黒い夏 (扶桑社ミステリー ケ 6-7)

  • 扶桑社 (2005年6月1日発売)
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感想 : 23
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田舎町に住む老若男女の群像劇。そして猫。それから、お約束の阿鼻叫喚の地獄絵図。
ただ、食人族シリーズとは違う渋味が臓腑にじくじくと染みる。

暴発しやすい不良少年レイが起こした惨劇、それを隠す幼なじみのジェニファーとティム。
惨劇の被害者家族を気にかける、家庭に問題を抱える刑事チャーリー。
恐ろしい悲劇から逃れるため引退した元刑事のエドと、若く聡明なサリー。
精神を病んだ母親との関係に苦しむキャサリン。

日々の暮らしの中、それぞれの行動が少しずつレイを刺激していき、そして突然、暴力の雪崩を呼ぶ。

もちろん、レイの行いには何一つ褒められたものはない。ナルシストで傲慢で独りよがりであまりにも無知。だけど、中盤辺りからどことなく、愛すべき一面もみえてくる。キャサリンを手に入れようと無理してみたり、彼女の挙動に一喜一憂する。彼も恋したら変わるだろうか?なんて、淡い幻想を楽しんだりもした。

しかしキャサリンの母親の死で、レイの恋は終わってしまう。他にも悪いことが重なった。レイは獲物を追って罠にかけられた猫のようだった。後には止めようのない落下しかない。そしてその墜落に、繊細で善良な人々が巻き込まれ傷つくのだ。レイを木の上に追いやったことをほんの少しずつ背負いながら。

レイのようなブラックヒーローの魅力はどこから来るのだろう。

清廉潔白な人々は、レイなんぞ虫ずが走るのかもしれない。しかし私のごとき臆病で狡く矮小な人間は、レイや「時計仕掛け」のアレックスのようなキャラクターがちょっと好きだ。
とんでもなく理不尽で乱暴で傍若無人。私の心そのものだ。ただ、社会からつまはじかれては何かと不自由なので、善良な一市民を演じている。挙げ句高尚ぶって分厚い本にカバーをかけ、スーツにパンプスという真面目腐った格好で静かに電車に座り、人知れず猟奇ポルノを楽しんでいるというわけだ。

つまり社会へご迷惑を撒き散らす彼らブラックヒーローは、私の復讐を代行してくれているように思えて、胸がすくのかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ホラー
感想投稿日 : 2012年10月7日
読了日 : 2012年10月7日
本棚登録日 : 2012年10月7日

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