- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784797673999
感想・レビュー・書評
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内容はズバリ「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」。
見えないのにアートをどう見るの?触るの?
そんなギモンがすぐ浮かんだ、この本。
アートの感じ方は自由で、固定概念を取っ払わされて、そして、とてもシンプルなこと……
読んで良かった!
『本屋大賞2022年ノンフィクション本 大賞』作品。
ーー
前に書いたとおり、全盲の白鳥さんがどうやって美術鑑賞をするのか?
ネタバレしてしまうと、同行者が作品を話して説明する。
ただ同行者は美術に詳しいわけではなく、見たまま思ったまんまを伝える、、が、他の人からすると違うように見えて…
その混沌を楽しむのだ。
↑表現力が足りないので補足すると…
たとえばピカソの作品を見たら、Aさんは泣いてるように見える、Bさんは怒ってる表情に見えた、Cさんは馬だと思った、Dさんは腕がねじ曲がってるのが気になる!……というように人により印象がちがう。
(※注意:本作のなかにはピカソは出てこない)
こうやって伝えようとすると、よく見ようとしたり一人では気がつかなかった新たな発見があったりする。
白鳥さんはこうやって周りの人があれやこれや言い合うのをライブのセッションのように楽しむ。
人々の言葉、熱、振動、空気、そういうのも含めて感じ楽しむのだ。
作品にはかんたんな解説も書かれているし、一部の作品の写真も載せてある。
しかし鑑賞中の人の発言は自由で、子どもみたい。観音様の手ですら「菜箸もってるー!」てな具合。
アートは見た人の感じたもの、自由であっていいんだと思える。
別のワクワクは、なにより白鳥さんメインに作者の川内有緒さんなど出てくる人が魅力的!!
好奇心旺盛で行動力もすごい!
そして「自由」だ。
感想にその人がどう思おうが自由だし、相手がどうだからこうすべき、みたいな概念がない。
見えない白鳥さんにも「夢をみるの?形はどうなってるの?」ということも真っ直ぐ聞く。
(これは白鳥さんご自身のポジティブな性格や、周りの方との信頼関係もあると思う。)
その人の「ありのまま」を受け入れる器がある人たちなのだ。
出てくる川内有緒さん、友人のマイティも海外でも仕事をしていた経験もあり視野がひろい。……のだが、会話はおしゃべり好きな女性たち、いつまで経っても喋ってそう!という感じだ。
※※注意:締めのネタバレします※※
そして、読んで良かったなーーと思わせる締め。
みんなが白鳥さんが大好きで、白鳥さんやほかの人たちと話すのが好きで楽しんでいる。
ただ、そこにいるひとたちと……いたいんですねーー。
以下、本文で印象に残った文。
ーー
祖母は、努力しないと普通に生活できないんだよってよく言ってたよね。だから子どものころは、じゃあ、見えるひとは努力しなくていいの? そうだったら、見える人ってズルすぎるって思った。
(中略)
盲学校でも“健常者”に近づくことはいいことだと教えられて。
かつて行政が積極的に障害を持つ人を「不幸」と決めつけてきたことや、人生につまずいてしまった人を「自己責任」で片付ける昨今の風潮、そしてなにかが「できる」と言う「能力」ばかりに人間の価値を置いてきたことが、いまさらながら様々な形のひずみを日本社会に噴出させている。
別に劇的に変わったわけではないけど、徐々に視野が広くなっていった。ああ、ひとはそれぞれ違いはあるんだけど、そのままでいいんだって。
ーー僕らはほかの誰にもなれないーー
(中略)
必死に誰かの立場になって想像したとしても、わたしたちはほかの誰かの人生や感覚まで体験することは決してできない。同時にわたしたちは、ほかのひとになる必要もなかった。苦しみも喜びもすべてはそのひと自身のものだ。
ーーだってさあ、過去の記憶って思い返すたびに上塗りされているわけだから、どんどん変わっていくわけじゃない? そういう意味では、自分の記憶だと思っているものは、常に新鮮な状態の「過去の記憶」じゃない?ーー詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
知り合いからお薦めしてもらった本。
私たちは見えていると思っていても多くのことを見えていない。そして、見えているものも自分の価値観や経験を通して見ているので、他の人と見えているものとは違う。
これは概念的には理解できても具現的には理解するのが難しい。それを成している本である。
そして自分の価値観から脱していろんな観点から見てより本質に近づくためには、他の人との対話が必要なのである。人の価値観ではこのように見える、ということを話し合うことで「答え」に近づくことができる。
1人で考えることも好きだけど、定期的にそれらについていろんな意見の人と話すことって大事だよねと思った。
美術館に人と行きたい。 -
とても評価が良かったので読んでみました。
目の見えない人が絵画や彫刻を見るということがとても斬新に思えました。
元々アートは人の感性に訴えるものですし、わたし自身は目が見えますが例えば印象派の絵画を見て正しく?理解出来ているかと言われれば甚だ怪しいものなので、見て感じていいな、ステキだなと思うことが大事なんだと思いました。
そういうことに気づかせてくれた本でした。 -
千手観音
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『13歳からのアート思考』を読んだ時も思ったが、私たちは思っている以上に、作品をちゃんと観れていない、観た気分になっているだけなんだと感じた。
いざ人に伝えるとなった時、それも、見えない人に伝えるとなった時、今まで以上に見えなかったところが見えてくる。
理解しきれていないかもしれないが、白鳥さんと一緒に行くと面白い、という意味が伝わってきた。 -
ノンフィクション賞から。店頭とか、書評とかでも気になってたし、ってことで。ある種、美術鑑賞教本みたいな趣もあって興味深い。そんなかしこまった体裁の本ではないけど。リンゴよりビルの方が大きいというくだりがあるけど、言われてみれば、視覚が断たれた状況では、遠近法って当たり前ではないんだな、とハッとする。ただ寄り添う、というスタンスだからこその見解に、少なからず感銘を受ける。
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どこで見かけたのか忘れましたが、気になって読み始めた本。
初めは説明するために言葉にすることで美術作品をより深く見れるようになるという、わりあいわかりやすい話だったんですが、
読み進めていくと、まだ言葉にできない深い話が詰まっている、そんな本です。 -
人生観が少し変わったように思う。祖母が無くなり、どう受け止めていいかと思ってたときに読んだ。時間の経過もあるだろうけど、この本によって確かに助けられた。
今度から美術館等で作品を見る時、私ならどう伝えるだろう、どう表現するだろうと、美術鑑賞の世界が広がった。
ゆっくりと疑問を投げかけてくる。答えを強制するものではないように感じる。が、ふとその事について考える。
会話によって考えが発展していくというのを読むことによって感じた。
すごく好い本。何度も読み返す。 -
美術・芸術作品の見方について考えさせられる一冊だった。
美術史が好きで、どうしても作品の背景・作者の人となりの知識や限定的な想像ベースで見てしまうことが多い。それはそれで楽しい見方ではあるが、そういったものは取り払って、自分の主観だけで見るというのも楽しい。知識での説明ではなく、見たままを人と話すように。
現代アートはあまり得意ではなかったが、今後はより楽しく見れる予感がする。