華人資本の政治経済学: 土着化とボーダレスの間で

著者 :
  • 東洋経済新報社
3.00
  • (0)
  • (0)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 3
感想 : 1
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492442074

作品紹介・あらすじ

華人資本はどのように生成されどのように発展したのか。政治権力との関係、社会的ポジション、ビジネス展開、アイデンティティなどの東南アジア華人がもつ多面的な姿を詳細に分析。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 発展過程において変容していく東南アジアで、議論を避けることのできない華人経済に焦点を当てた書である。
    華人の特徴として、東南アジアの元々いた存在ではなく、外部から二次的に入り込んだものであるということ、やがては土着化して、心は東南アジア化する一方で身は華人だということ、そしてそのような存在であるにもかかわらず、現地では華人の生活習慣を守っていることが挙げられる。

    一般的に華人資本をイメージすると思い浮かぶような、金融システムそのものを支配している、といった事実は、データを見れば明らかになるが存在しない。にもかかわらず悪いイメージをもたれているのは、政治的不信感、経済的反発、社会的違和感が重なって、民族集団の中では今でも反華僑意識が流れているという。

    華人資本が台頭できたのは、東南アジア政府の表と裏の使い分けによってである。要するに、表向きは国民のために反華人という立場をとるが、裏では華人の経済力やネットワークを利用して、国力の発展に努めたのである。これは、華人は選挙権を持っていなかったので、経済的に利用しても政治的領域に干渉されることがなかった、というのが大きい理由であろう。その発展度合いや、所有する企業の分野も国によって様々であるが、裏向きの性格はどの国家にも見られる減少である。ある意味ではWin-Winの存在であったといえるのではないか。

    個人的には、土着化するが習慣は遵守するといった点に、華人経済の力強さを感じる。華人資本が発展した理由は、上記の政治的結託のほかに、零細から始まったにも関わらずネットワークや産業連関を駆使して発展したことが挙げられる。これは、土着化した国家内では現地語を話すが、同族が集まるときには中国語を使うといったように、彼らの、「習慣を遵守する」考えからきているように思える。例えば、アメリカの日本人街では完全に土着化が進み、二世三世になると日本語を話せない人もでてくるし、ネットワークも希薄である。一方で世界全体に見られるチャイナタウンの存在は、華人資本とは何か、といった問いに明確に答えているのではないだろうか。

全1件中 1 - 1件を表示

著者プロフィール

元アジア経済研究所地域研究第一部主任研究員
元拓殖大学国際学部教授

「2023年 『現代アジアの「民主主義」』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岩崎育夫の作品

最近本棚に登録した人

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×