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感想・レビュー・書評
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12歳の誕生日をすぎてまもなく、ぼくはいつもしあわせな気分でいるようになった…脳内の化学物質によって感情を左右されてしまうことの意味を探る表題作をはじめ、仮想ボールを使って量子サッカーに興ずる人々と未来社会を描く、ローカス賞受賞作「ボーダー・ガード」、事故に遭遇して脳だけが助かった夫を復活させようと妻が必死で努力する「適切な愛」など、本邦初訳三篇を含む九篇を収録する日本版オリジナル短篇集。
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収録されたすべての短編が面白い。特にお気に入りは『闇の中へ』。街の中に出現したワームホールの中へ単身乗り込むのだが、光でさえも出口方向にしか進まないので、前方は闇、もちろん後戻りは不可能。街には当然障害物だらけなのでどのルートを取ればいいのかが肝心。変な言い方だが、理論が理解しやすいハードSFでした。表題の『しあわせの理由』は映画になったら素敵だなと思う。イーガン小説では当たり前のように感情を操作できる遠未来が描かれますが、そのアンチテーゼとなります。読み進めていくうちに、幸せってなんだろうと思わずにいられません。誰か映画化してくれないかな。
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SF基盤の哲学小説とは言い得て妙。
スリラー、ミステリ、色々なテイストで問われる「私とは何か?」がとても面白い。多面体すぎるグレッグ・イーガン…。 -
アシモフやハインラインが活躍しSFの黄金期と呼ばれる1950年代の作品を多く読んできたが、その時代はいわゆるスペースオペラが中心だったのに対し、本作の著者グレッグ・イーガンの描く世界はもっとずっと身近だ。ワープ航法を駆使しして広い宇宙をめぐるような話ではなく、現在の技術の延長に作られる近未来の文化や社会の話となっている。
本作は表題作を含む9篇の中短編からなるアンソロジーである。個々の作品の紹介はしないが、どの作品も穏やかで淡々と話が進み、結末も派手なものではない。いわば、世界観そのものを味わうのが醍醐味と言える作風だ。SF的な技術面だけでなく社会のあり方といった面においても作者の想いが伝わってくる。それを楽しめるかどうかは読者を選ぶかもしれないが、私は好感が持てた。 -
SFは哲学である。
そのことに誰もが納得する作品集。
ミステリーあり、推理あり、耽美あり、毛色の違った作品が並ぶが、そこには、人とは何か、自分とは何か、というテーマが横たわる。
SF短編集にしては(というのも偏見だが)、心温まっちゃうハッピーエンドが多く、それはそれで、人、がんばろう!と読後感暗くならない安心感がある。 -
設定としては、非常にSFなのですが。
実は物語のミソは、SF的部分にあるのではなくて(もちろん、SF的部分もすごく素敵でした)、そのSFな世界で生きる人々のドラマにある……というか。
生きることとは?生命ってなんなのか?幸せとは一体?それらの定義や意味を問われているような、哲学的な一冊。
そして、哲学的思考を展開するために必要不可欠なツールとしてSF的設定が使われているという感じでした。
例えば、「ボーダーガード」で論じられている『死』への考えなんかは、死や病が根絶されてしまった世界に生きる人々でなければリアリティを持って発せられない言葉だろうし。
表題作の「しあわせの理由」にしても、脳内の化学物質をコントロールすることで感情を変えられてしまうという状況故に、幸せそのものに対する問いかけが成立するのだと思うのですよね。
そんな訳で、難しいSF的部分はあまり理解出来なかった私でも、十分楽しめましたよと、それが言いたかったのでした。