HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)

  • 東京創元社
4.10
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  • Amazon.co.jp ・本 (393ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488016555

感想・レビュー・書評

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  • ラインハルト・ハイドリヒ暗殺のノンフィクション風フィクション.で,手法が少し変わっていて,書き手がそこらじゅうに登場する.それを斬新と見るかうるさいと見るかが評価の分かれ目だろう.私には少し作品の印象が散漫になったような気がして好みではなかった.

  • この斬新さにはっとした。小説でもない、ノンフィクションでもない。ナチ高官暗殺事件という史実についてのドキュメンタリーであり、それを書こうとする作家の自分語りであり、それらが交わる世界は作家の創作であり・・・ナチスものは数あれど、このアプローチは今までなかった。2013年のベスト入り決定。
    寡聞にしてこの事件について初めて知ったが、史実は凄惨だ。ナチスに占領されたチェコ、ユダヤ人の「最終処理」を手掛ける「野獣」たるハインリヒ。暗殺計画のもとイギリスから送り込まれるレジスタンスの青年たち。彼を支援する市井の人々。暗殺は危ういところで成功するが、数百人のナチに囲まれた激しい籠城戦の末、殺害され、水攻めにあい自害する。ナチスの報復により無実の人が住む村が丸ごと虐殺にあい、支援者親戚根こそぎ収容所に送られて殺される。
    語り手である「作者」は、悲劇的すぎる事実に圧倒され、青年たちと彼らを囲む人々のささやかな人生と勇敢な行いに心を打たれながら、極力感傷的な言葉や、想像による装飾的な表現を排除し、事実のみを述べようとする。頻繁な自分語りは、理不尽な悪に立ち向かう人間を誠実に表現しようとする作家の葛藤であり、それが読者の葛藤にもなる。その結果、客観的な表現を持って、事実と本質に限りなく肉薄している。

  • ラインハルト・ハイドリヒのことはよく知らなくて読んだ。引き込まれた。結局のところなぜこういう人物が形成されたのかは謎だけどそこを問う物語ではないのでそれは別によくて、

  • ギリギリと力の限り弓を引き絞る。放たれた矢は的に向かってゆっくりと確実に飛んでゆく。1942年5月27日午前10時過ぎ、プラハ郊外での出来事だった。歴史小説はどんなに資料を集めても虚構である。足りない部分は作者の想像で書くしかないからだ。著者は事実をありのままに記述しようと資料を集め、同じテーマの他の書籍を読み、映画を観る。これは歴史的事件の物語であると同時に物語る作者の物語でもあるのだ。著者はフランス人だがチェコを愛している。その愛が素晴らしい。虚構であればどんなにか結末を変えたかったことだろうか。

    「書くこと」をテーマにした作品は金井美恵子をはじめいくつか読んでいるが、ここまで物語とうまく合致した小説はないのではないだろうか。物語のクライマックスの表現(マトリックスのよう!)、サスペンスのようなドンデン返し(伏線はある)に手に汗を握った。バルガス=リョサも手放しで絶賛したという。翻訳もこなれていて読みやすかった。

    事件について世界史には出てこないので知らなかったし、ナチスについてもあまりにも知らなかったことに愕然とした。ラインハルト・ハイドリヒ、第三帝国でもっとも危険な男、プラハの死刑執行人、虐殺者、金髪の野獣、山羊、ユダヤ人ジース、鉄の心臓を持つ男、地獄の業火が創造した最悪のもの、女の子宮から生まれたもっとも残虐な男、ヒムラーの右腕、親衛隊のナンバーツー、国家保安部(RSHA)長官、突撃隊とゲシュタポの責任者、チェコの総督代理だった男。この男がホロコーストの元凶だったこと、ロンドンのチェコ亡命政府、レジスタンス。チェコ人とスロヴァキア人3人はチェコの英雄だ。

    作中に出てきた作品、ジョナサン・リテル『慈しみの女神たち』、フローベールの『サランボー』、サルトル『自由への道』、ユゴー『ノートルダム・ド・パリ』、クンデラ『笑いと忘却の書』、ジョルジュ・サンド 『ジャン・ジシュカ』、そして〈『慈しみの女神たち』は「ナチにおけるウエルベック」なのだ。〉

    〈僕はたえず、あの〈歴史〉の壁にぶちあたる。その壁には、見るからに手ごわそうな因果律という名の蔦が這いまわり、けっして留まることなく、さらに高く、さらに剣呑に生い茂っている。〉

    チャーチルの下院での発言は洞察力と偉大さにおいて傑出している。「われわれは全面的かつ絶対的な敗北を喫した」
    チャーチルの名を不朽のものにする交差配列語法「戦争か不名誉か、そのどちらかを選ばなければならない羽目になって、諸君は不名誉を選んだ。そして得るものは戦争なのだ」チェンバレンでなくチャーチルが首相だったら世界大戦はなかったかもしれない。

  • ごく短い断章で歴史上の人物についてぽつりぽつりと語られていく。さらに作者らしき青年の生活や思いも同時に語られていく。ネットサーフィンをしているかのように次々断章が現れては消えていくようであるが、次第に作者の熱く誠実な思いが命がけの青年達に重なりやがて読者である私達をも巻き込んでいく。独創的な素晴らしい小説であった。(アンチではあるが)フローベール、クンデラ、ウェルベックの流れをくみつつ圧巻の後半のリアリズムが見事であった。傑作である。そして同時に勇敢な兵士、名もなきレジスタンスの人々、多くの犠牲者を誠実に描く姿勢から真の尊敬や愛を作者に教わった。

  • いつかチェコに行ってみたい。

  • 作品の書かれ方が独特すぎて慣れるまで時間がかかった。最初は読み慣れないが、先へと読み進めるにつれて話の展開に引き込まれていく。リアルな緊張感を纏った小説。

  • ナチスドイツのゲシュタポ長官、ユダヤ人問題の最終的解決計画の実質的な推進者にして、"金髪の野獣""プラハの虐殺者"などと呼ばれたハイドリヒが、ロンドンに亡命したチェコ政府が送り込んだ2名の英雄・プラハのレジスタンスの固い結束によりに暗殺される物語。

    ヒトラーによる報復、報奨金目当ての1人の仲間の裏切りにもめげず、レジスタンスの献身的、利他的な行動に感動する。日本ではナショナリズムは悪い意味で使われがちだけれど、、

    また、今までの歴史小説にはないタッチ、ノンフィクションを極めようとする作者の想いが強く伝わる作品。

  •  2010年度ゴンクール賞最優秀新人賞、2014年度本屋大賞(翻訳小説部門)第1位の作品。タイトルはドイツ語の Himmlers Hirn heißt Heydrich(ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる)の頭文字4つから取ったもの。
     ストーリーは、かつてフリッツ・ラングとブレヒトが『死刑執行人もまた死す』(1943)で描いたナチのチェコ副総督にして実質的な支配者だった、ラインハルト・ハイドリヒ暗殺事件に取材している。しかし作者は、すでに何度も作品化されたこの題材を、いたずらに物語化しなかった。徹底して資料にあたり、同じテーマを扱った過去の作品を批判・批評しながら、「歴史小説を書く小説」という自己言及的なスタイルで貫徹させた。そうすることで作者は、過去に生きた人々の「声」と同時に、その「声」を探りあてていく時間、その「声」と出会えたことの静かな亢奮の双方を、小説の言葉に刻むことができた。
     物語化・英雄化の欲望に抗いながら史料と向き合うことで、侵入パラシュート部隊のメンバーの勇敢さと同時に、彼等を助けた人々がいたこと、彼等彼女らの肖像も歴史の中に刻みつけること。本作によって、小説というジャンルができることが、またひとつ付け加わったと感じられた。

  • 小説と史実の資料の間に立っている感覚。
    地図を片手に地名を確認しつつ、襲撃に挑んだ彼らの後ろで見ているような描写に引き込まれて緊張感を味わった。
    博物館にあるような資料や関連する映画、小説に対する著者の葛藤が、事件の流れと混ざって書かれているが、流れが細切れにされて現実に戻されたという不満は全くなく、一つの物語として最後まで没頭できた。

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