- Amazon.co.jp ・本 (436ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488111014
感想・レビュー・書評
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休暇でマス釣りを楽しむ予定だったロンドン警視庁の名刑事マーク・ブレンドンは美しい女性と擦れ違い心を奪われる。そしてその日村で一人の男が失踪、現場からは血痕が見つかる。そして失踪した男は、マーク・ブレンドンが心奪われた女性の夫だった。
前半はマーク・ブレンドンが捜査の指揮を執るも事件の真相はつかめず、後半から真の探偵であるピーター・ガンズが登場するという構成になっています。
原書で発刊されたのは今からおよそ90年前となる1922年。そのためトリックや犯人についてはある程度ミステリを読み慣れた人なら早い段階で勘付く人も多いと思います。
犯人自体あまり大したことないというか、ブレンドンが捜査してなかったらさっさと解決できたのではないか、と思わなくもありません…。たぶん当時はこういう展開が斬新だったと思うのですが今読むと正直ブレンドンの捜査や思い込みは違和感アリアリです…。
なのでブレンドンに「そこもっと突っ込めよ!」と思わずにいられませんでした(苦笑)。ピーター・ガンズの采配にしても「そこやらせたらだめだろ…」と突っ込まずにはいられず…
ただ黄金期の本格古典ミステリの雰囲気が十二分に感じられました。改めて古典ミステリって読むタイミングが大事なんだな、と思った作品です。読みなれてくるほど古典作品が素直に楽しめなくなってしまうのが、ミステリファンの辛いところです…詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
再読。内容的に隔たりはあるが、犯人指摘の瞬間を読んでいると綾辻行人『十角館の殺人』のあの名台詞「○○○・○○○です」を思い出す。世界がグラリと揺れるその一点に、それまでの文章凡てが集約されるあの感覚。まあ全体的に古臭いのは否めませんが。結局のところ「女は怖い」……この小説を一言で表すならこれに尽きる感じ。
あと、ここでも顔を出すかニーチェよ……まるで犯罪者の必須事項であるかのよう。1922年、まだナチス台頭前なのよ。 -
あまり派手さがないので物足りないと感じる人もいるかもしれませんが、しっかりとした作品なので古典や純文学が好きな人にはおすすめです。
自然の風景の描写がとても素敵です。
それと恋愛的な描写もかなり多くてそちらも楽しめます。
私は事件よりそっちの方が気になってました。 -
11/5開始。文学的描写多し。<br>
/12継続中。/16まだ読んでる。
11/30あれれ、全然読んでない。
3/5やっと読んだ。今まで読んだところも読み直して。「文学作品」としての「本格」。探偵小説/本格/文学… -
描写ががっつりあって、物語の進捗が遅め。なので、ちょっと焦れつつ…でも最後まで読めてしまう。
筆致がしっかりしているからなのか? -
図書館で。
正直、若くて美人に弱すぎじゃないか、警部。後書きにもあったけれども、擦れてしまった今どきの人間だと、どう考えてもコイツは怪しいだろうって所を全然疑わないマークさんが歯がゆくてならない。美人の言う全てを頭から信じ込んでる事にびっくりだし、そんな彼に大事な友人任せるなよ、老探偵よ…としか思えないというか。せめて叔父さんを親友の元に連れ出しておけば良かったのに…
という訳でマークは徹頭徹尾ピエロだし、犯罪者は増長してるしで読後感はあまりスカッとしないなぁなんて思いながら読み終えました。 -
3+
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スコットランドヤードの敏腕刑事が休暇中の旅先で恋に落ちる。その女性は人妻であったが、彼女の夫は彼女の叔父に殺され、その叔父ロバートは行方しれず。かくして指名手配になったロバートが各地で現れるという報告が入るが、どうしても捕まえることは出来ない。そのうち、新たにピーター・ガンズなる探偵が登場して・・・というのが本書のあらすじである。
本作は乱歩が当時海外推理小説十傑に値する、と過大なる絶賛をされ、日本に紹介された作品。このフィルポッツというミステリプロパーではない作家の作品が世紀を越えて、今なお文庫で書店に行けば手に入る状況は多分にこの大乱歩の賞賛の影響が大きいに違いない。
そういう前知識があると、本書は多分肩透かしを食らうだろう。ただ、1922年という時代性を考えれば、本作はミスディレクションによる意外性と恋愛とミステリの融合を目指した画期的な作品であると云えよう。
当時イギリスで文豪として名を馳せていたフィルポッツが自身初のミステリを発表したのは60の手前と、時代的に云えば、晩年に差し掛かった頃になる。その動機についてはよく判らないが、やはりミステリ発祥の地イギリスならば、作家たる者、死ぬ前に一度はミステリを物してみたいという風潮があったのかもしれない。
で、文豪の名に恥じず、その描写力は実に絵画的。主人公の刑事が初めて事件の渦中の赤毛の女性と出逢う、夕日と彼女の赤毛が織り成すコントラストの描写など、目に浮かぶようだった。実際このシーンは本作でも象徴的なシーンとして捉えられ、私が持っている創元推理文庫版の表紙絵はそのシーンを切り取った物になっている。
イギリス中を逃げ回っては連続殺人を起こす怪男児ロバートの姿が伝聞によって伝えられるがその様子も頭の中で映像が浮かぶほどだった。特にこのロバートのまとう雰囲気は私がこの本を読んだ当時にまだ流行っていた『北斗の拳』に出てくるような不遜で怪力を誇る大男を連想させ、なんとも恐ろしい殺人鬼だと思ったものだ。訳が古く、かなり読みにくい感じがした。それでもなお、情景が目に浮かぶのだから、この作家の描写力はかなり高い。十分に本作を楽しむためにも、一刻も早い改訳を望む。
そして主人公の刑事は正に本作では道化役。ロバートが引き起こす惨事に常に後手後手に回り、全くと云っていいほどいいところがない。満を持して現れるピーター・ガンズなる探偵が正に全能の神の如く、この事件を解決するのである。
そしてこのガンズによって明かされる真相は実に意外。ミステリを読みなれた人ならば、予想の範疇であろうが、そうでない人にとってはなかなかに楽しめるものだろう。先に述べたが本作の主眼はミスディレクションの妙にある。これを成立させるために人妻に一目惚れする刑事を設定したと云っていいだろう。それまでの本格推理小説でかみ合うことのなかった論理性と叙情性を上手くブレンドし、それをトリックに繋げた作品だ。今で云うならば東野ミステリによく見られる仕掛けだと云えるし、その原型と云ってもいいのではないだろうか。
さて、件の乱歩、よほどこの作品を気に入ったのだろう、自作で本歌取りというか、まんま模倣をして1作作ってしまっている。これはもう人物と舞台設定を入れ替えただけといえるぐらいの出来で、しかも乱歩の代表作の1つとまでなってしまっている。ネタバレ防止のために敢えてその作品の名前を挙げないが、これはミステリ通にはかなり有名な話なので、恐らく大概の方がご存知だろう。それでもそれが茶目っ気だと許されるのも乱歩だからなのだろうけど。 -
一年以上の月日を費やしてイタリアのコモ湖畔におこる三重四重の奇怪なる殺人事件が犯人の脳髄に描かれた精密なる「犯罪設計図」にもとづいて、一分一厘の狂いもなく着実冷静に執行されてゆく