昔日の客

著者 :
  • 夏葉社
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本棚登録 : 1004
感想 : 106
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  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904816011

感想・レビュー・書評

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  •  夏葉社の本、1冊目(読んだのが、という意味で)。 
     当時の文学者たちに愛された、東京大森の古本屋「山王書房」と、その店主によるエッセイ、32年ぶりの復刊。

     文学者との交流、本との出会いと別れ、東京の古本屋街を巡ったあとの若いタクシー運転手との対話、亡き父との想い出、葬儀のときの想い出・・・。
     どれもが、古き良き時代の空気感であふれていて、滋味ある文章と相まって、ゆったりと読み進むことが出来る。
     
     雨が降ったので買った本を喫茶店に預けるエピソード、「スワンの娘」がいいなぁ。
     私も、田舎から東京に出てきた当時、授業の後でいるもので、大学に持っていくには荷物になるからと、途中の乗換駅の売店のおばちゃんに、「ちょっと預かっておいてもらえませんか?」とお願いしたことがある。まだ、そんな雰囲気が東京にも残っていると思っていたのだろうけど、けっこう意外な顔をされたなと、今でも思い出す。
     この作者の時代、昭和4,50年代は、ごく普通の行為だっただろうな。

     とにかく、何かの役に立つとか、なにか時代を象徴しているという内容ではない。なんてことのない日常の点描なのだが、忘れがたい風景が行間から立ち上がる。なんとも味わい深い。 作者もこう記す。

    「それは私の人生には無用なものかも知れない。が無用なものの中にこそ、言い知れぬ味わいがひそんでいるものだと思う。」

     無用の用、ではないが、なにかと情報過多のこの時代にこそ、見直されるべき価値観を垣間見た気がする。

  • すっきりとした気持ちの良い読後感、良い意味で特に何かの役に立つわけでもない話題

    ただの充足というか豊かさのようなものしかない

    でも、これはまだ今の俺には必要ない

  • 本が結ぶ人の縁を、ことのほかあたたく深く感じるのは、そこには語らなくても分かり合える言葉があり、時代があり、安心感があるからだろう。何年か前に古い友人が尾崎一雄さんの『暢気眼鏡』を読みんしゃい、とくれた。それだけで、私はその友人を心から信頼できた。そんな感じで(いや、もっと粋でお茶目で愛おしく)綴られていく、人と人との出逢い。なんてうらやましい古本屋さんとお客さんたち。そしてこの本を復刊した夏葉社さんにも絶対的な信頼を寄せることができる。素敵な読書の時間をありがとうございます。

  • 山王書房の店主(著者)と本を愛する人々とのエピソードを綴った一冊。本を愛し、古本屋を天職とした著者の哲学が感じられます。何を主張する訳でもありませんが、本好きな人たちををほっこりさせる本だと思います。

  • 愛書・読書の中の話ではなく、本を通じた人の交歓の素晴らしさ。折に触れて読み返したい。

  • 夏葉社さんのお薦め本だったので読んでみました。昭和の古書店主と文化人のやりとりが、とても上品に書かれている本でした。慌ただしい現代ですが、読んでいるときは、ゆっくりとした時間の流れの中にいるような感じでした。

  • 古本屋を営む作者さんが綴った随筆でした。有名な作家さんの名前が幾人も出てきて、作者さんも大正産まれのよう。2010年発行にしては古めかしいと思ったら、復刊でした。
    もともとは作者さんが還暦の記念に出版を目指したものの、大腸癌を未告知のまま59歳で逝去。その翌年に発行されました。息子さんが引継ぎ書いたあとがきが印象的でした。復刊に尽力した夏葉社の方と、方々で『昔日の人』を紹介した又吉さんのエピソードも良かったです。

  • 羨ましくなるくらい素敵な店主とお客の交流。「あしたから出版社」を読んでから読むことを心からおすすめします。
    http://www.ne.jp/asahi/behere/now/newpage208.htm

  • 古書店の主人と文豪たちとの交遊、お客様たちとの交遊、読んでいて、笑ったり、ほっこりしたり、涙ぐんだりさせていただきました。全編に作者の本に対する愛が溢れています。読後感が爽やかです。

  • 大森の古本屋さん、文学・本への情熱がじわじわと伝わってくる
    文体が素晴らしい。

    当時の本好きとの付き合い方、シンプルで、かつどこか深いものが
    懐かしい感じでうらやましい。
    最近はどこの古本屋に行っても、手の震えるような本に出会わない、
    というあるお客さんの嘆き。
    棚を見て、手が震えるようにして取る、著者も上手い言い方と感心
    しているが・・・、確かにこういう衝撃は今は残念ながらない。
    (私は、昔ありましたが)

    当時を思い出させる描写も良い。
    藤澤清造の「根津権現裏」はやはり古書で高価な値がついていたこと。
    三島があの文章読本が、寝転びながら口述で作り上げたと告白
    してしまうところなどなど・・。

    もっと読んでみたい人だった。

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