目の見えない白鳥さんとアートを見にいく

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  • 集英社インターナショナル
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  • / ISBN・EAN: 9784797673999

感想・レビュー・書評

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  • 全盲の白鳥さんといっしょに美術鑑賞をするという、「えっ?一体どうやって?」と興味をひかれる試みをまとめた一冊。
    特に面白いと思ったのは、とある展覧会の図録のなかから「原っぱにみえる湖」はどれかと問われても、人によって選ぶものはバラバラだったというエピソード。
    当然といえば当然のことなんだけど、受ける印象というのはいずれにせよ千差万別なのだと改めて分かる。視力があるからといって、誰しもが同じように見ているとは限らない。

    そして最終章で、なぜ白鳥さんをはじめ仲間とともにこの「絵を見る活動」を続けてきたかということについて、〈ただ一緒にいて、笑っていられればそれでよかった。〉という気づきが素敵だと思った。
    ボランティアでも、発見を得るためでも、作品をよく鑑賞するためでもない。一緒にいて楽しいから。
    高尚な結論にもっていこうせず、ありのまま、等身大の関係性を綴ってくれていて好感が持てる良書です。

  • 著者が全盲の「白鳥さん」と一緒にさまざまな美術館をめぐり、そこでどんな作品をどう鑑賞したか、鑑賞の前後に何が起きたかを綴った本。作品写真もたくさん掲載されており、自分も一緒に作品を見ているような気分になれた。
    目が見えない人は苦労することが多いんだろう、と当たり前に思っていた。一方で私たちにはない特別な能力も持っているんだろうと思っていた。一部ではその通りなのかもしれないし、サポートできることがあるならしたいと思う。でも、目の見えない人の生活にあるのは特別じゃなくて日常だ。その人にとっての日常をみんな普通に生きている。そういう当たり前のことが、いままでよくわかっていなかった。

    私には目の見えない人のことはわからない。目の見えない人に限らず、自分以外のすべての人に対してそうだ。その人がこれまでに何を経験してきて、いま何をどう感じているのか、何を見て何を聞いて何を考えているのか、本当の意味でわかることなんてできない。
    わからなくてもいいから話を聞きたいと思う。本を読んで学びたいと思う。この世界には私の知らないことが山ほどあって、すべてを理解することなんて絶対にできないのだと知るために、もっと知りたい。わからないことをわからないまま、それでも想像することを諦めずに、寄り添うための方法を知りたい。

    この本を読んでから美術館に行き、いま私の隣に白鳥さんが立っていたら、と想像した。私だったらどう説明するか考えながら作品を鑑賞すると、確かに解像度は上がるし思考も深まる。でも、著者が白鳥さんと一緒に作品を見るのはそのためだけではなかった。もっと根本的な理由があるのだ。
    これまで美術館には一人で行きたい派だったけど、誰かと一緒に美術館賞をするのも楽しいかもしれないな、と思った一冊だった。

    【読んだ目的・理由】アートの見方について理解が深まりそうだと思ったから、ラジオチャリティーミュージックソンを聴いて視覚障がい者の方への理解をもっと深めたいと思ったから
    【入手経路】買った
    【詳細評価】☆4.6
    【一番好きな表現】見えないひとと見えるひとが一緒になって作品を見ることのゴールは、作品イメージをシンクロナイズさせることではない。生きた言葉を足がかりにしながら、見えるもの、見えないもの、わかること、わからないこと、そのすべてをひっくるめて「対話」という旅路を共有することだ。(本文から引用)

  • 川内有緒さんには
    いつもびっくりさせられる
    単なる体験談などではなく
    また予定調和などからは
    ずっとぶっ飛んだところに
    連れて行ってもらえる

    川内有緒さんが出逢っていく
    モノであれ、人であれ
    なんと魅力あふれるものとして
    描かれることでしょう

    「目の見えない」白鳥さんの
    なんとチャーミングなお人であることでしょう
    20年来のご友人マイティさんの
    なんとベスト・フレンドぶりであることでしょう

    美術鑑賞が単なる鑑賞にとどまることなく
    その観るという行為を通して
    それぞれの言葉をやりとりすることが
    「鑑賞」を飛び越えてしまって
    人と人がより深く知り合っていく行為になってしまう
    それって究極のコミュニケーションですよね
    そのキーパーソンが「見えない」白鳥さんであること

    美術鑑賞は好きなので
    よく「一人」で行くのですが
    なんだか自分の中で もう一つの見方が
    発生してしまっている気がしてしまう

    そんな一冊でありました

  • 全盲の白鳥さんと美術館に行く…そう聞いて、白鳥さんへの説明を通して絵の奥深さに気づくということなのかなと思った。でも、そんなもんじゃなかった。自分の生き方や価値観、今まで当たり前と思っていたことが全く違っていることに気づいたり。

  • アート作品を中心に話が展開されるかと思ったが、アートを通してそれぞれが感じることの違い。また、白鳥さんという人物を介して感じるさまざまな人間としての在り方を伝えている。
    障害がある無しに関わらず、他人の気持ちはわからない。他人にはなれないというメッセージがとても理解できた!
    どこまでいっても自分は唯一無二の存在であるんだ!
    とても面白かった。

  • 全盲の白鳥さんと出会ってからの著者の物語。

    自分と関わる人が、障害を持つ持たないに関わらず、誰かに関心をもち、その世界を知りたい、理解したいという気持ちで接していくことで、寛容さが育まれ、人生を豊かにしていくことにつながるのかなと思いました。

    また、時間を共有できる人がいることに幸せを感じる部分は白鳥さんと私の共通項のようです。

  • タイトル通り。障がい者を扱う特有の重さや説教染みたところがないのがいい。白鳥さん含め著者の周りに集まる人たちの人柄、感性や考え方がフラットでその言葉は真っ直ぐ胸に刺さった。何より面白い。

  • 旅行中に娘にKindleを取られて読む本がなくなり、
    急遽、本屋さんで手に取った本。

    久々のアート本ですが、今回は目の見えない白鳥さんと
    著者がアートを見に行くというノンフィクション。

    私の目の周りには目の見えない人というのがいないのですが、
    著者たちと白鳥さんのやり取りを通じて、
    目の見えない人が普段考えていることや
    感じていることが理解できて新鮮な驚きがあります。

    また、若干冗長なときもあるのですが、
    白鳥さんとの会話やアート鑑賞を通じて、
    著者の価値観を揺さぶられるような体験の記述があるのは、
    私自身も同じように追体験することができてとても参考になりました。

    タイトル通りに中身も面白かった一冊です。
    これはおススメ!!

    著者の川内さんの本は初めて読んだのですが、
    ノンフィクションライターをされているようで、
    他の本も何だか面白そうで、
    例えば下の本なんかを読んでみたいです。

    ※パリの国連で夢を食う。
    https://booklog.jp/item/1/4344426177

  • 〇目の見えない人と美術館へいくと、作品を再発見できる。見えていなかったことがわかる。
    〇最初は美術作品とのやり取りがメインだったが、次第に人・社会へと思索を広げていく。
    〇そのときそのときに、起こったこと、話したこと、考えたことが赤裸々に綴られている
    〇川内さんや白鳥さんの見方に新しい視点をもらったり、参加したいと思うこともあれば、そこは自分の考えとは違うなということや、あわないなと思うことも。
    でも、いろんな意見や考えを持っていて、むしろそれがいいんだよねと思えた

    ◎はじめに
    「乗ってかない?楽しいよ!」バスの中から友人が手を振る。
    車窓の風景は、見慣れているようで見たことのない風景だった。
    バスには席がいっぱいある。友人も誘った。
    「何が見えるか教えてください」
    全盲の美術鑑賞者、白鳥健二さんとアートを見に行く。

    1:そこに美術館があったから
    白鳥さんは「耳」で絵を見る。
    わたしは、目に入ったものを描写し始めた。
    〇“色”は概念でもある。なるほど!名前のあるものはすべて概念でもあるのか。
    〇私たちは経験や思い出をベースに“見て”“理解”する。見ることの複雑さ。
    〇目の解像度があがる
    〇わからないことを楽しむ白鳥さん
    〇「芸術とは普遍的な言語である」ダンカン・フィリップス

    ピエール・ボナール
    《犬を抱く女》
    《棕櫚の木》
    パブロ・ピカソ
    《闘牛》


    2:マッサージ屋とレオナルド・ダ・ヴィンチの意外な共通点
    水戸美術館のマッサージ屋の施術者・白鳥さん
    ※閉店セール
    〇白鳥さんの本の読み方(聞き方?)多読者のヒアリングのよう
    〇「目が見えないって大変だなあ」←“見える”状態がわからないから、見えないことで何が大変なのか、実はよくわからない
    〇健常者は頑張らなくていいの?障害者は健常者に近づかないといけないの?
    〇初めてのデートは美術館。
     レオナルド・ダ・ヴィンチのスケッチが全盲の男性の人生を変える

    レオナルド・ダ・ヴィンチ
    《人体解剖図》

    3:宇宙の星だって抗えないもの
    白鳥さんの美術品の好みは現代美術。よくわからないもの。
    作品に触れる触れないはこだわりがない。
    〇全盲だけど聴覚に優れているわけではない。感覚が優れている人もいれば、そうじゃない人もいる。
    〇作品は人と会うことで広がる。
    〇「人間は多くのものと闘えるけるど、時を相手には闘えない」クリスチャン・ボルタンスキー

    クリスチャン・ボルタンスキー
    《出発》
    《最後の時》
    《聖遺物箱(プリーム祭)》
    《発言する》
    《スピリット》
    《ぼた山》
    《白いモニュメント、来世》ほか

    4:ビルと飛行機、どこでもない風景
    バーチャル白鳥さんと美術館
    白鳥さんと水戸美術館
    「目の見えない人と観るためのワークショップーふたりでみてはじめてわかること」
     見える人と見えない人の差異を縮めるのではなく、本来パーソナルな鑑賞体験を共有したり、認識のズレを対話することで埋める
    〇白鳥さんさんは生演奏・即興のジャズのようなガイドを好む
    〇ビルと飛行機、世界の都市とN.Y. と思い出
    〇友だちがおおい人ならいいんじゃない?
    〇選ばないことを選ぶ自由はあるか
    〇9.11

    フェリックス・ゴンザレス=トレス
    《無題(偽薬)》
    大竹信朗
    《8月、荷李活道》
    《エリック・サティ、香港》
    《ビルと飛行機、N.Y.1》
    《ビルと飛行機、N.Y. 2》

    5:湖に見える原っぱってなんだ
    「自分は全盲だけど作品を見たい。誰かにアテンドしてもらい、作品の印象を言葉で教えてほしい。」
    美術を見る行為を通じて、「見える人」に対して感じていた引け目や「見える」と「見えない」の間の壁が取り払われていった。
    3時間のアテンドのあと、スタッフにお礼を言われた
    「目が見えるひとも、実はちゃんと見えていないのではないか」
    …湖と原っぱ
    「見える人」が「見えない人」と作品鑑賞をすると、思い込みや勘違いに度々気づかされる。
    …焦点を変える

    6:鬼の目に涙は光る
    よし、奈良に仏像を見に行こう。
    〇カテゴライズされたグループを離れて越境した世界に
    〇サバイバーたる仏像たち
    〇千住観音は食堂のおばさん?

    エドワード・ホッパー
    《ナイトホークス》
    法橋康弁
    《木造天燈鬼立像》
    《木造龍燈鬼立像》
    成朝ほか
    《木造千手観音菩薩立像》

    7:荒野をゆく人々
    魅力的な美術館とは?
    「はじまりの美術館」
     …美術館らしくない美術館
      裸足であがる美術館
    介護だってアートになる
    あなたの行き先教えます
    表現の力で世界を照らす
    障害は社会との関わりの中で生まれる。本人には障害の有る無しなんて関係ない。

    折元立身
    《アート・ママ》
    NPO 法人スゥィング
    《京都人力交通案内「アナタの1122322、教えます。」》
    酒井美穂子
    《サッポロ一番しょうゆ味》
    橋本克己
    《克己絵日記》ほか

    8:読み返すことのない日記
    白鳥さんはほぼ毎日さんぽに出かける。カメラを持って。
    撮った写真は白鳥さんにとって、読み返すことのない日記だ。
    その撮りためた写真で作品を生み出した韓国の現代芸術家ヂョン・ヨンドゥ
    「芸術ってひとの人生を変えられるものですか?」

    ヂョン・ヨンドゥ
    《ワイルド・グース・チェイス》
    《マジシャンの散歩》

    9:みんなどこへ行った?
    日本人のやり残した宿題
    歴史の記録から痕跡を消された人たち
     黒部ダムの建設工事に従事した朝鮮の人々
    自分自身に問い続ける

    風間サチコ
    《ディスリンピック2680》
    《ダイナマイトは創造の父》
    《ゲートピアNo. 3》

    10:自宅発、オルセー美術館ゆき
    白鳥さんとアートを見ることは、荒野を行くこと。
    コロナ禍
     ストリートビューでの鑑賞に足りない熱
    自分の中の優生思想
     障害者は不幸だ、という意識
     ←目の前にいる障害者にどう接するかと生まれてくる障害者を減らそうという優生思想は別々の問題
     ←健常者に近づくことはいいことだという差別や優生思想
     ←程度の差はあれ、差別や優生思想は自分の中にもある
     ←「できる」と「できない」は本来プラスとマイナスではない
    差別や偏見を写す地図の複雑化

    鑑賞は言葉や会話からの情報だけでなく、空気や雰囲気などからも多くのものを受け取っている


    11:ただ夢を見るために
    体験型の芸術祭
    夢の家で夢を見る
    マリーナが涙を流し、手をとったひと

    マリーナ・アブラモヴィッチ
    《夢の家》

    12:白い鳥がいる湖
    芸術って人の人生を変えられるものですか?『マジシャンの散歩』
    電灯を点ける生活、点けない生活
    ビルよりリンゴが大きい…不思議さがわからない
    僕らはほかの誰にもなれない…エンパシーへの疑問
    塩谷良太
    《物腰(2015)》

    エピローグ
    けんじの部屋

  • アートの見方などに全く見識を持たないので、興味本位で読んでみた。
    誰かと共有することの面白さ、ジャンルは違うが読書会が人気がある理由を知ることができた気がする。人の認識には個性があり、見ているようで見ていないことも世の中には沢山あることを再認識できた。人との交わりに面白さはやはりあるということを思い出した。
    面白い体験談だけが続くのではなく、読み進めるにつれて人生、障がい、大切にしていることなど様々な問いを投げかけられるパワーが溢れた一冊。

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著者プロフィール

川内 有緒/ノンフィクション作家。1972年、東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業後、米国ジョージタウン大学で修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏の国連機関などに勤務後、ライターに転身。『空をゆく巨人』(集英社)で第16回開高健ノンフィクション賞を受賞。著書に『パリでメシを食う。』(幻冬舎)、『パリの国連で夢を食う。』(同)、『晴れたら空に骨まいて』(ポプラ社/講談社文庫)など。https://www.ariokawauchi.com

「2020年 『バウルを探して〈完全版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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