- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784635140140
感想・レビュー・書評
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登山ツアーでありながら18人中8人が亡くなるという
北海道大雪山系での遭難。
当時の報道では軽装だったと聞き、
中高年で経験もある人たちなのにと不審に思ったが
当事者たちへの丁寧な取材で納得できた。
2002年にも同じ山で同じような遭難があったという。
犯人捜しをするのではなく、複数の観点から客観的に検証して
同じ事故を繰り返さないようにとの思いで教訓を示している。
とはいえ、登山者一人ひとりが自分が遭難するかもしれない
という危機感を持たないとこの教訓も浸透しないだろう。
ガイドも客も関係なく、山の上では一人の人間。
山に登る者として、自分の命は自分で守るという自覚を持ちたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
撤退する勇気は大事
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山怖い。低体温症怖い。
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「山登り」とは、決して日常の延長線上にある娯楽ではなく、事故や死のリスクを高めに背負った運動である、ということを分からせてくれます。とかく、近年の「登山ブーム」に警鐘をならす良本です。
近年の山岳遭難事故で最悪と言われる2009年に発生した「トムラウシ山遭難」。第一章、第二章では生存者への取材に基づきながらその実態を出来るだけ明らかにしていきます。正直、ここだけを読んでも、「山を甘く見ちゃ行けない」という気持ちにさせられます。
三章から五章は、気象、低体温症、運動生理学の観点から事故を解明、解説しようと試みます。気象は正しい情報と山特有の判断、低体温症はその発生に対する正しい知識、運動生理学はきちんとした栄養摂取の重要さ、そんなことをそれぞれ思い知ります。多少、専門的ではありますが読みにくいわけではありません。
最後の六章では、近年流行の「ツアー登山」のメリットとリスクに言及します。それは取りも直さず、登山そのものへのリスクの言及でもあります。どうやって山に向き合うのか。それは「なんで山に登るのか」ってのとは別次元で、きちんと考えなければならないことでしょう。
そうでなければ、そこに待っているのは遭難であり、万一の死なワケです。
かくいうワシも、たまーに登山をしますが、知識や経験が充分とは言えませんし、パーティを組んで行くことも無いので、ある種、独学になっているきらいはあります。故に、いわゆる「中級」レベルより高いところへのチャレンジはしません。ともあれ、勉強になりました。 -
楽しい登山と大量遭難に向かう破局との境目がシームレス。ここから先が危ない、というのではなくて、あれ? あれ?と言っているうちに取り返しのつかないことになっていく。たぶんこういうのが一番危ない。
気象、医学、いろいろな方面からのアプローチがなされているが、組織面や心理面からの分析が欲しい。これは無理だ、危ない、と思った人がひとりならずいたのに、どうして誰も引き返さなかったのか。「嫌だなあ、と思ったがいい出せなかった」「ガイドが防寒服を着ろと言わなかった」。誰がリーダーなのかわからない。メンバー同士もほぼ面識がなくチームには成り得ない。急激に変わった天候や、ガイドの判断ミスが原因であることは確かだが、天候はまた変わるし、人間は間違える。そのときに生きて帰る仕組みが必要。 -
出張帰りの東北新幹線で読了。
このリアル感。山の怖さがビシビシ伝わって来た。生と死。 -
その道のプロについていくと、あんな山やこんな山でも登れてしまい、「趣味は登山です」なんて公言したくなっちゃう。すぐ調子に乗ってしまいます。でも、登山中に滑落事故などの怖い話しを聞いたり、岩場についていた血液などをみるとビビッてしまいました。
そんなチャラついた気持ちではダメだと、読んだ本がこれ。2009年7月に発生した北海道のトムラウシ山で発生した遭難事故(低体温症で18名のグループ中、9名の方が亡くなった)を、生存者の証言と科学的な視点から原因究明をする。
読んで良かったとおもいます。体力、知識、道具 をしっかり整えてから、山に登ります。 -
あのトムラウシの遭難を多角的な専門分野から考察した本。
何が起きていたのか、という、生存者による時系列の証言以外に、
登山医学的な観点から、また運動生理学的な観点から、また、ビジネス的な観点から、など、色んな分野の人がそれぞれの専門分野で書いている。
とくに運動生理学的な観点からのアプローチは非常に勉強になった。 -
身震いがして、その後、身の引き締まる思いがした。
山は美しい。しかし同時に恐ろしい。
そしてそれ以上に恐ろしいのが、
その山の恐ろしさを認識しないままに山に入る人間だ。
前知識として、「山の天気は変わりやすい」「きちんとした装備が必要」
「山に登るのは自己責任で」等の情報は頭では理解しているだろうが、
果たしてそれを「生きた知識」として体得している人間がどれだけいるだろうか。
山に対峙した時の人間の脆さ弱さあっけなさに愕然とする。
人は、こんなに短時間で死へ突き進んでしまうものなのか。
こんな些細なことで、明暗が分かれてしまうものなのか。
街での常識は、山では何ひとつ通用しない。
私自身、父が山岳部だったのもあって山に対しては親しみがあったが、
タイトルのトムラウシ山のような本格的な山に泊りがけで登ったことはないし、
また、低体温症、というフレーズも聞いたことはあったが理解はしていなかった。
もし私が、あの日あの時あの場所に、
まさにこの18人のパーティの中に居たらどうなっていただろうと考えると、心底ゾッとする。
ツアーだし楽ちんだろう、という簡単な気持ちで参加して、
現場ではガイドの指示を待つばかりで自分から行動ができず、
私も大方の人々と同じく意識が朦朧としていったのではないだろうか。
しかし、ここがちょっと難しいところでもあるけれど、
「ツアー」と「登山」って、きっと多分本来は相容れない性質のものなのよね。
もともとは、山に登るということは、
まずは自分で山について調べて、準備をして、トレーニングをして、
万全の態勢を整えた上で、信頼できる先輩や仲間たちと挑むものだ。
でも、ツアーってのは、お金を払えば基本的に、
宿泊も交通もめんどくさいことは全部肩代わりして準備してくれて、
現地ではガイドさんについていけば最初から最後まで何も分からなくても全行程を終えることができる。
だから、本来は、「ツアーで本格登山」ってものすごく矛盾する設定なんじゃないかと思う。
もしくは、成立はするけれども、かなりリスクが高いというか、
ツアー会社の側にも参加者の側にも曖昧模糊とした大きな責任がのしかかってくる。
そういう問題について考える上でも、
非常に示唆的で感慨深い1冊だった。
山に登る人も、登らない人も、
自然という身近な存在の厳しい側面を知る上で、
また、人間の生物としての弱さを自覚する上で、
臨場感をもって最低限の知識を教えてもらえる良書。 -
「夏山で中高年が大量に遭難死」ということで、当時山には微塵も興味がなかった自分でも印象に残っていたトムラウシの遭難事故。「低体温症」をキーワードに、危機に陥っていった過程がリアルに感じられるルポに始まり、気象学、医学、運動生理学などの解説で多方面からトレースできる秀逸な章立てです。
低体温症は雪山だけで起こる症状ではなく、またその一番の怖さは判断力が鈍ることにあるそうです。犠牲になった方のザックにはフリースやダウンが入ったままになっていたこと、山岳ガイドが持っていたテントもビバークに使われることはなかったこと、そしてそれらをお互いに指摘することができなかったことが何よりも物語っています。
この時期に読んでおいてよかった、と思った1冊。