王朝貴族の悪だくみ: 清少納言、危機一髪

著者 :
  • 柏書房
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本棚登録 : 90
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784760130368

作品紹介・あらすじ

射殺された清少納言の実兄、不正の限りを尽くして私腹を肥やす受領…藤原道長や藤原行成の日記に書かれていたのは、貴族たちの犯罪だった。

感想・レビュー・書評

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  • 繁田信一『王朝貴族の悪だくみ 清少納言、危機一髪』(柏書房、2007年)は平安時代の貴族の悪事を描いた歴史書。貴族には雅なイメージがあるが、実際は悪辣である。過去の歴史観では公家と武士を全く別の存在のように描くが、公家と武士は同根の存在に見える。NHK大河ドラマ『光る君へ』第一回「約束の月」では藤原道兼の行為に貴族が血の穢れを考えないのかと批判が出た。これに対して公家と武家は同根であり、舐められたら殺すというメンタリティがあったとの擁護論も出た。

    受領は「自身を富ませるため、不当課税・不当徴税・恐喝・詐欺・公費横領など、考えつく限りの不正を行っていた」(223頁)。その代表格が尾張国郡司百姓等解文で悪名高い藤原元命(ふじわらのもとなが)である。元命は花山天皇の側近の藤原惟成と親族関係にあり、花山天皇によって尾張守に任命された人物であった。『光る君へ』第四回「五節の舞姫」で即位した花山天皇はお気に入りで固めた「お友達政治」を進めようとする。そこでは元命のような人物が国司になってしまう。

    受領の不正には詐欺もある。不当な税の徴収には虚偽説明によって本来は税の払わなくて良いところから税を徴収することもあった。ルールを権力者が独占し、市民に知らせないと権力者の都合の良い運用がなされてしまう。情報公開と説明責任は公正な政治の基本になる。

    受領の詐欺には買い上げの名目で様々な物品をだまし取り、借り上げの名目で大量の絹織物をだまし取ることもあった(81頁以下)。権力を背景にした詐欺は現代日本の警察不祥事でも繰り返されている。埼玉県警の草加署巡査(22)は死体検案名目で遺族から現金82万円をだまし取った。川越署巡査(25)は遺族に遺体の防腐処置費用として現金50万円をだまし取ろうとした。

    貴族の悪だくみには虚偽告訴による冤罪もあった。但馬国の郡司達は殺人があったと虚偽告訴して朝廷に僧侶の惟朝を逮捕させた。冤罪が判明した後も「自己の権威を守ることに固執する朝廷は、それが不当なことであることも承知のうえで、とにかく惟朝を殺人容疑者として扱い続けようとした」(173頁)。これも袴田事件などの現代日本の冤罪事件に通じる。

  • 平安時代の受領層の悪質さは「悪だくみ」なんてものではなく、犯罪そのもの。このくらいでないと出世も蓄財もできなかったのもかもしれませんが…道長のいうことを聞かずに前国守の告発をした橘行平のような人物はむしろ稀有で、赴任先の住民たちの身ぐるみをはいでいった受領の方が普通だったかも?清少納言は確かにあまり関係なかったけれど、読者の興味をひく題名をつけて何が悪いの?とも思ったのでした。実の兄弟が白昼に殺された平安時代の有名な女性は彼女くらいだし。ワイドショーを見る感覚が歴史への入り口となるのもアリだと思う。

  • 血を畏れ事なかれ主義の王朝貴族っていません!
    藤原道長「御堂関白日記」
    藤原行成「権記」
    には数多の帰属の悪行・犯罪が記述されている
    将来脅していくつもりだろう(想像です)

    故三条上皇の第三皇子である式部卿宮敦平親王
    は皇族の特権で、犯罪者である良国王を糊塗も
    あろうことか皇族として叙爵した

    国費で王族の贅沢を犯罪者が!

  • 副題に「清少納言」とあるのがあざといわ〜。ほぼ関係ないし。前作「殴り合う貴族たち」のドジョウの域を出ない。元ネタも「小右記」と「御堂関白記」だし。

    上級貴族家の家司を足がかりに朝廷内で出世する…というのは想像がつくが、何かと物入りな主家に経済的な貢献もしていたとはビックリ。そりゃあ受領国司で稼いでおく必要もあったわけだ。

    脱税とか汚職とか私腹とか給料未払いとか隠蔽工作とか、かなり散文的な話題が続くが、穀潰しと四納言が混在する一条帝御世。中々に興味が尽きない。

  • 平安時代は賄賂や汚職が公然と行われていた、という知識はあったが想像していたのとは格が違った。帳簿改竄させてから口封じに会計を暗殺とか、現代的すぎる。それらをもみ消したりとか、道長もかなりひどい。

  • 『殴り合う貴族たち』には皮肉なユーモアがありましたが、こちらは笑えません!前作と同じく一般には知られていない史実をどんどん教えてくれますが、今回明らかになるのは芥川の『羅生門』のような世界です。結で、繁田さんは、愕然と目を覚ます清少納言を書いていますが、私は清少納言は目覚めなかったと思います。それが紫式部でも目覚めないのは同じく。それが当然、と思っていることをひっくり返すのは難しいことなのです。彼女達が、庶民と自分が同じ人間と考えるのは無理だったのではないでしょうか。

  • 王朝貴族といえば源氏物語の世界に連想がいくので、本書に書かれた貴族たちの犯罪行為と暴力沙汰に驚く。

    その証拠は貴族男性が漢文で記した日記に残されている。藤原道長の『御堂関白記(みどうかんぱくき)』や藤原行成(ゆきなり)の『権記(ごんき)』などの日記である。

    清少納言が『枕草子』に描いたような「王朝貴族社会の豊かさは、実のところ、悪徳受領たちが地方諸国において不正行為を用いて築き上げた汚れた富によって支えられたものだったのである。」p225

  • 内容紹介:和歌や恋愛に喜びを見出す雅なイメージの平安貴族には、衝撃の裏側があった。射殺された清少納言の実兄、不正の限りを尽くして私腹を肥やす受領…。藤原道長や藤原行政の日記に書かれた、貴族たちの犯罪を掘り起こす。(TRC MARCより)

    資料番号:010978864
    請求記号:210.3/ シ
    資料区分:一般書

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著者プロフィール

1997年東北大学大学院文学研究科博士課程後期単位取得退学。2003年神奈川大学大学院歴史民俗資料学研究科博士後期課程修了、博士(歴史民俗資料学)。神奈川大学日本常民文化研究所特別研究員、同大学外国語学部非常勤講師。著書に『陰陽師』(中央公論社)、『平安貴族と陰陽師』『呪いの都 平安京』(以上、吉川弘文館)、『殴り合う貴族たち』『王朝貴族の悪だくみ』(以上、柏書房)、『天皇たちの孤独』(角川書店)などがある。

「2008年 『王朝貴族のおまじない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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