文庫 ヒトラーとは何か (草思社文庫 ハ 1-1)

  • 草思社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794222923

作品紹介・あらすじ

ヒトラーの野望の軌跡を臨場感あふれる筆致で描いた傑作評伝。独自のヒトラー解釈で話題を呼んだハイネ賞受賞の名著が、新訳でさらに読みやすくなって登場。

感想・レビュー・書評

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  • ドイツから亡命した同時代のジャーナリストによる評伝。

    「長いあいだ希望のない無能な人生を送ってきた男が、やおら天才政治家として一国を支配し、そのあとふたたび希望のない無能者として生涯を終える。同じひとりの人間にこんあことがありうるのだろうか」

    著者が漏らすこのような驚きが、読後の感想と一致する。
    ヒトラーにとっての政治は、通常の為政者たちにとっての政治とは根本的に全くの別もので、彼個人の思想を体現するための道具に過ぎなかったようだ。彼の決断は、憲法をはじめとした国家機能の破壊、後継者の不在、勝ち目のない宣戦布告など、彼自身が亡き後を考慮していたとは考えられないものばかりである。そして、その最後においてドイツ国民が殲滅されることを望む姿からは、彼にとっての政治活動が、あくまで彼個人のためでしかなかったことは明白である。

    本書を読むと、人生の前半を生活無能者として過ごし、親しい人間を持たず、一個人としては異常なまでに無味乾燥な人生を送ったヒトラーにとって、政治というよりその人生は早い段階から、イチかバチかの破れかぶれだったように見受けられる。そのようなヒトラーが指揮したナチス・ドイツにおいては、「その過程のどこかで正しい判断がなされていれば」といった歴史のIFは想定しづらい。ヒトラーの選択は一般的には歪なものが多々含まれていたとしても、彼の行動原理としては整合性が取れていたはずだ。通読して、政治家というよりはカルト教団の教祖の生きざまを見たかのような思いである。

  • 著者のセバスチャン・ハフナー氏は、1940年代から80年代まで、新聞、雑誌のコラム、ラジオ、テレビの討論、講演、歴史著述等で活躍した稀代のジャーナリスト。ドイツ現代史を語らせたら右に出るものはいないといわれ、一定の教養を備えたドイツ人なら知らぬ人はいないとさえいわれる。
    本書は、ハフナー氏が晩年の1978年に書き上げ、1年間に旧西ドイツで30万部を売り上げたベストセラーである。年代に沿って事実を書き綴った伝記ではなく、ヒトラーを分析するために本質的な要素だけに還元し、そのテーマ(遍歴、実績、成功、誤謬、失敗、犯罪、背信)毎に章を設けて分かり易く分析している点が特徴である。
    まず著者は、「長いあいだ希望のない無能な人生を送ってきた男が、やおら天才政治家として一国を支配し、そのあとふたたび希望のない無能者として生涯を終える。おなじ一人の人間にこんなことがありうるのだろうか。どうしても解明しなくてはならない」と、本書を記した理由を語る。
    そして、「二つの相反する理由から、ヒトラーの世界観はなんとしても追究しておかなくてはならない」とし、「第一の理由は、いま追究しておかないと、ヒトラーの世界観がわれわれの想像以上に、ひろく大きく深くこれからも生き続けてしまう危険があるからである」、「第二の理由は、ヒトラーの世界観のうち、まちがったことと、ある程度妥当なこととをきちんと区別しておかないと、たとえ正しいことでも、ただヒトラーがそういったというだけで、タブー視されてしまう危険があるからだ」と述べる。
    私はこれまで、ヒトラーについて詳しく知ろうとしたことはなかった(むしろ、避けていたかもしれない)が、本書を読んで、①ヒトラーが“余人をもって代えがたい自分”を作るために、意図的に国の仕組みや後継者を作らず、国の将来にも配慮しなかったこと、②ヒトラーは極右・階級政治家ではなく、むしろ左翼的ポピュリストであり、その唱えたものは極めて社会主義的な「人間の国有化」であったこと、③今日の世界は、気に入ろうが入るまいが、ヒトラー(の失敗)が作ったものであり、ヒトラーがいなければ、ドイツとヨーロッパの分裂も、イスラエルの建国も、植民地の早期解放も、ヨーロッパ社会の階級解体も起こらなかったこと、④ヒトラーにとって、モスクワ陥落を目前にした対ロシア戦敗北後の3年半の戦争は、ヒトラーがユダヤ人絶滅をやり遂げるのが先か、連合軍がドイツを打ちのめすのが先かの“駆け比べ”であったこと、➄ヒトラーは、自らの期待に応えられなかった“弱い”ドイツ民族に対し、最後にはその滅亡を企図したこと等、多くの再認識・発見があった。
    現代のドイツ、ヨーロッパ、更には世界を理解する上で、一読するべき一冊ではないだろうか。
    (2017年10月了)

  • 単行本で既読

  • 著者は、ナチス政権下にロンドンへ亡命したドイツ人ジャ-ナリストである。〝ヒトラ-とは何者か〟を自問自答した本書は、1978年にドイツ本国で出版された。学歴・職歴もない孤独な放浪者だったアドルフ・ヒトラーが、ドイツ国民を扇動し奮い立たせ、奇跡的な経済復興を成し遂げた功労者となった。この時点でヒトラ-が急逝していたら、戦争犯罪の極悪人とならずに終わったろう。1945年5月、総統地下壕に追い詰められたヒトラ-は、裏切りのドイツ国民と自らを共に滅ぼしさることだった。

  • ★4.0
    1978年に西ドイツで出版された、ベストセラーの新訳版。著者の立ち位置が常に中立で、ヒトラーの犯罪だけでなく成功についてもきちんと綴られる。そして、戦後に無能や素人と評された人が総統の地位に就けたこと、ユダヤ人の大量虐殺、戦争末期の無謀な戦略等、これまで疑問だった事柄がすっきりと解けたような感覚。と同時に、ヒトラーの底の知れない残酷さと憎悪に、ただただ恐怖するばかり。翻訳の妙もあって、不謹慎かもしれないけれど面白く読みやすかった。ヒトラーに関する考察本として、とても説得力のある1冊だと思う。

  • 2022年6月号

  • アドルフ・ヒトラーは一体、どんな人間だったのか。生い立ち、政治的成功、そして戦争、ユダヤ人虐殺。その軌跡をたどり、背後にある世界観を描き出す。

    1 章 遍歴
    2 章 実績
    3 章 成功
    4 章 誤謬
    5 章 失敗
    6 章 犯罪
    7 章 背信

  • ■書名

    書名:文庫 ヒトラーとは何か
    著者:セバスチャン ハフナー (著)

    ■感想

    ヒトラーの事を知りたいのであれば、楽しめる一冊。
    ヒトラーって本当にすごい。
    私利私欲の為に、自分のカリスマ性を理解し、全てを自分のおもちゃとして
    扱って人生楽しんでいるのだから。
    何百万人も殺している指導者ってなかなかいない気がする。
    ご本人がどこまで満足だったか分からないですが、人間の欲ってすごい。
    ヒトラーは極端だったけど、トップの人って基本精神異常者で無ければ
    勤まらないのでは?と思ったりもします。

    ヒトラーを崇拝はしていませんが、素直に特別な才能があった人物だと
    思います。

  • 勉強になった。単に善だ悪だの二元論にとどまらず、冷静に歴史の流れの中でヒトラーがどんな存在で、何に影響を及ぼしたのかが、述べられている。そして、事実を書いてあるのだけれど、なぜか読みやすかった。

  • 何でしょうね。

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著者プロフィール

セバスチャン・ハフナー(Sebastian Haffner)
1907年生まれ。ドイツの著述家、ジャーナリスト。ナチス政権下の1938年にイギリスに亡命し、「オブザーヴァー」紙で活躍。第2次大戦後、ドイツに戻り、政治コラムニストとして「ヴェルト」紙、「シュテルン」誌などを拠点に活動。著書に『ヒトラーとは何か』(草思社)、『ドイツ帝国の興亡』『裏切られたドイツ革命』(ともに平凡社)、『ナチスとのわが闘争』(東洋書林)などがある。1999年没。

「2020年 『文庫 ドイツ現代史の正しい見方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

セバスチャン・ハフナーの作品

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