日本の気配

著者 :
  • 晶文社
3.42
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感想 : 33
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794969941

作品紹介・あらすじ

「空気」が支配する国だった日本の病状がさらに進み、いまや誰もが「気配」を察知することで自縛・自爆する時代に? 「空気」を悪用して開き直る政治家たちと、そのメッセージを先取りする「気配」に身をゆだねる私たち。一億総忖度社会の日本を覆う「気配」の危うさを、さまざまな政治状況、社会的事件、流行現象からあぶり出すフィールドワーク。

感想・レビュー・書評

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  • いま、最も勢いのあるライターさんではないでしょうか。
    3年前、「紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす」を読んで、結構打ちのめされました。
    本作も楽しく読みました。
    山本七平の「空気の研究」は有名ですが、空気以前の「気配」を読むというのですから尋常ではありません。
    切れ味鋭い文章で、常人ならスルーする諸問題に突っ込みを入れていくのが痛快。
    政治家や著名人、それにコミュニケーション至上主義に、独自の切り口で「それは違うぞ」と異議を唱えます。
    たとえば、トランプの数々の女性蔑視を放置してきたイヴァンカの講演を聴いた後、安倍首相は「世界中の女性たちが立ち上がれば、世界のさまざまな課題はきっと解決できる」と述べた件。
    「この方々の女性活躍のイメージが、引き続きドリーミングであることがわかる」とは、何という皮肉でしょう。
    既に忘れ去られた存在になってしまいましたが、ショーンKについては、こんなふうに述べています。
    「私たちが日頃眺めているものは、常に『ショーンK』状態であると認識する必要がある。流行りの『マスゴミ』批判をいくつか覗くと、そこで規定されている正しいマスコミ像があまりにもピュアで、その理解のほうが危ういのではないか、という気にもさせられる。ショーンKは異分子ではなく、分子が可視化されただけなのである」
    卓見と思います。
    個人的なことですが、自分は、いつ、どこで、道を踏み外すか分からないといつも考えています。
    だって、世に数多ある小説を読めば、いつ自分が道を踏み外すか分かったものじゃありません。
    どんなに自分が気をつけていても、環境によっては容易に転落します。
    ですから、SNSなどで「自分こそ正義」みたいな投稿を読むと、ひやひやしてしまいます。
    武田さんは、通信傍受の拡大が盛り込まれた刑事司法改革関連法について、こんなふうに言います。
    「なぜ『あ、どうぞどうぞ、監視してください』と体を差し出すのか。自分は絶対に正義の側に居続けるという自覚を捨てるべきである。そんなものは些細なきっかけで反転する。『どうぞ監視してくれ』は誰にとっても稚拙な態度である。」
    我が意を得たりです。
    このたび、ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑さんではありませんが、「簡単には信じない」ということを、今一度、肝に銘じたいと、本書を読んで思ったのでした。

  • ラジオで砂鉄さんを知りすっかりファンになり紋切型の次にこの本を読んでみた。相変わらずネチネチとしつこく、もし身近な人だったらとにかく面倒臭い人。今の世の中、いろいろつっこみたくなることが満載の政治や社会の問題でもすぐにわすれないようにこれぐらいしつこく考え続けなきゃいけないかも。
    マンションのゴミ出しで管理人とのコミュニケーション能力の話がそこまで飛躍する!?と思いつつそうだよなぁと思う話の展開で面白かった。
    前作に続きけっこう疲れる読み応えなんだけど砂鉄さんのようなしつこさを持ち続けたい。
    また再読してみよう。

  • メディアで流布される情報に違和感を感じる時、まぁいいかと受け流すか、間違ってるよと声をあげるか、空気を読むか、読まないか、忖度と奥ゆかしさが混同されたまやかしによって一部の力ある者が社会が支配する。自己責任でごまかそうとする共助なき世の中は必ずや崩壊する。目に見えるもの・理屈で、世界は動いていない。見えざるもの・訳の分からない現実が自然の中で変遷していく。驕るなかれ、必ずや私たちは死を迎える。己を誤魔化していくか、素直になるか。自然は誤魔化さない、空気を読まない。私たちも自然に習うべきであろう。そして助け合えば答えが自ずと出てくる。言葉にならなくてもいい、一瞬の笑顔でもそれが答えのひとつであるはず。それはメディアでは到底伝えられない真実でもある。腑に落ちる。

  • 意見に賛否はあるが、作者の気付く違和感には自分も敏感でありたいと思う。

  • 「空気」のまえの段階「気配」。
    その大前提が、イマイチよく理解できなかった。

    忖度し、空気を読む、危うい世相なのはわかるが、細かいことをあげつらっているのが目立って、著者の言わんとすることがよく伝わってこなかった。

    かつて、KYが流行語になった頃、”空気を読む”ことに強く警鐘を鳴らしていたのが筑紫哲也さんだった。
    もう10年以上前の本になるが、『若い友人たちへ』(集英社新書)というメッセージ本があったが、その時受けた、危機感や強い思いが本書からは感じられない。

    このふわっとした感じのほうが、今は伝わるというのであれば、それはそれでよいのだけど・・・。

  • 有り 304/タ/18 棚:6 御津も

  • 政治、ワイドショーネタの言葉の間違い探しのようでした。メディアはリテラシーを身につけないと危険なんだなと思いました。

  • ふむ

  • 最初、読みにくいな、と感じたが、それは多分、ことば、表現の細部に至るまで、著者独特の考えがあり、それが文章に現れていると最後の方は思えるようになった。こうしたライターは今時珍しいと思う。著者の苛立ち、怒りなどが無骨な形で現れており、読み手はそれを丸ごとそのまま
    受け止めることが必要ではないか。

  • 日本の気配 武田砂鉄 晶文社

    あまりにスラスラと流れる言葉にのまれて
    まるでエッセイでも読むように軽く読み流していしまうけれど
    内容に気づくと空恐ろしい環境にしてきた自分に愕然とする

    〜「空気」が支配する国から「気配」で自爆する国へ〜
    忖度という空気を大事にする利他的な国だった筈のかつての日本文化が
    その高い教養と倫理観を自由勝手な競争原理と呼ばれる経済闘争主義に
    むしり取られ
    今や利己的に分断された個々が気配を先取りして自縛する時代に驀進する
    本来ならば国民を忖度するボランティア精神であるべき公務員が
    空気を悪用して開き直る政治家を筆頭とする公務員に成り下がり
    そのメッセージの気配に依存するメディアを鵜呑みにする国民に陥る
    こうした姿をあぶり出すフィールドワークがここに集約されている

    暴力的でえげつないお笑いに落ち込んでいるテレビを見ない私のは
    知らない名前や流行り言葉が沢山出てくるので浦島太郎気味になるが
    この本が現状を垣間見るチャンスともなる

    全てが建前社会で見え透いた本音が隠されていることを前提とする環境
    建前とした民主主義を忘れて資本主義の自由勝手な競争が
    民主主義の対等性から成る自在性だと思い込んでいる現状に唖然とする一方で
    蜘蛛の巣のような依存心が蔓延してしる社会で
    身動きが取れないことに悲鳴を上げるしかない恐ろしさ

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著者プロフィール

1982年、東京都生まれ。出版社勤務を経て、2014年よりライターに。近年ではラジオパーソナリティーも務める。
『紋切型社会――言葉で固まる現代社会を解きほぐす』(朝日出版社)で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞などを受賞。他の著書に『日本の気配』(晶文社、のちにちくま文庫)、『マチズモを削り取れ』(集英社)などがある。

「2022年 『べつに怒ってない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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