茨木のり子の家

著者 :
  • 平凡社
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感想 : 49
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  • Amazon.co.jp ・本 (124ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582834802

感想・レビュー・書評

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  • この本は欲しい。
    茨木のり子の家と、
    肉筆原稿、家具や本の、
    生活本。
    この本は、
    「エレクトラ」と同様、
    欲しい。
    みずうみ、という詩を、
    再度、ここで読む。
    詩人が書いた、
    詩。
    他にも、
    たくさん。
    鉛筆で書いていた。

    便利なものは、
    必ず、不愉快な副作用を伴う、

    とある。
    それにしても、
    素晴らしい家屋。

  • 好きな詩

    1、「色の名」に出てくる色の表現
    胡桃いろ すすきいろ 栗いろ

    2、「みずうみ」
    中略
    お母さんだけとはかぎらない
    人間は誰でも心の底に
    しいんと静かな湖を持つべきなのだ
    田沢湖のように深く青い湖を
    かくし持っているひとは
    話すとわかる 二言 三言で
    それこそ しいんと落ちついて
    容易に増えも減りもしない自分の湖
    さらさらと他人の降りてはゆけない魔の湖
    教養や学歴とはなんの関係もないらしい
    人間の魅力とは
    たぶんその湖のあたりから発する霧だ

    早くもそのことに
    気づいたらしい
    小さな
    二人の
    娘たち

  • 茨木のり子と家と物の写真と言葉。
    戦時のうたを今読むと、今の歌に見えてしまう。

    原稿用紙に書かれた文字を見ると、言葉の長さを決めるのは紙の大きさも関係があるのだろうと思う。
    原稿用紙の言葉、携帯の言葉、パソコンで書くブログの言葉。
    気にしたつもりがなくても、画面の美しさに引きずられて字面を変えたくなるから、原稿用紙に手書き時代のうたはもう書ける人が少ないのかもしれない。

    写真に説明がなくて、言葉はきれぎれで、少し物足りない気もするけれど、おだやかにきれいな本。
    丁寧に入れたお茶を飲みながらじっくりながめたい。

  • もう何の「コトバ」がでるというのか。戦後住宅、昭和のなつかしい、ほっとするような、ちょっとおしゃれな家。そこに茨木先生が、すっと現れそうなそんな写真。

    人はいないのに、「すみか」って、何かの佇まい、けはいが残るものだ。

    我が家も不用なものは片付けなくては・・。
    しかし自分のアカはどんなにしてもこびりついてしまう。
    せめて自分が納得できる空間に、しなきゃ・・ね。

  •  銀座通りを歩いていてもうここからは京橋だという境目の辺りに、変わった趣向の書店がある。そこで見つけた。INAXブックギャラリーといって、浴槽やタイルのメーカーとして有名な会社が運営してる書店で、建築やデザイン、美術に関するセンスの良い本ばかりを集めている。書棚を眺めるだけでも楽しくて、行きつけの床屋の帰りにいつもつい寄ってしまう。
     この本は「家」が主役で、多くの写真とこの家の住人だった人の「詩」が何篇かだけ挿入されている。解説の類の説明文はない。だから「読む」本じゃない。私は、買って以来部屋の机の上にずっと置いて、時折ぱらぱら、その家の写真を眺めた。写真を眺める合間に何度も、その住人の詩を読んだ。何度か泣けた。だから、間違いなくよい本だ。
     その本を眺めていて感じたのは、「読む」ことと少し異なり、見ること、殊に良く見るということは愛だと感じる。見る対象を慈しむ気持ちがあるからこそ、深く見るし詳しく見たいと思う。一度ではなくて何度も見たいと思う。見たいと思うのと愛することは同義であり、見たくないのと嫌いは同じことだ。
     
     この本がよいと私が思う理由のひとつは、この本を作ったひとが私と同じように茨城のり子の詩と人物をとても愛していることが伝わってくることだ。
     レンズが汚れたままの眼鏡が焦げ茶色のテーブルの上に置かれている。冒頭の一枚の写真だ。1958年に建てらというその家にあるテーブルは、同年代に建てられた私の義父母の家にあるものと全く同じ風合いで、誰かが今そこに外したばかりの眼鏡をちょっと置いたという風情でちょこんと置かれている。
     次のページには茨木さんのモノクロのポートレートが一枚、ある。これ以上の肖像はなかろうと思えるほど良く撮れた一枚だ。
     「わたしが一番きれいだったとき」は教科書にも載った彼女の代表作だ。詩作仲間だった谷川俊太郎が左やや斜め上から撮ったポートレートは、かつて奇麗だったことがしのばれる彼女の端正な眉、鼻筋、口元、細いあごを見事にとらえている。そして、先ほどの黒いセルロイドの眼鏡に添えられた彼女の親指と中指、突き立てられた人差し指が、このひとの知性と、人生にも作品にも貫かれた強い何ものかを指し示しているようだ。人差し指が立てられているのは、気障なしぐさや気取りではない。よくよく見ると人差し指には絆創膏が巻かれている。
     本の中頃のページには、この一枚を含むネガのべた焼き(フイルムをそのまま並べて焼いたもの、編集者が採用する写真を選定するのに用いたりする)が144枚分も載っている。36枚撮りフィルム4本分も彼女の顔を撮り続けた谷川俊太郎は、間違いなく彼女の人柄と才能とに敬意を持ち、その才能と人となりを最もよく表す瞬間を捉えようとしていたに違いない。そしてこの144枚から、件の一枚を選びだしたこの本の作者は、この一瞬をとらえた谷川俊太郎と同様に茨木のり子の才能と人柄とを愛していたのに違いない。
     
     白州正子を愛するという人には、町田にある武相荘(旧白州邸)を訪れることを薦める。そこには、稀代の目利きだった白州正子の眼が選んだ数々の工芸品、調度品や、彼女自身が触れて使ったものが溢れている。作家は生産者であり作品は商品に過ぎぬというのなら別だが、作品を愛することは作品を通じて作者とコミュニケートし、作者自身に触れることだと考えるのなら、こうした場所で見て触れて何かを感じることに過ぎるものはないはずだ。
     だから茨木のり子の作品を愛する人に、私は迷わずこの一冊を薦める。理由は全く同じだ。

     人生で一番打ちひしがれていた時、茨木さんの「倚りかからず」に私は出逢った。それと同じだったり、あるいは違う出逢い方で彼女と彼女の作品を愛するに至ったひとも、彼女が触れたドアのノブ、照明のスイッチ。いつも手を載せていた椅子のアーム。万年筆で書かれた自筆の原稿、メモ。それらの無数のものを見てみるといい。というかそれらのものを見てみたいと思うのが、彼女を愛している証にほかならない。
     そして、本の最後に「この世におさらばすることになりました」から始まる手書きのお別れのあいさつを見出すだろう。

     彼女の意思で葬儀は執り行われず、この挨拶文だけが配られたのだろう。平成18年の2月に79歳で亡くなられているのだが、生前にあらかじめ書かれていたこの手書きの挨拶文には、○年○月○日と日付だけが空白になっていた。

     よいと思います。この一冊。

  • 詩人の家の、写真を中心とした記録。文化人の暮した戦後住宅の生活が伺える。設計自体に彼女が関わっていたらしく、個性的で印象的。

  • 詩人・茨木のり子が生前暮らしていた家が、そのままの状態で遺されている。その姿をとらえた写真集。古びてはいても、彼女の住んでいた自宅のなんとも機能的でモダンなこと。茨木さん自身が設計にかかわった自宅の様子から、一人決然として暮らしていた生き方が伝わるような本だ。遺されている調度品や蔵書、原稿類。そして夫君の愛したクラシックレコードの数々。ふと目に留めたページの古い写真には、詩誌「櫂」同人だった若き詩人たちの肖像が、、、吉野弘、岸田衿子、大岡信、水尾比呂志、川崎洋、谷川俊太郎、友竹辰、中江俊夫などそうそうたるメンバーだ。数多く収録されている写真の中には、生前から用意されていて名高い自製の死亡通知の原稿もある。また、死後の刊行を願っていた詩集「歳月」の原稿も、亡き夫と過ごした自宅のたたずまいと共に写真に定着されている。遺された家には、彼女の暮らしていた時の余韻が、静かな時間と共に佇んでいるかのようだ。

  • 『清冽』と併せ読むと感慨も一入。
    素敵な1冊だった。

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著者プロフィール

1926年、大阪生まれ。詩人、エッセイスト。1950年代より詩作を始め、53年に川崎洋とともに同人雑誌「櫂」を創刊。日本を代表する現代詩人として活躍。76年から韓国語を学び始め、韓国現代詩の紹介に尽力した。90年に本書『韓国現代詩選』を発表し、読売文学賞を受賞。2006年死去。著書として『対話』『見えない配達夫』『鎮魂歌』『倚りかからず』『歳月』などの詩集、『詩のこころを読む』『ハングルへの旅』などのエッセイ集がある。

「2022年 『韓国現代詩選〈新版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

茨木のり子の作品

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