感想・レビュー・書評

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  • 先日、作家の小川洋子さんがパーソナリティーを務めるFM東京「パナソニック・メロディアス・ライブラリー」で取り上げられていたのが本書。
    早速、岩見沢市立図書館にあるかどうかネット検索すると、あるではないですかっ。
    すぐに借りて読みました。
    いずれ劣らぬ一流作家33人が書いた、「カレーライス」にまつわる随筆を集めたアンソロジー。
    私の偏愛する町田康、色川武大、中島らもをはじめ、池波正太郎、伊集院静、五木寛之、井上ひさし、井上靖、内田百閒、北杜夫、向田邦子、吉本隆明と、それこそ綺羅星のような作家たちの極上の「カレーエッセー」がてんこ盛りです。
    町田康は、カレーライスそのものではなく、カレーライスの食材をスーパーに買いに行った際の、情けなくもおかしい心の動きを主題にして笑わせます。
    「つまり、そのレジの人に、なんだこいつカレー食うのか、はは、と思われるのが恥ずかしい、っていうか」
    自意識過剰な私なぞは「分かる、分かる」と膝を叩きました。
    食通で知られる池波正太郎は、やはりここでも筆の冴えがひときわ目立っており、巻頭にふさわしい出色のエッセーです。
    渋谷百軒店の「ムルギー」のカレーライスなんて一度食べてみたい気にさせられました。
    ただ、それより、括目したのは、父母が離婚し、叔父叔母のもとに引き取られていた池波少年に、カレーをごちそうしたという立子山先生のエピソードが強く印象に残りました。
    立子山先生は放課後、池波少年を人気のない図画室へ連れて行きます。
    「どうだね。つらいことはないか?」と問う立子山先生に、池波少年は「べつに、アリマセン」と答えます。
    そこへ、カレーライスが洋食屋から運ばれてきました。
    「さ、おあがり」と立子山先生。
    池波少年は夢中で頬張ったそうです。
    「この図画室で御馳走になったカレーライスほど、強烈な印象を残している食べものはない。」
    「国民食」と呼ばれるようになって久しいカレーライスは、その味覚とともに私たちの記憶と強く結びついた料理であるようです。
    筋金入りの相撲ファンとして知られる内館牧子の随筆も良かったです。
    OL時代に同僚とプロレスを観戦しに行った内館は、お茶を飲むために女の同僚と会場を抜け出します。
    裏庭のようなところに出ると、若いレスラー2人が、夜の庭にしゃがんでカレーライスを食べている光景に出くわしました。
    「樫の木を思わせる逞しい腕を動かし、スプーンを口に運ぶ」2人のレスラーに、内館は思わず惚れ惚れと見惚れてしまいます。
    「巨大なシャベルカーがキビキビと動いているような美しさがあった」とは、何と見事な喩えでしょうか。
    ほかにも味わい深いエッセーがたくさんありますが、やっぱり大トリを飾った色川武大。
    医者に勧められて食事制限に取り組むという通俗的な話から切り出し、いつの間にか現実なのか夢なのか分からない領域に読み手を誘い、最後は見事に落とす。
    誠に目の覚めるような鮮やかなエッセーです。
    キリがないので、この辺で止めますが、小津安二郎のエッセーなんかは、小津が世に出るきっかけが「カレーライス」だったというのが分かり、そういう意味で結構価値があるのじゃないかなー、と思いました。
    途中に差し挟まれているカレーの写真も良し、ページ自体が黄色いのも洒落ています。
    カレーが食べたくなりました。

  • 紙がカレー色なのが、意表を突かれた感じだった。カレーを愛してるというこだわりが伝わってくるような。
    著者が、カレー好きだというのが、伝わってくる本。
    カレーライスとライスカレーの違いを力説したり、カレーの夢を見たという話だったりというような、バラエティーに富んだ話が多かった。その中でも、即席カレーの味比べが面白かった。
    阿川宏之さん、佐和子さん親子や、吉本隆明さん、ばななさん親子の共演作品も掲載されているので、それができるのもアンソロジーならではある。

  • よしもとばなな=吉本隆明親子、阿川佐和子=阿川弘之親子(親子と言っても並べているのではないしそれと分かるようにしているのでもないです)、内田百閒、伊集院静等々、存命で今も活躍中の作家随筆家からとうに亡くなっている往年の映画監督まで、カレーライスにまつわる小品集。池波正太郎さんがトップバッターというのは王道というか狡いというかですよね?
    同シリーズの『お弁当』はいくつかカテゴリがあったのに、こちらはどーんと一本なので若干単調かも?と思ったのだけど、実はもうカレーライスに対する思いは百人百様。全然そんなことはなかったのでした。

    収録されているものはほんの2ページ(めくったら終わり)、から数ページのものばかりで、有名人、内容(ネタ、とルビを振りたい)はカレーライス、と普段本をあまり読まない人でもわりと読みやすいかも。
    個人的には、阿川弘之さんの文章が面白くて、『鮨 そのほか』が読み止しになっているのを読み直したくなりました。

  • 池波正太郎はじめ、文豪たちがこれまでに綴ったエッセイの中から、カレーライスに関するものだけをまとめた。
    企画の趣旨がいいなあ。
    途中で、カレーライスが食べたくなること必至。
    次巻のお弁当も読んでみよう。

  • PARCO出版の食べ物アンソロジーシリーズ第三弾。気が向いたときにパラパラするのにちょうどいい感じ。

    カレーとなると、どうしてみんなこう熱く語るんだろう。しかも多くの人が、すごくおいしい!というわけではなかった「家のカレー」を懐かしんでいる。はっきり「あのまずいカレーがまた食べたい」と書いている人までいたりして。お弁当と並んで、カレーライスは郷愁の味なんだなあ。

    一番気に入ったのは、久住昌之さんの「カレーライス」。
    「カレーライスは、理屈を言わなくても、あの匂いにかき立てられて、興奮のままにかき込めば、おいしさなんてあとからついて来るんだ」
    ほんと、そうだよねえ。

    林真理子さんは、小説もエッセイも面白いと思ったことがないのに、どういうわけか「お弁当」に続いて、このシリーズのはいいなあと思う。高校生の頃の気分が、妙な自己顕示なしに書かれていて心に残った。

  • 作家さんそれぞれに個性があって、同じカレーライスなのにこんなに切り取り方がちがうのかーとエッセイのおもしろさを感じました。読み終わったらもちろん作りました、私のカレーライス。

  • 文章が黄色い紙に印刷されているので、どことなくカレーのにおいがしてくるような気にさせる本でした。これだけの著者が一度はカレーについて綴ったことがあることがオモシロく、しかもほとんどの著者がカレーはメリケン粉から手作りの記憶を持っています。市販品のカレールーの話は出てこない。市販品のカレールーの味に慣れている者としてはちょっと淋しい。そんな中、レトルトカレーの食べくらべをしているのは吉本隆明さんでした。父娘二代で著述業かつ父娘とも登場する阿川家と吉本家ですが、カレーの話が家族の記憶とも限らないようで、カレーの舞台がばらばらであることもオモシロかったです。

  • カレー好きの私にはたまらない1冊!♡
    どの人でもカレーライスにまつわる思い出って多いんじゃないかとは思っていたけれど、昔の人ほど、“ライスカレー”に対する思い入れって強いんだなぁと思った。
    それも、野外活動とかでみんなで作ったカレーではなくて、“家の”カレー。
    阿川佐和子と吉本ばななの章が、特に印象深かったなぁー。
    この本の唯一の欠点!それはお腹が空いて、無性にカレーライスが食べたくなること!!笑
    まったく違う夜ごはんの予定だったのに、急遽カレーにしてしまったww

  • 日本人はカレー好きなんだとつくづく感じた。そしてこの33人の方々それぞれに拘りを持っておられるしカレーに対する思い入れを感じた。我が家ではほとんどカレーが食卓にあがることがないけどカレー曜日が存在する知り合いがいるけど工夫をしてらっしゃるのか?
    用紙が黄色いのと「と」の字が読み辛い。

  • 大御所の皆さんがカレーライスのこだわりを書いていると、ものすごく崇高な食べ物に思えてくるから不思議だ(^^; どの話のカレーも美味しそうなんだけれど、慣れていないせいか黄色い紙と文字に目をやられた(--;)

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

阿川佐和子の作品

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