ジャッジメント

著者 :
  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575239706

感想・レビュー・書評

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  • 凶悪犯罪に歯止めをかけることをめざして、「復習法」という法律が成立した近未来の日本。復習法は、犯罪者から受けた被害内容と同じことを合法的に刑罰と執行できる、というものだった。しかし、従来の法による刑罰ではなく執行法の適応を選択した場合、選択した者が自らの手で刑を執行しなければならない。

    大切な人が殺されたとき、従来の司法の裁きにゆだねるか、自らの手で復習するか。
    身内を殺された被害者の心痛は察するに余りあります。とても想像できるものではありませんが、自らの手で加害者を殺害する(加害者の犯行をそのまま再現して殺害する)ことは、「人を殺す」という行為の重大さと相まって、被害者家族の精神を重ねてむしばむ行為であるようにも感じます。

    社会派小説として十分に読みごたえがありながらも、重くなりすぎず適度なボリュームに仕上がっていると感じました。
    被害者家族が加害者に「刑を執行する」様子を監督する「応報監察官」の視点から描かれる人間模様からは、人間の多様性(複雑さ)が感じられましたし、主人公と一緒にしっかりと「悩む」ことができました。

    自分だったらどうするか。遺族感情として犯人には死刑になってほしいと思うことは当然だとは思う一方で、果たしてそれが「救い」になるのか、ということについては考えさせられます。

    以前読んだ、森達也の『「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい』と合わせて読むと、より思考が深められるようにも感じました。

  • 大切な人を殺されたら・・・
    きっと「復讐したい」「同じ目にあわせてやりたい」と思うに違いない。
    その連鎖の悲惨さを知っていたとしても。。。

    犯罪が増加する一方の日本で、新しい法律が生まれた。
    目には目を歯には歯をという―「復讐法」
    この法律は果たして被害者とその家族を救えるのか?

    たいして期待しないで読んでみたのですが(失礼な奴!)、非常に良かったです。
    心理描写など、もっともっと突っ込んで書いて欲しかった感はあるけれど、また別のかたちで鳥谷文乃と出会いたいなぁ。。。

  • 『復讐法』とは
    凶悪な事件が起きた時、被害者または遺族は
    被害内容と同じことを加害者に執行できる法律だ。

    物語を読みながら、ずっと
    『あなたならどうしますか?』と問われ続けているようで
    読み終わって二日が経った今もまだ
    『私だったら・・・』と考えてしまいます。
    でもどれだけ考えて出した答えであっても、
    きっと正解にはならないのでしょう。
    小説の中で、大切な人を殺された人たちは
    復讐をしても、しなくても、途中で止めても
    皆、もがき苦しみ被害者遺族であるにもかかわらず
    まるで自分が加害者であるかのような罪悪感に苛まれます。
    ただ一つ真実なのは、
    『やられたら、同じようにやり返せばいい』というような単純な発想では、悲しみも悔しさも何一つ晴らすことはできないということ。
    『不謹慎狩り』『不寛容の時代』といわれる今の世の中で
    改めて人を赦すということの難しさを
    思い知らされた気がします。

  •  毎日のように信じられないようなニュースが流れている。無差別殺人であったり、快楽殺人であったり、複数で少年を暴行した上に殺したり。そんなニュースを見るたびに思うのは、自分の身内がその事件の被害者だったら自分はどうするだろうという問いだ。

     この物語は、きっとそういったことを考えている人に対してのメッセージであったり、またはこの著者もそんなニュースを見て考えていたことをこうして本にしたのではないか。

     物語は、自分の身内を殺された者が、新たに定められた復讐法によって、加害者を同じ方法によって裁くか、従来の刑法に則った裁きを与えるかを選べるというものだ。
     もちろんこの物語に登場する被害者遺族は、復讐法を選ぶわけだが。
     ただ、この短編で形成される物語は、そんな単純なものではなく、その加害者が身内であったり、また、復讐をする者が心の内に迷いや悩みを抱えたりしている。
     その悩みであったりを応報監察官である鳥谷文乃が謎解きをすることで、また違ったストーリーが見えてくる。それがこの物語に厚みを出している。

     物語自体はこれだけ重い内容にも関わらずサクサクを読めてしまう。3か4かで悩んだけれど、4で。

  • 事件で誰かが大切な人を亡くした時、もし自分の身にふりかかっていたら…と思う。
    何の罪もない人がある日とつぜん被害に遭い、加害者が何の反省もしていないとき、遺族はきっと自分の手で復讐してやりたい、同じ目に遭わせてやりたい、そう思うだろう。私もきっとそう思う。
    そこに冤罪や偶発性がないとはっきりしていたら、この手で加害者の命を奪ってやりたい、何年かかっても必ず復讐してやる、と。でもそれがなされないのは、この国がそれを許していないから。
    じゃぁ、それが法律で認められているとしたら…
    この物語の哀しさは、復讐を認められた被害者の家族たちこそが、その復讐によって二重の苦しみを得てしまうという事。
    大切なひとを亡くし、その復讐をその手で行うという重荷を背負う。なぜ、何度も苦しみを与えるのだ。法律は誰のためにあるのだ。

  • 復讐法で救われる被害者遺族もいれば、さらに苦しむことになる人もいる
    当事者にならないと分からない苦しみがたくさん書かれていた
    どの話でも応報執行者は悩み苦しんで自分を責めて死を選ぶ人さえいて、読んでいてすごく苦しくなった
    被害者に対する想いが溢れていて胸が痛くなる
    最終話の隼人君の気持ちや鳥谷さんの気持ちを想うと、苦しくて悲しくてやるせなくて、どうしても涙が出てしまった

    犯罪者に甘く被害者側が泣き寝入りしたり傷つけられたりすることはあってはならないことだと思うけど、誰がどのように刑罰を与えるかはとても難しい事だと考えさせられた
    他人の立場、世間の声の中のひとつとしては、復讐しろ、死刑にしろと言うのはとても簡単かもしれない

    死刑制度にしても、それを決定するのも指示を出すのも首に縄をかけるのもボタンを押すのも自分じゃないから私は容認できているのかもしれない
    もしそのうちのどれかをするのが自分だったら、法のもとに人を殺すのが自分だったら
    死刑制度反対とは言わないけど、きっとその仕事はできないと思う

    復讐法にしても、甘い刑罰は許せない、でも自分で同じことをするのも恐ろしい
    同じことをやり返すんじゃなくて、犯人の刑罰を決めさせてほしいと考えると思う

    結局のところ、自分は関わりたくないけど誰かが応報執行、死刑執行するのをみて(知って)、自分が(世間が)正義を行ったと思いたいのかもしれない

    色んなことをたくさん考えてしまう本だった

  • 被害者の身内が加害者に復讐できる「復讐法」が制定された社会を舞台に描かれる物語。個人的には「復讐法」が存在したら、賛成します。衣食住を保証した挙句に、なるべく苦痛の少ない方法で行われる死刑が「極刑」であるとは思えないので。被害者遺族の感情を思えば、復讐で救われるとは思えないけれど、それでも整理できない思いがいくらかはましになるのでは、という思いもあって。もちろん自分で手を下すだけの覚悟が必要なので、復讐法を選ばない遺族が薄情だというつもりもありませんが。選択の一つとしてはありではないかと。
    どの物語も、悩み苦しむ「応報執行者」の気持ちが痛々しく。しかしそれ以上に、それを見届ける役割である「応報監察官」の立場もまたやり切れません。復讐が解決になるわけではないけれど、だとすればどうすればいいのか。この答えは永遠に出せないものなのかもしれません。
    お気に入りは「フェイク」。これはミステリとしての読みどころがダントツです。一体何が真実だったのか、ぐるぐると振り回されっぱなしでした。

  • 大切な人を殺された者に与えられる権利。被害者が受けたのと同じ方法で犯人に復讐することができる。
    もしこの法律が実在して、自分が当事者になったら、果たして復讐を選ぶだろうか。とても考えさせられる話だった。
    世間で起きている残酷な事件をニュースで見るたびに、犯人に同じ苦しみをと思うことがある。刑期を経れば社会復帰できるなんておかしいと。
    しかし、復讐というのは考えているより簡単なものではないんだな。復讐したから気持ちが晴れるわけではない。被害者が復讐を望んでいるのか分からない。
    読んでいてとても辛い作品だった。

  • 小林由香さんが困難な異端の分野に挑んだショッキングなデビュー作です。まずこんな法律が可決されるとは思えず異世界が舞台の架空小説でしょうけれど巧みに考えられているなと思いますし私は読者の非難を恐れずに敢えて困難な命題を選んだ著者の努力と勇気を讃えたいですね。復讐法は遥か昔のエジプトの「目には目を歯には歯を」で有名なハムラビ法典に先祖返りしたような物で人間性からすれば遠い未来に現実化するのでしょうか。後味が悪く出口のない悲しみで幕を閉じるストーリーが多いですが私は賛否に結論が出せず複雑な思いに駆られましたね。

  • 母親を殺された女性が、後々母親の生きる真の姿と想いに気づくシーンがとても良かった。自分も自分の母親になぞらえて涙がこぼれてきた。

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著者プロフィール

1976年長野県生まれ。11年「ジャッジメント」で第33回小説推理新人賞を受賞。2016年、同作で単行本デビュー。他の著書に『罪人が祈るとき』『救いの森』がある。

「2020年 『イノセンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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