真実の10メートル手前

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488027568

感想・レビュー・書評

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  • 記者・太刀洗万智の仕事を描く、6作品。
    それぞれ別の人物の目を通して、万智の仕事や人となりを浮き彫りにする。

    推理の冴えはもちろん素晴しいが、万智が、スクープや手柄にこだわる、一般的な記者のイメージとは一線を画している点はいくつかある。

    ・聞き込み相手の心情に寄り添っていること。
    ・質問が意表をついていること。
    ・そして、矛盾しているようだが、質問が核心をついているという事。
    この、「質問」に関することは、綿密な調査とひらめき…そして、取材対象の心情に深く入り込んでいるからこそ思いつけるのだと思う。

    しかし、万智自身が一番に心を砕いているのは、そうやって得た「情報」の取り扱いである。
    世間に対してどういう形で公表するか、どう理解してもらうのがいいのか、あるいは公表しないのか。
    彼女の、常に謙虚であり思慮深い姿が好もしい。

    「あまり愉快なことにはならないと思いますよ」という口癖と、何でも出てくるドラ●モンのポケットのようなバッグはご愛嬌。

    『真実の10メートル手前』
    ベンチャー企業が経営破たん。
    マスコミの露出も高かった、美人広報担当が行方不明。
    後輩のカメラマン・藤沢吉成が相棒。

    『正義感』
    ホームから人が落ち、電車にひかれる人身事故。
    びっくりするような万智のやりかた。
    相棒は、元同級生のあの人?

    『恋累心中』
    高校生男女の心中事件。
    記者・都留正毅に、現地の取材コーディネーターとして万智がつけられる。
    最初はやりにくさを感じていた都留だが…
    重く哀しい、そして読みごたえのある話。

    『名を刻む死』
    60代男性の孤独死と、第一発見者の中学生。
    優秀だが優し過ぎる中学生に、あえて鬼になることを示す万智がカッコいい。

    『ナイフを失われた思い出の中に』
    「16歳の少年が3歳の女児を刺殺した」という事件を万智がどう扱うか。
    妹のかつての友人を訪ねてきた、海外国籍の青年と、報道の在り方について語る。

    『綱渡りの成功例』
    台風による水害と土砂崩れで、3軒の家が孤立した。
    土砂に埋もれなかった70代の夫妻のみが多くの人手と時間を掛けて救出される。
    夫妻は、必要以上に申し訳なさそうにしていた。
    地元の、万智の後輩である大庭と。

  • 2017年の「このミステリーがすごい!」3位
    2年連続で「このミス」1位だった米澤さん。
    今作は前作の「王とサーカス」のフリージャーナリスト太刀洗万智を軸にした短編集。
    ●収録作●
    「真実の10メートル手前」「正義漢」「恋累心中」「名を刻む死」「ナイフを失われた思い出の中に」「綱渡りの成功例」

    前作では重たい内容だったけど、今回は身近な事件をクローズアップしたものが多く読みやすかった。
    どの話もテーマと結論がまとまっていて面白かったけど、中でも「名を刻む死」が良かった。
    一人暮らしの老人の孤独死を発見した少年のもとに太刀洗が訪れる。
    「いつかこんなことになるんじゃないかと思っていました」という言葉を飲み込む少年が抱えていた真実とは。
    太刀洗万智が少年にかけるラストの台詞が印象深い。
    真相を暴かれたことと、太刀洗の言葉で、少年の心が軽くなるといいのだけど。
    あと、普段あまり感情を表に出さないクールな太刀洗さんだけど、少年の推論を聞いた後に年齢を再確認、「ちょっといいね」という台詞に太刀洗の緩みというか、気を張っていない姿が垣間見えてうれしくなった。

    またこのシリーズ読みたいな。

  • フリージャーナリスト太刀洗万智の短編集。
    太刀洗目線の話が少ないので、とてもクールな印象のキャラクター。
    まだ読んでいない「王とサーカス」も読んでみます。

  • 米澤さんの本は『満願』に次いで2冊目。

    ジャーナリスト太刀洗真智が事件を追う短編集。
    表題作『真実の10メートル手前』のみ東洋新聞所属だが、後の5編ではフリーになっている。
    フリージャーナリストとしてとしての独自の視点が面白い。

  • 経営破綻したベンチャー企業の広告塔だった社長の妹を追って山梨へ向かう太刀洗。
    人身事故のホームで見かけた厚顔な取材記者。
    三重県の高校生の心中事件。
    二人が別々の場所で見つかったのは何故なのか。

    この話がどうつながっていくの!と読み進めて、ここであれ?と思う。
    なんと短編集だった。
    太刀洗が日本各地で、高校時代の友人の兄と、取材で出会った中学生と、大学の後輩と、事件を取材しながら真相にたどり着く。
    このタイトルが秀逸。
    まさに真実のちょっと手前に太刀洗は立っている。その先に踏み出すのかどうなのか。
    このシリーズは報道についていつも考えさせるね。

  • 「高校生の心中事件。二人が死んだ場所の名をとって、それは恋累心中と 呼ばれた。週刊深層編集部の都留は、フリージャーナリストの太刀洗と 合流して取材を開始するが、徐々に事件の有り様に違和感を覚え始める……。太刀洗はなにを考えているのか? 滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執――己の身に痛みを引き受けながら、それらを直視するジャーナリスト、太刀洗万智の活動記録。『王とサーカス』後の6編を収録する垂涎の作品集。」


    『さよなら妖精』『王とサーカス』に続く作品。
    前作と同じく、ジャーナリズムとは?を深く考えさせられるのだけれど、こちらの作品は、報道の手前にある、深層部分の真実とは?プライバシーを暴くこと、事実や真実を包み隠さず伝えることは本当に正しいのか?等、「伝える側の悲哀」を描いているように感じた。
    時として、「本当の事」が「正しい」のではないんだよなー。
    このシリーズは、主人公の大刀洗万智の成長譚とも取れるので、続いてくれるとうれしい。自分も色々考えさせられる。

  • 経営破綻したベンチャー企業の経営者兄妹が、詐欺の疑いをかけられた後、行方不明になった。
    経営には関わっていない末の妹の弓美は、以前取材で知り合った記者太刀洗万智に、姉の捜索を依頼してきた。
    手がかりは、姉からかかってきた電話の通話記録だけだった。

    様々な事件に関わった人間が、太刀洗万智の取材によって真実を突き付けられる短編集。

  • フリーの雑誌記者、大刀洗万智の連作短編集。

    新聞記者だった時代の話が「真実の10メートル手前」
    それ以外は雑誌記者になってからの話。

    雑誌記者という立場で、凛として事件の核心に迫っていく万智。突き止めた真実はどれも切なく重い。

    特に高校生の心中の真実を暴く「恋累心中」、3歳の姪を刺殺したと主張する若い叔父の話「ナイフを失われた思い出の中に」はやるせなかった。

  • 理路整然と推理が構築され、心地イイほどの解決が論じられる。穂信さんは『満願』の時から思っていたけれど短編の名手だ。
    ただ、切ないことにどの話も後味が良くない。人の生き死にに関して語られるせいなのかもしれないけれど、どれもこれも真実の痛みが鋭く胸にせまる。(むしろ知らなければ良かったというのも)
    太刀洗万智の閃きが冴え渡れば渡るほど人は救われるのか、それとも?

  • 記者として真実を追い真実を伝えること。その意味、影響と責任の重さを常に自分に問いかける太刀洗万智の物語、6編。
    謎解きは非常にスマートだが、真実に迫ることが必ずしも快感には繋がらない、むしろ無常感や現実の重みを感じさせながら、しみじみとした余韻を残す作風。
    暴かねばならない真実もあれば、必ずしも暴く必要のない真実もある。真実にたどり着くことが人よりも得意な太刀洗は、自分が暴き伝える真実に常に真摯に向かい合い、伝え方一つで傷つく人も喜ぶ人もいることに自覚的すぎる。そんなに張り詰めては、いつか潰れてしまわないのかと心配になる。

    「恋累心中」は、ミステリとしては今回一番と思う。事件の様相が鮮やかに反転する気持ち良さとショッキングな真相。センセーショナルな高校生の心中事件が予想もつかないところから真の姿を表す。一番驚くのはその理由。悲しい。

    「名を刻む死」にはぞくぞくした。これはまさに知らなくてもよい真実だったと思う。語り手の高校生がよいアクセントになっている。

    「ナイフは失われた思い出の中に」は今回一番盛り上がる作品。三歳の姪を高校生がナイフで刺し殺すという凄惨な事件。容疑者である高校生の手記から、隠された真実を読み解いていく。物語に重ねた複数のテーマがきれいにまとまっているのは本当に上手いと思います。また、事件の見え方が少しずつ変わっていくのと同時に、語り手が太刀洗万智という人物を解き明かしていく構造が面白い。次の「綱渡りの成功例」と合わせて、大刀洗万智の感じる報道の歪みと、彼女が報道の中で自分に課す役割や目指すあり方が少しだけ見えてくる。『さよなら妖精』を読んでいればなお楽しめる部分もあるが、読んでなくても、楽しめる。

    自分の仕事、自らに課す役割、誇りというものについて考えさせられる。

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著者プロフィール

1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で「角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞」(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。11年『折れた竜骨』で「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で「山本周五郎賞」を受賞。21年『黒牢城』で「山田風太郎賞」、22年に「直木賞」を受賞する。23年『可燃物』で、「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」でそれぞれ国内部門1位を獲得し、ミステリーランキング三冠を達成する。

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