- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784883792580
感想・レビュー・書評
-
米沢嘉博著『戦後エロマンガ史』(青林工藝舎/1890円)を購入。
夏目房之介さんがブログで絶賛していたのを見て、手をのばしてみた。
2006年に肺ガンで早世した著者の遺作である。あと数回連載すれば完結するところにさしかかっていたが、惜しくも絶筆となり未完に終わったもの。
生前の米沢さんには、その晩年に一度だけ取材でお会いしたことがある。それだけのご縁だが、マンガ評論家としての仕事にはかねてより敬意を抱いていた。
本書は、「マンガ史三部作」と呼ばれてきた著者の代表作『戦後少女マンガ史』『戦後SFマンガ史』『戦後ギャグマンガ史』につらなるものである。
タイトルとは裏腹の上品な装丁は、少しでも手に取りやすいようにとの配慮であろうか。まあ、それでも通勤電車などでは読みにくいだろうが、マンガ好きならもっておいてよい本だ。
まだざっと眺めただけだが、詰め込まれた情報量に圧倒される。豆粒のように小さな活字が、二段組みでぎっしり。図版も、縮小されてはいるものの、ぎっしり。収録図版は約2500点(!)にのぼるという。
夏目さんもブログで言うとおり、「とんでもない労作」だ。エロマンガをめぐる資料でこれ以上のものは、今後現れないだろう。これでこの値段は安い。
図版は大半が表紙や扉絵だが、有名作品はもちろん、聞いたこともないような作品もズラリと並んでいて、見るだけで楽しい。さすがは「マンガの“歩く百科事典”」と呼ばれた米沢さんの仕事である。
終戦直後の「カストリ雑誌」の挿し絵、すなわちエロマンガの前史から説き起こされ、1990年代の「有害コミック問題」にちらっと言及するところで終わっている。
それ以降の約20年の歴史が書かれずに終わったのは残念だが、これだけでも資料的価値はすこぶる高い。マンガのアカデミックな研究も進んできた昨今だが、エロマンガについては今後もまっとうな研究対象にはなりにくいだろうから、なおさらだ。米沢さん自身も次のように書いているように……。
《底辺の娯楽と見られていたマンガの中でもさらに最底辺に位置するエロマンガは、雑誌のマイナー性、ゲリラ性もあって、単行本化されたものも少なく、残っている資料も少ない。また、あまりにも解り易い「エロ」というテーマもあって、評論の対象にもなりにくかった(41ページ)》
正統的(?)エロマンガのみならず、宮谷一彦、山上たつひこら一般劇画・マンガの性表現についても、またレディースコミックなどについても言及されている。その意味で、本書は狭義のエロマンガのみならず、「戦後マンガの性表現」をめぐる通史でもある。
ところで、俳優の田口トモロヲって昔エロ劇画家だったのだね(田口智朗名義)。本書で初めて知った。「ばちかぶり」(パンク・バンド)のヴォーカルをやっていたのは知っているが、そのさらに前の話である。
『劇画アリス』を舞台に特異な青春パンク・エロ劇画(私は読んだことがないが、本書の記述から推測)を手がけていた彼の当時の担当編集者が米沢氏で、「いつもマンガとロックの話をしていた覚えがある」そうだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示