原発危機と「東大話法」―傍観者の論理・欺瞞の言語―

著者 :
  • 明石書店
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感想 : 64
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750335162

感想・レビュー・書評

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  • 今回借りてきた安富本、2冊目にこれを読むのは正直ちょっとハードル高そうな気がしたのだけど、思いのほかしっかり読むことができた。もしかしたら、1冊目に読んだ『あなたが生きづらいのは‥』よりも読み込めたんじゃないかな?
    頑張った~。というのは、これまでの何冊かと同じようにメモ読(今思いついた造語です)したから。読む締切があって、書き込めないところが、図書館本を読む効能。簡単に読み返せないから、必要なところはメモしとくしかないので。その分、じっくりかみ砕く。速読はできないけど、熟読はできる。
    「魂の脱植民地化」とか「エントロピー」とか、安富さんが作り出した(?)言葉及びその筋の方にはよく知られているらしいけど、初めて出会う語にはちょっと目を白黒させたけど、なんとかかんとか理解できたかと思う。手を止めてググったりもした。
    そして噂の「東大話法」この法則はスゴイ。この本が出版されたのが2012年だけど、10年近くたって未だにあちこちに蔓延る事・・・。
    「立場」という言葉を、夏目漱石の用例から取られているのは、国文卒の人間としては(こういうのも「立場」かしら??)興味深かった。
    少しだけ気になったのは、233ページ
    「学者の言うことを信頼するかどうかを判定するには、その人の主張することを吟味するだけでは不十分」「その人が立派な人なのかどうか、それが大切」
    というところ。安富さんにしてはやや主観が過ぎるような気がした。何をもって「立派」と言えるんだろうと。この文脈では、ゴフマン博士のことを言われてて、氏の生き方や行動がそれを表してるんだろうと思ったけど、私たちが基準にするのに「立派」というのはかなり危なっかしい・・。
    あとエントロピーの理論。熱は宇宙に捨てられるというけど、今夏の洪水の原因が海水温の上昇にあると聞いて、う~ん・・と考えてしまった。辻村ちひろさんと一緒に撮られた動画とかあるけど、そういう点についてお話されたことはあるんだろうか?なければ、一度聞いてみたい。
    何しろ、まだ男性の恰好をされてた8年前の本なので(とはいえ語り口が優しく感じ、脳内では今の安富さんで何度か再生された)いろいろアップデートされてる部分もあるのかな?
    ということで、次の本へ・・。

  • とんがり過ぎていて、ヒリヒリしながら読み終えた。
    このヒリヒリ感は何故かと自分に問うと、
    「こんなこと言ってしまっていいのだろうか?」
    「その後の自分の行動が制限されてしまうのではないか?」
    と言った予想される反論の存在だ。
    単なる暴露本や煽り本とは違う。ところによっては私自身怖くなるくらい執拗な追及の言葉が並べられるが、それが一方で安富歩氏の佇まいを示し、信頼の裏づけとなるものでもあった。
     氏の世界観に浸りながら、世の中を眺めてそこで感じたものを自分の世界観に作用させたいと感じさせられた一冊。
     少しのあいだ氏の他の著作も追ってみることにする。

  • これはすごい。
    思想家というのは、こうして生まれてくるものなのか。

    立場主義社会という概念を整理してくれたことに感謝したい。

    自分も真実にしがみつく人間でありたい。

  • ここまで読む価値が無い本も珍しい

  • 安冨さんの本は何冊か読んだけれど、この本が一番分かりやすくてよかったと思う。

    私も東大話法に畏れ入り、自分も時には東大話法を使って誰かを欺いてるかもしれない。
    立場主義に毒されて、今、自分はこの立場で何を望まれているのかと常に考えてしまう。
    そこからなかなか抜け出せない。

    私は今、何を言いたいのか、何をしたいのか、分かるようになりたいし、自分の体や心が望むような発言や行動をしたい。
    でも、私は何をしたいのかが空虚で…と思ったら、沖縄戦で戦死した方が家族に宛てて書いた手紙のくだりで、本当は「寂しい、悲しい」と思っている気持ちを否定して、立場でものを考えないとならないとなれば、中身は空虚だというようなことが書いてあり、胸にぐさっと来ました。

    言い過ぎ、というような意見もある本ですが、私はそうは思いません。
    安冨さんの感じていることが、とてもよい精度で書き表されている本なのだと感じました。

  • 福島の原発事故の半年後くらいに出たのかな。理性的な安冨先生の抑え切れない焦りと怒りが滲みます。東大原子力にどれだけ金が流れ込んでいるか(他分野全部より一桁多い)、理解できない無責任な発言群は「東大話法」である、それだけで読む価値がある。「影響はない」じゃねーんだよボケ、という姿勢に密かに共感です。もう、言えなくなってしまった、住み続ける人たちがいるから(2019-07-29)

  • これも、時流に乗った俺がの本
    途中放棄

  • 東大を含め、いわゆる「良い大学」出身の人たちが多く集まるコミュニティに属していた時に、時々違和感を覚えることがあった。
    今はもう私はそこからは離れており、その違和感も忘れつつあったところに何かでこの本の存在を知り、タイトルを見て、もしかしたらと読むことにした。

    感想としては、やっぱりその傾向があるのねと思ったのが半分、もう半分はちょっと細かくケチをつけすぎじゃないのかな?そこまでチェックポイントにしたら、喋り辛くなるんじゃないの?というものだった。

    著者も、とにかく今の日本の状況を鑑みて、早くこの本を出さなければと思ったらしく、中身がまとまりきっていないことはこの本のなかで認めている。確かにそうだと思う。章によっては、このことについてそこまで長く、些末なことまで批判しなくていいのではと私は思うところがあった。

    「東大話法」と名前をつけられているが、著者が説明するように、これは別に東大出身者だけに見られる話しかたではない。
    実際に私がいた、エリートが多く集まるコミュニティでは、東大出身でもなくエリートではない人たちでも、そこに所属する期間が長くなり、同じコミュニティの人たちの話法に慣れていくにつれて、知らないうちにそういった言葉の選び方になっていた。

    今考えても、あれは責任を自分が被らないようにするための、言葉の選び方そして論理構成だった。

    ある日、エリート街道を歩んできたわけでもなく、たまたまそのコミュニティに入ることができた男性(私と同じような人だった)が、そのコミュニティの中の先生から質問をされ、自信満々にこの本で言う東大話法で回答をしたことがあった。

    先生は少し間を置き、「うーん、そうですか」と言ったきり、彼にはもう話しかけなかった。
    彼はそこに所属するうちにその話法を身に着けたけれど、正直なところ、本当に分かっている人が聞けば「こいつ自分を守ってるだけだな」と、その正体はバレバレなのだ。

    ただ、「仮にAならばBします/である」というような話の運びについては、一概に批判はできないのではないかとも私は思う。なぜならば、「その問題・話題について判断するには情報が足りないけれども、いま持ち合わせている情報で判断するならば~」という状況は有り得るからだ。
    もっとも、それはやはり保身と言われるのだろうか。この点について私はまだ判断を下せていないし、どうすべきなのか答えも出せていない。

    本書もそうである。
    いつもはあまり深く考えずにレビューの☆をつけているけれど、この本についてはどう☆をつけていいのかわからない。

  • 続編『幻影からの脱出』の方がちゃんとまとまっていて読み応えがあった。内容も重複しているし。まぁ、順番をちゃんと追わなかったこちらも悪いのだけれど。

  • 概ね素晴らしいと言っていい本。こういう良心回路を持った学者が東大におられるというのは心強い。ただし、人工地震説をろくに検証もせずに否定する態度は感心しない。否定できるだけの科学的根拠を出されたら、我々陰謀論者もそうだったのかと納得するところなのだが。残念なのはそこだけ。あとは本当に素晴らしい。名著。

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著者プロフィール

東京大学東洋文化研究所教授。1963年、大阪府生まれ。
著書『「満洲国」の金融』『貨幣の複雑性』(以上、創文社)、『複雑さを生きる』(岩波書店)、『ハラスメントは連鎖する』(共著、光文社新書)、『生きるための経済学』(NHKブックス)、『経済学の船出』(NTT出版)、『原発危機と「東大話法」』(明石書店)、『生きる技法』『合理的な神秘主義』(以上、青灯社)、『生きるための論語』(ちくま新書)、『満洲暴走 隠された構造』(角川新書)ほか

「2021年 『生きるための日本史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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