草枕 [Kindle]

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  • 2012年9月27日発売
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感想・レビュー・書評

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  • [五まで]
     いやもう、びっくりするほど面白いな! 自分のなかの、漱石は年齢を重ねてから読んだほうが面白い説がさらに強固になってしまった。
     忘れもしない『草枕』初読時は中学生で、旺文社文庫。たぶん国語の教師(担当学年は違っていたけど、図書委員の先生だったので、話をしたのだったと思う)にすすめられて、読み始めたのだったと思う。ところが、名文と言われる冒頭部分から躓いてしまった。文章の意味はわかるのだけれども、書いてあることがよくつかめない。結局、途中まで読んで断念してしまったように思う。なので、自分のなかでの『草枕』の位置づけは、実はあまり高くはなかった。
     ここ数年、自分のなかでひっそりと漱石ブームが来ていて、時折思いついたようにページを繰って目を通しているのだけど、これがもう途轍もなく面白い。三十代に入ってから再読したときも、その面白さにびっくりしたのだけど、ここへ来てからの面白さはさらにそれ以上で、自分でもびっくりする。登場人物それぞれの語る言葉が「わかる」。それこそ、件の冒頭部分から。すごく、すごく良い。
     漱石作品のなかの女性の扱いが、現在から見ても驚くほどにフラットだという話は、最近になってから別の方から聞いた。それもなんとなくわかるように思う。

  • 2019年末に5年ぶりの再読。なんとなく気になったので。
    改めて読むと夏目漱石の教養の幅の広さと、敢えて非人情(第三者的視点)となることで軽妙に山の風景を描写し、飛び飛びに思考を巡らせる画家の落ち着かなさ、戦争と近代化に浮かれる都会の世を風刺する本作の鮮やかさに驚きました。

    俗っぽい世間を嫌って山道へ逃れてきた画家の姿は、自然に癒しを求める現代人となんら変わらず。「汽車ほど二十世紀の文明を代表するものはあるまい」と続く都会の没個性を嘆くシーンなど、今BBCの記事に描かれていても違和感がない。旅の思い出を語ると苦労話が飛んで急に良い話になることも、頷ける。ここで描かれる世間の煩わしさなんて、現在と何も変わらない。「雨に濡れるのも非人情の第三者であればこそ美しく見える」と言いつつもずいぶん濡れてしまって「非人情がちと強すぎた」というところはクスッとする。
    僧侶も出てくるので仏教用語や、中国の故事?なり古語を引っ張ってきてるので、非常に読むのは難しいんですが、100年前に描かれた本書のテーマは普遍的かつ現代的である。
    22世紀も同じ悩みを人は抱えているだろうか?面白かった。また死ぬまでに読み返さないと。

  • 漱石小説の登場人物は、絶妙な意識の低さが好き。三島は意識高すぎる。
    超有名な冒頭。いや、本当それ。全面的に同意。どうして人の世はこうも生きづらいのか。
    縁側で日向ぼっこして日がな一日暮らしたい的な文章とかね。
    ストーリーが特別面白い感じではないんだけど、定期的に読み返したい小説。

  •  青空文庫より。

     物語を楽しむ小説、というよりは文章を楽しむ小説なのだな、ということを読んでいて思いました。単に画家が旅館に泊まって、旅館の人と話したり物思いにふけったりするだけの話なので、話の起伏なんてあったもんじゃない(笑)。それでも読ませるのはやはり漱石の文章の巧さとなるのでしょうか。

     冒頭に「とかく人の世は住みにくい」が有名な作品ですが、鏡に映った自分の顔に悪態をつく場面が個人的には笑えました。またその時の感情描写が大真面目なので、余計に可笑しかったです。

  • 山里の温泉宿を訪れた青年画家と、謎の美女と、「非人情」な世界について。
    話の筋はあってないような程度で、ほぼ作者の絵画・詩歌などにたいする「美学感」が述べられていた。
    1ページ中5語くらいは「生まれて初めて目にする言葉」ばかりでちと難読。
    個性を尊ばれながらも無個性に扱われる近代社会のひずみへの危惧。
    なんでもたったの1週間で執筆されたらしい。
    いきいきとした会話のやりとりがきもちよかった。

  •  1906年に書かれた夏目漱石の小説。絵画や詩句、人情と非人情といったテーマについて主人公が温泉宿で思索を巡らし、出会った人々と風雅で洒落た交流を連ねていく。20世紀が始まったばかりの当時の世相も垣間見える。

     私自身はまったくと言っていいほど芸術方面に疎いので、彼のような心境にはなかなかなれない。主人公の想いが作者の想いかどうかはわからない。恐らくそういった考察も100年がかりで積まれているだろうが、考えすぎるのも野暮だろう。

     満州へ出征する若者を見送るシーンで幕を下ろすのだが、主人公はその後の時代をどう生きて、どう死んだのだろうか。こういう風流な人が楽しく暮らせる世の中はこの後何年続いただろうか。そんなことがふと気になった。

  • 冒頭は有名。高校生の時に初めて読んで、その東洋的な漢詩然とした描写する言葉の美しさにはまる。主人公が淡々と観察する様は諦観しているような、それでいて人間らしいような。読むと気分がよくなるのだが、今だうまく言語化できない、何度でも読み返したい一冊。

  • 読んだった感

  • 学生のとき、何度か挫折。今回初めて読破した。これは学力が上がったとか、忍耐力が増えたとかいう理由ではなく、50歳を越えて草枕の世界が心地よく思えるようになったのが理由だろう。ストーリーは退屈。画工である30歳上の男が、山中の温泉で出戻りの女と出会い、最後に彼女の表情に「憐み」を見つけるというもので、さしたる展開があるわけではない。主人公の口から芸術論が述べられる。「四角な世界から常識と名のつく、一角を磨滅して、三角のうちに住むのを芸術家と呼んでもよかろう」。なるほどと思う。また、茶道の雅味を煩雑と決め付け、「麻布の連隊のなかは雅味で鼻がつかえるだろう」とやっつけているのは痛快。明治時代の人々の会話も心地よいが、全ては理解できなかった。それでも、読書の快感は味わえる。もう20年ほどしたら、再読してみようと思う。

  • 相変わらず夏目漱石の難しい日本語に難儀したが、美しく、風景も浮かびやすかったほうかと。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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