罪と罰〈下〉 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1987年6月9日発売)
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感想 : 416
5

下巻。
上巻はこちら。
https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4102010211

上巻にもメモした登場人物一覧。
まずはロシア名を覚える三原則、ただし自己流(笑)。
 ①個人名+父称+苗字
 ②愛称や名前の縮小がある。ロジオン→ロージャ
 ③名前も苗字も、男性名と女性名がある。

主人公一家。
 兄「ロジオン・ロマーヌイチ(ロマーンの息子)・ラスコーリニコフ(男性姓)」愛称ロージャ
 妹「アヴドーチヤ・ロマーノヴナ(ロマーンの娘)・ラスコーリニコワ(女性姓)」、愛称ドゥーニャ
 母「プリーヘヤ・アレクサンドロブナ(アレクサンダーの娘)・ラスコーリニコワ(女性姓)」

お互いの立場や年齢、関係性や親しさにより呼びかけが変わります。
 ロジオン・ロマーヌイチ→きちんとした呼びかけ
 ロージャ→愛称。親しい呼びかけ。
 ラスコーリニコフ→客観的な呼び方?作者は本文でこの名で書くことが多い。

他の登場人物。
マラメードフ一家
 セミョーン・ザハールイチ・マルメラードフ⇒飲んだくれ
 カテリーナ・イワーノヴナ・マルメラードワ⇒マルメラードフの妻。
 ソフィヤ・セミョーノヴナ・マルメラードワ (ソーニャ、ソーネチカ)⇒マルメラードフの娘。

被害者姉妹
 アリョーナ・イワーノヴナ⇒高利貸しの老婆。
 リザヴェータ・イワーノヴナ⇒アリョーナの異母妹。

警察関係
 ポルフィーリー・ペトローヴィチ⇒予審判事。この名前表記は、名前と父称だけで、苗字は不明ですね。

友人知人など
 ドミートリィ・プロコーフィチ・ウラズミーヒン(通称ラズミーヒン)⇒ラスコーリニコフの大学時代の友人。

 アルカージイ・イワーノヴィチ・スヴィドリガイロフ⇒ドゥーニャが家庭教師として務めていた家の主人。私は彼の名前が憶えづらく、「ビーフストロガノフさん」と密かに呼んでいる(笑)

 ピョートル・ペトローヴィチ・ルージン⇒ドゥーニャの婚約者。

では後半も張り切って行ってみよ~~。


上巻終盤で”謎の町人”としてラスコーリニコフの前に現れたのは、ドゥーニャが以前雇われていた屋敷の主人のスヴィドリガイロフ。
彼はソーニャへ言い寄っていたが、自分の妻が死んだことによりラスコーリニコフ兄妹に近づいてくる。
ソーニャの隣の部屋を借り、ラスコーリニコフ一家や、ソーニャの家族の状況を探り、ラスコーリニコフが高利貸し姉妹を殺したことを察し、自分が助けになるように思わせぶりなことを仄めかし…
このビーフストロガノフさん…じゃなくてスヴィドリガイロフの目的がよく分からん行動は読んでいてなかなか楽しかった。
格好つけてるが構ってほしいというか、鷹揚な振りしているがそのためには案外細々と動く人物ですね。
スヴィドリガイロフ も自身の理論でぐいぐい進み、それを証明したがっていますが、ラスコーリニコフの周りにいたような家族や友達や支えの存在はいなく、誰もスヴィドリガイロフに「是」という人はいませんでした。
こう思うとラスコーリニコフは本当に周りの人物に恵まれている。

さて、ラスコーリニコフは、自分自身の理論を証明しようと殺人を実行したものの、彷徨っては倒れて自分の犯罪を仄めかす真似までしている。
「自分がナポレオンだということを証明しようとしたが、これほど悩むということで自分はナポレオンでないということを証明してしまった」ということで。

そのままの心理状況でポルフィーリー・ペトローヴィチとの心理合戦第2回戦へ突入。
ポルフィーリー・ペトローヴィチは、ラスコーリニコフの発表された論文から考え方やら性質を読み取り、「たとえば何の証拠もないが、ある事件の犯人だと確信している人物がいるとします。彼の周りには網を張って、彼から警察に来させるように仕向けるのですよ」とかなんとか言って、ラスコーリニコフを牽制します。

この後、ドゥーニャの婚約者ルージンがドゥーニャを手中に取り戻すためにソーニャとラスコーリニコフを陥れようとしたり、
ソーニャの義母であるマルメラードワ夫人が苦労と貧困と病とで錯乱して子供たちを巻き込み往来で大騒ぎを起こして亡くなったり、
ドゥーニャとラズミーヒンとが近づいたり…人間関係が動いています。

心乱れたラスコーリニコフは、母のプリーヘヤ・アレクサンドロブナと妹のドゥーニャに別れを告げ、友人ラズミーヒンに殺人を仄めかし、ソーニャには殺人を告白し、そしてそれをスヴィドリガイロフに立ち聞きされ…。

ソーニャは、家族のために娼婦になっていますが元々の性格は奥ゆかしく神様と家族に対して従順、ただただ人間の良心と神様への信仰を支えに生きています。
ラスコーリニコフの殺人告白を聞いたソーニャは答えます。
「あなたが汚した大地に接吻を。そして私は人殺しですと人々に告白してください、そうすれば神様がまたあなたに生命授けてくださいます」

そしてラスコーリニコフとポルフィーリー・ペトローヴィチとの心理戦第3回戦。
ボルフィーリー・ペトローヴィチは、ラスコーリニコフに自首を勧め、それとももし自殺するならその場合は…ということを示唆します。

…大したもんだなあ、ボルフィーリー・ペトローヴィチ。普段もこんな捜査しているんだろうか。「ポルフィーリー・ペトローヴィチ予審判事の事件簿」とかいう短編集でもあったら読んでみたいわ。

そうしてついに、ラスコーリニコフは警察へ行きます。
「あれはぼくがあのとき官吏未亡人の老婆(※高利貸しのアリョーナ・イワーノヴナ)と妹のリザヴェータを斧で殺して、盗んだのです」

ラスコーリニコフを疑っていたのはポルフィーリー・ペトローヴィチだけだったため、ラスコーリニコフのシベリア流罪は8年で済むことに(本来は20年くらいっぽい)。

エピローグでは流刑先のシベリアに舞台が移ります。
ソーニャはラスコーリニコフに着いてシベリアへ行き、ラスコーリニコフの母は亡くなり、妹のドゥーニャはラズミーヒンと結婚しラスコーリニコフを支えようとします。
しかしラスコーリニコフはまだ心の平安を見出せません。
なぜ自殺せず自首したのだろう、8年の刑期を終えた後新しい人生など送れるのか…
しかしあることがきっかけで、ラスコーリニコフの心に神への愛、贖罪、そしてソーニャへの愛が見出され…ついに心の平安を見出したところで物語は終わります。


総括
難しいかと思っていたり、粗筋が有名すぎて読んでいなかったのですが、読んでみたら一気に進みました。
殺人を犯した後の混沌たる心の動き、ポルフィーリー・ペトローヴィチとの心理戦、そして神への愛。
キリスト教社会の小説を読むと、「神様が見ている、赦しを与えてくださるのは神様」「自分の良心に問う」、そしてロマンスとは別の神の愛があり、「受けなければならない苦しみ」があります。
その分被害者個人への赦しや謝罪はほとんどないですね…。ラスコーリニコフや周りの人物も、斧で叩き殺された高利貸し姉妹個人の事はほぼ誰も触れず…
キリスト教は「人間同士が横の糸で繋がっているとしたら、神様とは縦の糸で繋がっている。横の糸は引っ張られたりして自分が動いてしまうが、縦の糸は自分を引っ張ってくれて揺るがない」としたら、
殺人であっても赦しを与えてくれるのは縦糸の神様ということになるのでしょうけれど。

個人的に胸に迫ったのは、マルメラードワ夫人の死に至る狂乱の様相。
もとは明るい人だったのが、貧困と苦労によりヒステリックで妄想が膨らみあたり構わず喧嘩を吹っ掛ける人物に。夫が死に子供たちを巻き込んだ錯乱を起こしてそのまま死去。自分自身が母親である私には、この狂乱を自分が起こさないと言い切る自信が全くないorz

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ●露西亜文学
感想投稿日 : 2018年10月27日
読了日 : 2019年5月3日
本棚登録日 : 2018年10月27日

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コメント 2件

hotaruさんのコメント
2018/10/31

淳水堂さん、こんにちは。
色々な角度から作品について触れた、とても興味深いレビューで、長編小説苦手な私でも、まだ読んだことない「罪と罰」是非とも読んでみたくなりました。

ありがとうございます。

淳水堂さんのコメント
2018/11/01

hotaruさんコメントありがとうございます!
私もhotaruさんのレビュー楽しく読んでいます!

自分の年齢があがり、難しいと思っていた小説も、身近に感じられるようになってかたと思います。
スヴィドリガイロフは「構ってちゃんだあ〜w」、ポルフィーリー・ペトローヴィチは「事件簿読みたい」、マルメラードワ夫人には「自宅での私も同じようなものかもorz」などなど、いるいるこんな人たち、みたいな。

だまだ「ちゃんと読んだことないから死ぬまでに読まなきゃリスト」に載っている本が沢山あるので楽しく進めていかねばです。

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