勝手にふるえてろ [DVD]

監督 : 大九明子 
出演 : 松岡茉優  渡辺大知  石橋杏奈  北村匠海  趣里  前野朋哉 
制作 : 高野正樹 
  • Sony Music Marketing inc. (JDS) = DVD =
3.67
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本棚登録 : 388
感想 : 75
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4517331042679

感想・レビュー・書評

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  • 芥川賞作家・綿矢りさによる同名小説の映画化で、恋愛経験のない主人公のOLが2つの恋に悩み暴走する様を、松岡茉優の映画初主演で描くコメディ?のようで、意外とシリアスな青春ラブストーリーみたいな作品。
    作家、綿矢さんは、かなり癖になるような作品の多い好きな作家さんだ!しかしながら、まだこの原作は読んでおらず先に映画化されたものを観たけど、やはり、綿矢さんらしい内容がツボにハマる。
    主演女優の松岡美優さんは、実は、そんなに好きな女優さんではなかったのだけれど…一人芝居、喜怒哀楽の表現が上手いですね〜(見直しました!思わず感情移入してしまった。)
    一人ミュージカルみたいなところは、かなり驚いたけど!(◎_◎;)笑 本の中ではどんな表現になってたのか興味がある。

    何だか、懐かしい気分にもさせてくれた主人公のヨシカの心の動き(浮き沈みというか)
    奥手なのか内弁慶的な性格なのか…内向的ともまた違うような、この年頃の妄想とあっけからんとしたような彼女。展開される現実が、怖いけど、普通の一般的な女性に紛れ込もうとしている。感受性やずっと変わらないでいたい気持ちと相手との距離感を埋められず寂しいと感じる事とか、ひっくるめて、今の自分を探ってる感じがまるで心象風景を見ているように思えた。
    中学校時代の初恋の人って、
    いつまでも純粋で美しいものと捉えがちだよね〜って頷く思いがしました(^_^;)
    中学校時代の好きな男の子が「イチ」で
    OL時代に知り合った男の子が「ニ」って失礼な話だけど、綿矢さんらしい発想だなって妙に感動した(^^;;

    私自身も滅茶苦茶、奥手な人間なのに…
    そうねぇ、中学生の頃に好きだった片想い君は”神”ってくらいの神聖な存在だって気がする、、ま、実際は気がしただけだったけどね(-。-;
    大人になって再会した時は、あの頃の初々しいビクビクしながらも純粋に追っていた気持ちは何だったんだ!(お互いに)って思えるくらい、いきなり時計の針が勢いよく回った感覚があった(誰しもそんなものなのか〜?知らんけど…。)
    OL時代は自分を大きく見せようとイキがっていた気もする クールに常にまわりの男友達とも連帯感が大切でグループ同士の付き合いが幅を利かせてたように思う(クールだって〜(" ̄д ̄)!孤立するのが怖かっただけじゃない‼︎)グループで連んじゃったりしてたら、その中に好きかもしれない?なんて恋愛感情を抱いた人がいても、決して自分の想いを本人に言うことなんて出来なかった!グループの仲間意識にひびが入りそうで…(・・;)
    バカバカしい!( ̄^ ̄)そう思えたら大人になった!(なんて嘘だけど…)
    好きな人に告白するのは昔から苦手だし、自分を無理に繕おうとすると、自分が自分でなくなる感覚で妙な言動に出てしまう。
    この作品を観てたら、そんなヘンテコな自分の姿が蘇ってくるような恥ずかしい気持ちと共感する思いが湧き上がって、淡い擬似恋愛した気分になった(*^^*)
    昔?の記憶の中に…
    グループ仲間の男の子が「hiromidaニって俺のこと異性って思ってないだろ⁉︎」って言われた「え〜!今更…そっちだって思ってないでしょ!」って笑って返したら「…。」
    しばらく沈黙があって「そっか、分かった。」って言われた、 (エッ(・・;)何が分かったのよ〜と心の声が呟く)いつまでも、グループで群れてる場合じゃない…。 時の流れが現実味を帯びて寂しい感覚になった(´;ω;`)
    まるで、ヨシカが「イチ」と再会して、
    「イチって昔から、君って呼ぶ人だっけ?」    って言った感覚に似てる。
    名前を覚えられてもいない気づきはリアルに現実の時間に引き戻される。

    少しネタバレ抜粋…
    OLのヨシカは同期の「ニ」からの突然の告白に「人生で初めて告られた!」とテンションがあがるが、「ニ」との関係にいまいち乗り切れず、中学時代から同級生の「イチ」への思いもいまだに引きずり続けていた。
    一方的な脳内の片思いとリアルな恋愛の同時進行に、恋愛ド素人のヨシカは「私には彼氏が2人いる」と彼女なりに頭を悩ませていた。そんな中で「一目でいいから、今のイチに会って前のめりに死んでいこう」という奇妙な動機から、ありえない嘘をついて同窓会を計画。やがてヨシカとイチの再会の日が訪れるが……。

    原作:綿矢りさ(芥川賞作家)
    出演:松岡茉優、渡辺大知(黒猫チェルシー)、石橋杏奈、北村匠海(DISH//)、古舘寛治、片桐はいり 他
    監督は「でーれーガールズ」の大九明子。2017年・第30回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品され、観客賞を受賞。

    なかなか、面白かった!
    Huluにて鑑賞

  • とってもラブリーな映画でした♪

    オタク系女子の妄想二股のおはなしなのですが、観ていて恥ずかしさと懐かしさと愛しさで身悶えする女子(元女の子も)は多かったみたいですね~。

    主演の松岡さんが表情豊かに、大変キュートに演じてます。
    前から気になる女優さんでしたけど(『あまちゃん』に出てましたよね)ますます好きになりました。細やかで気持ちの良い演技をされますよね!

    二股をかけられるイチとニの彼。
    イチは美形で良いのだけれど、ニの彼はちょっと顔が可愛すぎない~?と最初は思っていたのですが、三人のバランスを考えると良かったのかも。

    ニの彼は『黒猫チェルシー』というバンドの渡辺大知さん。
    ラストの主人公との言い合いの切なさったら無かった。
    あんなにきゅんとくる喧嘩シーンははじめて。
    あのラストの後の『黒猫チェルシー』が歌うエンディングテーマ!たまりません。

    好きになるひとはめっちゃ好きになるかもしれない映画でした。

    • しずくさん
      潔いタイトルと松岡茉優さんのファンなので気になっている映画です。「万引き家族」で違った茉優さんに出会えました!
      潔いタイトルと松岡茉優さんのファンなので気になっている映画です。「万引き家族」で違った茉優さんに出会えました!
      2018/07/06
    • 5552さん
      しずくさん、コメントありがとうございます!
      この映画、松岡さんの魅力全開でした!松岡さんファンの方なら是非。
      タイトルも目を引きますよね...
      しずくさん、コメントありがとうございます!
      この映画、松岡さんの魅力全開でした!松岡さんファンの方なら是非。
      タイトルも目を引きますよね。どういうことなんだろうって。

      松岡さんが『万引き家族』にも出演しているのを発見したときは嬉しかったです。
      未見なのですが、ものすごーく楽しみです♪
      2018/07/06
  • 2017年公開作品。テンポが、すごく良いです。松岡茉優さんの喜怒哀楽が目をひきます。凄い才能を感じました。相当に拗れた主人公を見事に演じてます。主人公の拗れ具合が過去に見たことがあるように思ったのですが、「私をくいとめて」と同じ方の監督作品なんですね。脇を固める俳優さんも、いい味出してます。面白い作品です。

  • ファンである松岡茉優さんが主演しているのと「勝手にふるえてろ」のタイトルに惹かれてチョイス。
    ヨシカは発達障害かな? 最近は生き辛い主人公たちが本当に多いこと! 序盤ではヨシカがバスの乗客や釣りをしているおっさん、カフェのウェイトレスと意気投合して誰とでも気楽におしゃべりしている場面があったが、妙にテンションが高すぎて不自然とは思っていた。ヨシカは職場の同期である二に告白されるが、彼女の心の中には中学時代から片思いしている同級生イチが居続けている。ヨシカは絶滅危惧種が好きでアンモナイトをネットで購入したりもしている。
    ヨシカは実際は序盤に描かれたように誰とでも話せていたのではなく不器用なヒロインで、あのシーンは願望だったのだと終盤になるに従い分かって来た。
    ラストで、待ちに待った「勝手にふるえてろ」のセリフが使われる。
    ヨシカは自分をすべて受け入れてくれるニとやっていこうと決心したのだろう。「勝手にふるえてろ」と言ってニにキスをする。「勝手にふるえてろ!」は二に向けたのではなく、臆病だった自身に言った言葉だったのだ。

  • ・爪噛み! 天然王子! 視野見! アンモナイト! フレディ! 面白要素満載。
    ・全台詞キャプチャーしてLINEやツイッターの素材にしたいくらいイカしてる。
    ・文脈のわかるアバンギャルド? 悪乗り?
    ・松岡茉優の魅力。早口になるところとか、「は!?」というリアクションとか。「桐島、部活やめるってよ」「万引き家族」でしか知らなかったが、凄い。好きになってしまった。「ファーーーーーーーック。ファックファックッファックファックファックッファックファックファックッファックファックファックッファック」とか「ザッツビューティフルサンデーだよー」とか「あれ? 好きとは言われていない。ん? やだ。言われたい、ずるい。は!? 普通言いません?」とか「神様いやお母様」とか「たこ! たこたこたこたこ!」とか「傲慢で震えがくるわ!」とか。実は2度3度見返して名台詞を40個ほど書き出しているのだ。それでも足りない。文字では再現できないチャーミング。
    ・70分あたりのドンデン返し→ミュージカル→部屋へ帰って大泣き、という一連が凄い。
    ・部屋のインテリアとか、服(SPACE PARTY)とか、小物とか、すべてがイイ。好き。
    ・意外と女友達との友情が、いいんだな。ヨシカがきちんと名前を呼ぶ相手は彼女なのだ。徹頭徹尾名づけと名を呼ぶことの話なのだ。
    ・そして「二」を演じた渡辺大知の、少し相手への配慮がないのにそれでも愛せる感じ……「ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから」のポールを思い出す。こいつの「俺のことは? なんて呼びたい?」「愛してはない。好きレベル」とか笑わせてもらって、最後は「愛い奴よっ」と思わせてもらって。こいつも好きになってしまった。
    ・原作も読まねば。



    ・私ってほんとクソヘタレ。
    ・野蛮で承服しかねます。
    ・怒ってません。軽蔑してやってんの。
    ・でもイチは猫じゃらしじゃなくて王子なんです。
    ・疲れますわそりゃ。
    ・完全にウィキの奴隷です。(ウィキプディア)
    ・頑張ってくださーい。いや無理金曜だよ、タモリ倶楽部あるから。
    ・ファーーーーーーーック。ファックファックッファックファックファックッファックファックファックッファックファックファックッファック。
    ・ひとつくらい変えてもバレないんじゃない?
    ・それはあなたに向けた茶目っ気なんかじゃない。私とイチが精神的につながってる証なんです。
    ・ビューティフルサタデーだねー。
    ・私こう見えていま告られたんです。いやー人生初告られたわー。
    ・ザッツビューティフルサンデーだよー。
    ・あれ? 好きとは言われていない。ん? やだ。言われたい、ずるい。は!? 普通言いません?
    ・こっち見て。私を見て(俺を見て)。イチのあの言葉を引き出せたのって、視野見だけで我慢した私への、ご褒美だと思うんです。
    ・討ち死にですわね。あら楽し。
    ・今のわたしはレナ・ムラサキダーニ。
    ・被害者ヅラ被害者ヅラあーうざい!
    ・神様いやお母様。
    ・イチ東京にいるって神様ー! 東京の空気おいしいね! サンキュー東京ー!
    ・(アンモナイトに)あざーす。
    ・(俺ずっといじめられてたのに。)
    ・(君だけが俺を見てなかったでしょ。)
    ・(君と話してると不思議。自分と話してるみたい。あのころ君を友達になりたかったな。)
    ・イチ君って人のこと君って呼ぶ人?(ごめん、名前何?)プッハハ。ああ。ああ。あああーーー。私の名前をちゃんと呼んで。
    ・絶滅すべきでしょうか? 誰にも見えてないみたい。ふふ。
    ・(俺のことは? なんて呼びたい?)
    ・たこ! たこたこたこたこ!
    ・なんかねえ昨日からどんどん出ちゃうんだよね心の声が。
    ・ドスケベが! ポン引きかよ! ファーーーーーーーック!
    ・こちとら恋愛10年コースでやってんだよ!
    ・いま私無敵!
    ・なるほど。孤独とはこういうことか。
    ・マジ神。
    ・大丈夫。意外と死なない。
    ・命粗末になんかしてませんけど。
    ・ジャンヌ・ダルクがいる!
    ・処女狙いの悪魔じゃん!
    ・傲慢で震えがくるわ!
    ・(愛してはない。好きレベル。)
    ・はい出た正直ー。私それ大っ嫌い!
    ・(珍しいからかな。異常でないし、偉人でもないけど、一緒にいたくなるんだわー。ヨシカは、わかんないことだらけなんだよ。だから好き。)
    ・((外に)俺との子供作ろうぜー!(戻って)聞いてほしくて。地球上の人々に。嘘。顔見て言うのが恥ずかしかっただけ。)
    ・勝手にふるえてろ。

  • 臆病な自分なんか、勝手にふるえてろ、ファック。
    松岡茉優主演の映画。プライムで鑑賞。

    オタク妄想女子のヨシカは脳内で10年越しの恋を育んでいたが、会社の同僚である二(霧島)に告白される。理想と現実に板挟みでこじらせ女子が大暴走。という映画。
    パッケージの表紙とタイトルからしていつものクソ重たい邦画なのかと構えていたら、ところがどっこいこれはコメディである。ラブ、はあったと思うけど、喜劇で人間賛歌なコメディだ。

    松岡茉優がかわいい。あの人の自然体で無愛想な感じがとても好きだ。近寄り難い美しさゆえの鋭利さではなくて、平凡の中にある不躾さがたまらない。え、なんでそんなこというの、とか、は、私そんなこと言いましたっけ、とかいう、台詞が似合うこと似合うこと。それも表情は嫌悪を表さないで、ある意味無垢とも言える無表情で。反対に、嫌悪感を表すときの目つきの鋭さが、絶望に浸っているときの空虚さが、全てを物語ってて、怖くて好きだ。たぶん、脳内でまじで往ね、とか考えてるんだろうな、という歪んだ思考が垂れ流されている表情筋に、思わず拗らせている人間の典型だからこそ共感してしまう。

    イチという理想の彼氏(片思いの相手)にずっと想いを寄せていたヨシカ。それも中学の時の同級生だ。まじで二言三言しか会話していない。それでも数少ない接触から「精神的に繋がっているの」とまで言わしめる彼女の自信……というよりも、思い込みに、思わず苦笑した。うわあ、すごい、という感嘆からだ。恋をしている時なんて、こんなものだろうと思うし、他人も見える。たった数少ないものでも「繋がっている」と思えれば、例えそれが非現実でも、妄想の中でしかないフィクションであっても、それだけで楽しそうに冒頭のように愛を語れる。2次元を愛好している人だと身に覚えがありそうな感覚ではないだろうか。現実に存在していなくても、いや、存在していないからこそできる盲信だ。

    告白した時にかっこうつけている二がまじで格好悪くて笑ってしまった。無駄にバックライトで後光さしてるのがシュールさを際立たせる。ああ、かっこよく見えちゃったんだね、現実に愛されるなんて思ってもみなかった自分自身に、(たとえゲロ吐いてクソ格好悪くてみっともなくても、自分の惨めさに項垂れていても)、理想のイチという脳内でしか近付けない存在とは違って、現実にそうして好意を向けてくれる人がいるという事実が現実を脚色していく。

    全くタイプじゃないうえにヨシカにとってはうざ絡みしてくる(というか寝てない自慢とか身体鍛えてますアピールとかまじできめえなと思うので同意しかないが)二と釣りに行くものの盛り上がりに欠ける中、二を置いてきぼりにしてひとりイチのことで盛り上がるヨシカ。被害者面に憤るヨシカは彼女なりの罪悪感からの責任転嫁だろうが、いまの彼女にとって二は眼中にない。全ては理想のイチと自分の恋が全てだ。気を持たせる女の人ってそういうズルいところあるよなあと正に表してる気がする。

    二のおかげともいうべきか自信を持ったヨシカは、一度死にかけることによって暴走する。そう、SNSで他人を騙り、現実のイチと接触しようと試みるのである。

    絶対苦手な(その時の松岡さんの上目遣いが見覚えがある、そういう騒がしく華やかな場所が苦手な人がよくしている、周りを警戒しながら伺っている視線だ)同窓会という飲み会に参加して、幾つも勇気を振り絞り、イチと対面して話す現実をゲットするヨシカ。内心、拍手喝采である。良かったね、無理して、頑張って、暴走して、やっと話せたね。アンモナイトや絶滅危惧種が好きという謎の共通点を得て、10年越しの恋が発展するのかと思いきや、ヨシカの問い。
    「イチくんって人のこと君って呼ぶ人だっけ」
    「えっと……名前、なんだっけ?」
    その瞬間、心のダムが決壊する。もとい、叫び出したい恥ずかしさが胸を突いた。認知すらされてなかった!名前すら知らなかった!大爆死、憤死、恥ずか死である。

    そこからが怒涛の展開だった。
    会社の様子や中学時代の回想から、根暗そうで捻くれてそうに見えていたヨシカ。
    マッサージ屋さんや、駅員さんや、釣りのおじさんや、コンビニの店員さんと、仲良さげに話していたのは、全て、全て、全て、ヨシカの妄想だったのだ。全て透明。全て幻想。話しかける勇気もなければ、誰とも関わっていない。絶滅すべきなのでしょうか、という歌詞が悲しみに満ち満ちて、泣きたくなった。消えたい、消えたくない、消えるべきだ、と螺旋思考する自己否定の嵐の歌だ。

    この距離が わたしと世の中の限界 おじさんもわたしも透明だ
    ねえ アンモナイト 生き抜くすべを教えてよ どんだけねじくれたら 生きやすくなるの

    頼むから辞めてくれと言いたくなるほど恥ずかしくて惨めな自己憐憫だ。玄関先で大声で泣き声をあげる松岡さんの演技に、頭を抱えたくなるほど恥ずかしかった。ヨシカのような爆死はままあれど、あの泣き方には身に覚えがあったからだ。自分が可哀想で惨めで消えたくなる時の泣き方だったからだ。

    名前すら知られてない白紙の状態なら始めようは幾らでもあるだろうに、まさに『臆病な自尊心と尊大な羞恥心』した精神を持つ彼女にはそれこそが困難だった。そんなヨシカは放心状態で二と会う。
    卓球したり動物園に行ったりして笑顔を見せるくらいには親しくなって癒されていくわけだが、そこらへんの二があーかわいいかわいい。
    正直理想のイチや現実のイチよりよっぽど可愛げがあるように見えたので、本当にヨシカは脳内でミステリアスに美化されているイチという理想の存在と10年前の恋愛の思い出の美しさだけを愛していたのだな、というのが如実に感じられた。

    そうして悶々としているうちに、来留美が二に秘密を明かしていたに憤ったヨシカは、一方的に二に別れを告げる。
    二が月島さんから聞いた、と又聞きの内容を散々打ち明けてしまうあたり、ちょっとよくわからない、大人なんだから本人に聞けと思うけど、二も来留美も処女だとかは言ってなかった。だとしても男の人が童貞であることを劣等感に感じるように、処女であるコンプレックスの核を突かれたヨシカは耳を塞いでしまう。

    まるで価値がない、意味がない、生きてても生物として欠陥がある、その事実が重くて恥ずかしくて耳を塞ぎたくなるように感じるヨシカの気持ちがわからなくもない。
    来留美だからこそ明かした本当の気持ちを、まだ信じていいのか迷っている人間に告げ口されたと考えてしまったら、誰にも言えないコンプレックスを明るみにされてしまったと思ったら、あるいは自らのタイミングで伝えたかったのなら、正直「言わなきゃ良かった」と後悔してしまわないだろうか。
    来留美の台詞で「恋愛成就なんて馬鹿にしてるでしょ」とか言っていた来留美こそ、内心でヨシカを見下していた、というヨシカのファック発言にも納得してしまう。というよりお互いが、お互いの良いところを羨ましがって、ないものねだりをして、妬ましく思い合っていたようにも感じられる。
    生殖こそ生物的価値がある世界の側面も、無きにしも非ずだ。ヨシカは絶滅生物(危惧種、ではなく既に死んでいるもの)に自己投影して野蛮だと固定的な嫌悪を抱いていたのは、恋愛そのものに絶望していたからこそなのかもしれない。理想のイチ・過ぎ去った過去の遺物で心の隙間を埋める不毛さに、現世この世には存在しないことを頭では理解しておきながら、彼女が異常巻きを起こして自らの首を絞めている。

    そうして傷付いたヨシカは子供が出来たと嘯いて会社を休んでしまい、信頼しある意味では愛すら抱いていた来留美を無下に傷付け八つ当たりして、喚くだけ喚いたら逃げるように会社を去る。
    このあたりの暴走は止めどない。誰か止めてあげて、とタオルを投げたくなる。

    そして暴走と同じ手段で名を騙り、二を呼び出したヨシカ。汚いところも含めて受け止めてよ、と喚くヨシカ。全て寄りかかるのではなく少しずつ解り合っていこうと悟す二。それでも好きだ、と言い切る二に、ヨシカは最後に霧島くん、と呼んでから「勝手にふるえてろ」とキスをする。


    原作を読んだ方の感想や解説を盗み見る限り、これは理想のイチ=自己愛から妄想していたヨシカ自身であり、現実に打ち震え恐怖するばかりだった自分自身と決別する言葉、と解説されていたけれど、いやこれ、映画では霧島くん自身に言った言葉とも解釈できそうな気がする。
    理由・好きだから、で汚いところも含めて受け止めようとして、それでも少しずつ分かり合っていこうよと防護策を張る霧島こそ、現実に震えている気がしなくもない。好きだから平気だって言ってるけど予防線張ってるのは何なんだ。それでも平気になりそうな自分に怖がっているんじゃないのか。人を愛することを怖がっているのは霧島の方ではなかろうか。まさに冒頭でヨシカがイチにしていた値踏みを、霧島も抱いているゆえではないだろうか。

    どっちみち、現実の人との関わりなんて、傷つけ合いでしかない。理想のイチであり傷付きやすい自分と決別したヨシカの中だけでなく、中学生のように「無視ですか」と心配そうに言う来留美も、結婚はするつもりはないからと予防線を張って来留美を使って恐る恐る探りを入れる霧島も、傷ついて傷つけられて怯えながら現実の人間と少しずつ接していくしかない。それを理解したヨシカが、自分自身にも、現実の相手にも真摯に見つめ、現実と向き合う覚悟を決めた結果の言葉のような気がする。
    怯えているやつなんて、勝手に震えてろ、ファック。
    愛し愛される関係になるためには、恐怖を克服し勇気を振り絞り存分に傷つけ合ったあとに、その傷の舐め合うことから始まるしかないのかもしれない。その様こそが喜劇以外のなにものでもなく、絶滅生物とは異なるいま現代で生きている人々の有様であり、賛歌のように感じられた。

    とまあ久しぶりに邦画でこんなに長文の感想書けるくらい衝撃的な作品だった。2度目は痛々しすぎて見たくないがしばらく考えてしまいそうな良作。

  • わたしの世界の王子様

    東京で経理の仕事をしているヨシカ(松岡茉優)は中学生の時から思い続けている相手・イチ(北村匠)が居た。卒業以来会ったことはなく、脳内で個人的イチ名シーンを再生しては思い出と恋心にひたる。そんな毎日が続いていた。

    そこに、社内でヨシカを気にかける二(渡辺大知)という会社の同期が現れる。

    二と追いかけられる恋を楽しむか、イチを追いかけ続けるか。



    そんな甘い状況だけ聞くとただのラブコメに聞こえてしまうが、この作品の闇は深い。

    学生時代は根暗。
    大人になった今でも絶滅した動物を朝まででも調べて楽しむようなヨシカは、街で会う人たちと妄想の中で楽しく会話をする。

    自分に興味を持ってくれる存在を自ら作り出したヨシカとは裏腹に、再会したイチは今も皆んなから気にされる存在。
    その住む世界の違いに圧倒されながらも、イチの世界に入り込むチャンスが訪れる。
    名前の無いイチにかけられた、"心無い言葉"。

    大切にしてこなかったものに大切にされることはない。
    しかし、大切にしてくれるものだけを大切にするべきなのか、
    考えさせられる内容だった。

  • 自分の内側からだけ見た世界で生きている女性が、
    私の名前を呼んでほしいと泣くのだが、
    そもそも現実に存在している他者に触れて、
    相手の名前を呼ぶということをしていないのは、
    己自身だったのだ。

    実態は、
    現実と向き合えず、自分を変える勇気はなく、
    劣等感が強すぎるために、
    大切な存在たちの好意さえ被害的に受け止めて踏みにじっている。
    自分自身の言動が、他者を傷つけていることは無視して、
    自分の傷つきばかりを主張する。
    本当は、ものすごく見てほしいのに。
    本当は、ものすごく他者と関わり合いたいのに。
    そうして、人と関わることは、
    傷つくことが避けられないというのに。

    それでもこの主人公が魅力的なのは、
    唐突ではありながら、
    自分を、現状を、力づくでも変えようと行動できるところ。
    はっと目が醒めた時、
    本気でぶつかってくる人から逃げなかったところ。



    いやぁ、松岡茉優、うまいわ。

  • 凄い評判良かったので楽しみだったんですが期待しすぎたかな。
    主人公の妄想についていけない時があった。
    またずっと好きだった人との再会後のお話は見てるこちらも精神的にきた。
    松岡さんや、その他の出演者さんの演技はとても良かったと思います。

  • 2018年9月2日鑑賞。シンガポール行きの機内にて。妄想OLヨシカの「イチ」への中学時代からの恋と、デリカシーのない同僚「ニ」からの告白の行方は。原作も面白かったが映画もよかった、観終わるとこの役は松岡茉優以外には考えられない、ドハマリぶりというか彼女の演技力・表情や佇まい、存在感に目を奪われた。(涙まで流してしまった)なんか、ドラマや映画で人気の女優が役を演じている、という感じじゃなくて「実在の人が懊悩するさまを覗き見ている」という感じにさせられるところがすごい…。原作をアレンジした、妙な対話や唐突なミュージカル風の演出も観ているときの「???」感含め嫌味でなく楽しめた。男の子二人もまさにイメージ通り、という感じ。日本映画はまだまだ面白い。

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