- Amazon.co.jp ・本 (393ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488016555
感想・レビュー・書評
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[2014.04.03]
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「死刑執行人」と怖れられたライハルト・ハイドリヒがナチス体制のなかで頭角を現わし、やがてプラハを拠点に牙を剝くに至る過程と、そのハイドリヒを暗殺するためにチェコの亡命政府からプラハへ送り込まれた二人のパラシュート部隊員が暗殺作戦を決行するに至る過程を、執拗なまでに綿密に確かめながら辿るとともに、そのようにして書くこと自体への問いを積み重ねていく特異な小説。読者を、歴史とは何か、それを描く小説とは何か、という問いに向き合わせながら、やがてハイドリヒ襲撃の場面に、さらにはパラシュート部隊員がその協力者たちとともに追い詰められていく場面に導いていく作者の手腕は見事と言うほかない。そうした場面の描写の緊迫感も特筆に値しよう。
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ゲシュタポ 長官ラインハルト ・ハイドリヒの暗殺事件を題材にした「歴史小説 」かつ「歴史」を「書く」とはどういうことなのか?と資料に埋もれながら作者が悪戦苦闘しつつ、ちょいちょい本編に顔を出す小説。正直なところ、ノンフィクションが苦手な身には読み始めかなり入りにくかった(本書で比較されている『冷血』も然程ぴんとこなかったクチ)。のだけれど。こういう「書き方」が可能なのか、と驚く。
フィクションとは、事実とは、歴史とは、歴史と小説は何が違うのか。といった様々な主題の変奏と作者の思い入れには胸うたれるものがあった。何より、ラスト数ページに。
タイトルの「HHhH」とは(わたしは「アッシュ・アッシュ・アッシュ・アッシュ」と読んだのだけど他に英語読み・独語読みも可能らしい)「Himmlers Hirn heißt Heydrich(ヒムラーの頭脳、すなわちハイドリヒ)」を表すそう。 -
若き現代の小説家の仕掛けた野心が、まんまと成功している現場に立ち会えたことは、言葉にならない悦びだ。
ロンドンのチェコスロバキア亡命政府が放つ起死回生の暗殺計画を追う。クビシュとガブチークの2人がパラシュート降下でプラハ郊外に降り立つ場面は、小説のページ数で云うと後半になる。それにいたる情報量たるや圧倒的。物語の主要人物の時空が、1942年5月のプラハへ加速度をつけて集まり重なってゆく小説描写は、見事。しかしこの小説が凡百と異なるのは、そこへ2008年の作家の時間が交差するところ。技術的な鮮やかさは読んで感じるしかない。 -
著者同様、自分もフィクションとノンフィクションの間を行き来しながら、プラハを少しずつ手にできた。核心となる物語が始まる手前で「ようやくわかりかけてきた。僕は今、基礎小説(アンフラ・ロマン)を書いているのだ」とローラン・ビネは書いている。
だからこそ、最後の舞台・教会の地下納骨堂の場面の「〈歴史〉だけが真の必然だ。どんな方向からでも読めるけれど、書き直すことはできない。」という一文から以後、涙が出続けた。
第一章に戻ってもう一度最後まで読み返す。「僕はこのヴィジョンを復元する試みもせずに、生涯それを引きずっていきたくないのだ」
人はなぜ、「小説」を書くようになったのか。その起源を発見したかのような気持ちにさせられた。にしても、書きたいものを書くとき、人はこんなにも幸せであれることを羨ましく思わされる本のうちの一冊。 -
古市憲寿みたいで(世界的に流行っているのか?)たまにうーんとなってしまうのだけど,端々で熱い。プラハを再訪せねば。
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ナチスの頭脳といわれたハイドリヒ暗殺のためにパラシュート部隊としてプラハへ送り込まれたチェコ人の青年二人と、ハイドリヒがヒトラーに認められ、暗殺されるまでを、細かな描写の積み上げて描いていく。
史実を積み上げたフィクションの世界。
ぐいぐいと引き込まれてゆく。 -
クライマックスの2章に至るまではしんどかったw
ただ、それだけに2章の爆発力がすごい。
それだけに読後に残る痛みがジワジワする。 -
文庫版が出たので読んでみた、表紙デザインも中身もとにかく良き!
ナチメンバーでたった一人暗殺に成功したハイドリヒ、その暗殺計画を描いた本書だが、歴史小説ではなくあくまでもローラン・ビネのこうであったのではないか、という視点からの描かれ方が面白い。ナチスとこの出来事に対する正確な理解のようなものを、ビネ自身が何度も繰り返し葛藤しながら求めていくその書き方も斬新で良かった。 -
実際に暗殺計画がどのように行われたのか、現代と当時を作者が橋渡しをするような読み物だなと思う。ハイドリヒを撃て!で史実については知っていたが、通りの名前、教会、ゲシュタポの本部などの場所が、現代的な目線で作者によって語られるために、場所をマップで調べながら読み進めた。WW2が終わったあと、冷戦下で東ドイツに抑圧され、プラハの春が弾圧され、冷戦の終わりを迎えて民主主義を勝ち取るチェコという国の歴史に、偉大さのようなものを感じざるを得ない。