制、総力戦体制が構築されたかや、戦前から戦争終結に至るまでの各国の外交や、前線での兵士の話なんかも抑えてます。
    また、第一次世界大戦の後に社会が変わり、列強体制から対等な国家から成る国際関係が生まれ、国際社会の構成単位が帝国から国民国家に移行。総力戦体制で国民各層に国家への協力を強制したことから、公的領域へ国民が参加するようになったと。

  • もちろん不勉強が原因なのだけど、学校で教わる「オーストリア皇太子がセルビアの青年に暗殺され云々」のイメージが強すぎるあまり、その意義が今ひとつ理解しにくい第一次世界大戦。あらためてこういった本を読むと、バルカン半島の紛争を当時のヨーロッパ列強のヘゲモニー維持のための論理にすりかえることで始まったこの大戦で、一体何が変わったのか、そして現在まで何が変わっていないのかがよく理解できる。砲弾の大量製造を支える工業化を推し進めるべく国家の社会への介入傾向が強まったこと、アメリカが民主主義擁護の旗印の下に参戦し列強中心の価値観を組み替えたことなどは、この戦争を契機として新しく起った事態でありその後の世界の姿を大きく変えた。その一方で、莫大な戦費は公債発行で賄い、その償還費用は「勝ったら敵に払わせる」という理屈で国民の不満を押さえ込んだために講和のタイミングが遅れたことや、その抑圧された不満が国内少数民族等の排除に向かったことなどは、今後新たな世界大戦が起こった場合でも変わらず想定される事態だろう。

    それにしてもヨーロッパという大陸の民族と国境の配置の複雑さを改めて思い知らされる。バルカン諸国を中心とする多くの国に、国境設置時に隣接する国や地域から取り残された別の帰属意識を持つ民族がおり、彼らの民族意識を利用する形で列強間で駆け引きが交わされるのだが、その利害が極めて複雑に絡み合っていることが第一次世界大戦を一言で表すことを困難にしているのではと思った。民族と国境の配置のズレが現在も多くの問題の契機となり得ることはスコットランドやカタルーニャの独立運動を見ても明らかだ。

    しかし本書で最も印象に残ったのは淡々と記述される軍事作戦で死傷する人間の数の多さ。何万人という死者の単位に感覚が麻痺しそうになるが、下手をすると一つの軍事作戦で日本の地方都市規模の人口が丸々死んでいたりするのだ。改めて戦争というのは馬鹿みたいに人が死ぬことなのだ、ということを思い知らされた。

  • 第一次世界大戦の開始はオーストリア帝国の皇太子がセルビアの青年に殺害されたことがきっかけだ。その事件からちょうど100年の今年、第一次大戦を見直してみる。著者はドイツ史が専門なので、本書は主にドイツから見た戦史になっている。

    日本はほとんど関わらず、ヒトラーのようなカリスマも見当たらず、第二次大戦に比べるとイマイチ印象の薄い第一次世界大戦。とはいえ、人類初の「世界大戦」だ。5年もの長期戦で、非軍人にも多くの被害が発生し、国家財政のほとんどを戦争につぎ込むというかつてない経験を人類は味わった。以後の世界を変えた点では第二次大戦よりも影響は大きかったはずだ。

    そもそもの発端はバルカン半島におけるオーストリアとセルビアの小競合い。それだけで終わるはずだった地域紛争に両国を応援するドイツとロシアが介入。あれよあれよとフランス、イギリス、イタリア、アメリカと加わり、欧州全土に戦火が拡がる。誰も予想しなかったことだ。だからこそ、その経験と反省を活かし、次の大戦を防ぐべきだった。

    それができなかった理由の一つに、ベルサイユで決められた戦後処理が徹底されなかったことがある。戦争は始めることよりも終わらせることが難しい。そして、もっと難しいのは終わった後の片付けだ。

  • 当たり。政治、軍事戦略、現場などに偏りすぎることもなく、噛み砕きすぎず学術的すぎずもちろんイデオロギー色もなく、各戦線もバランス良く。日本における第一次世界大戦と第二次世界大戦の関心のバランスは、まあ当然ではあるものの非常に偏っておる。

  • 馴染みの薄い事実が多く大変興味がそそられる。
    開戦のきっかけは第三次バルカン戦争だったこと。多民族国家の帝国であるトルコとオーストリアの衰退、そしてネーションステートへの欲求を前提に理解しないと「火薬庫」を語ることができない。
    ベルサイユ条約が語られるほどドイツに極端に不利ではなく、とっても不利…程度だったこと。後のヒトラーの台頭が極端に不利説を後押ししたのかもしれない。
    そして、第一次大戦を近代と現代の結節点として捉えること。日本では1945年を政治的変化をもとに現代の始点としていることが多いと思うが、それはイデオロギー的に過ぎるのではないか。世界史的には本書で述べる通り第一次大戦が現代への契機であり、総力戦を前提とした銃後の社会保障の考え方、女性の社会進出、大衆社会の出現、現代に連なる様々な社会制度や理念や哲学。そういったものが1920年代から30年代にかけて影響を増した。
    それは日本史的に見た場合でも同じであり、もっと語らなくてはならない内容であると思う。

  • 初めて第一次世界大戦関連の本を読んだけど文章も読みやすく、とても良かった。

  • 本書は、第一次世界大戦の歴史的経緯をこれまでに積み重ねられた多様な研究成果をもとに、検討していく本である。比較的コンパクトであるが、要点はしっかり抑えられており、非常によくまとめられている通史だといえる。
    著者が指摘しているように、日本の教科書では第二次世界大戦と比べ第一次世界大戦に関する記述は少なく、度外視されがちである。実際、日本は青島要塞攻略や地中海において連合軍の艦隊を護衛した程度しか関わっておらず、主戦場はやはりヨーロッパであった。
    しかし、この大戦によって、女性の幅広い社会進出や参政権の拡大、新型殺戮兵器(毒ガス、航空機、戦車など)の登場、民族自決権に基づく国民国家の普遍化などがもたらされ、その後の大規模な戦争や社会のあり方が大幅に変化した。当然日本もそうした影響を受けていた。つまり、第一次世界大戦は歴史における大きな転換点であり、現代に生きる我々としても無視できない出来事だといえる。

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著者プロフィール

木村靖二 (きむら・せいじ)
1943年、東京生まれ。東京大学文学部西洋史学科卒業。東京大学大学院博士課程中退、同大学助手、ミュンヘン大学留学、茨城大学教養学部講師、同助教授、立教大学文学部助教授、同教授を経て、東京大学大学院人文社会系研究科教授。現在、東京大学名誉教授。専門、西洋近現代史・ドイツ史。著書に『二つの世界大戦』(山川出版社世界史リブレット)、『第一次世界大戦』(ちくま新書)などがある。

「2022年 『兵士の革命 1918年ドイツ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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