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一、佐藤一斎
江戸時代の儒学者。朱子学・陽明学という分類にこだわらず、総合的に儒学を理解しようとした人物。
*一斎は、林家塾頭、昌平坂の儒官という朱子学を奉ずべき責任ある地位にいながら、実は陽明学を信奉していたとして「陽朱陰王」と称されたという。(本文p.210)
*だがそれは一斎にとっては、主体的な取捨選択であったのだ。(p.211)
〔一斎の思想〕
一斎の箴言は、陽明学の知行合一の考えを前面に出しているように思える。
*一斎のいう学問とは何か。それは外延的な知識を追い求めることを意味しない。「学は必ずこれをみずからに学び、問は必ずこれを心に問ふ」(『後録』)というように、主体的な真理の追求であった。学問の持続は、富貴貧銭名誉等の外物、世俗にしばられた自己(仮己)を去り、本来の自己(真己または真我)に達するという目標に向かう。この目標を「志」「大志」と呼び、大志を涵養すべきことを一斎は説く。この志を立てるなら、薪水を運ぶことすらひとつとして学ならざるものはなく、志なきときは一日読書しようとも閑つぶしだとは、すでに見てきたことが、学問の「日用」との一致、学問の「事上練磨」、すなわち学問と実践、知と行との合一が果たされるのである。(本文p.211)
〔一斎の影響〕
有名な弟子として、渡辺崋山、佐久間象山がいる。
著作『言志四録』は幕末に広く読まれ、多くの武士の行動の指針となった。
*「思想体系」の解説で相良亨氏は、『言志四録』と「儒教的教養によって養われた武士の内面的姿勢」を理解する貴重な書であると評されているが、職分の誠意ある履行、他者の誠心からの応接を説きながら、世事にまぎれぬ「精神の収斂」「独立独行」を説く等に、すでにわれわれが見失いかけている高貴な生の形をみる思いがする。西郷隆盛が『言志四録』からの抄出を編み、座右の銘した例に留まらず、幕末から明治にかけて多くの人が一斎に私淑していたというのもなるほどと思われる。(本文p.211)
二、林羅山
江戸時代の儒学者。儒学を江戸時代に隆盛させた。
*林羅山は、その業績のわりに人気がない。徳川家康に仕官するのに、排仏主義者でありながら、剃髪したことが、後の儒者から、節操のない人間と批判された。また羅山の子孫は学力より血すじによって、明治維新までの長きにわたって、学問の家としての権威を持ち続けたことなども、原因であろう。(本文p.374)
〔一斎の生涯〕
没落した家を再興させるため、儒学で身を立てた。
*羅山が儒者として自己形成して行った理由を考えてみると、何故僧侶たちの勧めにもかかわらず、建仁寺において出家しなかったかが、重要な問題となる。その解答を実証的に明らかにする資料はないが、次のようなことが推測される。羅山の祖先は加賀の武士であったけれども、加賀から紀州に流浪し、父の代に京都に移住した。没落した家を再興させたいと羅山が考えても、不思議ではない。幸い羅山は学問を好み、努力家であった。出家しては家名を高めることができないから、と羅山が思っても当然であろう。このよな推測を逆に裏づけるのが、前述した幕府仕官のことである。学芸者として幕府に仕えるためには、身分上層形でなければならなかった。剃髪することにためらいはあったとしても、それを拒否することなく、妥協している。立身のために学問を利用したと悪口を言われても仕方のない面はあった。仕官後、羅山の業績と呼ばれるものの多くが、上からの命令によって行なわれた。羅山の思想は、朱子学を中心に、排仏主義、排耶蘇、神儒一致の神道論などがあげられる。また、歴史研究の上では、実証主義的な研究方法を標榜している。
〔羅山の思想〕
排仏主義。しかしそれも、立身出世のために特に強調されたように見受けられる。羅...
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