これはミステリなのか悩むところ。すくなくとも、イアン・バンクスの日本における初受容はミステリでした。小さいときに犬にかまれて虚勢された少年の、一人語り。

2007年1月28日

カテゴリ 英国ミステリ

下町娘のスウと令嬢モードはそれぞれに追いつめられ、自分の智慧を使って難局をきりぬけていこうとしますが、その先には再会と、とんでもない真実が。スリがでてきたり、出生の秘密がからんだり、本書は「オリバー・ツイスト」との比較がよくなされますが、それよりなんといっても似ているのは令嬢かどわかしがテーマになっているウィルキー・コリンズ「白衣の女」の影響が大。ただ、こうした先行作品よりやたらと面白いのは、これまでタブー視されてきた19世紀末の裏社会・裏文化についての要素をたっぷりもりこんでいること。これが謎をとく鍵にもなっています。サラ・ウォーターズは「半身」も面白いのですが、こちらを読んだ人にはラストがなかばにして見えてしまいます。もし、いずれも読んでいないのなら、とにかく「荊の城」をいきなりよんだほうがよいかも。

2007年1月15日

カテゴリ 英国ミステリ

2004年の「このミス」「週刊文春ミステリベストテン」で堂々第一位となった人気作。本国ではCWAのヒストリカル・ダガーを受賞。一読おくあたわずとはこの本のことでありましょう。こんなに面白い本は暫く出ないかな、というくらいの傑作。原題は「fingersmith」、スリのことです。下町娘でスリのスウは歳かっこうが似ている令嬢をだましてその財産をだましとるたくらみにひきずりこまれます。箱入り娘でおとなしいけれど知的で冷静な令嬢モードはスウの知らないタイプの人間で、スウは初恋にも似た感情を抱くのですが、計画はどんどん進行します。さてさて。途中で物語の語り手がスウから令嬢モードに変わるのですが、ここからがこの本のキモ。驚愕の真実、疾風怒濤のどんでん返しがこれでもかと。

2007年1月15日

カテゴリ 英国ミステリ

この本は面白い! 1990年ワールドカップ・イタリア大会。数年来不調だったため、誰もが予想していなかったにもかかわらずイングランドは大健闘。フーリガンを予選開催地のサルディニア島から出さずに追い返そうとしていたイタリア政府はその対策に頭をかかえていた……。この本は、熱狂的暴力的フットボールファン、「フーリガン」に魅せられたアメリカ人筆者が、フーリガンとともにすごすうちに、その陶酔的愛国心と抑圧された階級のやりばのない怒りに肉迫していくドキュメント。ハイライトはワールドカップだが、FAカップのときの無法ぶりなど、戦慄を禁じ得ない。スタジアムでたびたび圧死事件があったのもこのころだったか。

2007年1月13日

カテゴリ 英国社会

ヘンリー・ジェイムズはイギリスぐらしが長いとはいえ、一応アメリカ人なので、ここに分類しました。アメリカの大富豪の愛娘だが、病弱で早逝を予感させるミリー。彼女を利用しようとたくらむ、貧しいが激しく愛し合う恋人たち。しかし、親しくすごしていくうちに、たちのぼる罪の意識はこの三人を思いもよらぬ方向に押し流してゆく。心理小説の傑作。

2007年1月12日

カテゴリ 英米文学

下巻では、三人は互いの本心を押し隠したままヴェニスに向かう。美と頽廃の都で、死をみつめざるを得ないミリーと、激しく愛し合いながら、無垢な魂の前に罪の意識をかんじずにはおれなくなる恋人たち。二十世紀初頭のヴェニスは、この壮麗な心理描写の伽藍の舞台にふさわしい。

2007年1月12日

カテゴリ 英米文学

ブッカー賞受賞作。イギリス人の執事を主人公に、日系の作家がここまでこまやかな作品をかいたことが大いに話題となった。人間は歳をとると、選択しなかった人生について、あれこれと思いをめぐらすものなのかもしれない。人に仕えるという職業に生き甲斐を感じてきた主人公が、人生の黄昏に思いおこす、ささやかなときめきがせつない。

2007年1月12日

ナボコフは亡命ロシア貴族ですが、英語でこの作品をかいたので、広義の「英米文学」として分類しました。ロリータ・コンプレックスの語源となった小説ではありますが、まったく卑猥な小説ではございません。十二歳の少女に恋いこがれる中年男はモラルをつきぬけて犯罪者でもあり、またきまぐれなニンフェットに翻弄されるあわれな道化でもあるのです。映画化も数回されましたが、どれも別物です。ナボコフの世界は映像に移し替えるには内面的すぎる。また、ある程度人生経験を経た人にしか、この男の焦燥感は理解できない。映画でハンバートを演じたジェレミー・アイアンズが朗読を出していますが、これは超おすすめです。

2007年1月12日

カテゴリ 英米文学

女性警部補キャロルと心理分析官トニーの活躍を描くシリーズ第一弾。CWAゴールド・ダガー賞受賞作。「ワイヤー・イン・ザ・ブラッド 血の桎梏」の題名でドラマ化され、好評のうちにシリーズ化されている。猟奇的な犯罪描写が生々しく、悪趣味なところもあるが、犯人の病的な思考に肉迫してゆくスリルは無類。

2007年1月12日

カテゴリ 英国ミステリ

ブッカー賞受賞作。映画はまあまあおもしろいですが別物。原作のほうがはるかに美しく、さまざまな思いをかきたてます。映画は「イギリス人」の過去のひめられた不倫の物語を掘り起こすことが中心になりますが、原作ははるかに重層的で、小説というようより散文詩のようです。廃墟の図書館、砂漠、名前もわからぬイギリス人の患者、インド人の爆弾処理班の兵士、みなの話の聞き手になる若い看護婦……。複葉機が飛び立ち、すべてが砂にくだけてゆくラストは夢のよう。

2007年1月12日

若島正訳。二十一世紀になってからでたピカピカの新訳ですが、先行訳との比較は大いに話題になったところ。英語のテキストも手元にあれば、ナボコフの眩惑的な英語を理解するよすがとして、確実に若島訳のほうがよい、ということになりましょうが、単純に筋だけおうのが目的であれば、旧訳もすてがたいのであります。そもそもナボコフの英語は美しすぎる、まるで音楽、甘美な果実。新訳にかんしては、「わが腰のほのお」(若島訳)で私はいきなりひっくりかえりました。やっぱり、「わが肉体のほむら」(大久保訳)のほうが音楽的だと思うし、まあ、それでそだったからさ。ま、余裕があったら読み比べてみてください。新潮文庫版に掲載された大江健三郎の書き下ろし解説は必読。

2007年1月12日

カテゴリ 英米文学

貧しい少女が玉の輿にのるまでのサクセスストーリーだが、いいよる相手がもつれにもつれ……。ヒロインをとりまく人物の描写はオースティンならではの辛辣な描写だが、どこにでもいそうな人物達は決して悪人ではない。訳は平易で、大変読みやすい。

2007年1月11日

大卒だし、頭もいいほう、親にも友人にも愛されているのに、働く気まったくなし。虚無的。ぐんにゃりしているのはドラッグ漬けだからだけど、ドラッグのせいだけでもなさそう――。80年代不況のスコットランドを舞台にしているけれど、不思議といまの日本と状況がにてますよ。豊かな社会で夢のもてない青年群像を描いた傑作。陽気で悲惨な下流ライフへようこそ。

2007年1月9日

カテゴリ 英国現代小説

貧乏そだちで謙虚でけなげなジェーンは玉の輿にのれるのか。最後の最後まで予断をゆるさぬ展開に、手に汗にぎってください。ネタバレですが、ハッピーエンドです。いいよね、これくらい。世界名作ものですし。

2007年1月9日

ガヴァネスと呼ばれる女家庭教師と雇い主との恋。玉の輿ストーリーの典型だが、館に幽閉された女の影がちらつき、ゴシックテイスト満載。映画やドラマをみて興味をもったら、ぜひ原作も。

2007年1月9日

老獪な執事と自分で靴ひもも結べなければ服もえらべないおぼっちゃま(適齢期)のジーヴズ&ウースターコンビがおりなすユーモア・ミステリー。おしゃれな装幀もうれしい。シリーズ傑作選のこの書が、入門編としては最適なのではないでしょうか。国書刊行会からでているシリーズは「ジーヴス」になってますが……。

2007年1月9日

カテゴリ 英国ミステリ
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